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ダークサイドFILE No.16

無人の島

作者 DarkStar

吹きすさぶ風、荒れ狂う波。
その中をの船が波に煽られながら、陸を目指して進んでいく。


船の目の前にうっすらと見える黒い島影・・・・。

だが、そこは彼らにとって希望の大地となりえるものだったのだろうか?

その時の彼らには、ただただ自分たちの運命を受け入れることしかできなかった。

「ねえ、どうだった。」

夜明けと共に、見知らぬ土地を歩き回り、
疲れて戻った男たちを気遣うように女が声を掛ける。

「水は、しばらくいった所に湧き水が湧いてる。
 俺が飲んで見たけど多分大丈夫だ。
 ・・・・・島の反対側は、草原だった
 果物がなっている所か木も見あたらねえ。
 だが、牛や、馬なんかがいたけど・・・・」

といった所で渋い顔をして、言葉を濁す。

するともう一人が

「ライオンとから・・・・・なんか知らないけど、
 ど、動物が一杯いて・・・・僕らは・・・あ、あわ、あわ・・・。」

気の弱そうな男が話を続けようとするが、よほど恐ろしい物を見たのだろう
体がガクガクと振るえ、声がでない。

しかし、こんなへんぴな場所に牛や馬、またそれらと同じように
ライオンが生息しているのだろうなどと
そんな疑問も薄れてしまうほど彼らは混乱していた。

万物の霊長といわれる人間。
しかし、そうなりえたのは、ひたすら群れを巨大化させ、社会をつくり
道具をつくって、他の生物を圧倒してきたからだ。

こんな少数の、また何の力も持たない脆弱な人間の
力では、野生を生き抜く獣たちに素手で立ち向かう事など
できるはずもなかった。

女達は一様にがっくりと肩を落とす。

乗っていた船が遭難し、この島にたどり着いたのは、夜明け少し前。
太陽の位置から、いまは、昼すぎくらいだろうか。

「どーしますのよ!!! こんな所に流されてしまって」
一人の少女が、ヒステリックな声を上げる・・・・。

潮にまみれてはいるが、娘の服装は他のものたちとは違う
高価な物である事が見て取れた。

大学生の彼等は長期の休みを利用して、
彼女・・・・麗奈の父親が所有するクルーザーで、楽しいバカンス・・・・
それが、突然の嵐に遭い一変。
頼みの綱たる操縦士は、高波に浚われ行方不明。

途方にくれる一行がたどりついたのは、無人の島。

草原では、日々野生動物たちが
しのぎを削る厳しい世界。

「これから、どうする?」
お嬢様に背を向けた一人が疲れたようにそういうと

「どうするって、水はともかく食料がないのよ。」

「牛とか捕まえられりゃあ、食えそうだよな・・・。」

「でもどうやって・・・捕まえるんだよ・・・・。」

自然と話し合いは行われるものの

便利な社会に生まれた彼等に
野生で生き残る手段など思いつくはずも無かった。

こうして、彼らの無人島での生活は始まった。

岩場の古い洞窟を拠点に雨風をしのげたが、
肝心の食料は手に入れられず、空腹の日々が続く。

初めのうちは喧嘩も見られたが、
今はそんな気力も失い

今日も食べ物を探し歩き回る

捜索の最中見つけた深い森に生える高い木々には、
残念ながら実つけるような木ではない。

「腹へったぁ・・・・・・」

「言わないでよ・・・余計お腹すくでしょ。」

「けどよお・・・・。あーあ、この草食えねえかなぁ・・・。」

目の前には、青々とした草を手で引っこ抜く。

「あああ、これが食えたらなぁ」

「ちょ、ちょっとやめなさいよ。」

と止めるも空腹に我慢できなくなった男はそのまま抜いた草を口に含む。

すると・・・・

「ん?、おい・・・・これうまいぜ?」

その言葉に半信半疑の一同

「ほ、ホントですの?」

しかし、そんななかでその話に食いついたのは、なんと麗菜お嬢様だった。

「マジ、マジだって、だってこんなに・・・・」

男は次々とそこいらに生えた雑草を口に含み飲み込んでいく。

それを見守る一同の中で、麗菜はすっとしゃがみこみ。

力いっぱい、雑草を引き抜いた。

お嬢様ならば、こんな物・・・・食べられるわけないと
斬り捨てそうなものだが、

食べられない苦労のした事の無い彼女だからこそ、
このメンバーの誰よりもこの空腹の状態が
我慢できなかったのであろう。

土を落とすまでこそ・・・・抵抗をみせたが、
両目を閉じて一口に含むと・・・・・。

口いっぱいに広がる青臭い匂い・・・

その思わず吐いてしまいそうなアクの強さを感じつつも・・。

「ホント・・・・お・・・・おいしいですわ・・・・。」

「はは、だろ・・・・・。」

気がつくと両手で草を引き抜き、
口へ運ぶ彼女たち。

青々とした草をむしり取り、久方ぶりの『食事』に満面の笑みを浮かべる

「お、俺も・・・・」

「あ、あたしも食べて・・・みようかな~。」

その姿に仲間の幾人かは同調し、
一緒に草を食べ始める。

「ね、ねえ・・・・・だ、大丈夫、草なんか食べて・・・・・
 おなか壊したりしない。」

「そ、そんな事ねえ・・・・・ごぶう・・・・ん、ん、・・・・ごくん」
そう聞かれた青年は、突然咳きこみ、はきそうになった物をそのまま飲み込む。

「ほら言わんこっちゃない、やっぱり体に悪いのよ。」

「そ、そんな事・・・・ゴボォ・・・・はむはむ・・・・・ごくん。
 ・・・・・ありませんわ。」

お嬢様の麗菜も、草を吐き出そうとしながら、慌てて飲み込む。

クチャクチャ・・・・・・ゴボゥ!!、

はむはむ・・・・・・・ごっくん。

草を食べている男女は、草を契り、口で数回噛んだ後、
飲み込み、しばらくしてそれを吐き出し、また数回噛んだ後、またそれを飲み込む。
それはまるで、草食動物の反芻のようだ。

口の動かし方も、縦に開いて上下に動かし草を噛み千切る姿から、
次第に横方向に・・・まるで草を左右にすり潰すような動きに変わっていく。

「な・・・・なんか、あなた達・・・・・馬とか牛・・・・みたい・・・・」

「はは、馬鹿いってじゃねえよ。ひん、ひん。」

草を食べながらそういう青年の顔
心なしか、面長になったような錯覚に陥る。

「もおおおお、ひ、失礼ですわぁ。・・・・私のスタイルがいいのを
 もおおお、妬んでモオオぁすのねえ。」

「もおおお、そうよ。あんた達も食べたら・・・・おいしいわよ。もおお」

なんとも、ゆったりとしたしゃべり方になった
彼女達の胸は、服を張り契らんばかりに膨れ上がる。

明らかに不自然な体の変化に、見ているメンバーは、後ずさりする。

「うま・・・うま・・・・ひん、ひん」

ついに手を使うのが面倒になったのか、
皆、口で草をひきぢぎるように草を食べていく。

長身だった彼の手足がさらに伸び、
髪の毛よりもはるかに太い毛がズボンの隙間から、覗かせている。


「うも、うもおおおお・・・・。」

金髪を地面にこすりつけながら、
おいしそうに、草を噛みむしる麗菜。

その東洋人離れした白い肌・・・、ちょうどおでこのあたりが
小さなたんこぶのぷっくりと膨らんでいる。

ロングスカートが意思をもったようにひらひらとゆれ、
ちょうどおしりの辺りが不自然なテントの形を作っている。


手をついた両手は、水仕事とは無縁の真っ白な
まさに白魚のような手はかけらもなく、黒くごつごつした太い爪になっていた。

タラリ・・・・タラリ・・・・。

お嬢様あるまじき、涎を垂らす麗菜。

しかし、その小さな口から
太く長い舌が伸びて、鼻先をぺろぺろと嘗める。

唾液に湿った高い鼻が、つぶれるように前を向いていく。

同じように草を食べていた女の子達も同じ変化が現れ、

顔のまわりに踊っていた舌が、口の中に収められた時、

彼女たちの顔は、もう人間のそれではなかった。

「モオオオ・・・・、モオオオオオ」

「モオオオオオ・・・・・・・・・・・」

牛の顔に変わってしまった彼女たちを分ける
唯一の違いであった髪の毛も一本、また一本と抜けおち、

服のお腹を突き破って出てきた巨大な乳房が出てだして
房のついた尻尾がぷらぷらと揺れている。


「ヒヒーン!!!!」

空中を駆けるように、軽やかに前脚を振り上げる牡馬

「モオオオオ!!!!」

「ウモ、モオオオ!!!!!」

重たい体に大きく張った乳房から生やした幾本もの乳首を揺らす雌牛。

人としての面影を一切失ってしまった彼女達。

もはや、誰が誰だったのかそれすらも区別のつかず、

その行動は、人間のような理性の感じられない
ただただ、食欲を満たそうと草を食べ続ける獣がいるだけだった。


「そ、そんな・・・・」

「い、いやあああああ!!」

あまりに現実からかけ離れた光景しかし、
彼女たちに、それをじっくり受け入れさせてくれるほど、

現実は甘くなかった。

もくもくと草を食べ続けていた獣たちは、
耳をぴくぴくと動かし、周りの様子を見渡すように、
顔を向ける。

そして、何かに気がついたのだろうか
馬はちりじりに、牛たちはまとまって、
その場を立ち去ろうと、そそくさと歩いていってしまう。

「ちょ、ちょっと・・・み、みんなどうしたの?」

立ち去る獣たちに、なんとなくその場に嫌な空気が流れる

そんな彼らの視覚に入ってきたそれは、

一見牛と同じような房のついた尻尾を持ちながら、
それ以外は、まったく異なる攻撃的な姿、

そう、百獣の王と呼ばれるライオンだった。



「う、うわあああああああ」

「きゃああああああああ」


パニック状態となり、その場から、蜘蛛の子を散らすかのごとく、
散り散りに走り出す残りのメンバー。

「ウモオオオオオオオオオオ!!!!」

そんな彼女たちの後ろで上がる、牛の鳴き声、
まさか、牛になってしまった誰かが犠牲になったのだろうか、
もはや確かめるすべはないのだが、

その牛は助からないだろうことは、理解できた。

漂ってきた鉄錆・・・・血のにおいによって。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

木の生い茂る森。

みんなちりじりになったせいで、一人森の中を歩く少女。

仲間とはぐれたあと、森を歩き回るが一向に出口は見えない。

「一体ここ、どこなのよ。・・・・・なんか同じところグルグル回っていない?」

そんな彼女の耳に

「だめ、あたし、もう耐えられない!!!お腹、すいたぁ。」

そういって、草を一掴みする少女。

彼女の視界に入ったのは、親友の姿

彼女は誘惑に負け、ついに禁断に手を染めようとしている。

「ま、まって、千麻子!!!」

駆け出し、あらん限りの声で呼びかけるも、千麻子は草を一口含んでしまう。

「はああぁぁぁぁ、おいしい。」

空腹を満たされ出てきた言葉、

そういった彼女の両手は、すでに黒々としたひづめが覆い

手で草をつかめなくなった彼女は、顔をじかに地面にくっつける。


「千麻子!!!」

親友の体の変化は
本人よりも、傍から見ている者の方が早くに気がつく。

「うもおおおおおお!!!!」

そう叫んだ彼女のショートパンツを突き破る肉の突起と
コメカミを突き破って生える骨の突起。

「ち・・・千麻子・・・・・・」
目の下を両手で覆い、ただただ、目の前で起こる変化を
見ているだけしか彼女にはできなかった。

「モォオオオオオオオオ!!!!」

体にまとわり付いた布切れを払い落とすように
体を揺らし、啼き声をあげる牝牛。

「い、いや、いやああああああ!!!!!」

親友が目の前で牛に変わってしまった事実に、

背を向けて走り出す少女。

(怖い・・・・いや・・・・牛になんか、馬になんてなりたくない!!
  獣から逃げ続ける生活なんて絶対いや!!!
 でも・・・・お腹すいた・・・・だめ・・・・・草を食べたら、・・・・・・)

空腹に耐える少女。

モオオオオオ!!!!

すると目の前から悠々と歩きながら、草を食む牛。

「ち・・・・・千麻子!?」

一瞬親友の変り果てた姿かとも思ったが、
どうやらそうではないらしい。

どこからか迷い込んだのだろうか出口を探してきょろきょろしている。

「おいしそう・・・・・だ、だめよ。
 麗奈たちの誰かかもしれない・・・・・。」

牛肉など切り身の状態でしか見たことのない彼女が

牛にそのまま、被りつきたい衝動にかられ、

思わず口からこぼれた涎を拭きとり、
仲間の誰かかもしれない思いで食欲を思い止める。

(怖い・・・・・逃げるのはいや、・・・・・逃げるのは・・・・
 いや・・・・どうすればいいの逃げないためには、・・・・・・・どうすればいいの・・・・)

そんな時、彼女の脳裏に駆け抜けてきたのは、
自分に向かって迫ってくる獣と、

風に乗って漂ってきた血生ぐさい匂い・・・・。


(逃げるから・・・追われる・・・だったら、あたしが追いかける方に回れば・・・・。)

疲れと空腹から頭が働かず、思考がだんだん単純なものへと
変わっていく。

「そうか・・・・・あたしも、追いかける側になればいいんだ。
 そうすれば・・・・・・逃げなくていい。」

自分でもよく意味のわかっていない結論。
そう誰に告げるわけでもなく呟いた彼女は・・・。

音も無く・・・・草を食べている牛に近づき・・・。

ガブリ、と噛み付いた。

ウ、ウモ、ウモオオオ!!!!

牛が叫び狂ったように暴れるが、

少女のひ弱な顎から伸びた犬歯・・・いや牙は
しっかりと牛の肉を捕らえ。

両手には、鋭くとがったつめが、肉に食い込み、

牛の体にくらいついて離れない。

(もっと強く・・・・もっと、こんなひ弱な体じゃだめ、
 生き残れないもん・・・・)

少女の全身に、金色のような黄色の毛が生え
所々に、黒い模様のアクセントが入る。

(ぐるるる・・・・もっと、もっと強く、強くなるんだから・・・がるるる・・・・)

牛を睨みつけるようにしていた少女の眼は
獰猛な獣の瞳になり、

変形した強靭な顎がさらに、牛の体に食い込む。

ウ・・・ウモオオオ。

力尽きた牛はふらふらになりながら地面に倒れこむ。


綺麗に四本足で地面に降り立つ少女の

腰の辺りで、ブルンと
長い物が振るえ、その反動で、

彼女の履いていた
下着とスカート・・・・であった布切れが舞い上がった。

「ガオオオオオオオ!!!」

吼える牝豹の声。

初めて捕った獲物に喜びながらも、・・・・・

空腹の獣は、今日の餌にありついた。

こうして、この島の人間は再び姿を消し、

文字通り『無人島』に逆戻りしたのであった・・・。


・・・・・・・・・・・・・・・


ジャングルともいえる森の中に巧妙に隠された監視カメラ

弱肉強食が支配する世界から、離れぬくぬくと安全な部屋で

その映像を、見続ける白衣の男。

「ふふ・・・・、このサバイバルゲームを制するのは誰でしょうかねぇ」

男がモニタを眺めるように見ていると

近くにあった通信機が、コールされる。

『ドクター・ミズシマ。先日島に侵入した者たちですが、
 すべて、獣に堕ちたそうです』

「そうですか・・・、で内訳はどうなりました?」

なんだ、もう終わってしまったのか、とつまらない様子に

ミズシマが島の状況を監視している部下に結果を報告させる。

『牛が四頭、馬が五頭、あとは、虎と豹が一頭ずつです。』

「意外と肉食が少ないですね・・・わかりました、引き続き任務と
 彼らの観察をお願いします。」

相手は了解の旨を伝え、そのまま通信を切った。

「食欲に負け、草食獣となり肉食獣から一生逃げる生活か
 肉食獣に食べられるのを恐れるあまり、その仲間に加わって、
 明日にも飢え死にするかもしれない生活をするか・・・・。」

ニヤリと口元をほころばせ、

「さあ、彼等にとってどっちが幸せなのでしょう。」

実験を名目に人の人生をもて遊ぶ彼の不気味な笑い声が

部屋にこだました。

	
おわり
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