作者 DarkStar
砂煙の上がる闘技場。 膝をおり、動けない女の子 頭では、体を動かそうとしているけど 体がついてこないみたいね。 ピピーーーーーー!!! 競技終了を告げる電子音。 そして、中央の巨大スクリーンに映し出される。 『KAREN WIN』の文字。 そして、その下には配当金が表示されたが、私には興味がなかった。 「ご、ごめんなさい。ごめんなさい!!!。ご主人様 次は、・・・次は、がんばりますから、許して・・・許してください。」 そう泣きながら叫ぶのは、私に負けた女の子。 「もうコレが最後と言ったな。」 と黒服のガタイのいい男達に囲まれた 小太りの男は、注射器を片手にひどくつまらなそうな顔でそういった。 「おい、お前ら抑えてろ。」 そういわれた周囲の男達は、女の子を取り押さえる。 「いやあ、いやあああ。」 女の子の腰から伸びた尻尾ががたがたと震える。 頭の上から、生えた耳もぴったりと頭に張り付いている。 私も自分の尻尾が震えないように力を込める。 私たちは、この闘技場の闘士。 何らかの理由で体を売られ、遺伝子操作の果て、 こんな動物の耳や、尻尾の生えた奇妙な姿に改造された後、 見世物として、ここで戦わされ賭けの対象にされる。 勝てばよいが、負ければ・・・・・・。 もちろん、こんな事は違法なのだが、 闇の世界を牛耳る権力を持つ者達にとって、 そんな物は、どうにでもなることだった。 喩えではなく、 ここにいる金持ち達は、『命を金で買ってしまう。』 連中なんだ。 押さえつけられた女の子が必死に抵抗し、 黒服の男に噛み付いたが、 男達は手を離さない。 小太りの男は、女の子のスパッツを脱がすと 白い肌にそのまま、注射器をさし、中身を注入していく。 薬品が、彼女の中に全部入るまではわずか数秒。 男が針を抜くと、黒服達は手を離す。 その場に倒れこみ、 「あうう、あおうううう。」 涙を流しながら・・・・唸り声を上げる少女。 「もうお前なんぞ、いらん。やっぱり安物の犬のでは駄目だな・・・・・ なにより、負けてもその後の使い道もない。 ・・・・そうだ今度は牛にでもするか だめなら、牧場に売れば少しは金になる・・・・・」 そういいながら、男達は、女の子を置き去りにして、 行ってしまう。 「あううう、あおおお、あああおおん」 女の子の叫び声に、私を含む亜人が耳を塞ぐ。 私たちの成れの果て、『人』としての最後を迎える その姿・・・・。 女の子の体に、尻尾と同じ茶色の毛が生え。 全身の骨が軋むように、形を変えていく。 手や足の裏には、肉球が生え、指の本数が変わる。 二足歩行に適した手足や、骨盤は変化し、 四足でしか歩けない体に変化していく。 小さな口には、並びきれないほど鋭い歯が生え、 顎が前に突き出し、鼻の形を変える。 「あううん。アウウウン、アウウウン!!!!」 大きくなった服に足を取られながら、 立ち上がった彼女はもう、人の姿をしていなかった。 「アウウウン、アウン、ワンワン!!!」 始めのうちこそは、恐怖に慄くように尻尾を震わせ、 体を小刻みに揺らして激しく暴れ、騒いでいたが 次第にその動きはおとなしくなり。 最後には、尻尾を千切れんばかりに振りながら、 舌を出して「ワン、ワン」とうれしそうに吼える。 こうして、彼女は完全に「人」ではなくなってしまった。 彼女は、同じ犬の亜人たちを仲間だと思うように よっていき、尻尾を元気に振っている。 その姿は、先ほどまで恐怖に慄き、 ガタガタ震えていた少女の面影は全くなかった。 負ければ、自分も、あの仔とと同じように投薬され、 人の姿と心を失い、完全なる獣として捨てられる 彼女のように犬なら、このまま闘技場から出され、 野良犬として・・・運がよければ、どこかの家庭に 悪ければ、保健所に処分される運命だろう。 だが、私はそうならない。 あと一勝すれば、ここから開放され、 ちゃんとした人の姿に戻して貰える。 そのために自分と同じ境遇の仲間を蹴落とし、 幾人も、さっきの子ように最終改造まで追い込んでしまった。 罪悪感がないと言えばうそになるが、 でも勝ち続けて人間に戻らなくては、 一生ここから抜け出す事はできない。 「カレン、勝ったようねえ。」 そういって来たのは、スーツ姿の痩せ型男。 私のオーナーだ。そして、ちょっとカマっぽい。 「あと一勝。約束、守れよ!!!」 「分かってるよぉ。ワタシだって約束はきちんと守るオトコだからねえ。」 ・・・・相変わらず、不気味な笑い顔が勘に触る奴。 あと一勝、なにがなんでも勝ってやる。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ワタシの所有する亜人。カレンが今日も勝ち残った。 『30連勝したら、あたしを開放して、人間に戻せ!!!』 ここでは、30連勝もされるとオッズに変動がなくなって、 面白くなくなるから、その時点で闘士は引退させる約束になっている。 まあ、その時、闘士には、オーナーからご褒美を上げる 決まりになっているんだけど・・・・ アノコったら、いきなり喧嘩ごしであんな事いったわけよ。 少しでもやる気が出ればと、二つ返事でOKしてあげたが、 まさか、ここまでやるとは・・・・。 一般にここで勝ち残れるのはせいぜい、10勝がいい所。 ソレをアノコは、いとも容易く、30勝してしまう勢い。 まあ、こんな獣耳つき奴隷同士の戦いを見て喜んでいる ワタシのセリフじゃないけど・・・・・。 アノコ、普通じゃない。 「ボス、ホントにいいんですか?」 ワタシのおそば付きの一人がそんな事を聞いてきた。 「何が?」 何のことか、わかってるけど、あえてとぼけてみる。 「カレンの事です。達成の褒美に人間に戻すなど・・・・不可能でしょう。」 たしかに遺伝子改造は、そう簡単ではない。 人間と動物とを合成しといて、 動物の成分だけを取り出す事などまず無理。 別に小娘の願いなど、ワタシにはどうでもいい。 でも、裏社会にも、いろいろ信頼関係があって・・・・・。 奴隷に満足な褒美もやれない駄目オーナーとか、 わがままを許した無能なオーナーなんていわれるとワタシの立場がない。 というわけで、次の試合は なんとしても、カレンには負けてもらうつもり。 「ですが、あの娘 今日も危なげが全くなしに勝ちましたよ。 相手は、最終改造が迫っていたのでかなり粘りましたけれど。」 「それも、いつものことじゃない。 ああいう強い子は、弱点を付かれるとコロッと負けちゃうものよ。」 「はあ、弱点・・・ですか・・・・」 そうなんたってワタシには、切り札があるんだから。 コレであのこも・・・・・ふふ、楽しみね。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ついに、ついにこの日がやってきた。 あたしは、これに勝って、人間に・・・・ いや、たぶんそれはかなわないだろう でもそれでもいい。この地獄から開放されるなら・・・。 闘技場に下り立ち、 最後の敵に目を向けた私に衝撃が走った。 黒いの尻尾を振り、 頭から大きく立派な角を生やしたかわいらしい。男の子。 すっかり、姿が変わってしまったが・・・あれは、間違いない。 「紫苑・・・・・・・・・・。」 「お、おね・・・・・・ちゃん?」 「シオン君がんばってね。キミもう後がないんだから・・・。」 「!!!」 後ろから聴こえてきたのは、聞きなれたいやな声。 そうあの男だった。 「ど、どうしてこんな・・・・・なんでしおんが・・・。」 「いやあ、アナタの家の借金は どうも、うちからだけでなくて、 他からも、借りていたみたいなんですよね~。 ワタシがアナタが買った後、 彼もそちらに売られちゃってぇ。・・・・。」 私は言葉がでない。 私が売られれば、紫苑は、助かるそいう話じゃなかったのか。 「でも、ラッキな事に、 シオンくんを買ったのは、ワタシのお友達で・・・・・ ぜひアナタに合わせたくて、 買い取ったのですけど・・・どうも成績が芳しくてねえ・・・」 「何言ってる!!。紫苑は、やさしいいい子なんだ。 私みたいな乱暴者とは違うんだ。 他人と争えるわけないだろ!!。」 私は、尻尾を振り立て、 全身の毛を逆立てながら 牙を剥き出して、オーナーを威嚇する。 「何を勘違いされているのか、わかんないけど。 ワタシは、せっかく最終改造行きの少年を なんとか助けようと勝てそうな相手にぶつけただけよ。 ファイトマネーも放り出してね。」 この闘技場では、入場料の一部が勝者側のオーナーに与えられる だから、同じオーナーの亜人が戦う事は無い。 だた一つ、オーナーが賞金を放棄しない限りは・・・・。 この男は、私を勝たせないためにそこまで・・・・ 私がオーナーをにらみつけると 「そんな顔しないで・・・・。さあ、ゴングがなりますよ 他人は蹴落せても、大事な弟ではさすがに手は出せないでしょう。 んふふふふふふふ・・・・」 今日ほど、この男を殺してやりたいと思った事はない。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 僕の目の前には、大好きなおねえちゃんがいる。 僕が弱いから、助けて上げられなかった 可憐おねえちゃん。 真っ黒で綺麗な耳とフサフサのかわいい尻尾。 犬?、ううんそれとはちょっと違う。・・・・・狼? え、そんな・・僕・・・・・おねえちゃんと戦えないよ。 でもお姉ちゃんに勝たないと僕は、僕は・・・・。 きっとおねえちゃんも、同じ気持ちだ。 司会開始のコールがなってもしばらく僕達は、 お互いに立ち尽くしていた。 「おーい、何やってんだぁ!!早く始めろ!!!」 「こっちは、金払ってんだぞこらぁ」 怖い顔の人たちがヤジを飛ばしてくる。 どうしよう。どうすればいいんだろう。 そんな時、 「どうしました。カレン。シオンを倒せば、アナタは晴れて自由よぉ」 え、僕が負ければ、お姉ちゃんは自由になれるの。 だ、だったら僕・・・。 「お、お姉ちゃん。今の話ホント?」 「そんな・・・・・・あたしの事は、どうだっていいでしょ。紫苑。」 僕を心配そうに身ながらいうお姉ちゃん。 お姉ちゃん。・・・・・そうやっていつも、僕の事ばっかり・・・・・。 「お姉ちゃん。僕と戦って。」 「なにを言ってるの紫苑!!!、 あたしがギブアップしないとあんたは・・・」 「それでも、お姉ちゃんは自由になれる!!!。」 僕は、お姉ちゃんに向かって突進し、 パンチを繰り出す。 さすがお姉ちゃんは綺麗に交わした。 「し、紫苑・・・・だめ、いや、いやよ。大事な貴方を獣にしてまで あたし、人間になんか、自由になんか戻りたくない!!!」 次はキックだ。 「いやだ。お姉ちゃんが売られちゃったのは、僕のせいなんだ。 だから、・・・こんどこそ、僕はおねえちゃんを・・・・」 やっぱり当たらない。 こうなったら、やけだ。 手をブンブン駄々をこねる子供みたいに 僕は、お姉ちゃんに向かっていく。 「違う。悪いのは、お父さん達をだましたあいつ等よ。 紫苑、やめて、やめてよぉ。」 強気なお姉ちゃんが、涙を流している。 大丈夫だよ。僕がきっとおねえちゃんを自由にさせてあげる。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 紫苑が私に向かってきた。 ここへ来て、自慢の29連勝が仇になる。 頭ではわかっていても、 体が反射的に紫苑の攻撃にカウンターを 入れてしまいそうになる。 紫苑が拳を繰り出し、 紙一重で避けるそのタイミングで、 もう私の手が紫苑の顔の目の前まで来ている。 だめ、このまま攻撃され続けたら、反撃しちゃう。 紫苑を傷つけちゃう・・・。 ううん。紫苑が獣にされちゃう。 だめ、なんとか、何とか抑えないと・・・・。 そんなあたしの姿に観客達は不満だったのだろう。 「おいおい、ねーちゃん。いつもに豪快なパンチはどうしたぁ。」 「俺はねーちゃんに掛けてんだ。損させんなよ。」 うるさい、下衆。 こっちの気も知らないで。 また、それなりに武道の心得のあるやつの方が、 まだ戦いやすい。 こんなに不規則に、やられ続けたら、 いつか攻撃を当てちゃう。 迫る紫苑。それを交わしながら、 何とか攻撃しないように耐える私。 おねがい、おねがい神様。 助けて、私と・・・うううん。紫苑を・・・・紫苑を助けてぇ あたしが、心からそう願うと・・・・・。 ピピーーーーー!!! え、やった、時間切れ この闘技場『コロッセ』は、相手が 倒れるか、もしくは時間切れになると勝負は終了。 そうだ。引き分けになれば・・・・・・。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 引き分け・・・・かあ・・・・・・・・ あ~あ、むなくそ悪い姉弟愛なんて、 見せ付けられて気分悪いよ。 とっとと終わらせようっと・・・・。 「残念だったね。カレン。」 「いいわよ。30連勝ぐらい。またすぐにやってやるわ。」 相変わらずの減らず口、小面憎い小娘だ事。 まあ、いい。そのウサは、このガキで晴らさせてもらうさ。 「いやああ、惜しかったね。シオンくん。 残念ね。キミみたいなかわいい子を牛にしてしまうなんて・・・・・」 手際の言いワタシの部下は、すぐにガキを捕まえた。 「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。 紫苑は負けてないでしょ。」 「ええ、確かにそうですねえ。 ですが、せっかくワタシが、しかも無償で、 プロデュースした試合をあんなつまらないものにしてくれたお礼に。 アナタタチには、罰を与えなくてはなりません。 カレン、アナタには、連勝記録をまた一からやり直す事で・・・・ ・・・・でも・・・・・・弟くんは・・・・・何もない子ですから、 もう、牛になってもらうしか・・・・・。」 その声に予想通り、ワタシの足にカレンが飛びついてきた。 「やめて!!!お願い。あたしは、どうなってもいい。 アタシを獣にして、ね、だから、だから、紫苑を、紫苑を助けてよぉ。」 その目には、大粒の涙をため、 すがる様な視線。な~んだ。この娘も、こんなかわいい顔ができるんじゃない。 いつも強気で、口の減らない女が泣いてすがる姿は、 これはこれでそそられるが、それでもこの女では、 ワタシの溜飲を下げることはできない。 「お前たちこの女を抑えておきなさい。」 近くの部下に命じてカレンを拘束させる。 「やめって、離して、離しなさいよぉ!!!」 と力任せに男たちを振り回そうとするカレン。 さすが、力自慢のカレンちゃん。 でも、ワタシだって、何の対策もしてないわけじゃないんですよぉ 「ブヒ!!!」 「ブヒ!!!」 黒服を突き破って出てきた茶色い毛皮。 二匹のいのしし獣人に 腕を抱えられるカレン。 この彼らは半獣人。亜人に比べて、 力は遥かに強いけどその代わりおつむが相当弱いのが難点。 でも、簡単な命令なら絶対服従してくれるから、 そういう点は、亜人より使い勝手がいい。 「やめて、お願い、紫苑、紫苑!!!!!」 叫ぶカレンの声をバックミュージックに ワタシは、注射針をシオンに突き刺し注入した。 「うあああああああ。うわおおおおお。 おねえちゃん。おねえ・・・・・・・ちゃ・・・・」 ワタシの目の前で投薬を施したガキに変化が出始める。 小柄な少年の体が一回り大きくなり、 「たす、たすう。ぶぼぉ。ぶぼおおおお」 声変わりを迎えていない喉から、 低い牛の啼き声。 ぷにぷにのかわいいほっぺを 引き締まった筋肉が覆う。 よわっちい体が、ちょっとたくましい仔牛になっていく。 「ウモオオ、ウモオオオオ」 黒々としたひづめを大地につけた 黒毛の牛が力いっぱい鳴いていて、 闘技場の隅の方へ歩いていく。 あら仔牛ちゃん、そっちにおねえちゃんは居ないよぉ・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ おねえちゃん。たすけて、たすけ・・・・・・・。 苦しい・・・・・・頭がぼーっとする・・・・・ あ、ああ、あそこの草おいしそう。 おねえちゃん・・・・・・。 ぼく・・・・僕。 もおおお、うもう・・・・ うもおおお、うもおおおお。 く・・・・草・・・・・・・はむはむ・・・・・・ 口いっぱいに広がる 青臭い匂い・・・・・・・ おいしい。おいしいよお・・・・。 ごぼおおおおおおお ああ、胃液の混じった草が、また喉を抜けて、 次の胃袋に入って・・・・いくぅ・・・・・。 胃を移すごとに味わいを変えていく草。 もう、たまんないよぉ・もお もうもうもう・・・・・・・・ 「ウモオオオオオオオオオオ!!!!」 草がおいしいのがうれしくて、 僕は、鳴き声をあげた・・・。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「紫苑、紫苑!!!」 弟の名前を叫びながら、 私は、紫苑が変わってしまった仔牛に近づく。 『コロッセ』の隅に生えていく草を 舌でむしりながら食べている仔牛の頭を持って 「紫苑、紫苑!!、お姉ちゃんが・・・・・・・・・ お姉ちゃんがわかる?」 最終改造後でも、稀に人の意識が残る事がある。 今の私には、もう、もうそれにすがるしかなかった。 その声に、仔牛の頭が縦に持ち上がり、 そして・・・・・そのまま・・・・・・ 首をかしげ、何事もなかったかのように 草をむしり、モゴモゴと口の中に入れていく。 いやあああ、紫苑が、しおんが・・・・・・ ・・・・・しおんが・・・・うしに・・・・・・・・・ ・・・・あたしの・・・・・アタしの・・・しオんが、牛二・・・・・ 絶望・・というよりも、ぽっかりと胸に穴が空いたように ズキズキ痛い。そして、それ以上の猛烈な怒り。 許さナい。アいつ・・・・・あイつラ、絶対ユルさない。 アんな、あンナ、2ヒきの豚に力負けするよウナ。 こんな・・・・弱イ体。・・・・・人間ノ姿なンて、もうイらない!!!。 あいつらの切リ裂く爪ト、 喉笛を噛ミ千切ル牙がホシイ。 あいつらを・・・・・アイツラヲ、ミナゴロシニ、スル、チカラガ!!!! その時体中の血が沸騰し、筋肉や骨が解けるような 不思議な感覚が私を襲った。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「おおおおおお、うおおおおおおおん。」 シオンの横に駆け寄ったカレンが突然大きな声で叫びだした。 ついに狂った? せっかくの稼ぎ頭だったけれど、しかたないかぁ。と思っていると でかい図体のイノシシ獣人が、がたがたと震えている。 ふわっと吹くいやな風。 生暖かい不吉な風が、まるでカレンから吹き出しているみたい・・・・。 細くしなやか、無駄な筋肉を嫌うように 非常にバランスの取れた戦闘的体型の カレンの体が、膨れ上がり、腕や、足が倍の大きさに膨れ上がる。 なになに、投薬もしてないのに 突然変わってる!!。 ひきちぎれた上着・・・元々平らなカレンの胸がさらに小さく見えるほど、 厚い筋肉が覆い。その上を硬そうな毛が覆ってる。 あら、すてき・・・。ってちがう。 なんなの。これ・・・。 『黙っていれば』かわいい、カレンの顔が、ごわごわした毛に覆われ、 耳まで裂けた口には、鋭い牙がならび、獰猛なけだものの顔を作る。 こわっ!!。 「うおおおおおおおおおおおおおおおん」 一見、狼の半獣人にも見えなくもないけど、 周りを追っている感じがなんかやばそう・・・・。 とか思っていると。 ワタシの足元に、ごとっと落ちるもの・・・。 ワタシの顔には、生暖かい、液体が飛んだ。 「へ?」 とりあえず、足元を見ると転がっているのは、 ワタシの前で震えていたイノシシ獣人の頭・・・・。 さっき飛んだのは、こいつらの血・・・。 なんで、まさか、あの距離から???? 「ひいいいいいい」 ワタシが悲鳴を上げる。 こ、こしが、腰がぬ・・・ぬけたぁ その場にへばりつき、恐怖に震えていると・・・・。 やっと『コロッセ』の警備獣人が来た。 さすがに、ちゃんとした装備をした連中なら・・・・・・ ザン!!、 カレンが腕を一閃すると、 強化チタン合金製の獣人用の盾が、 まるで、紙にカッターの刃を当てるように切れた。 あたしが、その事実の驚いている時には、 すでに盾を構えていた獣人の胴体まで真っ二つになっていた。 冗談じゃない。 獣人、亜人は、あくまで獣の力を付加された人間。 でも、あの化け物は、違うあれは・・・・・。 腰砕けのまま、手と足を使って這うように逃げるワタシ。 次の瞬間目の前が真っ暗になったかと思うと、 ワタシの体が、視界に飛び込む。 しかし、それには頭部がなく、 首からは血が噴水のように吹き出している。 ・・・・・そのまま、ワタシの意識・・・は・・・遠く・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ おなかすいた・・・・。 人間や、半人間が山ほど倒れている。 さっきあじみで、いっぴき食いついてみた。 まずい・・・・とても、食べられたもんじゃない。 ああ、あんな所においしそうな仔牛がいる・・・・・・ あいつを食べちゃおっと。 『だめ、だめよ。あれは、あれは紫苑なの!!』 頭の中で何かがさわぐ。 うるさい。 ・・・・シオンって何?・・・・なんだっけ? まあいいや、おなかすいた。 ガブゥ!!!! わたしが、牛にかぶりつくと そいつは、まぬけな声を上げた。 「ウモオオオオオオ、モオオオオオオ」 なんてどんくさいヤツ。 追いかけるまでもなかった。 『ああ、いや、いやあああ、・・・紫苑。・・・ 紫・ん。・・・・・・・し・・・・・オン。・・・・・・・・ん。・・・・・』 うるさい、うるさい、なんださっきから!!! あれ・・・・でも、もう何いってたのかよく聞こえない。 なんだったんだろう・・・・・・・・・。 いいや、もうきこえないし、気にしない。 かぶりついた仔牛の肉を、はぎとって骨にくらいつく。 やわらかくて、とてもおいしい・・・・。 でもこの牛・・・・なんだかなつかしい、においがする・・・・ なんだろう。・・・・わかんないけど、目から水が出てくる。 アレ、止まんない・・・・・。 なんで、・・なんで・・・・むねが・・・・むねがいたいよぉ 「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン」 私は、むしょうに叫びたくなって、 目の前のごちそうを放り出し、 ひたすら、声のかぎりほえ続けた。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「破壊された『コロッセ』で暴れていたのは、 アルファ01のサンプルだったそうだな。 ・・・・・あれを持ち出したのは君か」 ときつい口調でいう白衣姿の初老の男 鋭い目つきは、猛禽類を思わせる。 ここは、とある製薬会社の研究施設。 表向きは、風邪薬など作っている会社だが、 裏では、獣人改造を行い、金持ち達の道楽に一役買っている。 「ええ、せっかくの成果物を そのままムゲにするのもどうかと思いまして・・・。」 とこちらは飄々とした白衣姿の中年の男。 「・・・・君なら、わかっているはずだ。あれの危険性を・・・・。」 初老の男は、声を殺して、白衣の男に詰め寄る。 「プロフェッサー、それはそっくりお返ししますよ。 あれこそ、人を超え、獣を超えた まさに超人、超獣レベルのもの・・・ あれこそ、我々の求める力です。」 こちらも、目を細め、にらむように返した。 世の中に失敗作は、2種類ある。 一つは文字通りの不良品。 必要な性能が出せないもの。 そして、もう一つは、予想以上に能力に 制御が追いつかず、やむを得ず廃棄する物。 彼らの話すそれは、間違いなく後者であった。 「プロフェッサーも人が悪い。 本当に要らないなら、破棄してしまえばよかったじゃないですか。 それをしなかったのですから、 あなたもアレの完成を見たかったのでしょう。」 「・・・・・・・・・・・・・」 初老の男も言葉に詰まる。 恐ろしい事はわかっている。 しかし、科学者としての探究心が 未完のまま廃棄する事に強い異議を唱えた。 その結果として、サンプルを処分できなかった以上 彼に反論の言葉などあるはずもなかった。 「あの時、あの私をにらみつけた 彼女のあの強い意志、 絶望のどん底だろうと這い上がろうとする闘争心。 あれだけの精神力があれば、アルファ細胞の抑え込み きっと完全体になってくれることでしょう。」 亜人改造の際、絶望に打ちひしがれる者たちの中で 力強い、カレンの強い意志は、男の目に留まった 「ばかな・・・・完全体になどなったら、 それこそ手が付けられんぞ。 それに、もう軍が動いている。・・・・」 「まあ、それはそうですね。 それなら覚醒体の組織片でもサンプルに貰えれば上々です。」 「それだけではない。『コロッセ』の後ろ盾がなくなった今 連中は我々を始末しに来るぞ。」 「あの悪趣味な連中は居なくなった方が世のためです。 ああいうことは、妄想の中だけに止めて置く人間の方が賢明ですよ。 現実にするなんてホントどうかしてる。」 明らかに不快な顔をしている男。 「ずいぶんと余裕だな・・・」 「ええ、そのための準備はとっくに終わってますから・・・・・。 さあ、プロフェッサー。 参りましょう。ここにはもう用はありません。」 まるで演劇のように大げさにいった男は、 部屋にある奥の隠し扉のスイッチを入れた。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 上空を飛ぶヘリ。施設を取り囲む部隊。 その姿をあざ笑うかのように 遠くから、炎上する施設を眺める男たち。 「さあ、お嬢さん。しっかり、私の期待に応えてくださいよ。・・・・・・」 白衣の男は、不気味な笑みだけ残してその場を去っていく。 その後、軍より派遣された特殊部隊を悉く壊滅させた 黒い獣人の消息を知るものは誰一人して居なかった。おわり
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