作者 DarkStar
見える物は、茶色い地面と、枯れた草木。 聴こえる物は、不気味に吹く生暖かい風の音だけ。 血と火薬の匂いが風に運ばれるここは、 ・・・・・戦場 広がる荒野に身を潜め、機会をうかがう者達 『こちら、G1。G7現状を報告せよ。』 緑色の地に、黒い縞。 同じ色のヘルメットと靴を掃いた男達。 トランシーバを片手に、無精ひげの目立つ。 長身の男が当たりを見回す。 この部隊のリーダーだ。 『こちら、G7、ボス。奴さんたちいましたぜ・・・・・。』 トランシーバのマイクが音声を捉え、電波に乗って味方へ。 「数は?」 高精度ライフルのスコープから、キャンプの中にいる 敵の数える狙撃手。 『15・・・いや、・・・18って所ですかね・・・・ しかし、こりゃあ、撃つのためらっちまうなぁ・・』 部下の報告に、 顔をしかめるリーダー。 「??・・・どういうことだ?」 そんなリーダーの心配をよそに 『いやあ、かわいこちゃんばっかりで・・・・男は・・・いねえみてえだなぁ、 おお、あの子、胸でっけぇ、ああ、あっちの子は括れがたまらん。』 ミッション中の緊張感のなさ、 また女と見ては飛びつくその姿に またかと、額に手をやって、溜息をつくリーダー。 そんな姿を尻目に、部下の一人が 「おい、G7・・・・かわいこちゃんって、どれくらいだ。」 『そうだなあ、G5。 このまえ、お前から借りたVのポルノ女優よりもイケてる娘達ばっかりだぜ。』 「おおお。」 声を上げたG5の頭をゲンコツでなぐり そんな部下達のやり取りを収めようとするリーダー 「オイ、G7・・・・・」 『だけどボス。あいつら。妙だぜ。』 先ほどの軽口は何処へやら、まじめな部下の声。 その言葉にリーダーは口を閉ざし、次の言葉を待つ。 『どうも、素人くさいぜ。あの嬢ちゃん達。 さっきも言ったけど体つきも身のこなしも、 とても戦闘員って感じじゃねえ。 それに、ほとんどが10代って感じでガキばっかだぜ』 彼も、女には軽いが仕事振りはあくまで軍人だ。 そしてその的確な洞察力はリーダーも一目置いている そうでなくては、重要な偵察役を任せるような事はしないだろう。 「G7。間違いないか・・・・」 『着てる服装は、▲▲軍の格好だ。それに こんな所を民間人がうろついているとは、とても思えねえ。 だか、持ってる火器がどれも、なかなかのもんです。 素人が手に入れられる物じゃなさそうだし、 何より扱えるとも思えねえ』 銃は、威力が大きくなるほど その反動も大きい。火力の高い武器を扱う者ほど、 使用の対する訓練と筋力を鍛えなくてはとても扱えた物ではない。 なにかの罠か、作戦か。 リーダーは首を傾げる。 司令部より与えられた彼らの任務は、 敵本隊と別行動をとっている特殊部隊の排除。 しかし、蓋を開けてみれば 女、子供の集団だという。 諜報部の情報が間違いだったのか 判断に戸惑う。 なにより、もし彼女達が本当に 特殊部隊だったとして なぜ、我々が敵陣地に侵入する危険を冒してまで、 排除する必要があるのだろうか?。 しかし、リーダーも軍人の一人。 『上の命令に疑問を持つな。』 (そうだったな・・・・・) 『よし、我々も合流するお前はそこで待機してろ』 と無線で指示を出す。 ・・・・・・・・・・・・・ 一方、こちらは、敵陣地。 「隊長・・・・。誰か近づいてくる。」 隊員の一人が報告すると 「ええ!!、マジ。」 赤毛をショートカットにした 隊員の一人が声を出し。 周囲を見回しながら、ヒクヒクと鼻を動かす。 体つきこそ、普通の大人以上のスタイルだか 顔つきには、まだ幼さが残る 15,6歳といった少女だろうか。 「だめ、・・・あたしの鼻にはひっかんないよ・・・・どっちの方?」 「・・・向こうの丘の影・・・・20人くらいいると思う。」 こちらは、報告した隊員。こちらは先ほどの娘よりもさらに若く。 背も体つきもまだ幼い。12,3歳と言う感じの少女だ。 目を閉じて時折、風向きの合わせて顔を向け、小刻みに鼻をならす。 「し、静かに、・・・・敵に気づかれるわ。 そっちの方をあんまり見ちゃだめよ。」 美しい金髪を綺麗にストレートでまとめた この女性は、この隊の隊長。 すらっと体型はまるでモデルを思わせる。 しかし、その瞳の奥は、 どこか、相手を圧倒するような 力強ささえ感じさせる。 「まあ、普通の『人』なら、あたしらの敵じゃないよね・・・。」 と余裕な感じの赤毛の少女に対して 「でも油断は禁物・・・・・私たちと違って・・・・ 戦闘のプロなんだから・・・・・」 年若の娘が、的確に状況を分析していた。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「どうだ様子は・・・・。」 偵察役と合流した部隊。 「いえ特に、めだった動きはないっス」 相手陣地を自分の双眼鏡で覗く隊長。 (・・・本当に女子供、ばかりだ・・・・・) 部下の報告を信頼していなかったわけではないが、 それでも軍服を着た少女達が陣地内とはいえ、戦場をうろつく姿は、 自分の目で見ても、とても信じられない。 しかし、しばらくして 彼はあることに気が付く。 双眼鏡で覗く彼の方に気が付いたように 目線を送る者・・・・ 目が合ったわけではないが、 何かこちらの方を見ながら頭を上下に動かす姿は こちらを探しているようにもみえる。 (こちらに気が付いている・・・・そんな馬鹿な・・・・) 不安要素はあるが、相手側が本隊と合流されると こちらからは手が出せない。 その前に形をつけなくては。 「よし、仕掛けるぞ」 「「「イエッサー!!」」」 狙撃班、突入班に分かれて移動する 「俺の勘違いならいいんだがな・・・・」 というリーダの声は、戦場の緊張感に飲まれ、かき消されてしまった。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「そういえば、さっきの奴ら気配が消えたけど どっか行ったのかな?」 「ぶきみねぇ・・・・でも警戒を怠ってはだめよ」 などと話している▲▲軍。 そんな緊張感のない雰囲気に突然吹き込む一陣の風。 「あ、あ、ううう・・・・・・・」 痛みを感じるまもなく、胸を貫かれた女兵士はその場に倒れこむ。 髪と同じ真っ赤で血で地面をぬらし、 彼女の体を貫いた弾丸は、地面に突き刺さった。 「敵襲、敵襲!!!!」 一気に緊張が走る陣地内。 「シンシア、シンシア!!!しっかりして!!」 同僚を助けお越し、自分の体が血みどろになるのもかまわずゆさぶる。 心臓を打ち抜かれ、即死・・・・・・・のはずだったのだが 「う、ううう・・・・」 奇跡的に急所をそれたのか 彼女は再び目を開けた。 「シンシア・・・・」 「痛たタァ、もう玉のお肌に傷をつけるなんて許さない!!」 普通ならば、痛いくらいではすまない重傷をおっていながら、 少女は立ち上がった。 「どこ? 何処にいるの?」 クンクン、クンクン 彼女の嗅覚は、自分の位置から一直線に伸びる火薬の匂いを追っていく。 「・・・・・あっちか!!」 そう言って、全身に力を込めた彼女の周りを不気味な気配が漂っていく。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ポイントを移したG小隊。 狙撃手を除いたチームは先ほどポイントから、距離を詰めた位置で待機。 スナイパーは設置したライフルを構え、 一人のターゲットに照準を合わせる。 「悪いね・・・・ボインのお嬢さん・・・・大丈夫お仲間も すぐに一緒の所へ送ってやるよ」 彼の狙撃を合図に突入班が突入し、 敵を殲滅する作戦だ。 人差し指が動き、 煙と乾いたパンッという音と共に弾丸が飛んでいく。 スコープから覗いた彼の眼からは、自分が引き金を引いた 次の瞬間には、敵が倒れているという感じだ。 今のを合図に攻撃が始まる・・・・ 彼の仕事は味方の援護だが・・・・・ 「ん。なんだ・・・・んな・・・・ばかな・・・」 小さなレンズのその先に映る人影は、 今まさに自分が心臓を打ち抜いた人物。 天を仰ぎ、口をめいっぱい広げ、何かを叫んでいるようだ。 高精度スコープが距離を感じさせない 鮮明な映像を映し出す。 迷彩服が悲鳴をあげ、引き裂けるように 胸元が開くと、大きな白い膨らみ・・・・ではなく、 灰色の毛皮に覆われた胸。 白く細い手は、太く鋭い鍵爪を生やし、 開いた口には、隙間なく、鋭い牙がならんでいく。 見開いた瞳が、獣のそれに変わると 腰の辺りから、ぶわっとした何かが飛び出たと思うと・・・・。 突然、目の前の人物の姿が消える。 銃口をあちこちに向けるが先ほどの姿は見つからない。 「なんだたんだ・・・今のは・・・・」 とスコープから目を離した男の目の前に立つ、灰色の人影。 長かったであろう袖や、足を覆う布は、無残にも引きちぎられ、 灰色の肌を晒している。 足首に巻きついた 皮の布切れは、軍用ブーツの慣れの果てだろう。 腰から伸びた、毛の固まりは逆立ち その一本一本がピンと立っている。 「ガルルルルルルルル」 その声に見上げた上には、人の顔はなく、 犬・・・・いや・・・・狼のそれが乗っかっていた。 「まさか・・・・ウェアウル・・・・」 そう発しようと彼の喉は最後まで言葉を 続けることなく、 彼の頭ごと、中を舞った。 足元に転がるソレに、目もくれず、 爪についた血を長い舌で舐める狼女。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 突然、キャンプを出て敵に突っ込んでいった灰色の獣。 「隊長・・・・シンシアが・・・・・」 「仕方ないわ。みんな、敵が突入してくるわ迎撃して!!!」 「「「アオオオオオオン!!!!」」」 狼の遠吠えと、服の布を引き裂く音が陣地内に響いた後、 そこは、女子供のいる場所から、 猛獣達の中へと姿を変える。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 百戦錬磨のG部隊は、ほぼ壊滅・・・。 仰向けに倒れこんだ隊長の上には、 白い毛に覆われた人狼が乗りかかっていた。 (もうここまでか・・・・ふ、・・・まさか、こんなことになるとはな・・・・) 油断はしていなかった。 作戦も的確であったであろう。 唯一つの誤算は・・・ただただ、相手が悪かった。 いくら弾を受けても倒れない兵士、 そしてその手に持った武器の火力 それはさながら小型の戦車でも相手にしているかのようなものだった。 鋭い牙が、男の顔に近づかれる。 (ああ、俺もここで食われて死ぬのか・・・・・) そう思い、男は両目を閉じた すると、そのまま白い毛の獣人は目を閉じて、上を向くと、 クウウンとかわいい泣き声を上げて全身を振るわせる。 妙に思った男が目を開けると、そこに獣の姿はなく、 長い金髪の髪を振り乱した若い女が座っていた。 「俺を追い詰めたのが、こんな綺麗な娘さんだったとはな・・・・」 戦場で、自分の生命の危機が迫っているのも忘れ、 ついそんな感想を述べてしまった。 「あら、狼の姿は、みにくかったのかしら。」 女は、口に笑みを浮かべながら男に聞き返す。 狼の姿の名残だろうか、 口元の八重歯は鋭くとがり、日の光を反射していた。 「まさか、あれは美しさの余り、恐怖を覚えるほどだったよ。」 我ながら、こんな状況でよくこんなセリフが吐けるものだと関心してしまう。 「ふふ、面白い人・・・・・」 そういって笑った女の顔はどこにでもいるような普通の女の子の笑顔だった。 「これから、死ぬかもしれないのにどうして貴方は平気なの?」 「死ぬ覚悟ならとっくにできているさ、軍人だからね 脅えようが慌てようが、人間死ぬ時は死ぬ。 それにあんたみたいな魅力的な女性に殺されるなら、悪い死に方じゃあない。」 そういわれて女は自分の姿を見回す。 素足を晒し、靴もなく裸足。 ところどころ破れた服。 大きく開いた胸元は、今にも布からこぼれ落ちてしまいそうだ。 それに男からは見えないが、尻尾が生えたときに開いた 大きな穴のせいで、ほとんどお尻が丸見えになっている。 慌てて、胸元を正し、顔を顔を真っ赤にする娘。 その姿もどこか愛らしい。 『うおおおおおおおおおおん』 遠くから聞こえる狼の声。 耳を済ませてその声を聞いていた女は静かに 「そう・・・・・私達の負けね。隊長さん。」 そういってにっこりと男に笑いかけてきた。 「どうしてそうなる。 我々は惨敗だよ。」 「さっきの声、私の部下の報告だったの。 どうも・・・・一人・・・取り逃がしたみたい。」 「そうか・・・・・。」 (・・・G4か、・・・G9・・・・・か?) 彼は、状況が悪いと判断すると、部下に撤退を命令。 おそらく、自分が盾となり逃がした2人にうちのどちらかが生還できたのだろう。 「私達は、▲▲軍の特殊部隊。軍の秘密を守るため、 この姿を見た敵は、全て殺さないといけないの・・・・」 「そうか・・・では、とりあえず、 目の前にいる奴を始末した方がよくないかね。 俺を生かしておいても、君たちにとって利益はないよ。 逃げ出されるのが落ちだ。」 その言葉にクスリと笑った娘は、 「ホント不思議な人・・・敵の心配するなんて・・・・・ 今まで、いろんな部隊の『隊長』とかいう奴を見てきたけど、 土壇場で部下を逃がしたり、ましてや命乞いをしなかったのは 貴方が初めてよ。だから、私・・・殺すの躊躇っちゃった。」 そういう娘に男は飄々とした態度で 「命乞いか・・・・そういえば、さっきは、あの白い狼の姿に すっかり見とれてしまって、そんなこと忘れていたなぁ」 「もう、口がうまいんだから・・・・。」 と再び顔を赤くする娘。 「でも・・・うれしい。獣の私達を『化け物』じゃなくて、 綺麗だなんていってくれるんだもの。」 「それは、『化け物』といった者のセンスを俺は疑うよ。」 「私たちは・・・・▲▲軍の部隊『白銀の月』よ。 構成員は、私のような軍の生体実験で生み出された 人工の獣人・・・・人狼。」 何を思ったか自分たちについて語りだす娘に 「ちょ、ちょっと待ってくれ。俺は敵だよ。 さっきも君自身が、・・・・情報を・・・・む・・・」 と男は口に手を当てられる。 「いいから聞いて・・・私達の群れには、リーダーがいないの・・・・」 「狼は群れで狩りをするもの。 群れにはそれをまとめる強い雄が必要なの・・・・ だから、私はリーダーにはなれない・・・・。」 「それで俺にどうしろと・・・・・」 男にも、なんとなく娘の意図がわかるのだが、 それでも聞き返さずにはいられない。 「わかるの・・・貴方ならきっと・・・・ きっと私たちの・・・・・・あおお・・・・ウォオオオオオオオン」 女の喉から、野太い狼の咆哮。 全身を真っ白な毛で覆われ。 整った鼻筋が前に突き出すと、狼へ。 金色の髪が、白い毛皮へ。 吹き出した尾と頭頂部の耳がピンと尖り、 白い狼女に姿を変えた娘は そのまま、狼は男の肩めがけてを力一杯牙を突き立てる。 「ぐ・・・・」 男は、肩から血を流しながらも 歯を食いしばってこらえる。 出血量が多いのか、だんだん傷口が脈打つような感覚。 しかし、血が抜け出たことで、体は冷えるどころが ますます熱を持ってくる。 やっと噛み付くのを止め、 白い狼が、自分の喉元を真っ赤な血で染めながら 立ち上がり男の様子を見ている。 (なんだ、体が熱い・・・・傷口から赤く溶けた鉄でも流し込まれたみたいだ。) 熱い何かが、血管を通り、心臓へ、 そこから、動脈や毛細血管を通ってさらに全身へと広がっていく。 「う・・・うう・・・うおお・・・」 男は地面を転がり、苦しそうに悶える。 (頭の中がどうにかなってしまいそうだ。) 朦朧とした意識の中でなんとか正気を保つ 耐える男の体を頭髪などとは違う 銀色の毛が覆ってゆく。 「ぐおおお、おおお、グオオオオ」 男の低い声が唸り声になり、 顎が突き出し、変形した骨格を 人のそれとは比べ物にならない強靭な筋肉が作られていった。 血に染まって、べっとりと重くなった、 服が力任せに引きちぎられる。 体を起こした男のズボンから、銀色の毛の塊が 布の破片を撒き散らしながらふわっと生えた後。 狼となった頭を天に向け 「ウオオオオオオオオオオオオン!!!」 と大きな遠吠えを上げる。 すると、隣にいた白い雌狼も同じように 遠吠えを上げ、 『ウオオオオオオオオオオオオン!!!』 遠くから、白い狼の仲間の声も響いてくる。 狼達の声が止み、夜が更け、青白い月が天に昇る頃 二匹の人狼が、月を眺めている 白狼が銀狼に寄りかかり頭を摺りよせ。 銀狼はその肩を抱き、白狼の頬をやさしく舐める。 白狼の尻尾が左右に大きく揺れ 美しい獣毛がこすれあいサラサラという綺麗な音を立てている。 それ以外には音のない静かな夜・・・・。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 『ウォオオオオオオオオオオオ!!!』 戦場に鳴り響く、狼の声。 その声に従い、人狼の兵士達が戦場を走る。 声の主を探した者達が目にしたのは、 銀色の毛に覆われた狼男と それに寄り添う真っ白な狼女。 しかし、2匹の存在が、味方に伝わることなく。 闇へと葬り去られていく。 つがいの人狼が同族を従えて戦場を掛け抜ける。 その後に残るは、血で染まった大地と それに横たわる無数の躯 ・・・・ただそれだけだった。おわり
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