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ダークサイドFILE No.08

海の人気者、嫌われ者

作者 DarkStar

「ここ?、問題の海は」
海沿いの道路を走る一台のワンボックスカー
助手席に乗る女の声に
サングラスを書けた女性ドライバーが応える。

「そうよ。今回のミッションは、
 名目上、行方不明者の捜索・・・・
 ダークサイドの排除ね。」

彼女達は、ここ数ヶ月この辺りで起こっている
行方不明事件の調査のためにやってきた
エージェント達だ。

「って、まだダークサイドの仕業って
 決まったわけじゃないでしょ。」

「でも、この事件早く何とかしないと
 これからの観光シーズン観光客が来なくなっちゃうでしょ。
 って事で、お役人さんから、うちに依頼があったのよ。」

「はは、でもお役所からだと、
 あんまギャラ期待できないじゃない。
 人には、詳しい事情話せないし・・・。」

「まあ、そうなんだけど、ね、
 うちも、半分慈善事業的な所あるから
 まあ、一つがんばってよ。」

「そんなひとごとみたいに・・・・。」

「なによぉ。美海(みなみ)ちゃん、蝙蝠のあたしを泳がすつもり?
 ちょっと勘弁してよ。昼間歩かされるのだってホントはイヤなんだから。」

蝙蝠の彼女にとって、昼間の光は眩しすぎる。
サングラスがあるとは言え、つらい事に変わりはないのだろう。

「でもさあ、羽根とかで水をかいたら、早く進めそうじゃない?」

「仮に泳げたとしても、水中じゃあたし武器ないもん。
 あっという間に餌にされて終わりよ。

「そ、それもそうかも・・・・。」

水に入ったとたん、巨大魚の食われる蝙蝠を想像し、
目をそらす。

海岸に到着するとさっそく車から降りた二人は、

「じゃあ、あたしは、この辺の人に聞き込みとか地元の人に
 挨拶してくるから、調査よろしく!!!」

と元気に去っていく、サングラスの女性。

「さあて、この当たりで行方不明って事は、
 やっぱ、海に入らないとだめかなぁ。」

そんなことを言っている美海

「どうか、なさったんですか?」

美海が振り返ると、
そこには、長い髪にワンピース姿の
一見『お嬢様』という感じの女性が立っていた。

「あ、え、えっと、最近この当たりで行方不明の人が
 出てるって聞いて、そのあたし、それを調査に着たんですが」

(やば、極秘捜査って言われたじゃん、どうしよう!?)
うっかり、事件について喋ってしまいあせる美海。

「まあ、そうなんですか?
 物騒ですわね~。ここには、イルカさんが岸までよって来て、
 逢えますのに~そんな怖い事件がありましたら、
 私、近寄れませんわ。」

「へえ、イルカ、ですか・・・。」

「はい、イルカさんです。」
とニッコリかわいく笑顔を見せる女性に
ちょっと苦笑いが出てしまう美海

(うう、話づらい・・・・。なんだかなあ、この人のペース)

ぐう・・・・
とお腹がなる音、その音は、美海の目の前の女性からだ。
彼女は顔を真っ赤にしながら、

「ご、ごめんなさい。わたしったら、
 おいしそうな物みたら・・・つい」

突然の話題の転換についていけない美海は
「え、なんですか?」
と聞き返してしまう。

「え、なんの事ですの?」
質問が、質問で返ってきた。

「いやあ、貴女がさっき何か?」

「私なにか言いましたかしら、」
と今度は、頭を右斜めにかしげ、指を顎の右下へ、

(な、何、素でこんなポーズする人ホントにいるの!?
 だめ、この人のペース付いていけない。)

完全の女性にペースを乱される美海。
当の本人は、あッと気が付いたように

「では、私はこれで、ごきげんよう」
と再びニッコリと笑顔だけを残し
何事もなかったの言うとそのまま立ち去ろうとする女性。

「ごきげんよう。」
と美海もつられて、同じように挨拶してしまう。

(なんかちょうし狂うなあ)

と思いながら、海沿いを散策する
美海、季節はもう夏に移り変わろうとしているせいか
海辺にも、ちらほら人が集まっている。

しかし、思った成果は挙げられなかった。
(はあ、聞き込みして回ったけど結局、なんにも聞けずじまい。
 まあしょうがないか詳しい事情を喋るわけにもいかないし。)

そんな中、人気のない海岸に佇む一人の人影。

(あれ・・・・あの人は・・・・)
不振に思った美海が近寄ると、
それは、さっき美海に話しかけてきた
お嬢様風の女性だった。

美海が声を変えようと、前に一歩踏み出したとたん。


ドッバーーーン

と倒れこむように女性は波の中へ消えていった。

「え、なに?、さっきの人?、
ええええ、まさか、投身自殺!?
と、とにかく助けなくちゃ。」

と女性に続けて、美海も海に飛び込む。

潮の流れが速い海域も、
何のことなく泳ぐ。

すると、海の中に白い物が見える。

それは、先ほどの女性が身に着けていた
ワンピースだ。

美海にが彼女を助け起こそうと近寄ると、

ぐったりとしていた女性が突然起き上がり、
美海に襲い掛かってきた。

(うわ、な、なに?)

ワンピースの下からは、黒い尾ひれが見える。
そして、女性の鼻先が伸びていくと、
鋭い牙が並んでいく。
そのまま、するりと服からすり抜けたよれは、
流線型の美しいイルカに変わっていた。

「キュイイイ!!!、キュイイイ!!!」
(あなた、おいしそうですわ。食べて差し上げますの。)

とイルカは、大きな口を開き、
美海に襲い掛かってきた。

(ま、まさか、さっきの人が、ダークサイド?)

『どうして逃げますの?、貴女が餌になってくださらないと
 私、飢え死にしてしまいますわ。』

イルカは、美海に語りかける。

『あ、アンタでしょ。行方不明の人たちを襲ったのは』

『あら、貴女、私の言葉がわかるんですか、うれしい。
 でも襲ったなんて失礼ですわ。その方たちは、
 私のお腹の中に入ってしまわれただけですわ。』
 
『世間では、それを「襲う」っていうのよ!!』

『だって、お腹がすいてる時に、
 人間達ったら、私の前をおいしそうに近寄って来るんですもの。』

どうやら、被害者達は、イルカを見つけて
近付こうとしたところを襲われたらしい。

口調こそ、ゆっくりだが、
彼女が美海に仕掛けていくる攻撃は、
とても、俊敏であり、
いつ食われてもおかしくない。

しかし、イルカの方も何故、人間に追いつけないのか
理解できない。
それ以上になぜ、息継ぎもせずこんな長い間
人間が潜って居られるのだろうか

食べる事に必死なイルカはそれすら疑問に思っていなかった。

泳ぎながら逃げる美海が、口を大きく開くと、
顎が裂け、鋭い歯が幾つも並ぶ。

手は短く水かきのようなヒレへと、
水を蹴っていた両足では、ぴったりとくっつき
そのまま尾ひれへと変わっていく。
服を破って、現れたのは、
獰猛なサメの姿だった。

『あ、貴女、サメさんでしたの』
さすがのイルカも、サメには、臆したのか、距離を取る。

『どう、あんた、まだやる気』

サメに変わった美海がイルカに向かって凄む。

『どうして、邪魔しますの。
 私お腹が空いただけなのに・・・・・。
 そんな時に、目の前においしそうな人間がいたら、
 かじりついてみたくなるじゃありませんか、
 貴女だって違いますの?サメさん。』
 
『確かにそうかも、知れない
 でも、あたし達は、人の姿と心を持って生まれた
 だけど、アンタはやっちゃいけない事をしたんだ
 だからその報いを受けなくちゃいけない。』

猛然と加速して、イルカに襲い掛かる美海。

イルカも、必死に逃げる

とイルカは突然水中に顔を出して、声を上げる。
「キュィイイイイイイ!!、キュイイイ!!」
(助けて、助けてくださーーーい。)
とイルカが突然

『な、なにいきなり命乞い。』

『そうじゃありませんわ。イルカさんとサメさん、
 人間達は、どっちをかわいそうだと思って助けてくださいますかね。』

美海は、はっとする、
このまま、人が集まってくれば、

この状況どうみても、
正義のサメが、悪いイルカを退治しているように
見えないだろう。
悲しいかなそれが、イルカさんと、サメと言う
人間のイメージなのだ。


急がなくては、自分の身も危ない。
美海は、逃げながらしつこくわめいく、
イルカに、向かってサメの牙を突き立てて喰らい付く

『どうして、私・・・ただ・・・・』
流れ出す血と引き換えに途切れていくイルカの意識。

(わかってる、あたしだって、アンタの言ってる事
 全部間違ってるなんて思わない、
 でも、あたし達は、人なんだ、体はともかく
 心は・・・・・。)

一歩間違えば、自分もああなるのだろうか、
そんな感傷浸る時間も、彼女には与えられていなかった。
なぜなら今倒した敵よりも弱くとも恐ろしい敵がいるのだがら。

「キャー、鮫よ、鮫、鮫がイルカを襲っているわ。」
と言う女性の声、

どうやら、先ほどのイルカの鳴き声で人が集まってきたのだろう。
美海にとってまだ幸運なのは、漁師などの
彼女の命を奪える人間が、まだ来ていない事だった。

「こわい。」
という言葉が口々に聞こえる。

「いるかさん、かわいそう・・・・・。」
鮫によって無残に傷つけられた
イルカの姿に泣きそうな顔の子供達の声。

「くそう、この鮫ヤロウめなんて事しやがる」

厳しい罵倒。

水中では、人々の顔は見えなくても、
声は音として伝わってくる。
そして、悲しいかな、彼女の耳は
それらをしっかりと捕らえていた。

そんな人間達の声に、たまらず、
美海は、その場を泳いで逃げ出す。

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日もすっかり落ち、
人気の気配がなくなった暗闇の入り江に泳ぎついた美海

細かな鱗に覆われた青白い肌に
赤みを増していく

背びれとその代わりに、
ヒレが長く伸びてくる。
そのヒレがだんだん、水かきの生えた手になり、
やがて、それは、人の指に代わっていく。

同じように変化した尾ヒレは、
二股に変われ、人間の足を形成する。

鮫の尖った顎が小さく、鋭い牙が丸みを帯び
それと一緒に黒い海草のような物が伸びて髪に変わると

ザバッ
海より立ち上がったそれは、鮫の姿ではなく

白い肌を晒した全裸の女性だった。

そんな彼女に大きなバスタオルが投げられる。
「おつかれさま、人目に付かないうちに帰るわよ。」
と今ははずしているが、その声は、
昼間のサングラスの女性のものだ。

「うん。」
バスタオルで体を隠し、近くに止めた車にへ急ぐ美海。

夜の道路を走る車
疲れ顔の美海の耳に入ってきたのは、ラジオのニュース

「今日、○○海岸で鮫が出没したとの報告を受けて
 自治体は、今年の海開きを中止する意向を示しました・・・・・」

運転席の女性は思わず
「そのごめんね、庇って上げられ・・・・」

とその言葉を遮って美海は、

「いいよ、人食いイルカだって言ったって誰も信じてくれないもん。
 まあ、あたしも人に見られちゃったし、
 嫌われ者の役目はあたし達の仕事だから・・・・」

口ではそういうが、気持ちが落ち込んでいるのは
傍目にもよくわかった。


野生動物は、日々生きるために必死になっている
鮫にしろ、イルカにしろ、
腹がすけば、目の前の食える物を喰う。
そうしなければ明日を生きて生けないからだ。

野生の生き物は、どんなに愛嬌のある姿をしていても、
彼らが我々よりも厳しい環境で生きていることに変わりない。

我々とは違う彼らに対して
尊敬と恐怖を
私達は決して忘れてはいけない。
	
おわり
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