作者 DarkStar
「いってきまーす。」 「おう、いってらっしゃーい。」 と歳の割りに偉くテンションの高い老神主 「そうじゃ、清志(きよし)。」 ふと何かを思い出したかのように 神主は孫を呼び止める。 「なんだよ、じいさま。」 「お前、学校に好きなおなごはおらんのか?」 「ええ?、朝っぱらから何言ってんだよ。 って言うか、うちの学校、人間の学校だよ、 そんな、女の『仔』なんていないよ。」 彼は、まるで自分が人間ではないかのような口ぶりである。 そんな孫に祖父は。 「ほれ、前に同族の仔がクラスにおるといっておった ではないか。」 「ああ、藤村さんね。でも、あの仔よくばれないよな。 っていうか人間って鈍感なんだな、あれだけ狐の匂いをだしてれば、 普通、気が付きそうなもんだけど・・・・・」 化け狐の清志は、人間の学校に通う際 祖父からのきびしい特訓の末 匂いまでほぼ人間と同じように 化けられるようになっていた。 しかし、同じクラスになった同族の姿に あの努力はなんだったんだと落ち込んだ時もあった。 「それにあの仔、気を抜くと尻尾とか耳とか すぐ飛び出してきてさあ、俺ごまかすのが大変なんだよ。」 「なんじゃ、なんだかんだ、いって、 気に掛けとるという事は、その仔に気があるんじゃろ。」 といわれると清志は顔を真っ赤にして、 「そ、そんな事ないよ!! そ、そりゃあ、確かに藤村さんはかわいいけど、 あの仔、別に俺の事なんてなんとも思って・・・ それに、俺が狐だって たぶん気が付いてないかもしれないし・・・・・。」 「ふーん。ま、ええわ、そういえば、お前。 そんなにのんきしてていいのか?」 なんか、惚気話のようになってきて つまらなくなった神主は、孫をとっとと学校に 行かせる様に仕向ける。 「え、あーー、遅刻だよ。 全く遅刻したら、じいさまのせいだからな!!!」 腕時計を見ながら、祖父を怒りながら、 すさまじいスピードで走り出す清志。 「ふー、やれやれ、案外あやつも、まがぬけておるのう。」 といいながら、境内を掃き始める。 学校に近付くにつれ、違和感を覚える清志は、 走っていた脚をとめ、辺りを見渡す。 そして自分の時計と近くの商店の時計を見比べて、 「くそ、あのじいい。勝手に腕時計の針、進めやがったな!!! ったく、いつの間にやったんだ。手品師かよ!!!」 などといいながら、清志が前を見ると、 先ほど、話しに出ていた 藤村 彰子(ふじむら あきこ)が前を歩いている。 その彰子のスカートから、黄色い毛が少し見え隠れする。 (ん、あ、あれ、し、しっぽぉ。マジかよ。 ど、どうする、と、とりあえず声掛けて、みんなの視線を 俺に持ってこさせよう。) 「おはよう、藤村さん。」 (えーーと、藤村さんの・・・・・この位置なら、 後ろの奴に、尻尾見えないなぁ) 「あ、お、おはよう。安部君。」 (ん、なんだ、顔が赤いけど、熱でもあるのかな?) 「どうしたの、顔赤いみたいだけど、 熱でもあるんじゃない?」 「だ、大丈夫。あ、あたし、げ、元気だから、」 (どうせ人間の学校で習う事なんて たいした事ないんだから、体調がわるいなら 休めばいいのに。でも、藤村さんまじめなんだな。) と彰子に見とれる清志。 (あ、尻尾は完全に引っ込んだみたいだな・・・・) いつの間にか、消えていた彰子の尻尾を確認すると 「そう、ならよかった。」 にっこり笑って、彼女の前を通り過ぎていく。 そんな清志たちの様子を物陰から見つめる黄色い物体。 ・・・・・・・・・・・・ 本日の最後の授業は体育 種目は長距離走。 実は、清志は長距離走るのは余り好きではない。 正確には、二本足で走ることが、 (あーあ、四足ならもっと早く走れるのに。) などど思いながらも、 既に、他の生徒を圧倒して、 トラックを走る清志。 軽快に走る、清志の感覚に告げる異変。 (ん。なんだ、藤村さん? やばい、この感じ。 あの仔、変化(へんげ)が解けかけてるんだ こんな時に、どうする?) がさがさ、がさがさ。 校舎の茂みが動くと、 1匹の仔狐が、茂みから飛び出す。 「なんだ?あれ?」 「きゃあ、かわいい!!! ねえ、あれ狐じゃない。」 「そうだよ、どこかから、迷ってきたのかな。」 生徒達の視線は一気に現れた仔狐に注がれる。 その隙をついて、彰子は、校舎の方へ走り出す。 (藤村さん?、あいつ、藤村さんの知り合いか?) 彰子の行動に気が付き、再び仔狐に視線を戻す清志。 彰子が校舎の中に入っていくのを確認したかのように 仔狐は、グランドの外の方へ出て行く。 (なんなんだ、あいつ、あんなかっこで、 街をうろついたら、役所の連中にとっつかまるぞ くそ!!!) 「先生、あの狐、どっかから、逃げ出した奴かも知れません。 おれ、ちょっと捕まえてきます。」 といって、教師の制止も聞かず、そのまま、 校門の外へ出て行く清志。 「くう、やっぱ二本足じゃこれが限界か。」 清志が全力で走るも、 やはり、狐の足には、かなわない。 (俺も、狐に戻るか、いや、こんな所で 服を脱ぐわけにもいかないし、なにより、人目が・・・・ まだこの時間ならここいらは人通りが少ない。 でも、この先の公園まで行かれると厄介だな・・・・。 ・・・・・ここでやってみるか。) 走りながら、清志は躓いたように、地面に両手をついて、 四本肢で走る。 服の隙間からから、はみでている肌に 黄色の毛が生え、 指が短く、小さくなって前肢に代り、 靴が脱げて、後肢が見える。 スパッツから黄色い尻尾が生え、 耳が頭の上に移動し、顔の形が変わってくると。 (ここだ。!!!) と清志が意識すると、変化が止まり、 人の大きさを残したまま、 体形は狐という姿に変わった。 これも、清志の化け修行の成果の一つだ。 変化の終わった清志が走ると あっという間に仔狐に追いつき、 そのまま、首根っこを咥えると、 いっきに、仔狐を持ち上げてしまう 「キューン、キューン」 (う、うわ、何するんだよ。離せよ。) 「コーン、コーン? コーン、コーン」 (お前、藤村さんの弟か?同じにおいがする。) 「キューン、キュー、キューン、キューン」 (そ、そうだよ。僕、将太(しょうた)っていうんだ。) 清志が前肢を変化させ、人の手に変えると、 咥えていた将太を手に持ち替え、 そのまま人の姿になっていく。 「お前、服は?」 「キューン、キューン、」 (あそこの公園のトイレに隠した。) 清志が公園の方をみると、 まだ、人の姿はない・・・・・。 「そうか、公園は今誰もいないみたいだな。 ほら、早く着替えて来い。」 と仔狐から手を離すと、 トイレに向かって走っていく。 少しして、小学生くらいの男の子が、 清志の前に現れる。 「お兄ちゃん、すごいね。さっきの化け方。 あれ、どうやるの?それにこの匂い。 本物の人間みたい。ねえねえ、どうやるの?」 と大声で話す将太に、 「ばか、大きい声だすな。っていうか、 人間社会に出る以上は、これくらい常識だぞ。」 と口に指を一本当てながら、清志が言う。 「・・・・うちのお姉ちゃんぜんぜん出来てないよ・・・・ あ、それと、朝ありがとう。 ・・・・・・お姉ちゃん気づいてなかったけど・・・・・」 「ああ、別にいいよ。なあ、藤村さんって、 昔っから、ああなの?。よくばれなかったな。」 「うーん、高校に入るまでは、昌子(まさこ)姉ちゃんがいたから。」 「昌子姉ちゃん?」 清志がオウム返しに聞くと 「小、中って、お姉ちゃんの同級生で、 人間に化けるのがすッごくうまい狐のお姉ちゃん。 そのお姉ちゃんがいつも、誤魔化してくれてたから」 「ふーん、そうなんだ。」 「いつも、『あたしの彰子はあたしが守るんだ』って言ってたから。」 ぴきっ!!! なにか、一瞬。場の空気が凍りついた気がした。 「ふーん。そうなんだ。」 同じセリフだが、こちらは怒気が満ちている。 (あたしの彰子だと、ふざけやがって、藤村さんは物じゃねえよ。) 「あのーお兄ちゃん?、そういえばお兄ちゃんはなんていうの?」 清志の表情に、声を掛けにくくなった将太。 「あ、ああ、俺?、安部清志だよ。」 「安部って、あの安部神社?、じゃあ、お兄ちゃんって 格の高い狐じゃん。ひょっとして、うちの姉ちゃんって そんなことも知らないの?」 清志の実家、安部神社は、ここいら一帯の 化け狐を統括する一族の神社だ。 そこの息子が人間なわけがない。 そんな狐としての常識もない 余りに無知な姉にがっかりする将太。 「た、たぶん、それどころか、俺人間だと思われてるかも。 でも、藤村さんはそういう所もかわいいんだよな。」 そういって、少し赤くなる清志を見て。 ぶすっとふて腐れる将太。 大好きな姉が他の男に取られるのは 弟としては面白くない。 「あ、こんな事してる場合じゃない。 早く学校に戻らないと、お前は?」 「え、僕?今日学校、創立記念日。 じゃなきゃお姉ちゃんに付きっ切りなんてできないよ。」 「そ、そうだよなぁ。」 と清志は、将太と一緒に、学校の方へ戻っていく。 清志が戻ってくると、 彰子が、すぐさま清志に近寄ってくる。 「大丈夫?安部君、噛まれなかった?」 「あ、ああ、大丈夫だったよ。藤村さん。」 「あのー、しょ、じゃなかった 狐は?」 「ごめん、逃がしちゃったよ。」 (あれ?将太はどこいった?) 「そ、そうなんだ。惜しかったね。」 「あ、ああ、そうだね。」 (なんか言い出しにくいな、 藤村さん、やっぱり俺の事、完全に人間だと思ってるみたいだし。) なんとなくぎこちない会話。 そんな、会話を遠くから つまらなそうな顔で見守る将太。 「はぁあああああぁ。」 と大きな溜息をついて、 「つまんない。帰ろ」 将太は、鈍い同士の2人を残して、 一人家路に着いた。 「あーあ、おもしろくないなぁ。」 姉の好きな男とやらを拝みに付いてきた 将太だったが、まさかその男が、 自分達よりはるかに位の高い狐であった事。 なにより二人が 両思いなのが将太としてはおもしろくない。 (あの様子じゃ、お互いの正体、言えそうにないな。 うちの姉ちゃんも、にぶいし・・・・。) 「でも、やっぱりおもしろくない!!!」おわり
SINCE 2006/12/16
Copyright© 2008 DarkStar. ALL Rights Reserved.