作者 DarkStar
野生にすむ獣たち その中にも、獣人は潜んでいる これはそんな者たちの話 「くそ、またか!!!」 畑が荒らされ、作物が食い荒らされている。 畑の主が怒りを露にしていると 「どうしました?」 すると遠くから、畑に近寄る髪の長い美しい女性の影。 「ああ、悠里ちゃん、見てくれよこれ。」 と食い荒らされた大根を見せる。 「まあ、猪ですか?」 「そうだよ。あーあ、ニンジンは綺麗に全部、 大根はこの有様。まったく商売上がったりだよ。」 この畑の周りには猪よけのために、 柵があるのだが、 どうやら、それを破って、猪が入ってきたらしい。 「おい、お前さん!!!。ちょっとこっち来なよ!!!」 柵を見て回っていたおかみさんが、だんなに声を掛ける。 「なんだよ。かーちゃんせっかく別嬪さんと話ししてんのによー」 と亭主と悠里が柵の前までくると。 柵には大きな穴が開いており。 「ほらここ、」 「ああ、ここぶち破って入ってきやがったのか。」 「ああ、じゃないよ。ここ、悠里ちゃんが、この前 脆くなってるから、直した方がいいって教えてくれた トコじゃないか。」 「あれ、そうだったけ?」 とぼけて、頭を掻く亭主。 「全く、お前さんが、そんな体たらくだから、 せっかくの野菜が、猪にくわれっちまうのさ。」 「だってよぉ。」 すると、昨年自分の畑を荒らされた 農家の親父がやってきて、 「いやあ、悠里ちゃんのお蔭でうちの畑は、 今年は、猪にくわれなくてよかったよぉ ここいらは民家が多いから、猟友会も めったねえと撃てねえから、みんな困ってたんだよぉ。」 「いえ、私は特別な事はなにも・・・・」 「なんだよ。源さん。町の生まれで、 ここに来て間もねえ悠里ちゃんに 猪除けの知恵を貰ったのかよ。」 と畑の亭主が言うと 「バカいうでねえよ。悠里ちゃんの言うとおりにしたら、 何処の畑も一切、猪の被害が出てねえんだよ。」 「ほら、お前さんあたしの言ったとおりだろ、 ねえ、悠里ちゃん。うちにも知恵をかしておくれよ。」 「そうですね。」 といいながら、柵の周りを一回りすると、 「ここ、小さい穴が開いてますよね。」 見るとそこには、柵の下のほうに 大人のこぶしを一回りほど大きくしたような 穴が開いていた。 「これがどうしたんだい。」 とおかみさんが聞くと。 「足跡をみると、大きな足跡と、小さな足跡が並んでるんですよ。」 「親子連れかい?」 「大きい足跡も余り大きくないので たぶん兄弟か何かだと思います。 それで、子供の方は、このくらいの大きさの 穴ならちょっと広げれば通れると思うんですよ。 だから、ここを岩か何かでふさいでおいた方がいいと思います。」 「なあ、それなら、柵の下の隙間も なくした方がいいんじゃネエか?」 「いいえ、この位のすきまなら、子供の猪でも 通れませんし、猪って、穴を掘って、柵の下を くぐるってことしないから大丈夫だと思いますよ。」 「そうかい、なるほどねえ。」 と亭主が言うと源さんが 「だいじょうぶだって、悠里ちゃんの言う事 聞いてりゃよ。」 と答える。 「そうだよ。あんた、ささっとやっておくれよ。」 「へいへい。」 とおかみさんにせかされ、亭主は いそいそと、柵を直しにかかる。 「では、私も自分の畑がありますので」 と悠里は、自分の畑の方へ向かって歩いていった。 「まったく、あんなかわいい子がなんでこんな田舎で 畑仕事なんかしたがるんだろ?」 「いいじゃないさ、今は後継者不足で、 土地が余ってるんだから、 それにあんなかわいい子がいれば、 男共もあつまって、昔の活気がもどるかもしれないよ。」 「まあ、そうだな。おれも、後十年若けりゃ。・・・・」 「あんたぁ、口より手を動かす!!!」 「わかったよ。かあちゃん。昔は、かわいかったのに いつからこんなになっちまったんだ。」 皆が寝静まった。夜 「もう、この辺りの畑は、大丈夫なはずだから、 そろそろ・・・・」 まっくらな山道を電灯も持たず、 平然と歩く、悠里 すると、悠里の畑にもぞもぞと、動く影が見えた。 「は~あ、判っていた事だけど。 でも、自分の畑が荒らされるとくやしいわね。」 すると、悠里は何を思ったのか、 着ていた服を脱ぎだすと 両手を土の上に付ける すると、悠里の細い腕に 茶色の毛が覆う。 顔の中央の小さな鼻がピンク色になりながら、 大きく膨らむと 鼻孔が前になりながら、孔自体も大きくなっていく。 「ふー、ふー、ふごッ」 長い髪を揺らし、小顔な悠里の顔の真ん中に 巨大な鼻が出てくると 同じく大きな鼻孔から、力強い鼻息が漏れてくる。 悠里のスタイルの良い括れがなくなり 大きな胸がそのふくらみに飲み込まれていく。 尾てい骨が少し伸び、 その伸びたそれといっしょに全身を毛が覆うと 悠里は一頭の猪へと姿を変えていた。 「フゴォフゴォフゴオオオオオオ!!!」 大きな泣き声を挙げて、 畑に動く影に向かって突進すると 「フゴッ!!」 ぶっつけられた影は、 猪だった。 「ブコォフゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!」 悠里が威嚇すると 猪が、びっくりして逃げようと するが、走った先は、柵 柵にぶつかってしまう。 (な、なんなのかしら、この仔?) と悠里が倒れた猪に向かって、歩いていくと 猪の前にちいさな影がよぎる。 「プキー、プキー、プキー」 (おねえちゃんをいじめるな!!!) どうやら、 この猪の弟のようだ。 その声に猪が起き上がり 「フゴォ、フゴおお!!!」 (この仔に手を出さないで!!!) 猪が、声を上げると 黒い蹄がピンク色になり 長細い5本の指に変化していく。 大きな鼻がちいさくなり 頭から、獣の毛とは別の 黒い毛が生えてくると かわいらしい女の子の顔つきになってくる。 「フゴッ!!!、フゴフゴゴゴゴ!?」 (あなた!!!、獣人なの!?) 悠里が驚いた声を上げる。 「ピキー?、プキー」 (じゅうじん?なにそれ?) すると、 「な、なにこれ、さ、さむい。毛が、毛がない。 なに、鼻がへん。前足がへんな風になって歩きにくい」 「ピー、ピー、」 (お姉ちゃんが人間になっちゃった。) 「私が人間?、えええ、どういうことこれ。」 (どうやら、あたしが近くによったから、 この子達の血も目覚めたみたいね。) と悠里も人の姿に変わる。 「ピー?、ピー、」 (どうなってるの?こっちのお姉ちゃんも人間になっちゃった) 悠里は、自分の脱ぎ捨てた 服を着ると畑に倉庫としておいてある 壊れた冷蔵庫の中から、 自分の服を取りし、 「とにかく、これ着て、」 と猪だった少女に渡す。 「きるって、これどうやるの、」 悠里は少女に服を着せてやると、 女の子と彼女の弟に 自分達について教えてやる。 「じゃあ、あたしたちのお母さんて、 人間だったの?」 「まあ、そんなところよ。」 「ピキー、ピー、ピー?」 (じゃ、じゃあ、僕も人間になれるの?) 「えええ、お姉ちゃんと同じくらいの年になったら、 人の姿に変身できるようになるわ。」 「ピー、ピー」 (そうなんだぁ。) 「そうだ、あなた達、名前なんていうの?」 すると女の子はキョトンとして。 「ねえ、なまえってなに?」 悠里の最初の人間社会講座は、 彼女達の名前を決めるところから 始まった。 数日後 「いやあ、悠里ちゃんのお蔭で 猪の被害もすっかりなくなったよ。」 とおかみさんがいうと 「でも、この辺を荒らして奴ら・・ どっかいっちまったみたいだけど」 と亭主も負けじというが、 「まったく何言ってんだい。 悠里ちゃんがしっかりやってくれたから、 猪の方が逃げだしちゃったんだよ。」 「あれ、その子どうしたんだい。」 亭主の目に、悠里の横をあるく、 ショートカットの女の子が入る 「ああ、私の親戚の子で愛紀(いのり)っていいます。 今度一緒に住む事になったんです。」 女の子がお辞儀をすると。 「プキー、プキー」 足元から小さなウリ坊が顔を出す 「ん、なんだ、こいつ。また荒らしにきたか!!」 とウリ坊をにらみつけた。 悠里があわてて 「ま、待って下さい、まだ子供ですし。かわいそうですよ。」 つづけて女の子も 「そ、そうだよ。あたしの弟なんだから。」 「は、弟?」 亭主が驚いたような声を出すと 「なにいってんだいお前さん。弟みたいにかわいいって事だよ。 いいじゃないか、悠里ちゃんも言ってる事だし。」 とおかみさんがなだめると 「まあ、かあちゃんがそういうなら。 じゃあな、悠里ちゃん、愛紀ちゃん。」 おかみさんたちが立ち去ると 悠里はウリ坊に向かって小声で 「伊吹くん、だめでしょ。つきてきちゃ。」 「そうだよ。まだ、人間になれないんだから。」 「ピー、ピー、プキー、プキー、プキー」 (でも、僕も早く人間になってお姉ちゃん達と一緒に居たいよ。) 伊吹と呼ばれたウリ坊は元気に鳴き声を上げる。 「伊吹。人間って大変だよ。 二本足は疲れるし、背中痛いし。ねえお姉ちゃん。 あたしも、猪に戻っていい?」 「だめよ。愛紀ちゃん。人の生活になれないと・・・」 「あーあ、人間てホント大変。」 「ピー、ピー」 (でも、僕、早く人間になりたいなぁ) そんな伊吹の声に悠里は、 「あーあ、町で出会いがないから、 山にいいオスがいないかな~と思ってたのに・・・ まさかこんな事になるなんて・・・・・はぁ」 悠里の小さな溜息と、ぼやきは。 元気な、イノシシ娘とウリ坊の声に かき消されてしまう。おわり
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