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獣化作品 No.15

豹変

作者 DarkStar

性質や主張などが極端に変わる事を『豹変』すると言う。
しかし、本当に『豹』に『変』じる者がいるとするならば、
彼らは、文字通りの意味で『豹変』するのだろうか。

・・・・・・・・・・・・・・・

ここは、有名私立の女子校。
都会の有力者のご令嬢達が集ういわゆるお嬢様学校だ。

そんな中で、ひときわ存在感を放つ一人の生徒。

「麗香さま。ごきげんよう。」

「麗香お姉さま。ごきげんよう。」

と周りの生徒達から声を掛けられる彼女の名は、綾小路麗香。

「ごきげんよう。みなさん。」

皆に笑顔を振り向き、気品と美しさを兼ね備えた彼女。

決して長身というわけではないが、
長い手足は、モデルのようにも見える。

染められていない自然な栗毛色の髪の色
櫛がスッと通るような流れる髪が風に揺られ、
その一本一本まで、煌いて見える。

大和撫子然とした優雅な立ち振る舞い。

しかし、そんな彼女にも、裏の顔がある。

・・・・・・・・・・・

「お嬢様、・・・・お疲れの所申し訳ございませんが・・・・」
学校帰りの麗香を迎えに来た黒塗りの車
その運転手を務める綾小路家の執事。

「わかっておりますわ。お仕事なのでしょう。じいや」

「はい。・・・・お嬢様、その・・・・
 こんな事は、なにも、お嬢様がなさらなくとも・・・」

「心配してくれるのね。じいや。ありがとう、でも、
 これは綾小路家のわたくしの使命ですから・・・・・」

「お嬢様・・・・・・。」

・・・・・・・・・・・

日も暮れ始めた頃。
人気のない山を歩く麗香

先ほどのブレザーの制服とは異なり、
ズボンに上は赤いTシャツ、上着にはデニムのジャケットという
動きやすいパンツルックに、身を包んだ麗香
長い髪を首の後ろで縛って止めている。

先ほどの制服姿は、おしとやかなお嬢様の感じであったが、
こちらは、より活動的な印象を与える。

また、このような体型のわかりやすい服装をすると、
スタイルがいいことも見て取れた。

そんな彼女が慎重な面持ちで

周囲に気を配り歩く。

突然、麗香の背後から、きらりと光る一閃する。
しかし、麗香はそれを予感していたのか、紙一重に余裕でかわす。

「あら、そんなに敵意剥き出しでしたら、匂いでわかりますわよ。」

麗香の振り向いた先には、異形の物

巨大な2本の鎌をもち
頭部は、亀の甲羅を模した物に目玉が付いている。
硬そうな鱗に覆われ体。2本の足で立つ姿は
遠めには、カマキリに見えない事もない。

ヒトならざる闇の住人、
『妖魔』と言われる彼らは、人を喰らい自らの糧とする。

妖魔を狩り、その魔の手から
人々を守るのが、
麗香の、いや綾小路家の使命だ。

「はあ!!」
気合の入った声と共に麗香の長い足から繰り出される鋭い蹴り

ガキン!!、
妖魔の左腕に当たるも、むなしい音を響かせるだけで
ダメージにはなってないようだ。

ブン!!ブン!!
この妖魔は、知能が低いのかただがむしゃらに
腕の鎌を振るうのみ。

鋭い一撃が走るも、麗香には、全てを避けきる。
とはいっても、

鎌が何度か、かすりズボンの端や、
ジャケットが無残に斬られ、ボロボロになっていく。

巨大な敵に対して、麗香の力は余りに非力である。
このまま、長期戦になれば、不利方はどちらか眼に見えている。

「・・・・やっぱり変身しないと駄目のようですわね。」
上着のジャケットを脱ぎ捨て、
妖魔の顔めがけて投げつける。

相手の視界が一瞬奪われた隙に

距離をとって飛びのく麗香。

着地し、そのまま両足を揃えて、
今度は垂直にジャンプする。

3メートルはあろうかと言う妖魔の体を飛び越えて、
大木の枝に綺麗に着地する麗香。
とても、人間のとは思えない身体能力

そうなぜなら、彼女自身もまた・・・・。


後ろを縛った紐を解き、
腰まで掛かる長い髪がさあっと
音を立てるように広がる。

「ふーーーーーーーっ。」
大きく息を吐き、眼を閉じる。

枝の上に手をつきながら、爪先立ちにの格好を取ると、
「ふー、ぐるるるるるるる」
と唸りながら、再び、眼を見開いた麗香の瞳は既に人のそれではなく、
肉食の獣のように瞳全体が、黄金色に輝いている。

美しく白い指に生えるピンク色の爪
それが鋭く尖りながら、伸びていく。

白いシューズを突き破ってる三本の爪
そのまま、千切れるように枝の上から地面に落ちていくシューズの残骸。

Tシャツにくっきり残る豊かな胸は、
筋肉の塊へと変貌すると、シャツを引き裂いて、
金色の体毛が飛び出してくる

首が太く、長い髪が、巻き込まれるように一体となり
頭の形が変わっていく。
美しい三角錐の鼻は、ピンク色した逆三角の突起物になる。

彼女の小さな口からはみ出る様に犬歯が伸びて牙となり、
顎が前に突き出す。

Tシャツが細切れに破れさり、
脱げたズボンからは、体長ほどの尻尾が生えていた。

全身を輝く金色の毛皮を纏った彼女の姿は、

一匹の豹。

彼女も、また異形の存在、
獣人と呼ばれる者。

彼女らの中には、人間に紛れて暮らす物。
自分の本性を知らず、人間と思い込んで生きる物。
人と距離を置いて、野生に生きる物・・・・。

その中でも、綾小路家は、
人との生活において財をなした者達の一つ。

人と共に生きる事を強く望んでいる彼女達は
人にあだ名す物を排斥する事を使命としている。

「ガオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
(さあ、いくよ!!!
 あんた!!!!、『あたし』を怒らせたら、
 どうなるか覚えときな!!!!)

さっきのお嬢様の姿は微塵もなく、心と体を獰猛な獣と化した麗香が襲い掛かる。

飛び掛る豹を叩き落とそうと、
鎌で斬りつけるが、麗香は、空中で身を翻しやり過ごす。

斬りつけた左の鎌の上に飛び乗りそのまま首筋に歯を当てると、
鱗の隙間に思いっきり噛み付く。

強靭な鱗で全身を覆っているといっても、
首や間接などの可動部分には、さすがに隙間がある。

「キシャアアアアアア!!!!」
大きな声をあげ、巨体が、ふらつく、
赤い血が、だらだらと流れるが、

「ガアアアアアア!!!!」
(おら、さっきはよくもいたぶってくれたな!!! この、鎌ヤロウ!!!!!)
と首から牙を抜き、血の垂れた傷口をさらに爪で切り裂き、広げる。

「キシャアアアア・・・・・・」
鎌を振り上げ、自分にのった豹を切り裂こうと攻撃するも、

 ブシュッ!!!!

「シャアアアア!!!!!!!」

自分の胸を切り裂いてしまう。

(へへん、ばーか、くたばれ!!!!、おらあああああ!!!)

裂かれた胸に飛びつき爪で傷を広げながら、
牙で内蔵を轢きづり出す。

プッチュッ、ブチュッ!!

どくどくいっている内蔵を、さらに
牙で食いちぎり喰らう。

巨大な獲物を前に豹は少し早い夕食を始める。

・・・・・・・・・・・

妖魔を始末したといってもそのままの姿では帰る事ができない
かといって、先ほどの服は、ほとんどボロボロの状態。

口の周りを血でべっとりとよごした豹は、
Tシャツの切れ端で口をぬぐうと、

まだ無事な服を持って、林の中へ駆け出す。

くん。くん、くん。
(この辺なら、大丈夫だな、近くに人間の気配もないし・・・。)

「グウウウ!!!」
鼻を鳴らして、安全を確認すると、表は、上を向きながら唸る。

豹の後頭部から、綺麗な髪が生え、
長い首が短くなっていく、
鋭い爪が消え、細く長い指になる。

並んだ腕が開き、肩が形成されると、
その間には、豊かに膨らんだ乳房が形作られる。

強靭な脚力を誇る足は、
獲物を追う肉食獣のそれから、
草原を掛ける草食獣のように美しい
人間の女性の足になり、

尻尾が尻の中へ埋もれていくと、
体を覆う斑点が薄くなっていった。

そして、全ての変化を終えた時
そこには、全裸の女が四つん這いになっていた。

ボロボロとはいえズボンが無事だったのでいいが、
上は、裸の上に直接ジャケットを着ているだけの状態。

靴もなく裸足で、
さすがにこのままでは、街中を歩いて帰る事は憚られる。

下着などもちろん付けられないので、
なんとなく落ち着かない

上着から、携帯を取り出し電話する。

「あ、小森さんですか、わたくしです。麗香です。その・・・・
 はい、お仕事の方は・・・終わって、
 ターゲットの後始末は・・・はい、お願いします。
 それと・・・・・」

話が終わると電話を切ると、

風向きが変わり、麗香の鼻が感じる
よく知った匂い・・・・・すると。

「へッ、こんな所でのんきに電話かよ、麗香お嬢様。」
と敵意むき出しの声が、麗香の隣にそびえる木の上から聞こえる。

「あら、誰かと思いましたら、瞬さんじゃありませんか。
 あなたこそ、レディーの着替えを覗くなんて、警察に突き出されても、
 文句言えませんわよ。」

お互いに知り合いのようだ。という事は恐らく彼も・・・。

「はん、なに言ってやがる。そんなぼろぼろの格好じゃあ、
 服着てる意味ねえじゃねえか。
 それならいっそ全裸の方がいいんじゃねーか!!」

「貴方こそ、わざわざ、木の上に登っているなんて、ひょっとして、
 裸なんじゃありませんの。」

木の上からは、彼自身の匂いは感じ取れるが、
布特有の匂いがないのでまず間違いないのだろう。

「あら、下りていらっしゃないなんて、ホントに裸ですの?
 そんな変態さんに、わたくしの服をどうこう言われたくありませんわ。
  ああ、瞬さんは、お家が貧乏で新しいお洋服が買えませんのね。
 でしたら、わたくし、恵んで差し上げてもよろしくてよ。」

「あ~、あ~、金持ちさんの、その上から物を言う言い方、気にいらねえな!!」

「あら、今、上から物を言っているのは、むしろ貴方の方でなくて?
 悔しかったら、下りて御覧なさいな。」

 「てめえいちいち、突っかかってきやがって、
 なんだぁ、俺に気でもあんのかよ。」

「ふっ、わたくしが?、貴方を?、全然面白くありませんわ。その冗談。
 それに、先に突っかかって来たのは、貴方のほうじゃありませんこと
 第一、貴方みたいな、弱々しいオスにはわたくし、興味がありませんの」

「なんだと、俺だって、お前みたいなメスなんか。相手にするか」

「レディーをお前、呼ばわりするオスなんて、たかが知れてますわ、
 黒豹のオスなんて、斑点がないから用心深くて、しつこくて、
 性格悪くて最低ですわ。」

黒豹は、普通の豹より、斑紋が薄いため、木々に隠れる
迷彩の能力が弱く、それを克服するため普通の
豹より用心深いといわれている。

「うるせー。てめえだって、あんなに無駄に毛がキンキラ光って
 迷彩意味ねーじゃねーか。だから性格悪いんじゃねーか?」

「なんですって。わたくしの美しい毛並みを馬鹿にすると許しませんわよ。」

体毛のある動物にとって、毛並みは美的基準のトップに立つ
これをけなされたら、さすがにメスは怒るだろう。

「やるか、このブス!!!それに、てめえで美しいとか言うな!!」

「本当に口だけは威勢のよろしい事。
 貴方なんて、わたくしの敵ではありませんわ。」

「ぐるるるるる!!!」

「がるるるるる!!!!」

両手を突き、歯を剥きだして
木の上と地面で、二人がうなり声を上げる。

麗香は口から鋭い牙を生やして唸りながら、
地面を蹴って、高く飛ぶ。
その最中に彼女のボロボロのズボンが下に落ちると、
なかから、黒い模様の入った尻尾が飛び出し、
黄金に輝く、太ももが姿を現す。

「ガルルルルルル!!!」

「ゴルルルルルル!!!」

太い木の枝に飛び乗った金色の豹は、
目の前の黒豹に向かって、吼える。

枝の上でにらみ合う。二匹の豹たち。

そして、雄の黒豹にむかって、豹がむかっていく。

そして・・・・・・・・・・・・・

「グゥゥゥゥ」
『ごめんね。「瞬ちゃん」、さっき弱いなんていちゃって・・・・』
雄に飛びつき、長い首を摺り寄せながら、
雌の豹が申し訳なさそうな顔をして一鳴きした。

「グロォォォ」
『気にしないで「麗ちゃん」、「僕」だって、麗ちゃんにあんなひどい事、
 ブスだなんてちっとも思ってないよ。』
と黒豹が雌の顔を舐める。

『ううん。あたしがいけないの。
 瞬ちゃんの毛並みつやつやしてて、とっても綺麗だと思ってるよ。
 それに性格だって悪いなんてちっとも思ってないよ。』
と今度は、雌豹が雄の顔を舐める

『僕だって、麗ちゃんの毛並み、とても素敵だとおもうよ。』
と黒豹は雌豹の背中を毛並みにそってやさしく頭で撫でた。

『瞬ちゃん。』

『麗ちゃん』

木の上でお互いの顔をすり寄せ合う。2頭の豹

『瞬ちゃん。だ~いすきだからね。』

『僕だって、麗ちゃんのこと大好きだよ。』

ひとしきり豹同士の抱擁を交わした後

『ねえ、瞬ちゃんも、この近くでお仕事だったの?』

黒豹は頷き
『そうだよ。ああ!!、麗ちゃん。気をつけないとだめだよ。
 周りを良く見て人にならないと人間達に見られたら大変だよ。』
と心配そうに雌豹に語りかける。

『うん、でもね、瞬ちゃん。あたし、・・・・・
 この周りがなんだかとっても安心する気がして、
 そしたら、瞬ちゃんが居て・・・・・』
うつむく雌豹

『そっか、・・・ならいいんだ。』
黒い毛並みなのでわかりにくいが
人間なら、赤面しているといった所だろうか・・・。

『あたしも、さっきから、気になってたんだけど・・・・』
 ああ!!!やっぱり。瞬ちゃん、前肢怪我してる。』

黒豹の人間で言う手の甲に当たる部分に
赤い線が走り、血が滴っている。

『こんなの平気だよかすり傷だよ』

と言う黒豹を無視して、
雌の豹は血の付いた肢を舐める。

『だ、だめだよ。麗ちゃん汚いよ。』

『瞬ちゃんのだもん、平気だよ。瞬ちゃん染みない?』

『ううん。麗ちゃんが優しく舐めてくれるから、とっても気持ちいいよ。』

『じゃあ、もっと舐めてあげるね。』

眼を細めた、雌豹がやさしく傷口を舐める

「ゴロゴロゴロ・・・・・」
黒豹も、目を細め喉を鳴らす。

じゃれあう姿に、肉食獣の面影はなく、
完全に家猫同士が遊んでいるようにしか見えない。

・・・・・・・・・・・

と、豹のカップルの語らいの時間は、
迎えの者達が着いても一向に終わる気配がない。

「あいつら、いつまでやってるつもりでしょうね。」
一人は、瞬の迎えに来た男。

もう一人は、麗香と先ほど電話で話していた
女性だ。服の入った紙袋に持って、
腕組をしながら、いつまでも、下りてこない
二人にご立腹のようだ。

「ほんと、あたし、着替え置いて帰ろうかしら・・・。
 あんた達!!!、何時までやってんのよ!!!
 早く下りてきなさい。」

『いや!!、瞬ちゃん!!、あたし、離れたくない!!』

『僕だって、君を離さないよ!!!』

いい加減にしろバカップル。
とはいえ、人の姿になったが最後、
また延々と、口げんか・・・もとい痴話ゲンカが始まるのだ。
本人達からすれば、人と豹の時とで、バランスが取れているのだろうが
それに振り回される周りはたまったものではない。

	
おわり
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