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【連載版】クール美女系先輩が家に泊まっていけとお泊まりを要求してきました…… 作者:識原 佳乃

新入社員歓迎会

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1 『ほへふへーふ』

~もぐもぐ語マスターへの道~

Q1.おにぎりの具は何か?

 総務課に配属となり、今日で3日目。

 そんな本日は金曜日で総務課内の新入社員歓迎会があるのだ。

 もちろんメインは俺。

 幹事は飴ちゃん大好きで癒し系の恵比寿(えびす)大福(だいふく)課長である。


「瀬能先輩おはようございます」


 ひっそりとしたオフィスに俺の声が響く。

 新入社員は早目に出社した方が良い、という暗黙のルールのもと毎回一番乗りするつもりでオフィスに来ているのだが、必ず瀬能(せのう)芹葉(せりは)先輩がいるのだ。

 この3日間で毎日10分ずつ早め、計30分早く出社したというのに……今日も今日とて瀬能先輩よりも早く来ることはできなかった。


 時刻は丁度7時。

 俺の隣席の瀬能先輩もさすがに出社したばかりだからなのか、いつものキリッとした空気ではなく、心なしか()だるげな雰囲気が漂っていた。


 ……アンニュイな雰囲気を纏う目の覚めるような美女。


 当たり前のことだが――最高に決まってる!


「……弓削(ゆげ)くんおはよ」


 ……えっ!? 瀬能先輩が「おはよう」とちゃんと言い切らなかった……だと!?

 もしかしてまだ朝早いから頭が起きてないのか?

 いや、身なりはシワひとつないスーツ姿でビシッと決まっているし……これは一体どういうことだ?


 俺の挨拶にこっちを見た瀬能先輩は確かに眠そうだった。

 言葉で表すのが難しいのだが、まず瞳がどことなくとろんとしている。

 おまけに小動物のような可愛らしい仕種で目をコシコシと両手で擦っていた。


 ――不意打ちである。

 ただ目を擦っているだけで可愛く見えるのは反則じゃないか? カッコイイ瀬能先輩はいずこに!?


「せ、瀬能先輩眠そうですね」


 既に2日間瀬能先輩について回っていたので、以前のような過度な緊張はしなくなったのだが、今日の様子はちょっと隙がある感じがして今までにない変な緊張感があった。油断していたら変な叫び声を上げかねない、そういった類の緊張感だ。


「…… (ふあぁっ)……ねむい」


 あ、あれぇぇぇ!?

 瀬能先輩が……なんて言うか。瀬能先輩らしくないぞ!?

 なんか別人のようにぽわ~んとしている気がする……。


 目を擦り終えた瀬能先輩はそのまま両手で口元を隠して、恐らくあくびをしていた。その証拠に目尻には雫が溜まっている。

 言うまでも無くその仕種もいつもの凛とした姿からは、到底想像も出来ないような愛らしいものだった。

 それに漏れ聞こえる微かな吐息がやけに色っぽくてドキリとしてしまった。


「…………」


 未だかつてない可愛らしい一面を見てしまい、声を上げることもできずにひとりでフリーズしていたら、瀬能先輩が鞄からガサゴソと何かを取り出した。


 見ればそれはお弁当包みだった。

 結びを解き、小さなお弁当箱を一度どかしてから丁寧に折りたたむ瀬能先輩。

 隣席で見ていて気になったのだが、お弁当包みが少し変わったデザインだった。

 淡い白藍色の生地にデカデカと毛筆で書かれた『呑兵衛殺し』の文字。


 ……『呑兵衛殺し』か。確かそんな名前の日本酒があったような気がするけど、なんで瀬能先輩がこんな硬派なやつを使ってるんだ?


 普段のクールな瀬能先輩なら案外似合っているように思うが、今の眠たそうな様子にはアンマッチだったので少し笑いそうになってしまった。


「朝ごはん、たべる」


 それから独り言のように呟いた瀬能先輩。

 その声音は眠気が濃く溶けていて、お弁当箱の蓋を開ける動作も緩慢なものだった。

 おしぼり代わりのウエットティッシュでゆったり丁寧に手を拭いて。

 小さなお弁当箱から取り出したのは、これまた小さなおにぎりだった。男なら間違いなく一口でいけるサイズ。


「いただきます」


 瀬能先輩は一口サイズのおにぎりを大事そうに両手でちょこんと持って、小さく開いた口でゆっくりと食べ始めた。


 もぐもぐ。


 もぐもぐもぐもぐ。


 もぐもぐもぐもぐもぐもぐ……。


 ボーっとしたままいつまでも飲み込まないで、もぐもぐしている瀬能先輩。

 その様はなんだかリスっぽく見えた。


 ……マジか……可愛過ぎかよ。


「ぐっ……具はなんですか?」


 それからたっぷり1分ほど経っても、もぐもぐするばかりで全然飲み込まなかったので、少し心配になって話し掛けた。

 そうすれば飲み込んでくれると考えてのことだったのだが……、


「……ほへふへーふ」


 口を閉じたまま瀬能先輩が何かを言っていた。……多分具について何か言っているんだろうけど、笑いを堪えるのが辛い!


「ほへふへーふ?」

「……ほ・へ・ふへーふ」

「ほ・へ・ふへーふ?」

「……ふんふん……ほ……へ!」未だにもぐもぐしながら顔を横に振る瀬能先輩

「……ほへ……あぁ~。美味しいですよね」


 全然分からないッ!?

 まったく分からないッ!?

 瀬能先輩が一生懸命「ほへふへーふ」と言っていることしか分からないッ!!


 自分から聞いておきながら理解することを諦めた俺はとりあえずわかったフリをしておいた。……でないと永遠に「ほへ?」「ほへ!」といったやりとりが続きそうだったからだ。


 結局瀬能先輩が食べているおにぎりの具が何か判明することなく、早朝のもぐもぐタイムは終了したのだった。

~レビューのお礼~

マー様ぁぁぁぁぁ!

記念すべき1件目のレビューありがとうございまぁぁぁぁす!!(五体投地)

しかもご丁寧に私の別作品もアピールして下さるなんて!!

ぜひチキン南蛮奢らせて下さい!


「ふーへへ! へふぅーはひは ()ほーっ!」(もぐもぐしながらマー様に一生懸命お礼を伝えようとしている瀬能先輩の図)

「マー様! レビューありがとーっ! と言っているみたいです」(もぐもぐ語をマスターした弓削くんによる解説)

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