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【連載版】クール美女系先輩が家に泊まっていけとお泊まりを要求してきました…… 作者:識原 佳乃

ファーストコンタクト

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5 『今日のお昼チキン南蛮のチキンマニア!』

 辞令交付式を終え、各々の配属先が判明した。

 最終的に俺達の配属先はどうなったかと言うと……、


「皆本社でおめでと~! かんぱーい!」


 ということである。

 ちなみに本日のスケジュールをすべて終えた俺達は4人で居酒屋に飲みに来ていた。このメンバーで来たのは今回が初めてなので結構楽しみだったりする。

 明日からは皆配属先の部署で実務研修が始まるので、ひとつの区切りとしてだ。


 工藤の乾杯の合図に合わせて皆で「乾杯!」とジョッキとグラスをぶつけあう。

 俺は生中で工藤はレモンサワー。

 そして女子ふたりは意外なチョイスだった。

 ドS穂村はまさかの可愛らしいカルーアミルクをチョイス。

 次いで舞野がこれまたまさかの国産ウィスキー10年物をロックでダブルという渋過ぎるチョイスだった。

 勝手なイメージではドS穂村がウィスキーで舞野が女子らしいカルーアミルクという想像をしていた。


 ……やばいな俺の中で舞野実はカッコイイ指数がうなぎのぼりである。

 穂村もドSだが実は女の子らしくて可愛いと思う指数が右肩上がりだ。


「俺と旭陽が営業部第1課と第2課で穂村ちゃんが総務部人事課、そんで弓削が総務部総務課か~」

「お前らふたりは適材適所って感じだな」


 (ダブル)あさひのコミュニケーションはどう考えても営業向けだった。

 恐らくこのふたりなら大活躍しそうな予感がする。


「確かにやかましい……じゃなくて、うるさいふたりには向いてるかもね」


 穂村も同意見なのか、カルーアミルクをちびりと飲んでからひとり頷いていた。……おい、結局ただの罵倒になってんぞ。


「またまた~! 私は咲良のことが心配で心配で仕方ないよ! 夜も気になってグッスリ8時間くらいしか眠れないかも~」

「俺も心配かも! 穂村ちゃんが人事課ってことは今後俺らみたいな新入社員の面接とか研修も担当するわけじゃん? これから入ってくる新入社員全員がドMしか採用されなさそうで今から不安だわ」

「別にドMじゃなくても問題ないでしょ。どうせ私が調教するんだから」


 ……俺は察した。

 穂村の見た目に騙された人事課への配属ミスを。


 こいつが言うと割と本気に聞こえるのが怖い。

 想像したくもない。まだ見ぬ後輩が全員ドM(調教済み)の光景なんて……。会社潰す気かよ。


「後輩が皆穂村の手下とか怖いからやめてくれ」

「手下じゃなくて召使い(サーヴァント)


 お前は一体何になりたいんだよ?

 あれか、その両手で大事そうに持っている聖杯(カルーアミルク)(ただのグラス)を争う戦争でも起こしたいのか?


 ふざけた妄想をしつつ生中を飲み干したので、周りを見やる。


 穂村(マスター)は8割以上残っていて、工藤も同じく半分ほど残っていた。

 ……ビビったのが一番度数の強いウィスキーの、それも量の多いダブルを飲んでいた舞野のグラスが空になっていたことだった。

 それでいて舞野は顔色が一つ変えずに「サーヴァントとかウケるんだけど~! ……ところでサーヴァントってなに~?」とひとりでマイペースに笑っていた。


 化け物かこいつ。


「俺次頼むけど舞野は?」

「う~ん何しよっかな~? 弓削くんメニュー見せて!」

「はいよ」

「弓削も旭陽もペース速いな~。潰れたら置いてくぞ?」


 工藤が笑いながらお通しをつまみ、穂村は相変わらずカルーアミルクのグラスを両手で持って少しずつ飲んでいたと思ったら……、


「なんで私には次って聞いてくれないのよ??」


 急にプンスコと怒り出した。

 よく見ると顔がほんのりと赤くなっている。


 ……間違いない。気持ち程度のカルーアミルクで穂村は酔ったみたいだ。ドSなのに意外と可愛いところがある。


「まだ入ってるだろ」

「こんなのすぐに飲んじゃうんだから! 見てなさい!」

「はいはいやめとけやめとけ」

「でたぁ~! 酔っぱらい咲良!! ムービー撮っとこ~っと!」

「穂村ちゃんヤバない!? 可愛さ爆発してるじゃん!」


 グラスを持って一気飲みをしようとする穂村を向かい席の俺が押さえているというのに、Wあさひときたらこの状況を楽しもうとする始末。

 これあれか。俺は今日酔っぱらったらマズイパターンか。


「カルーアの代わりにこれでも飲んどけ」


 グラスになみなみ入ったお冷を渡して反応を見る。


「何これ? 私今日はお酒しか飲まないって決めてるの!」

「日本酒だよ」


 適当なことを言いながら飲むように勧めてみる。……氷が入っているのでどう考えてもバレる気しかしないが。

 グラスを受け取った穂村は鼻を近づけてクンクンと匂いを嗅いでいる。


 これはさすがにバレたか?


「全然匂いしないのはどうして?」

「高い日本酒ほどクセが無くて飲みやすいからな。匂いもほとんどなくて水みたいに感じるかもしれないが、高い日本酒だから仕方ないんだよ。あと高い日本酒は量が飲めないから氷でかさ増しするんだよ」

「そうなんだ……日本酒初めて飲むから! 今から全部飲んじゃうんだから! 高いの全部日本酒だから!」


 俺の「高い日本酒」というサブリミナルメッセージが効果を上げたのか、それともただ単に酔っぱらっているだけなのか、穂村は訳の分からないことを言いながらお冷を一気に飲み干した。


 そして……、


「……ヒック。高い日本酒美味しい! 本当にお水みたい。……ヒック。冷たくて美味しかったから私も次同じのック……頼むから!」


 しゃっくりを何度も繰り返しながら虚ろな瞳でグラスを掲げる穂村。


「ウケる~! 咲良超可愛い♪」

「これ後でムービー見せたらキレられるやつじゃん……弓削が!」


 酒が少なからず入っているからかWあさひはたがが外れたように爆笑していた。


 このアホども暢気(のんき)に笑いやがって。


 それから2杯目の注文を終えたところで、酔っぱらっている穂村がだらけた表情のまま俺に話し掛けてきた。


「今日のお昼チキン南蛮のチキンマニア!」


 顔がゆるんゆるんになっている割に語調は強い。……酔っぱらいの典型だった。


「チキンマニアですが何か?」

「チキン南蛮は美味しかったのかー? 美味しくなかったのかー? どっちなのかー!!」

「美味しかっ――」

「――うる()ーっ! そんなことはどうだっていいんだから!」


 ひ、ひどすぎる!

 理不尽過ぎるドS穂村!


 聞かれたので答えようとしたら言葉を遮られた挙句「どうだっていいんだから!」と何故か怒られた。

 対面に座る穂村は日本酒(お冷)が入ったグラスを片手に「瀬能先輩と一緒に食べるチキン南蛮は美味しかったか聞いてるんだよ!」と更にくだを巻いている。


 やっぱりこいつも見てたのか。


「最高に決まってるだろ!」

「ばかー! チキン南蛮に謝れー! 私にも謝れーっ!」


 本日2度目の唐突な理不尽が俺を襲った。


 ……むしろ俺に謝れー! 迷惑かけてごめんなさいって謝れーっ!


 まだ飲み始めて1時間も経っていないというのに、もうめちゃくちゃな場の荒れようだった。


 穂村は「高い日本酒は美味しい!」とか言いながら日本酒(お冷)をゴクゴクと飲み干し。

 Wあさひは相変わらず腹を抱えて涙を流しながら大爆笑している。


 カオス過ぎるだろ同期の飲み会。

 いや、これもう飲み会じゃなくて酔っぱらった穂村を全員で微笑ましく見守る会になってるだろ。


「すみませんでしたー! 私が悪うございましたーっ!」


 ひとまず訳も分からないまま謝罪を口に。

 関係ない爆笑コンビのふたりもなぜか「「すみませんでしたー!」」と面白がって謝っていた。


 お前らが謝るんなら今のこのポジションを俺と代われ! 俺だって酒飲みながら暢気に爆笑したいんだよ!


「許す! 眠い! おやすみなさい!」


 ――そしてその言葉を発した後、穂村は横になり舞野の膝を枕にして急に眠りについたのだった。……マジでカオス過ぎるだろ。

 瀬能先輩よりも先に活躍する穂村ちゃん……!

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