市役所に33万枚も集まった「善意の雨合羽」は、その仕分け作業のために連日数十人の職員が駆り出された。どうにか仕分けが済んでも提供先がなかなか見つからず、保管場所もない。仕方なく玄関ホールや各階の通路に大量の箱を積んでいたら、市の火災予防条例に違反していると市民から指摘された。雨合羽のような合成樹脂製品は一カ所で大量保管する場合、市消防局への届け出を義務づけられているが、それを怠っていたのである。
その後、別の場所に移され、学校や福祉施設にも、ほとんど押し付け同然で配られたというが、当初の目的通り、医療機関へ送られたのは半分以下。現場軽視のパフォーマンスが招いた喜劇のような混乱ぶりだった。
うがい薬の発表も似たような経緯がある。8月4日の吉村・松井両氏の共同会見はそもそも、大阪・ミナミの飲食店に同6日から20日まで営業自粛や時間短縮を要請するのに伴い、府と市で協力金(休業補償)を支払うと発表する目的で設定された。実際、前半の約1時間はその話をしている。
ところが会見には、当日に急遽追加された第2部があった。「大阪はびきの医療センター」の松山晃文・次世代創薬創生センター長らが加わり、机上に市販のうがい薬を並べた会見は、ほぼすべての府職員にとって寝耳に水だった。
「予定外の会見に驚きましたが、内容を聞いて、さらに驚いた。勇み足なうえ、コロナ対策の本質を外れている。吉村バブルもこれで終わりだと、正直思いましたね」と府庁関係者は言う。
在阪メディアの記者たちにも聞いたところ、あの発表は「起死回生の一手」だったようだ。というのも、吉村知事の人気とは裏腹に、大阪で感染拡大が続いていることに加え、恣意的に「夜の街」のエリアを設定して狙い撃ちするような自粛や時短の要請にミナミの飲食店経営者たちが猛反発し、「これでは大阪都構想にも反対せざるを得ない」という声が上がっているというのだ。