モモンガ冒険譚!!   作:ブンブーン

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誤字報告・高評価・お気に入り登録・感想…本当にありがとうございます。

今更ですがオリジナルモンスターが出ます。

そんなの嫌だ!
と思う方は回れ右で。


第9話 モモンガの仲間

ーーーーーー

モモンガとリュラリュースは森の賢王の住処である洞窟の入り口まで来ていた。

 

 

「なぁ、リュラリュース。森の賢王とはどんなヤツなんだ?」

 

「ふむ。ワシ自身、片手で数える程度しか会ってはおらぬが…上質な白銀の毛皮、長く頑丈な尻尾に叡智に溢れた力強い瞳。あれは正しく大魔獣……純粋な強さならグと同じくらいじゃろう。」

 

 

話だけを聞けばかなりカッコいい奴のようだ。しかもリュラリュースが『叡智に溢れた』と言うあたり知能も高いと見える。強さもグと同じくらいなら30強レベルと言った所だろうか。

 

 

「話は通じそうか?」

 

「それなりに好戦的ではあるが話しはちゃんと通じるヤツじゃな。」

 

「なるほど。なら、戦う心配は無さそうかな。」

 

 

リュラリュースが少し前へ出ると大きな声で森の賢王を呼び始めた。

 

 

「お〜〜い、南の大魔獣よ!!ワシじゃあ、西の魔蛇のリュラリュースじゃあ!!少し話があるでな!姿を見せてはくれなまいか!!」

 

 

すると、洞窟の奥から何かが恐る恐る現れたのが見えた。それなりに大きな体格で、グより一回り小さいくらいだ。

 

 

「ま、魔蛇殿でござるか?」

 

「おぉ、大魔獣よ。久方ぶりじゃな。」

 

 

洞窟が出てきた森の賢王の正体が明るみになる。

 

 

「なッ!?こ、コイツは……!!」

 

 

その正体を見たモモンガは驚愕した。

何故ならその正体はーー

 

 

「ジャンガリアンハムスターじゃ無いか!!!」

 

 

ーーデカいハムスターだった。

因み『ジャンガリアンハムスター』とは、ヒメキヌゲネズミ属のネズミの一種で和名はヒメキヌゲネズミと言う。

 

体格と蛇に似た尻尾を除けば、見れば見るほど愛くるしい。しかし、そう見えるほど『森の賢王』という看板は偽り有りまくりと思えた。

 

叡智に溢れた瞳?…黒いつぶらな瞳(可愛い)

 

白銀の毛皮?…というよりスノーホワイト(モフモフしたい…あれ?固い?)よく見ると腹部に8つほど紋様のようなモノがある。

 

そして、大福の如き丸っとした体型は間違いなくハムスターそのもの。

 

 

「ひぅッ!!な、な、何でアンデッドが此処に居るのでこざるか!?魔蛇殿!?」

 

 

その『ござる』口調は何なのだろうか?キャラ作りかそれとも素か…あまり気にしても仕方がないとモモンガは考えない事にした。

 

 

「初めまして、大魔獣さん。私はモモンガ。今は森の東側に住まいを構えている者だ。支配者と言うわけではないが…まぁ宜しく頼む。」

 

 

モモンガが差し出した右手に酷く怯えながらリュラリュースの背後へと隠れた。カタカタと震えるその体は全く隠し切れていないのだが、この見た目では仕方ない。少しずつ信頼関係を築く方針で決めた。

 

 

「安心せよ、大魔獣よ。この御仁はお前が思っているほど危険な者ではない。まぁ、ワシら2人が協力しても決して敵わぬ圧倒的強者ではあるがな。」

 

「ほ、本当でござるか?」

 

「あぁ、嘘は言わぬ。」

 

 

リュラリュースの言葉を信じ、彼の背後から恐る恐る出てきたハムスターがノッシノッシとゆっくりした歩調でモモンガに近づく。

 

 

「さ、先程は失礼いたした。某、南の大魔獣兼森の賢王でござる。宜しくお願いするでござるよ、モモンガ殿。」

 

 

丁寧に頭を下げるハムスターに思わずキュンとしてしまう。

 

 

「こちらこそよろしく頼む。あと、俺のことは砕けた口調で構わない。気軽にー」

 

「モモンガ殿。大魔獣は誰に対してもこの口調なのだ。」

 

「む?そうなのか………って『彼女』?」

 

「うむ、彼女じゃ。」

 

「え?まさか…大魔獣は『雌』なのか?」

 

「そうじゃ。む?まさか気付かなかったのか?」

 

「あ、あぁ。何と…まさか雌のジャンガリアンハムスターだったとはな。」

 

 

モモンガが驚いていると、ハムスターが黒いつぶらな瞳をキラキラさせながら近づいて来た。

 

 

「モモンガ殿と申したでござるな?まさか拙者の種族名を知っているのでござるか!?もし知っているのであれば、拙者に紹介して欲しいでござる!」

 

「ん?どういうことだ?」

 

「せ、拙者は次の世代へ子を残す使命があるゆえに、番が必要なのでござるが……残念なことに未だに同族と出会えた事は一度もないのでござる。」

 

 

ションボリと身のうちの話すハムスターにモモンガはしんみりした。仲間に逢えず一人ぼっち…これは目的は別として、かつての鈴木悟に似ている。

 

本来の目的以外でも何となくだが彼女をほっとけない気持ちが芽生えて来た。

 

 

「そうなのか。実は俺が知ってるのはハムスターと言うモノで、見た目こそお前にそっくりだがハムスターにはそんか長くて立派な尾は持たないし何より大きさは私の掌の1/3程度とかなり小さい。」

 

「なんと!うぅ、それでは番は無理でござるな。……残念でござる。」

 

 

益々ションボリしてしまうハムスターにモモンガはポンポンと彼女の体を軽く叩いて慰める。

 

 

「まぁそう落ち込むな。世界は広いんだ、探せば見つかるかもしれないだろう?お前はこの森以外を見て周った事はあるのか?」

 

「いや…な、ないでござる。」

 

「だったら尚更だ。世界を見て周ってもいないのにいないと決め付けるのは早計過ぎる。お前さえ良ければ俺も協力するぞ。」

 

「ほ、本当でござるか!?」

 

「あぁ、本当だ。」

 

 

ハムスターは大はしゃぎで喜んだ。何度も何度もモモンガの周りをグルグルと走っている。

 

 

「ま、待て大魔獣よ。必ずいるとは限らん。モモンガ殿が協力してくれたうえでも見つからなかった場合、決して彼を恨んではならんぞ。」

 

「問題無いでござるよ、魔蛇殿!拙者、協力してくれるだけでも十分嬉しいでござる!」

 

 

これで彼との信頼関係構築の土台は出来上がったと満足するモモンガだが、彼女の同族探し(番相手)をする気持ちは本心だ。一人ぼっちの辛さと寂しさは誰よりも理解している。出来る限りの事はするつもりだ。

 

 

「さて!ではそろそろここへ来た本来の目的に移りたいのだが、えーっと…名前はあるのか?」

 

 

モモンガが首を傾げながらハムスターに問い掛けると、ハムスターも首を傾げた。

 

 

「名前ぇ…でござるか?拙者には名前はないでござるよ。」

 

「なに?」

 

 

リュラリュースやグにも名前はあるのにコイツは無い。何だかさらに可哀想に思えてしまうが、本人はあまり必要性を感じないようだ。

 

 

「名前はあった方がいい。俺たちはこの森の治安と平穏を護る仲間なんだ。」

 

「おぉ〜!『仲間』でござるか!なんだが同族にも負けぬ響きでござるなぁ〜。」

 

 

ハムスターが謎の感動をしているがそれは敢えて無視し、どんな名が良いか本人に聞いてみるが「お二方に任せたいでござる!」と言われしまった。なのでリュラリュースにどんな名が良いか聴いてみた。一瞬、脳裏にグがプラカードに『ゲ』の文字を掲げてきたが無視する。

 

リュラリュースは腕を組みながら真剣に考え込んでいる。

 

 

「むぅ〜、そうですな……『オオロンビア・レドテール・コア・ロンストリクター』と言うのはどうじゃ?」

 

「「長い(でござる〜)…」」

 

「そうか?これでもかなり短くした方ー」

 

「いやいや、若干お前の名前より短いぞ。」

 

 

それからも幾つか候補は出るがあまりにも長すぎる為、全て却下となった。リュラリュースは「もうお手上げじゃ」と両手を上げて、後はモモンガに託した。

 

 

(俺か〜…あんまり自信ないんだよなぁ。俺のネーミングセンスの無さはかつての仲間たちから暖かい目で見守られるレベルだったし……うーん。)

 

 

先ずはハムスター全体を見る。

全体的に丸っこい…まるで大福餅そのもの。

 

 

(ここはシンプルに『ダイフク』?…いや、『シロポン』?…『シラタマ』?……むぅ。)

 

 

なんかパッとしない。

そこで一度基礎から見ることにした。

 

相手は…ハムスターだ。

 

 

「……『ハムスケ』?」

 

 

何となく口に出た名前候補…それがハムスターの耳に入った。

 

 

「オォォォ!!!『ハムスケ』でござるか!いい名前でござる!!」 

 

「へ?い、いやー」

 

「うむ。意味は分からぬが覚え易い名前ではあるな。」

 

「いやだから違ー」

 

「拙者は今この時より『ハムスケ』と名乗るでござる!!」

 

 

なんか本人が偉く気に入っている様なので、モモンガ的には少し不安だが『ハムスケ』にすることにした。

 

 

(『ビッグハムハム』や『ハムスター・オブ・カイザー』、『エクストリーム・ハムー』って言う自信満々な名前もあったけど…ま、いっか。)

 

 

モモンガは新たに『ハムスケ』が仲間になった。

その後、ハムスケに南側へ流れきている東側から来たモンスター達を追い返したり、元々南に居た者達を守って欲しい事を伝え、了承を得た。

 

しかし、何とモモンガは別にここの支配者で居たつまりはなかったと言う。これにはリュラリュースも驚いた。てっきりそのつもりで居たものだとばかり思っていたからだ。

 

春になれば沢山の木の実などが近くに成るという事で近くの洞窟を住処としていたらしい。

それも100年以上も前から。

 

彼女に支配者としての矜持や責任感は無かった、そもそも認識すらしてない。ただずっと昔からテリトリーを守っていただけで、カルネ村は運良くその恩恵を得ていたと言うわけみたいだ。

 

 

(やっぱりリュラリュースだけか…まともな管理者は。)

 

「そういえばハムスケよ、ここへ来た時のお主はだいぶ怯えた様子だったが…何かあったのか?」

 

 

ハムスケは思い出した様にガタガタと体を震わせた。

 

 

「そ、そうでござった…実は最近、変なのが近くを彷徨いているのでござるよぉ〜。」

 

「「変なの?」」

 

「そうでござる…其奴の姿は見ていないのでござるが、気配からして拙者より強いヤツでござる。だから怖くてずっと住処の奥で震えていたでござる。」

 

 

なるほど。

その変なヤツのせいで南側に入って来たモンスターをハムスケは怯えて撃退出来なかったのか。

 

 

「そいつの気配はどこからしたのじゃ?」

 

「そ、そうでござる!」

 

「い、いやだから、何処からしたのじゃ?」

 

「そうでござるよ!!『下』でござる!」

 

「「下??」」

 

 

モモンガとリュラリュースは地面へ目を向ける。

 

 

「まさか…地中か?」

 

 

モモンガの言葉にハムスケは頷いた。

 

その瞬間、モモンガの頭に《伝言(メッセージ)》が入って来た。エルダーリッチからだ。

 

 

「どうした?」

 

『度々申し訳ござイマせん、モモンガ様。何者かガ拠点外縁部ヲをウロついてオリマス。かなりの巨体デす。』

 

「……分かった。直ぐに向かう。下手に手を出すな、監視に留めろ。外縁の守護者(・・・・・・)はどうしている?」

 

『外縁の守護者様は完全不可知化(パーフェクト・アンノウアブル)ヲ解除し、不可視化のミにで警戒に当たってオリます。』

 

「それで良い。」

 

 

一度《伝言》を切り、その内容を2人にも伝える。

 

 

「ハムスケ。その変なヤツの気配を今日は感じたか?」

 

「き、今日はまだ感じてないでござる。」

 

「そうか……」

 

「モモンガ殿、どうするつもりじゃ?」

 

 

まだ何の確信もないが、ハムスケの言う変なヤツが自身の拠点に現れた可能性がある。モモンガは大至急戻らねばならないが、そいつの強さが不明な現時点で2人を連れて行くのは少し危険だ。

 

 

「…一度、拠点へ戻る。お前達は自分たちの住処へ戻ー」

 

「いや、待たれよモモンガ殿。」

 

 

リュラリュースがモモンガの言葉に待ったをかけた。

 

 

「お主が並々ならぬ強者である事は百も承知じゃ。じゃが、其奴の強さが分からぬのにお主1人で挑もうなど無謀にも等しいぞ。この大森林を安寧を脅かす存在はお主のみならずワシらにとっても無視できぬ存在……それも少なくともワシ以上の実力を持つハムスケですから恐れ慄くなら尚更じゃ。微力ながら力を貸すぞ。」

 

「せ、拙者もいつまでも逃げ果せるワケにはまいらぬ!仲間のピンチを助けるのは同じ仲間として当然のことでござる!!(…で、でもちょっと怖いでござるぅ)」

 

 

強制精神抑制が起きる程の感動がモモンガの全身を駆け巡った。まだ出会って間も無いと言うのにここまで想ってくれる事がとにかく嬉しかった。そんな感動も直ぐに霧散してしまうのが腹立たしいが、消えても消えても込み上げてくるこの感動は、人化の指輪を着けていたら間違い無く涙を流していた。

 

 

「ありがとう…!」

 

 

モモンガは《転移門》を開き急いで拠点へと戻った。

 

 

ーーーーーー

拠点へ戻るや否や直ぐに家のドアを開けて外へ出る。僅かだ地響きを引っ切りなしに感じると、拠点の防護柵の更に奥…拠点から約3㎞程から土煙が舞い上がっているのが確認出来た。

 

土煙は横へ横へと移動して行き、獣やモンスターの悲鳴がここまで聞こえて来る。

 

 

「ひぃぃぃ…!あ、あの気配でござるぅぅ!」

 

 

モモンガは身を縮こませてガタガタと震え始めた。どうやらモモンガの読みは当たったらしい。

 

 

「た、確かに…なかなかの強さを感じる!」

 

 

どうやらリュラリュースもアレの強さを感じ取ったらしい。残念だがモモンガにはそれが分からない。ただあの土煙の量から見るに、報告通り巨体だと分かる。

 

実はさっきコッソリとハムスケのレベルを鑑定していた。ハムスケのレベルはグと同じ38。そんなハムスケが「敵わない」と怯えるとなればー

 

 

(少なくともレベル差は5〜10以上。下手したら相手は91以上あるかも知れん。)

 

 

そうなると流石のモモンガも本気で戦わねば無事では済まない。装備も一度見直して、再度整える必要はある。だがそんな暇は恐らくないだろう。そこまでの実力者ならば外縁の守護者では歯が立たない。自分1人だけで逃げるのであれば問題ないが、今はリュラリュースやハムスケもいる。彼らも連れて逃げるとなると少し難しい…最悪、自分でも満足に逃げれないかもしれない。

 

 

(フンッ…それがどうした?2人は身の危険を顧みず付いて来てくれたんだ。なら俺もそのくらいの覚悟を持つべきだ。)

 

 

最悪の中の最悪のパターンが起きたとしても2人だけは安全な場所まで逃げ切れるまでの時間は稼がねばならない。

 

モモンガは自身の心窩部の奥にある真紅の球体を撫でた。

 

 

(俺の切り札…世界級(ワールド)アイテム『モモンガ玉』。レベル5ダウンは惜しいが…仲間のピンチには代えられないな、うん。)

 

 

モモンガは覚悟を決めた。

早速、敵のレベル看破の魔法を発動させる。

 

そして、赤く光る眼光はまるで見開く様に輝きを増した。

 

 

ーーーーーー

リュラリュースはとんでもないヤツを見てしまったと思った。あんな化け物がこの森の中に居るとは夢にも思わなかった。恐らく自分やハムスケ、グが力を合わせたとしても敵わぬ強敵。

 

 

「姿は此処からでは見えぬが…何と恐ろしい。」

 

 

アレは紛れもなく強者だ。

対処出来るのは恐らくモモンガくらいだろうが、それでも難しいかも知れない。

 

 

(そう言えば…モモンガ殿はさっきから佇んで何を?)

 

 

肝心のモモンガを見るとアレがいる方向を見つめ続けている。声を掛けようとした瞬間、彼の目が異様に光を増した気がした。そして、此方へ振り返る。

 

 

「アレは俺一人で対処する…お前達では危険過ぎるだろう。家の中に避難していてくれ。」

 

「なッ!?」

 

 

この御仁は何と言った?

1人で対処すると言ったのか?

これには流石のリュラリュースも黙ってはいられない。

 

 

「待ちなされ、モモンガ殿!あまりにも危険じゃ!アレほどの強者をだった1人でなど…それがどれだけ無謀か分からぬお主ではなかろう!!」

 

「そ、そうでござるよ!!拙者も戦うでござる!」

 

 

思わず声を荒げてしまう。隣で縮こまって震えるしかなかったハムスケも震える体ながら勇気を出して立ち上がる。

 

だが、モモンガの意思は変わらなかった。

 

 

「…オレはお前達に出会えて幸せ者だ。」

 

「は?」

 

「俺の事は心配するな……この森の安寧を望む者として、アレと戦うのは当然のこと。安心してくれ…必ず生きて帰るさ。あ、俺アンデッドだから生きてって言うのはちょっとおかしいか…なら、無事に戻って来るさ。」

 

 

こんな時にまでそんな冗談言う場合ではあるまい。恐らく自分たちを心配させまいという彼なりの配慮なのだろう。

 

すると彼は恐ろしいアンデッドの姿から突然、漆黒の鎧を纏う人間の姿へと変わる。これには自分もハムスケも驚愕を隠せなかった。アレがとても幻術とは思えない、多分『本物』なのだ。

 

 

(あんな事まで出来るのか…モモンガ殿は!?)

 

 

死者と生者、両方の姿を持つ御仁。

生と死を操る存在。

 

そんな事が出来るものがこの世に存在するのだろうか?否、かの竜王でもそれは不可能だろう。

 

 

(ど、どちらが本物のモモンガ殿なのだ?)

 

 

まさか『神』そのもの?

 

 

(フッ…何と浅はかな。)

 

 

我らながら随分下らない疑問を抱いたものだ。

こんな悩みなど関係無い。

 

どちらもモモンガなのだから。

 

 

「じゃあ、行ってくる!!」

 

 

モモンガは2本のグレートソードを備えた背中から2本とも抜き取る。大地を蹴り、たった一跳躍で防護柵を飛び越える程まで跳んで行った。

 

もう彼の姿は見えない。

 

 

「り、リュラリュース殿…モモンガ殿は何者でござろうか?アンデッドなのでござるか?それとも人間でござるか?」

 

「ふッ…お主も間の抜けた事を聞くのぅ、ハムスケ殿。」

 

「ど、どういうことでござるか?」

 

 

『お主も』と言う言葉に自虐的意味も込められている。そして、ハムスケの疑問を素直に答えた。

 

 

「あの御仁は…『モモンガ』殿じゃ。それ以外の何者でもない。」

 

「ッ!?そ、そうでござったな!!我ながら不躾な事を聞いてしまったでござる…かたじけない。」

 

「いや、さっきワシも一瞬だけそう思った。だからお互い様じゃ。」

 

 

では我々は何をすれば良いのか。

このままモモンガの言われた通り家の中へ避難するか。いや、それは違う。

 

 

「モモンガ殿はああ言ったが…ワシらも森に住う者としての責務を果たすかのぅ、ハムスケ殿。」

 

「望むところでござるよ、リュラリュース殿!」

 

 

リュラリュースは覚悟を決めた。ハムスケの震えも止まっている。彼女も覚悟を決めたのだろう。その力強い目には一切迷いが無い。

 

 

「では行くぞ、ハムスケ殿!」

 

「おう!でござる!!」

 

 

2人がモモンガを加勢しようとした瞬間ー

 

 

ドゴォォォォォォォォォーーーッ!!!

 

 

凄まじい轟音と衝撃が鳴り響き、巨大な土煙が2人の目の前で巻き起こった。

 

 

ーーーーーー

モモンガは人化の指輪を嵌め、漆黒の全身鎧を見に纏った。そして、防護柵を跳び越えて地面へ軽々と着地すると大きく一呼吸置いた。

 

 

「ふゥゥゥゥー!……いや〜それにても。」

 

 

モモンガはあの時看破した敵のレベルを思い出し、心の叫びを少しだけ吐露する。

 

 

「良かった〜〜〜雑魚で。」

 

 

モモンガが看破した時に見破った敵のレベルはなんとたったの43レベル。モモンガのようなカンストレベルのプレイヤーから見れば雑魚中の雑魚でしかない。だが、ハムスケやリュラリュースの様なものから見れば十分強者と言えるのだろう。だから、此処へ彼らを敢えて呼ばずに自分1人だけでケリを着けようとしていた。

 

 

(それに…多少の戦士職の経験値も積まないといけないし。)

 

 

モモンガは2本のグレートソードを取って土煙を巻き上げてる張本人の元へ歩み寄る。

 

 

(全然拠点に近づいてこないから、オカシイと思ったよ。もし俺に匹敵するヤツならレベル70程度の外縁の守護者臆する筈がないし。)

 

 

モモンガは心の中でその守護者を呼ぶ。

 

 

「『邪悪なる悪霊達(レムレース)』…姿を見せよ。」

 

 

モモンガの呼び掛けに従い、彼の目の前に漆黒の瘴気が渦巻く様に現れた。瘴気の中心部から複数体の苦悶と悲壮に満ちた人間の顔らしき(・・・)ものが見える。

 

レムレースとはヘルヘイムの『冥府の墓所』と呼ばる超難関ダンジョンに生息していた上位レベルのアストラル系モンスターの一種だ。まず非実体である為、通常物理攻撃は効かず、特殊な武器か魔法による攻撃しか通用しない。この程度は他のアストラル系モンスターにも見られる基本能力だが、このモンスターの厄介な所は『群体型』という性質である。

 

第7位階以上の死霊系や魔力系、精神系魔法を使い、イヤらしい妨害スキルも多用してくる非常に厄介なモンスターだ。またレムレースは最低でも10体で現れる為、其々がそういった魔法やスキルを使ってくるのも厄介だ。加えて彼らを2体以下まで減らすと『怨霊増殖』という固有スキルを使用し、数を戦闘前の状態に戻してくる。オマケに貰える経験値もレベルの割りにかなり少ない。

 

ハッキリ言ってストレスが溜まる。

 

またレムレースにはモモンガと同じ『絶望のオーラⅠ〜Ⅱ』に相当する瘴気を発生させるなど、嫌がらせのオンパレードである。

 

 

「悪いな、何体か(・・・)呼び出してしまって。アレの足止めご苦労だった。」

 

 

レムレースはその無数の顔こそ苦悶に満ちているがこれは設定上仕方の無い事であり、偉大なる主人の御尊顔を拝められ、そして労いの言葉を受けた彼らの心は歓喜に満ち溢れていた。その感情が繋がりを持つモモンガも感じ取る事が出来るため、上機嫌な彼らに取り敢えず安心した。

 

 

「アレの足止めはもう良い。俺がこの手で始末する。お前達は引き続き拠点周囲の警戒と監視、守護を頼む。」

 

 

漆黒の瘴気の塊がグネグネと歪む。これは彼らなりの敬いの表現である。モモンガが「じゃあ、よろしく」と手を振るとレムレースは瞬く間に霧散した。

 

その瞬間ー

 

 

ーギャアアアアアアアアアアアアアア!!!!ー

 

 

耳に劈く様な獰猛で甲高い雄叫びがそう遠くない所から聴こえると、地鳴りと共に猛スピードで此方へ近付いて来た。

 

 

「さてと…じゃあ、行くか。」

 

 

モモンガは「ちょっとコンビニ行ってくる」みたいな軽い気持ちで、雄叫びが聞こえた方向へ駆けて行く。

 

木々を薙ぎ払い、吹き飛ばしながら突っ込んで来るソレは直ぐに姿を露わにした。

 

ソレは全長20m以上はある巨体に蜥蜴にも蛇にも似た生物で、全身が赤い鱗(・・・)に覆われている。獲物を捉えるのに優れた大きな眼玉に砥がれたナイフよりも鋭く連なる牙、その辺の鎧など意味を為さずその内側の肉ごと抉り取る凶悪な爪、歪つに曲がった巨大な王冠の様な金色のツノ…いや、トサカが特徴的な怪物。

 

『ギガント・バジリスク』…よりも更に上位種と見るのが妥当だろう。しかし、アレはモモンガの知識にはいなかったモンスターだった。

 

 

(見た目はギガント・バジリスクに似てるけど…大きさ、ツノ、それにレベルを見ても明らかに格上の存在だ。)

 

 

モモンガの知るバジリスク系は全部で3種類。

 

一番弱い『バジリスク』…レベル15前後。

 

次に『ギガント・バジリスク』…レベル25〜30。

 

最後が『イーリス・ティラノス・バジリウス』…レベル71。

 

単純にモモンガの知識に無いだけで本当は実在していた可能性もあるが、だとしてもアレは間違いなくレア物と言ってもいいだろう。

 

 

「ふむ。名を付けるとしたら『ギガント・バジリスク・ロード』…と言ったところか?頭のトサカが通常のギガント・バジリスクよりもずっと立派で…いや、ちょっと変な形だ。」

 

 

独り言を言っているとGBL(ギガント・バジリスク・ロード)の眼玉が怪しく光ながら此方を睨み付けて来た。アレはバジリスク種が持つ『石化睨み』と言うスキルだ。何の対策も無しにあの眼光を受けてしまうとあっという間に『石化』してしまう。ユグドラシルでは『行動不能』状態というバッドステータス程度でしか無いが、この世界では直接『死』に直結するのだろう。

 

 

(だが残念。この鎧には凡ゆる耐性や無効化が施されてるからな!当然『石化』など効かないぞ。)

 

 

そもそも隔絶したレベル差があるば何の対策無しでも『無効化』になる為、モモンガがこの全身鎧を着けて無かったとしても意味が無い事に変わりは無かった。

 

『石化睨み』が効かないと気付いたGBLは攻撃方法を転換。巨大で歪なトサカが一気に輝きを増し始めた。

 

 

「む?何をする気だ?」

 

 

アレはモモンガも知らない魔法・スキルだ。モモンガは駆けるのを止めて、防御魔法を自身に掛けながら距離を取る。

 

次の瞬間、トサカの前に魔法陣が形成されると薄黄色の液体の柱がモモンガに襲い掛かる。

 

 

「《上位転移(グレーター・テレポーテーション)》」

 

 

モモンガは上空へと転移して攻撃を避けた。

するとさっきの薄黄色の液体が直撃した木々や草木が煙を上げながらジュウジュウと音を立てて溶け始めた。

 

 

(アレは第5位階《酸の滝(アシッド・フォール)》か。喰らってたらこの鎧だと少し溶けてたかもなぁ。)

 

 

「危ない危ない」とホッと胸を撫で下ろすと、GBLを上空にいるモモンガに気付いた。大きな顎を開くとカメレオンの様な舌が猛スピードで襲って来た。

 

モモンガはそれを紙一重で余裕で躱すと、グレートソードを自身の真横を通り過ぎる舌目掛けて振り下ろした。

 

 

ザシュッ!

 

 

切断された長い舌。

GBLの絶叫が聞こえて来る。

 

 

「どれ、そろそろケリをつけるか?」

 

 

モモンガは地面へ着地すると《完璧なる戦士(パーフェクト・ウォリアー)》を発動させる。この状態はそのままのレベルをそっくりそのまま戦士レベルへと移し替える魔法で、魔法は一切使えなくなる。モモンガはこの状態での実戦をまだ試していない。

 

 

「ギャアアアアアアアア!!!!!」

 

 

GBLも最早小細工は通用しないと踏んだのか、真っ直ぐ此方へ突っ込んできた。モモンガもそれに呼応する様に突っ込んで行く。

 

やがて両雄が激突する刹那、モモンガはグレートソードをGBLの首目掛けて横一閃に振るった。

 

 

「ハァァァァァァァ!!!!」

 

 

鮮血が飛び散り、胴体と斬り離された首が大きく弧を描いて跳んだ行く。残されたGBLの身体は向かって来た勢いのまま地面に体を擦ったりながら倒れた。

 

 

「よし、これにて一件落着だな。」

 

 

モモンガが満足げに頷くと拠点内へさっき斬り落としたGBLの首が落ちてしまった。あそこにはリュラリュースとハムスケが居る。

 

モモンガはあんぐりと顎を開かせながら、無いはずの血の気が引いてゆくのを感じた。

 

 

「あッ、ヤベェーーー!!!」

 

 

モモンガは全力ダッシュで拠点へと戻った。

 

ーーーーーー

大急ぎで拠点まで戻るとそこには何とも無さそうな2人が茫然と立ち尽くしていた。取り敢えず無事な様子に安堵したモモンガは2人の元へ歩み寄る。

 

 

「待たせたな、この通りヤツは仕留めたぞ。」

 

 

2人は唖然とした顔でGBLの大きな生首とモモンガを交互に見た。モモンガが首を傾げると2人は一斉に詰め寄って来た。

 

 

「「モモンガ殿!!!」」

 

「え、何すか?」

 

「あ、あの様な怪物の中の怪物を無傷で倒すなどお主は一体どれだけの強者だと言うのじゃ!?」

 

「流石でござるよ!!拙者、モモンガ殿の事をたった今から『殿』と呼ばせて頂きたく思うでござる!!」

 

 

思わず2人に気圧されてしまうが、モモンガは何とか2人を落ち着かせようとする。

 

 

「い、いやいや、落ち着けお前ら!相手はせいぜいレベル43のバジリスクでー」

 

「その『れべる』なるものの意味は理解しかねるがバジリスク!?バジリスクと申したか!?」

 

「あ、うん。」

 

「何処がバジリスクなんじゃ!?いや、確かに似てはいるが、アレは最早ドラゴンと差異は無い存在じゃ!!」

 

「殿ぉぉーーー!!!!!」

 

「ええい!やかましィィィ!!!!!」

 

 

ーーーーーー

興奮しているを鎮めるのに30分近くも掛かった。

GBLの胴体を拠点内へ運び、今後についての話し合いが始まる。

 

 

「取り敢えず、森はこれでいつも通りになると思うか?」

 

 

家に集まった3人はテーブルを囲っていた。

森の代表者同士の話し合いだが、モモンガは別に支配者になるつもりはないが管理はしていこうとは思っている。あ、グは来なくていいよそこでステイしてなさい。

 

 

「拙者はよく分からないでござるよ。」

 

「あー、うむ。ハムスケ殿は聞くだけで構わん。そうじゃな……モモンガ殿に続いてあの怪物も出たのじゃ。多少の混乱は続くじゃろうが、それも時間の問題じゃろう。」

 

「そうかぁ〜…でも、異変の原因が俺である事に変わりはー」

 

「あぁ、その件なんじゃが、あの怪物に被って貰うと言うのはどうじゃ?森に異変を生じさせたと言う意味では同じじゃろう。それに理知的なお主と違ってアレは暴虐無尽過ぎる。正に災害そのもの。果たしてどちらが厄介かなど火を見るより明らかじゃ。」

 

「それは拙者も賛成でござる!殿が皆の衆から悪者扱いされるのは耐え難いでござる!」

 

 

リュラリュースの提案には納得のいくモノだった。それでも結局、自分がしでかした事も有るにはあるのでそれら含めて被って貰うと言うのは些か気も引けるが仕方ないだろう。

 

死人に口無しだ。

 

それに森の安定化に関しては3人で協力すればそんなに時間は掛からないかもしれない。

 

 

「あぁそうだな。そうさせて貰うとするよ。」

 

「ところでモモンガ殿。あの怪物の遺体はどうするつもりじゃ?」

 

「まぁ、元凶が居たという証拠としてカルネ村へ持ってくつもりなんだが…。」

 

 

ハッキリ言ってデカ過ぎる。

一応、希少部位と思われるトサカと眼玉、鱗や尻尾などを鑑定すると、最上級〜遺物級の価値がある事がわかった。なので、激戦の末に斬り落とし、削ぎ落としたという事にして、幾らか頂戴する事に決めた。本来なら全て欲しい所だが流石に証拠無しは怪しまれる。

 

この件も相談するとリュラリュースは頷いた。

 

 

「うむ。それで構わんじゃろう。しかし、アレほどの怪物が今までこの森の何処にいたのやら。」

 

「それなんだが、俺のアンデッド達で奴の痕跡を調べたんだ。」

 

「ほう?」

 

「どうやら結構深い地中に住んでいたらしいんだ。移動も基本的に地中。しかも住処は、この東の地だったよ……」

 

「なんと!…うーむ、グの奴は気付かなんだか?それとも敵わぬ相手と判断して放置していたのか?」

 

 

これに関してはモモンガ的に前者の気がする。ヤツが地中を移動した痕跡はここ数日のモノばかりだったと報告があった。結構長い間、地中で冬眠か何かでもしていたのだろう。それが目覚めてしまった。

 

 

(その原因は多分…俺なのかな?ハァァァ…)

 

 

だとしたら今回の件、9割モモンガのせいではないか。そう思うと気が滅入る。

 

 

「まぁ済んだ事じゃ。考えても仕方あるまい。さて、やる事も増えた。今日のところは帰るとするかのう。」

 

「そうでござるな。では、殿!また明日でござる!」

 

「あ、待て待て。流石に徒歩だと遠過ぎる。」

 

 

モモンガは立ち上がると《転移門》を開いた。

 

 

「ほら、此処を通ると良い。直ぐ目の前は住処だ。先ずはハムスケからだ。」

 

「おぉ!かたじけないでござる!いや〜殿の術は凄いでござるなぁ!拙者も魔法は使えるでござるが、殿には遠く及ばないでござるよ!」

 

「ん?お前、魔法詠唱者だったのか?」

 

「いやいや、特にそう言うわけではないでござる。」

 

 

モモンガはハムスケが扱える魔法も見てみたいと思い、後日その確認の為に招待しようと決めた。

 

ハムスケを送り届けると今度はリュラリュースだ。再び《転移門》を開く。

 

 

「ほら、次はリュラリュースだ。」

 

「う、うむ。あの時は何も思わず通ったが、改めて見ると凄まじい魔法であるな。」

 

「そうか?ただの第9位階魔法だぞ?」

 

「だ、第9…!?!?い、いや…もう…驚き疲れたわ。」

 

 

リュラリュースは《転移門》の中へ入ろうとする少し手前で振り返る。ポリポリと頬のあたりを掻いた後、少し間を開けて口を開いた。

 

 

「また会おうぞ、モモンガ殿。」

 

 

リュラリュースは《転移門》の中へ消えて行った。

 

2人の背中を見送ったモモンガは少しその場に立ち尽くすし続けた。数秒の沈黙の後、モモンガは無い胸の肋骨を優しく撫でた。

 

 

「なんか…久し振りだなぁ。」

 

ー寂しいー

 

 

そんな感情が込み上げてくる。

この世界へ来て結構早く立ち直ったからもう平気だと思っていたが…そんなに日は経ってない筈なのに不思議と懐かしさも感じる。

 

なんだが今日は眠りたい気分だ。

 

モモンガは人化の指輪を付け直し、人の姿になると整った藁のベッドへ横になった。

 




考察

カッツェ=ドイツ語で『猫』
カッツェ平野=ギルド「ネコさま大王国」?
アンデッドに関わる何かので原因で滅ぶ=アンデッド発生の平野へ変貌


東方にある竜王の統治が最も成功した国=東方は日本のような国?
東方の日本の様な国?=ギルド「千年王国」?
とある竜王との戦いに敗れて拠点ごと占領・利用されてる?
または
とある竜王と和解協力関係に?

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