上:「楽天スーパーロジスティクス」。今年3月設立のはずが、まだ正式な登記も終わっていないという。
下:7月1日付で本体に吸収合併された「楽天物流」。
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「当日配送」などで先行するアマゾンに追い付くべく、物流事業への投資を進めてきた楽天。昨年秋までは、物流の専門ノウハウを持つ人材も軒並みヘッドハンティングしていた。だが投資負担は重く、債務超過に陥った中核子会社「楽天物流」(2010年3月設立)を本体に吸収合併(7月1日付)、あらゆる投資を凍結して迷走している。今年に入って突然、成果を出せないとみなされた物流担当取締役の武田和徳氏が楽天トラベル担当に飛ばされ、2月に新たに設立された楽天スーパーロジスティクス社の代表取締役・島貫慶太氏が、コストカッターとして大ナタを振るっている。窮地に陥ると、会社はその本性を表すもの。現場で何が起こっているのか、楽天の物流事業に在籍する中堅社員に実情を聞いた。
【Digest】
◇50人の会社が20人募集、裏で陰湿なリストラ
◇ボロボロになって辞めていく
◇ケンコーコム、河内屋、FOインター…
◇値上げで続々と退店していく出店者たち
◇こだわりの強い店舗に応えられない
◇ヘッドハンティングで集めてみたが…
◇「転籍同意書を書かないとクビ」
◇機械化凍結、ヒューマン礼賛
◇退職勧奨パワハラの実態
◇現場にミスの責任を押し付けた『アナ雪』遅延事件
◇労基署のたび重なる臨検
■楽天の物流事業とは
現在の千葉(市川)・兵庫(川西)に続き、仙台、中京、九州にも物流センターを新設投資し、計8拠点体制とするプランだった楽天。約4万店の「楽天市場」出店者のなかで、流通高が多い上位数千社に対して、アマゾンのように商品のストックと発送をまるごと請け負う物流代行事業を提供することによって、当日配送など消費者にも短納期のニーズに応え、楽天、出店者、消費者、の三方一両得になるはずだった。
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◇50人の会社が20人募集、裏で陰湿なリストラ
現在、楽天の物流現場では、昨年までにヘッドハンティングを中心に競合他社などから採用した、専門性が高く給料が高めな中堅社員たちを、パワハラや不本意な転籍・異動によって精神的に追い詰め、退職させる作業が進んでいます。
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インタビュイーの内定通知書 |
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経営戦略の失敗にともなう人件費カットで、私もそのターゲットとなっている1人です(在籍証明としての内定通知書は右記のとおり)。
楽天の物流事業は、本体からの出向や兼務も含め、直近で120名ほどの体制。ざっくり言うと、7月の吸収合併によって、楽天へ70名が戻り、50名が楽天スーパーロジスティクス(RSL)社に在籍しています。RSLには、半強制的に楽天物流から転籍させられた人がほとんどです。
現在、リクナビで20名の募集をかけています。業績が大赤字で(吸収前の楽天物流は2013年12月期の売上高64億円、最終赤字65億円で、債務超過)、好転する戦略も見通しもないのに、社員50名しかいないRSL社が、専門ノウハウを持つ給与が高い社員に対して嫌がらせの退職勧奨を行いつつ、新規で20名を募集するなんて、ブラック企業としか言いようがありません。今回の募集は、倉庫で作業する安い労働力を雇うのが目的です。
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50人の会社が20人を新規募集。今も毎月4~5人が辞めており、人材使い捨てのブラック企業とささやかれる。 |
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楽天物流時代の従業員の平均給与は年収600万円前後ですが、現在採用する人は未経験に近い人が大半で、400万円台の前半です。したがって、昨年採用した人を2人退職させれば、駒になるような人を3名雇えるわけです。
精神的な追い詰めは、私も経験していますが、「あなたがいることが、会社にとってマイナスである」「この会社で働く以外に、生活手段を考えてはどうか」等と言われ、個別かつ陰湿に行われています。
後述のとおり、楽天の物流は、おそらく事実上、潰れるとみています。アマゾンが赤字のまま将来の成長のためにどんどん投資しているなか、逆に楽天は、目先の赤字におびえ、投資を凍結してリストラを始めているありさまなので、追い付くどころか、差は開いていく一方でしょう。
潰す際には、現場の専門家が多い子会社がまっ先に切られることになるので、そこに入ってくる人たちが、我々と同じように追い詰められるのは、かわいそうです。だから、失敗のしわ寄せを現場だけに押し付け、人間を駒のように使い捨てていく楽天の悪しき社風について、実態を報じてほしいと思っています。
◇ボロボロになって辞めていく
退職者の大半は、メンタル疾患か心身症を患い、心身ボロボロで退職していきます。楽天には退職金制度は元からなく、大企業のように、トップの経営戦略が失敗して人員過剰になってしまったから割り増し退職金を積んで辞めて貰い、人材会社を通じて転職も支援する、といった退職プログラムはもちろん存在しません。
経営陣は責任をとらず、現場の働き手だけに負担が押し付けられます。つまり、不本意な異動や退職勧奨によって、社員が自分から辞めるよう仕向けるのです。その手法は、合法的な手続に則った退職勧奨では、全くありません。
たとえば、昨年までは「エンジニアリング本部」という部署が楽天物流にはありました。
もともと、2012年にフランスの物流事業者 Alpha Direct Services社(ADS)を数十億円かけて買収し、物流工程のオートメーション化を進める計画だったので、フランスから最新の物流機械(自動入出荷機)を輸入したのです。ところがトップダウンの戦略転換で、現在、その最新機器は倉庫に眠ったまま。
ADS社買収を行った宮田・楽天常務も2013年秋に退職しており、技術流出の関係で他社に転売する見通しも立たず、最悪の場合は鉄くずとして売却される、との噂も社内にはあります。
エンジニアリング本部は、こうした最新機器を活用し、物流倉庫内のオートメーション化を推進、カイゼン・メンテを担う重要部署となるはずでした。ところが、今年から突然、三木谷氏のトップダウンで機械化投資が凍結されたため、エンジニアや機械設計などのプロ、約20名程度が、「不要」になってしまったんです。
その人たちがどう処遇されたかというと、異動先として①「現場で肉体労働をする」か、②「辞める」か、③「経営企画室」へ異動するか、の三択になってしまいました。
元から優秀な方が多かったので、多くは次を見つけて去りましたが、5名程度が残り、経営企画室に異動になりました。経営企画とは名ばかりで、.....この続きの文章、および全ての拡大画像は、会員のみに提供されております。
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楽天のグローバルグレード制度。グループの全員が同じ制度のもとで格付けされ、同じ給与テーブルで管理される。
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「G4」ランクの給与テーブル。通常は、縦軸のPitchは5の行を使い、人事評価によって横軸のRatingが左右する。 |
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