《今週の名言奇言 (週刊朝日)》
近現代史からの警告 保阪正康著
コロナとの戦いの中で市民たり得るかどうかが試されています。
日本の近現代史は14年周期で動く!? 保阪正康『近現代史からの警告』は、平成が終わったいまこそ読みたい歴史ふり返り本だ。
戦時体制がスタートした1931(昭和6)年の満州事変から1945(昭和20)年の敗戦まで14年。敗戦から池田勇人首相が所得倍増計画を打ち出した1960(昭和35)年まで15年。この後が高度経済成長期だとしたら、さらにその13年後に第4次中東戦争がはじまって原油価格が高騰、高度成長は終わり、低成長時代に入った。さて、その意味は?
<戦争の十四年間、平時の予算の組み方ではなく、戦時予算や臨時軍事費などの予算ばかりを組んできた大蔵官僚は、戦時下だけでなく終戦後の占領下では冷や飯を食わされていたと言ってもよかったのです。いわば、その不満が爆発するようなかたちで、高度経済成長期が始まりました。つまり高度経済成長は、戦争の時代への復讐だったのです>。そういう風に考えたこと、ありますか?
戦時中は主計将校だった財界人いわく。<僕らはあの戦争の裏を見てきて、この国は軍人の残したツケを払って、常識が通用する国にしたいという一点で経済復興を成し遂げたんだからね>。高度経済成長が戦争に対する怒りが支えた繁栄だったなんて驚きだよ。
もう一点、本書で特筆すべきは最終章だ。題して「新型コロナはファシズムを呼ぶか」。
コロナ禍で、ファシズム的な現象は世界中で起きていると著者は指摘する。(1)民族的差別や弱者への憎悪(ヘイト的潮流)。(2)高齢者の切り捨てと治療放棄(人間の差異化)。コロナとの戦いは一種の「戦争」で、そのためには昭和戦前期に学ぶ必要がある。1929年の世界恐慌後、人々の不安や経済破綻から来る人心の乱れが全体主義の容認につながった。
<コロナ禍のあとに、私たちが警戒しなければならないことは、実はこの超国家主義的発想なのです><私たちはいま、コロナとの戦いの中で市民たり得るかどうかが試されています>
心にしかと刻んでおきます。
※週刊朝日 2020年7月24日号