個人的妄執に憑りつかれた安倍総理の五輪開催を巡る暑い夏

フーテン老人世直し録(527)

葉月某日

 コロナ禍がなければ8月9日は東京五輪の閉会式が行われた日であった。東京の気温は練馬区で35度を超え、湿度も64%あって息苦しく、東京では午後3時までに38人が熱中症で病院に搬送された。スポーツ日和とは言い難い1日だった。

 56年前の東京五輪は天候に恵まれた。台風の影響が懸念された10月10日の開会式は前日の雨模様が一転して雲一つない快晴となり、エチオピアのアベベ選手が優勝したマラソン競技の21日は小雨まじりの曇天だったが、閉会式が行われた24日午後には再び晴れが戻った。その後の日本の経済成長を象徴するかのような天候だった。

 もし東京五輪が今年行われていれば、五輪期間中に九州と東北が大雨に見舞われ、土砂崩れや河川の氾濫被害が甚大な中での大会となった。気候変動がもたらす異常気象で猛暑と豪雨災害はこのところ日本の夏の恒例である。その中での東京五輪開催は何を象徴する大会と呼ばれただろうか。

 そこで気付いたのだが、閉会式が予定されていた8月9日は長崎の原爆記念日である。今年五輪が行われていれば、期間中に広島の原爆記念日もあり、世界から東京五輪に集まった観客や選手たちは、日本が唯一の被爆国であることを胸に刻み付けたかもしれない。

 しかし来年に延期された東京五輪の閉会式は8月8日で、日本が唯一の被爆国であることを印象づける効果も薄れる。そして恒例化した夏の猛暑と豪雨災害の可能性は相変わらずだろう。その来年の東京五輪に安倍総理が異様な執念を燃やしているという記事を「週刊文春」が報じている。

 記事によれば安倍総理は周辺に「私は五輪を招致した時の総理であり、開催した時の総理になる」と語っているという。それは56年前の東京五輪を招致した総理は祖父の岸信介だったが翌年に退陣し、開催した時の総理は池田勇人だった。そのため祖父が果たせなかった「招致も開催も私」にこだわっているという。

 だから東京五輪組織委の森喜朗会長が「2年延期」を進言しても「1年延期」にこだわった。頼みの綱はワクチン開発だという。それは大統領選挙を抱える米国のトランプ大統領も同様だろう。フーテンの想像だが、選挙前にトランプは必ずワクチンが出来たと宣言する。効果があると証明されなくとも宣言を出す。

 当選さえしてしまえば後はどうにでもなると考えるのが政治権力者の常である。安倍総理はそのトランプに頼み込んでワクチンを優先的に回してもらうことを考える。その見返りに何を要求されるのかなどは考えない。何が何でもやるとフーテン見ている。

 しかしワクチンが開発されても、来年夏までに世界中の人間にワクチンが行き渡る保証はない。また新型コロナウイルスは突然変異しやすく、変異すればワクチンは効かなくなる。米CDC(疾病予防センター)のファウチ所長は、米国民の3分の2が接種しても「集団免疫を獲得することはあり得ない」と悲観的見解を示している。

 そうなると「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証として完全な形で東京五輪を開催する」と言った安倍総理の言葉は撤回しなければならなくなる。それでも安倍総理は東京五輪を強行開催すると週刊文春は報じている。

 そのため「どういう形なら開催できるか知恵を出せ」と関係各省の局長クラスを集めてチームを作り、9月頃から動き出そうとしているという。つまり「不完全な形」でも五輪を開催したい安倍総理の妄執を感じさせる記事だ。プロジェクトチームを仕切るのは警察出身の杉田和博官房副長官だという。

 フーテンはこれが記事になるところに興味がある。なぜなら最近の世論調査では「予定通り開催すべき」と答える国民が2割程度なのに、再延期や中止を求める国民は7割に達しており、また「Go Toトラベル」で全国的に感染者が拡大し、お盆帰省の自粛を求められる中でこの記事を読ませられたら、五輪開催にとってマイナス効果だと思うからだ。

 祖父が果たせなかった夢を実現する個人的妄執に振り回されてやる「不完全な形」の東京五輪に何の意味があるのだろうと国民は思う。この記事はそれを狙って強制開催を命じられた霞が関内部からリークされたものではないか。つまり強制開催を潰す目的の記事だ。

 そしてフーテンの目を引いたのは9日付毎日新聞朝刊1面トップと社会面の記事である。1面トップは「ジャパンライフ立件へ」だ。ジャパンライフはマルチ商法で健康グッズを販売し、配当の見込みがないのに全国の7千人から2千億円を集めた詐欺容疑で、警視庁が今月下旬にも立件するという。

 そのジャパンライフ会長は、安倍総理主催の「桜を見る会」に招待されたことを宣伝に使った。野党は国会で安倍総理との関係を追及した。立件されればその話がぶり返す。そして社会面には、国立公文書館が2006年の「桜を見る会」の招待者名簿を8日に初めて公開した記事を掲載した。

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「フーテン老人は定職を持たず、組織に縛られない自由人。しかし社会の裏表を取材した長い経験があります。世の中には支配する者とされる者とがおり、支配の手段は情報操作による世論誘導です。権力を取材すればするほどメディアは情報操作に操られ、メディアには日々洗脳情報が流れます。その嘘を見抜いてみんなでこの国を学び直す。そこから世直しが始まる。それがフーテン老人の願いで、これはその実録ドキュメントです」

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1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。89年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■「田中塾」第一期(令和2年9月~令和3年12月31日)会員を募集します。オンラインで奇数月の日曜日にコロナ後の世界を考える田中塾長の講義とQ&Aを行い、年1回程度交流会を開催します。入会金と会費で6千円。https://bit.ly/2WUhRggまでお申し込みください。ご入会をお待ちします。

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