様々な疑問と不安をはらみながらの大きな方針転換である。
NHKが中期経営計画案を発表した。7300億円超に膨らんだ事業規模を来年度からの3年間で一気に630億円削る一方で、多言語発信などに130億円を新たに投資する。さらに、衛星放送とラジオAM放送のチャンネルを整理・削減する考えも盛り込んだ。
受信料収入の大幅増やネットでの同時配信の開始など肥大化を続けるNHKには、民業圧迫との批判が高まり、総務省も改革を求めていた。計画案はそれに応えるもので、たとえばチャンネル別ではなく「ニュース・スポーツ」「教育・福祉」などジャンル別の予算管理に切り替え、経営資源の効率化を図るとした点などは評価できる。
だが、メガバンク出身の前田晃伸会長が「本気で変える覚悟を示した」と述べる重大岐路だというのに、視聴者が何より知りたいことは判然としない。
潤沢な資金が支えてきた番組の質をいかに担保するのか。衛星波にどんな性格を持たせるのか。親しまれているラジオの語学講座はどうなるのか。全体の番組の量は減るとみられるが、受信料をどう見直すのか――。くらしに影響するこうした疑問への明快な説明はない。
動画配信サービスが台頭しメディアが多様化した時代に、NHKが果たすべき役割はなにかという根源的な話が生煮えのまま、唐突に大胆な改革案が示されたことへの戸惑いもある。
NHKは、人口減などで受信料収入は長期的には減る傾向にあるとし、ネット経由でのみ番組を見る人からの受信料の徴収も検討課題とされる。
導入の実現可能性を含めて具体的な収入見通しを立て、民業との競合がどの分野でどの程度に及ぶかを整理し、社会の議論に付す。その土台のうえで、担うべき業務や適正な規模を考える。それが筋なのに、今回はスリム化の要請に答えを出すのを優先させた感が強い。
こうした対応を重ねることになれば、NHKが培ってきた文化的基盤は傷つき、結局は視聴者に不利益をもたらす。NHKや総務省は公共放送の将来をめぐる検討を急ぎ、担い手である市民が考えを深めるのに役立つ材料を提供するべきだ。
計画案には「NHKらしさ」という言葉が何度も登場する。その基本は、人々の知る権利を充足し、健全な民主主義の発展に貢献することだという。
そうであるならば、政権との距離感の欠如が指摘される報道や、番組への違法な介入が疑われながら説明責任を果たさない経営委員会のあり方も、早急に改革すべき対象だろう。
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