皆様、はじめまして。私がなぜこの文章を書いているのかということから、聞いていただけないでしょうか。
私たちは、女性の権利や安全に関心があります。フェミニストです。そしてすべての差別がなくなり、みんなが安心して暮らしていける社会を求めています。
ところが、私たちはなぜか、TERF(Trans Exclusionary Radical Feminist トランス排除的ラディカル・フェミニスト)
と呼ばれるようになってしまいました。TERFという言葉を少し調べれば、殺せ、犯せ、殴れといった言葉と一緒に使われるので、とても怖くなってしまっています。そしてなぜ、そう呼ばれるのかが、全く分かりません。私たちは、トランスジェンダーの人たちとも、平和的に共存したいと思っています。ただほんの少しの場所、トイレや風呂、更衣室、レイプクライシスセンターなどのシェルターでは、安心して過ごせるように、安心・安全という問題意識を理解してもらい、どうすればいいのかを一緒に考えて欲しいと言っていただけなのです。
私は、自分はジェンダー・クリティカルだと思っています。ジェンダー(社会的・文化的につくられた性役割)は、女性も男性もトランスジェンダーも、すべての人間を苦しめる、不自由で非合理的で非人間的な枷であると考え、ジェンダーが人間に及ぼしているマイナスの影響を批判しています。こうしたジェンダーの在り方への批判は、世界中の女性解放運動の長い伝統における中心的な思想であると考えています。そして、ジェンダー・アイデンティティ(性自認)こそ性別を決定づける、という近年広がっている見解・運動に対しても、その影響に注視し、必要があれば批判をしていきます。
近年、ジェンダーをめぐる議論はとても窮屈になっています。2020年6月に、ハリー・ポッターの作者であるJ.K.ローリング氏が、「生理のある人」という言葉の代わりに、「女性」という言葉を使うべきだと主張しました。そのことには賛否両論があって構わないはずです。ところが、彼女はTERF(ターフ)と呼ばれて、犯せとか殺せとか、作品を全部燃やせであるとか、ナチであるとかとまで言われて、激しいネットでの暴力を受けています(子ども向けニュースサイトThe
Dayは、さすがに彼女への行き過ぎた非難を、後に謝罪しました)。
Sex is real、生物学的性差は存在するし、生理のある人を女性と呼べないのはおかしい。ローリング氏がその考えを表明しただけで、彼女は仕事をキャンセルされ、彼女の物語を演じた俳優たちから見当違いの言葉で批判され、本当にたくさんの誹謗中傷の言葉や画像を送られています。彼女が説明のために書いたブログ記事も、自分の被害者性を表に出して同情を買う作戦だ、と罵られています。彼女への罵り言葉の代表がTERFです。TERFと認定したら、何をしてもいいかのようです。私たちは、ローリング氏へのこうした攻撃は不当であり不正義であると考えますし、自由な言論の空間が必要だと考えます。
WANは、2019年2月に「トランス女性に対する差別と排除とに反対するフェミニストおよびジェンダー/セクシュアリティ研究者の声明」の署名を募集・発表したプラットフォームです。この署名を読んでみると、女性に割り当てられた公的空間にトランス女性を参入することを求めていることがわかります。
(引用)
女性ジェンダーに割り当てられた公的空間にトランス女性が参入することへの懸念や反発がインターネットを中心に目につくようになってきました。とりわけ、このような懸念や反発が「フェミニスト」を自認する女性たちから提出され、しかも鎮静化するどころかトランスジェンダーに対してはっきりと差別的な見解がインターネット上で次第に多く流通するようになってきている現状を、私たちは深く憂慮しています。
(以上、引用)
「安全の側面から、女性専用スペースで私たちの安全を保障して欲しい」と表明することが、トランス差別に当たると、私たちは言われてきました。議論の焦点は多くの場合、トイレと風呂や更衣室であって、それ以外の「女性ジェンダーに割り当てられた公的空間」からトランス女性(MtFトランスジェンダー)を排除したいという話は、ほとんど聞いたこともありません。(お茶の水女子大学がトランスジェンダー女性を受け入れることになったニュースも、多くの人はかなり好意的に受け止めていたと思います)。
実際に、戸籍を変更して暮らしている「トランス女性」はもちろん、これまで女性として生きてこられたトランスジェンダーには、もちろん、女性トイレをはじめとした女性専用スペースを使って構わない、ただ、ペニスを付けた男性が女性風呂に入ることは、耐え難いのです、とネットで表明しただけで、「ペニスフォビア」だと罵られ、「ガールディック」「女根」「大きなクリトリス」「ただの小さな肉塊」を受け入れられないのは「トランス排除」だと断じられてきました。トランス女性(MtFトランスジェンダー)が問題なのではない、それに便乗する性加害者が問題なのだと言えば、犯罪被害を軽視したり妄想扱いしてくるような発言もありました。「性犯罪被害者がペニスが怖いなら、専門医にみてもらってやりくりしろ」などと、性犯罪被害者にも多くの非難が寄せられました。
私たちが驚いたのは、このような発言をする人たちのなかに、研究者が多数いたこと、さらにそうした研究者が雑誌で、そのような女性達への非難を、ときには事実と異なることを提示しながら原稿にしていることです。そして、SNSでは、自分たちとは意見が異なるというだけで、市井の女性達のアカウントを集団で、凍結させるまで叩き続ける。それに対抗するために、最近は#TRA学者の言いなりになんてならない
というtwitterタグが作られたほどです。TRAとはTrans Rights Activists(トランス権利運動家)のことです。
私たちが求めているのは、自由でオープンな議論です。その場を、WANが提供してくださることに感謝します。このようなプラットフォームの存在を有難く思います。WANという場は、議論の場を提供してくださっているだけで、議論の責任は私たちの側にあることを確認しておきたいと思います。
いくつかのオープンな議論の試みを行いたいと思います。議論は、SNSなどで活発におこなってくださって構いません。どうかよろしくお付き合いください。
2020.08.12 Wed
タグ:トランスジェンダー