ここまで整理した上で、入り口にある2つの問題を整理したい。
まずはSBI証券の問題だ。
SORがデフォルトになっていたことで、利用者はジャパンネクストに緩やかに誘導されたことになる。そのジャパンネクストはSBIグループが48.78%の株を保有する子会社だ。
顧客を子会社に誘導して売買情報を利用し、顧客に不利な取引をさせ自ら利ざやを稼いだということについては、「倫理的」に問われても仕方がないだろう。報道された当日にSBI証券がTIFを0ミリ秒に再設定したことは、罪悪感の表れと見えなくもない。
次に個人投資家の問題について考えてみよう。
個人投資家はネットで取引をするということで、ネットに流れる情報に敏感だ。報道によって「SBIはインチキをしている」という反響を呼んだ。
だが前述したように「ミリ秒」の儲けは「銭」の単位だ。機関投資家のような資本量を運用するならまだしも、個人投資家の資本量では一人の受けた損失は知れている。莫大な損害を被ったというのは言い過ぎというのが私の印象だ。
また日経記事中でSBI執行役員は、TIFに変更した理由を、注文を公開することが「反対側の注文を呼び込む」ためと説明し、「約定率は上昇している」とした。これには説得力があると私は考えている。損をするより得をした個人投資家のほうが多いはずだ。
SBI証券の売りは売買手数料が安いなど、個人投資家のランニングコストが抑えられる点だ。証券会社は慈善事業ではないので利益を上げなければならない。「先回り」もそれで、個人投資家にとっては無料に近い額でSBI証券を利用した代償と考えるべきだろう。
最大の問題はHFTだ。
一つは法規制の問題がある。
相手の注文を呼び込むため、購入意思がないにもかかわらず注文を出すことを「見せ板」(あるいは「見せ玉」)と呼ぶ。この「見せ板」は証券取引法で禁止されているのだが、「ミリ秒」の単位では真偽の判定ができないということで、HFTで「見せ板」はやり放題のやり得となっている。「見せ板」だけではなく最新の株投資に法律が追いついていない状態だ。SBI証券の問題を「倫理的」としたのは、この理由だ。
もう一つは「富める者」の優位性だ。
ミリ秒での取引のためには、専用のアルゴリズム、高速演算できるコンピューター、超高速回線などが必要だ。ここに独自の情報元、銘柄選定や予測などを行う「AI」(人工知能)が連動して、巨大資本を背景に利益を上げている。こんなことは個人投資家には不可能だが、それらは機関投資家やファンドなどの標準装備となっている。