暑さで脱水「夏血栓」注意 脳梗塞などの引き金に
2020年8月11日 07時32分
暑さが続く中、注意が必要なのが、脱水がもたらす「夏血栓」だ。脱水が進むと血液中の水分も減少。血液の塊「血栓」ができて、血管が詰まる恐れがある。新型コロナウイルスの影響でマスクを着けている今夏は、口の中が潤っていると錯覚し、特に水分不足に気付きにくい。医師らは水分をこまめにとるよう呼び掛けている。 (細川暁子)
「夏に怖いのは、熱中症だけではない」と訴えるのは、医師らでつくる啓発団体「教えて!『かくれ脱水』委員会」(東京)副委員長で、済生会横浜市東部病院患者支援センター長の谷口英喜さん(54)だ。大量に汗をかく夏は、水分不足から血液がどろどろになって血栓ができやすい状態に。血栓は、その場で、あるいは肺や脳などに飛んで血管を詰まらせる。
脚の静脈にできた血栓が肺の血管に飛んで呼吸困難を引き起こすのが「エコノミークラス症候群」だ。飛行機や車の中で長時間同じ姿勢で座り続けるなどして静脈がよどんだ場合にも起きやすい。新型コロナで運動不足になりがちな今年は「水分を蓄える筋肉量が減って脱水になりやすいだけでなく、脚の血流も悪くなっている可能性があって要注意」と谷口さんは言う。
もう一つ怖いのが、脳の血管が血栓によって詰まる脳梗塞だ。国立循環器病研究センター(大阪府吹田市)によると、年間約六万人が亡くなる脳梗塞は季節によって原因が異なる。冬は不整脈の一種、心房細動で血栓ができやすいが「夏は脱水が引き金になる例が多い」と同センター副院長で脳血管部門長の豊田一則さん(58)は注意を呼び掛ける。
脳梗塞は顔の片側がまひしたり目が見えにくくなったりといった症状が出る。片側の手足に力が入らなくなることも。脳に血が行かなくなる時間が長くなるほど脳細胞は元に戻らず、死に至ったり後遺症が出たりする。治療によって四時間半〜二十四時間が目安だ。疑われる場合は「迷わず救急車を」と豊田さんは強調する。合言葉は▽顔のゆがみ(Face)▽腕のまひ(Arm)▽言葉の障害(Speech)に突然見舞われたら▽一刻も早く一一九番(Time)−の頭文字「FAST」だ。
◆水分補給は時間決めて
夏血栓を防ぐには何よりも水分補給だ。谷口さんによると、激しい運動をしなくても一日に体から排出される水分は尿や汗、便など合わせて二・五リットルにも。同じ量を体内に入れるには、代謝で生まれる水分〇・三リットルのほか、飲料水で一・二リットル、食事で一リットルの水分をとることが目安となる。
体重に占める水分量の割合は、成人男性の約60%に対し、高齢者は約50%とされる。高齢者は脳の機能低下で喉の渇きを感じにくいため、特に注意が必要だ。谷口さんは、薬のように時間を決め、一日八回に分けて水分を摂取するよう勧める。起床時に朝食時、午前十時ごろ、昼食時、おやつの午後三時ごろ、夕食時、入浴前後、寝る前−という具合。一回百五十〜二百ミリリットルを飲むといい。
高齢者が脳梗塞で救急搬送される時間帯は、深夜から朝方が多くを占める。脱水症を原因とする例が目立つのは、夜中にトイレに起きるのを避けようと水分を控えた影響とみられる。
谷口さんによると、脱水のサインは手に表れやすい。脱水状態になると全身の血流が悪化。より重要な脳や心臓などの臓器が優先され、手に血液が巡りにくくなるためだ。その結果、指先が冷たくなったり、皮膚の張りがなくなったりする。普段は水でいいが、脱水症状が疑われるときは、水分と塩分、糖分がバランスよく配分された経口補水液を飲むと、水分が吸収される小腸まで素早く届く。口から何も飲めない、意識がはっきりしない場合は救急車を呼ぶことが重要だ。
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