新型コロナウイルスの感染再拡大が続く中、関連する倒産が全国で400件を超え経済の先行きに不安が広がっている。社会経済活動と感染防止の両立はできるのか。現状と今後の見通しをを踏まえ取るべき経済政策とは何か。今回の放送では民間最高峰のエコノミストをまじえ、識者による議論を深めた。
政府の見通しは甘い
竹内友佳キャスター:
日本経済の現状について。民間エコノミストによる予測では、前期比年率換算で-23.53%というGDP成長率の数値が出ている。
熊谷亮丸 大和総研専務 チーフエコノミスト:
大和総研の予測は-27%で、現在の市場コンセンサスは-26〜27%。前期比で見ると-7.7%、そのうち内需で-4.5%、外需で-3.2%。内需も外需も総崩れという厳しい状況。
反町理キャスター:
実感がないのだが、年率で-27%となると何が起こるのか。
熊谷亮丸 大和総研専務取 チーフエコノミスト:
リーマンショック時の2009年1-3月期で-17.8%。それよりも相当悪い。仮に今の時点で感染症が収束しても、リーマンショックレベル。額で言えば30兆円くらい。来年まで長引けば、リーマンショックの2倍弱、50兆円弱。さらに悪いシナリオとして、金融危機を併発して不良債権問題が出たら80〜90兆円。政府は今の程度で収束する前提で見ているが、甘い。来年にずれ込むし、不良債権問題の可能性もある。数値は下振れする。
反町理キャスター:
昨年度の有効求人倍率の平均が1.55倍であったところ、直近では1.11倍。この下がり方を見たとき、来年は1倍を割り込むと。
熊谷亮丸 大和総研専務 チーフエコノミスト:
失業率を見ると現在約2.8%で、年末にかけて4%ほどに近づく。「短期で収束」「来年にずれこむ」「不良債権問題が起こる」の3シナリオについて述べたが。2つ目の場合を見込んで経済対策を打たなければ。その場合の失業率は6.7%にまで上がる。失業者は300万人以上。これを防ぐため万全の雇用対策が要る。
元のGDPに戻るまで5年かかる
木内登英 野村総研 エグゼクティブ・エコノミスト:
一瞬の変化より、落ちた状態がどれだけ続くか。すると4-6月期よりむしろ7-9月期が重要。リーマンショック時は最大で年率-18%弱落ちたが、そこの次の四半期で半分戻した。今回民間の見通しでは4割戻すとなっているが。
そこで企業にどれほどのダメージがあるか、4-6月期に落ち込んでも7-9月期に同じ幅で戻るのならよいが、そうではなくなった。世界的にV字回復を当て込んでいたが予定はずれている。鉱工業生産指数などを見ると5月に底を打ったが、そこから回復してはおらず、底ばい状態が続いている。いつ戻るかが見えない。
生産能力が余る、雇用者が事実上の失業状態にある、企業の収益性が低くなる。設備投資や雇用といったストック調整の部分に影響し売上も落ちる。影響は一瞬では済まない。相当先まで日本経済の足を引っ張ることは確定している。
木内登英 野村総研 エグゼクティブ・エコノミスト:
飲食や遊興費などにおいて消費のあり方が以前と変わってくると、事態が戻ったとしても当初より50%ほど低いかもしれない、これはわからないが。すると需要はかなり失われた状態が続く。簡単には戻らない。瞬間的に戻らなければ後遺症は相当長く残るし、もとのGDPの数字に戻るまで5年ほどかかる。
森信茂樹 東京財団政策研究所 研究主幹:
「コロナとの共存」が我々の気持ちの上でどう定まっていくか、それが1年か2年か。直感的には5年もかからず「ウィズコロナ」のマインドになるのでは。そうなれば、リスクをとりながら経済活動を進めていけると思う。
今はまだカンフル剤を打っている状況
片山さつき 自民党総務会長代理 前地方創生相:
-23%や、それ以上深い落ち込みを予想する向きもある、日本は緊急事態宣言を出し、ロックダウンもやらないで、国民の懐にお金を入れられるように政策を進め、アメリカや欧州の落ち込みよりは比較的よかった。有効求人倍率もまだ1を上回っている。
今この瞬間は、3,000〜4,000万の無利子無担保融資、3年間金利ゼロ・5年間元本返済なしなど、事業再編・再生がすぐに今日から要る状態とならないようにしている。キャッシュフローがストップしないように。それにより、慣れるための時間、混乱回避の時間、社会的ショックを減らす時間を作ることをしている。しかし非常に心配している。
反町理キャスター:
「全治5年」については。
片山さつき 自民党総務会長代理 前地方創生相:
政権としては5年とはいわない。最低でも1年、2年。そのためのさらなる対策が必要。雇用調整助成金もイギリス並の1万5000円(1人1日あたりの上限額)、解雇をしない中小零細企業には10割給付。このための1兆4000億の予算も足りないかもしれないが、持続化給付金も含めて、今はまだカンフル剤を打っている状況。
日本は落ち込みも小さいがV字回復も期待できない
反町理キャスター:
実質GDP成長率は、アメリカは-32.9%でEUは-40.3%。これに比べて日本はマイナスが少なくおさまっている点については?
熊谷亮丸 大和総研専務 チーフエコノミスト:
日本では特措法に強制力がなく、欧米はロックダウンした。今現在を見ればアメリカのほうが落ち込み方は大きく日本はそうでもない。しかしその後の傾向。ロックダウンの厳しさを測る指数を見ると、中国などは厳しかった反面成長率の戻りが速い。日本は経済の落ち方は比較的緩やかでも、戻りも強くない。
もし短期で今くらいの時期に収束したとしても、グラフは「レ」の形になる。戻るが元の数字までは戻らない。来年まで続くとなると「L」の字。全然戻らない。
反町理キャスター:
外需の影響が大きいのなら、日本としては打つ手なし?
熊谷亮丸 大和総研専務 チーフエコノミスト:
アメリカで第2波・第3波が出て厳しい状態になれば、そこで日本経済が回復するのは難しい。
木内登英 野村総研 エグゼクティブ・エコノミスト:
熊谷さんの言うように、規制の弱い日本は落ち込みも小さいがV字回復もない。これが深刻。最初の大きなショックはこなしたが、時間とともに生き延びている企業が倒産・廃業し、かろうじて確保している雇用も維持できなくなる。そうした形の緩やかな雇用調整がこれから長く続き、失業率も相当上がる可能性がある。有効求人倍率は早晩1を切る。1年前との落ち込み幅はリーマンショック時より悪化しており、あえていえばオイルショックのような形で悪化している。
今は企業が頑張ってストックを維持している。しかし、急激な雇用の悪化は一瞬で終わるかもしれないが、時間とともに耐えきれなくなるもの。アメリカにおける上下とは違う、ジリジリとした悪化がありうる。
「失業なき労働移動」が理想だが…
反町理キャスター:
片山さんはすぐに事業再生・再編が起きないないように手を打っていると。それをいつまで続けるのか。
木内登英 野村総研 エグゼクティブ・エコノミスト:
政策はどこかで変わらなければいけない。現状は打撃を受けているところを支援する段階。個人の消費行動が変化し従来より減ったとしても、国のお金でその穴埋めを続けることはできないから、見捨てるということではなくて業種の転換を支援していく。
片山さつき 自民党総務会長代理:
失業なく労働移動してほしい。リーマンショック以降10年で日本経済がサービス業化したところで、またサービス業が落ち込んでいるのは辛い。一方で製造業は合理化が進んで意外と人を雇っていないということも見える。製造業とか農業など一次産業を含め、人が戻るきっかけとして、失業なき労働移動を政策は後押ししていくべき。新しい世界で、多くの人を必要としない分野に無理やり非効率な雇用を留めるべきものではない。
反町理キャスター:
失業なく労働移動へ、産業の再編が必要。どこで切り替えるか。
片山さつき 自民党総務会長代理:
得も言われぬ、タイミングの問題。
熊谷亮丸 大和総研専務 チーフエコノミスト:
切り替えが極めて難しい。コロナをきっかけにして産業の優勝劣敗が起こる。伸びるのはテクノロジーなど非接触産業、医療や水、衛生、食料再生エネルギーとかSDGsに関連するようなところ。さらに教育も。他方で、運輸、外食、旧来型のエネルギー、シェアリングエコノミーといった接触型の産業は厳しい。長い目で見て産業構造が変わるから合わせないといけないが、スイッチングが政治的に見て難しい。
木内登英 野村総研 エグゼクティブ・エコノミスト:
前向きの変化を促すように政策を変える。企業の業種転換などを促すようなものにするのがいいが……うまくいかないと思う。
感染リスクを下げる政策を
熊谷亮丸 大和総研専務 チーフエコノミスト:
感染症の拡大にある程度の歯止めかからなければ、消費が行われるのは難しい。そのため医療にお金をかけるべき。ワクチン薬開発にアメリカが1兆円をかけているのに対し、日本の2000億は足りない。また検査の拡充も必要。
木内登英 野村総研 エグゼクティブ・エコノミスト:
個人は合理的に判断する。感染リスクがあるときには消費は萎縮する。感染リスクを下げる政策を重視すべき。
BSフジLIVE「プライムニュース」8月5日放送