「第1波」で集団感染が発生した経験から、小田原市立病院では検査や個室管理を徹底している(同病院提供)
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、医療機関でのクラスター(感染者集団)の発生が再び目立つようになった。ここ2カ月あまりで新たに50件近くが発生し、数十人単位の大規模感染に至ったケースもある。「第1波」では海外でも院内感染が医療崩壊を招き、多数の死者を出した。院内での集団感染の抑制が、被害軽減に不可欠だ。
厚生労働省によると、医療機関でのクラスターは5月21日から8月3日までに全国で47件確認された。「第1波」とほぼ重なる5月20日までの93件には及ばないが、7月以降の感染再拡大に伴って再び増加傾向にある。
千葉県のタムス浦安病院では7月上旬以降に入院患者らのクラスターが発生、約40人の集団感染につながった。鹿児島・与論島では島唯一の総合病院「与論徳洲会病院」で院内感染が起き、与論町内で50人を超す集団感染に。ヘリコプターで搬送する事態となった。
医療機関でクラスターが発生すれば感染者の新規受け入れは難しくなる。感染者が急増すればその病院だけでは治療できず、周辺病院の確保病床も埋めてしまう。医師や看護師が感染すれば対応能力も低下する。政府は「全国的には病床がすぐに逼迫する状況にない」としてきたが、十分に確保した地域でも大規模クラスターが発生すれば、急に不足しかねない。
第1波ではどうだったか。4月に入院患者や看護師ら40人以上が感染した感染症指定医療機関の都立墨東病院(墨田区)。1カ月間は救命救急センターを含む新規入院患者の受け入れを原則停止し、地域の主要病院だが機能不全に陥った。
都福祉保健局の担当者は「集団感染発生を懸念し、救急患者の受け入れを断る病院も多かった」と振り返る。200人以上が感染した永寿総合病院(台東区)で入院患者が43人亡くなるなど、集団感染は死者急増にも直結した。
海外でも院内感染は被害を左右してきた。イタリアは院内感染から爆発的な拡大が起こったと考えられている。ロイター通信によると「国内感染者1号」とされる男性を治療中、病院で一度も隔離しなかったことで、感染確認後1週間以内に888人の感染が確認され、21人が死亡した。
マスクなどの防護具の不足も重なって医療従事者に感染が広がり、大規模な医療崩壊に陥った。イタリアでの死者はこれまでに3万5千人以上と、世界で6番目に多い。
●韓国は患者分離で診療、ドイツは早期発見徹底
防止への取り組みは各国で広がる。韓国では呼吸器疾患を抱える患者を分離して検査・診療する「国民安心病院」を各地で指定。感染が疑われる患者を一般患者から遠ざけ、病院の負担と感染リスクを抑える狙いだ。
韓国での新型コロナの検査数はこれまで約160万件と、日本を30万件超上回る。感染者を追跡して早期に重症度に分けて管理し、院内感染の防止にもつなげる。死者は累計約300人と日本の3分の1以下だ。
初期に検査件数を大幅に拡大したドイツ。くまなく調べ感染者を早期に発見し、医療機関への波及を防ぐ対策を徹底してきた。病床を空けたり、重症者向け病床を新設したりした病院に財政支援も実施。大規模な医療崩壊は報告されていない。
日本の病院も教訓を糧に対策を急ぐ。7月以降、毎日のように発熱患者を受け入れている神奈川県の小田原市立病院では、検査結果が「陰性」になっても4日間は個室から動かさない。個室から移動させるには、院内感染対策チームの複数の医師の診断が必要だ。
同病院では4月後半から5月末に30人規模の集団感染が発生した。1人の発熱患者が感染拡大の一因だった。検査結果が陰性で、個室数にも限りがあったため大部屋に移動させたが、その後に同室の患者ら計5人が発熱。全員が感染していた。
東京慈恵会医科大は隣接の付属病院の感染対策で、PCRセンターを設立した。入院前の患者らに検査を実施する。同大の浦島充佳教授は「従来の診療を続ける医療機関とは別に、検査と搬送先の振り分け業務を同時に担うような検査拠点を各地に増やし、大量に迅速に検査できる体制をつくるべきだ」と指摘する。