その背景として、2000年前後から、故李登輝総統が台湾独立を意識した「二国論」を展開しだした。その後、台湾独立派の民主進歩党の陳水扁総統になると、2001年に発足した米国ブッシュ政権が台湾への大規模武器輸出を行い、台湾の安全保障に深く関わるようになった。そこで、中国が台湾での独立気運の高まりを牽制するように、台湾は中国の「核心的利益」というようになったわけだ。
2006年頃には、チベットやウイグルについて、やはり「核心的利益」といわれるようになった。最近に至るまで、それらの地域での民族独立運動を中国は力ずくで押さえ込んできている。
2009年頃には、米中戦略経済対話で、戴秉国国務委員は、核心的利益として、台湾、チベット・ウイグルのほか、香港、南シナ海、尖閣を出したと言われているが、はっきりした公式文書は見当たらない。
香港については、香港特別行政区基本法23条により、中国政府に対する反逆、分離、扇動、転覆を禁止する内容の国家安全法を制定することが定められていた。これが、先日制定された「香港国家安全法」であるが、2003年当時もその制定が試みられたことがあった。
「核心的利益」として初めて登場したのは台湾問題であったが、中国によって、台湾と香港は「一国二制度」でパラレルなので、当然ながら、香港も当初から「核心的利益」だったはずだ。それが、2009年にぽろっと米国に漏れたのだろう。
南シナ海では、2010年頃から頻繁に「核心的利益」といわれるようになった。2013年頃から、中国は人口島建設を急ピッチですすめて実効支配を着実に築きつつある。米国オバマ政権がモタモタしているうちに、南シナ海での中国の実効支配はかなり進んだ。2016年7月、オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所は中国の主張を全面的に否定する判断を示したが、中国はまったくそれを無視している。