第7章
99.神々、勇者を封印するが失敗
転生勇者ユリウスが、弟の看病をしてから、数日後。
夏も終わりに近づいた、ある日のこと。
天界にて。
円形の会議場には、神々が集っていた。
ーーついに完成したか。
ーー神々の力を結集し、作り上げた最高の封印術式。
ーー【
会場の中央に、四角錐の結晶が浮かんでいる。
とてつもない魔力、そして神々の力が合わさった、文字通り神の力の結晶。
込められているのは、最強の封印魔法。
なぜ、こんなものを作ったのか。
答えはシンプルだ。
転生勇者ユリウス=フォン=カーライル。
彼ひとりを、この世から永久退場させる。
そのためだけに、神々が力を結集し作ったのだ。
ーー時間停止すら打ち破る凶悪な存在、封じ込める術式を開発するのに時間が掛かってしまった。
ーー世界の時間を止めるのではなく、ユリウスの時間感覚を延長させる方向に持って行ったのは良いアイディアであった。
ーーつまりこの封印術の中において、世界の1秒を、ユリウスは百年と感じるわけだな。
感心したように、神々がつぶやく。
ーー見事なアイディアであった。発案者は誰だ?
ーー【サタン】だ。
ーー忌々しい。……まあいい。あとは術式を発動させるわけだが、いかにしてユリウスを閉じ込める?
ーー餌は用意している。
中央に、3人の少年少女がいる。
エリーゼ、サクラ、そしてミカエル。
ーーヤツの関係者のなかで、特に非力なるものたちを集めた。
ーー返して欲しくば我らに命を捧げよと通告済みだ。
ーー餌に惹かれてきたぞ。
そこへ、ユリウスが
彼の表情は……読めない。
一切の感情を廃した、人形のようである。
ーーさぁユリウスよ、仲間が大切ならば、その結界に入るのだ。
「…………」
ユリウスは特に何もせず、結晶に触れる。
その瞬間、姿が消える。
封印術が発動し、転生勇者の肉体と魂を、永劫の牢獄へと閉じ込めたのだ。
ーーなんとあっさりした幕引きだ。
ーー餌がこうも効果的とは。見殺しにしないとは驚きだ。
ーー所詮ユリウスも人間。人の感情を利用すればこんなものよ。
けたけた、と神々が愉快そうに笑う。
ーー我らをコケにしたこやつを、一体どうしてくれよう?
ーー銀河の彼方に放り捨てるのが適切だろう。
ーー然り。万に一つの可能性もないが、結界を打ち破る危険がある。
ーー然り。ならばそうしよう。
神々は最上級の転移の力を発動させる。
浮かんでいた四角錐の結晶は、この星から永久追放された。
ーー勝った。我らの勝利だ。
ーー厄介な敵であったが、所詮は人間。我らの被造物。
ーー創造主たる我々には勝てぬが道理よ。
ーー然り。
ーー然り。
ーー然り。
神々は勝利の余韻に浸っていた。
この1ヶ月ほど、彼らはずっとユリウス抹消のことしか頭になかった。
知恵を絞り、技術の粋を集め、ただユリウスを消すためだけに力を注いだ。
彼らの努力が結実した瞬間。
勝利の美酒に酔うのは必定。
……だが、否、だからこそ、忘れていた。
次代の勇者が、地上でうぶ声を上げたことに。
ーーさてユリウスを永久追放した。次はどうする?
ーーやはり、人間どもに一度神の威信を見せつけるべきではないか。
ーー然り。人間どもは少々、我ら神々を軽視しすぎている。
ーーユリウスという増長した愚かな人間が生まれてしまったのは、人間が神に祈らなくなったのがいけない。
いるかいないかわからない神々よりも、世界を救ってくれる存在……救世主。
人民が希望の光をもとめた結果、生まれたのが転生勇者ユリウスであった。
ーーでは神の力をもって、地上を一度壊滅させる方向で、よいな?
神々がうなずく。
その瞬間、地上に無数のレーザーが降り注ぐ。
それは【天の矛】。
天使の使う、超強力なレーザー攻撃だ。
それが雨あられと、天から降り注ぐ。
一撃で地を粉砕する威力を持つ。
それが霧雨のごとく降り注いだ。
……ややあって。
ーーこれで地上の人間達はほぼ壊滅しただろう。
ーーどれ、地上の様子をみなでみようではないか。
……神々が調子に乗っていられたのは、ここまでだった。
ーーばかな!? 地上が……無傷だと!?
神々は目をむく。
地上に目を向けると、そこにはいつもと変わらぬ、星が写っていた。
地上が穴ぼこになることも、人間達の血で海が赤く染まっていることもない。
ーーなぜだ!? どうなっているのだ!?
そのときだ。
「ボクが、そんなこと許すわけないだろ」
神々のつどいし、神聖なる会議場。
そこに、ただの人間が入り込んで来たのだ。
ーーバカな!? 不可侵の結界が張ってあるのだぞ!?
「あんなもの、兄さんの結界に比べれば、お粗末極まるよ」
そこにいたのは、金髪の少年。
その背後には、紫色の髪をした、長身の執事がいた。
「結界を虚空剣で切り裂き、ここへと転移してきたのですか。及第点といえましょう」
「相変わらずムカつく剣だなおまえ」
「何をおっしゃります。……最も腹立たしいのは、我が愛しきユリウス様に楯突いた、そこにいる老害どもでしょう?」
ぞっ……!
神々は、確かに感じ取った。
そこにいる、2人から、圧倒的な殺意の波動を。
ーーなんだ貴様らは!?
ーー出て行け! ここは人の侵してよい領域ではない!
「もちろん出て行きますとも。用事が済めば。ですよね、ガイアス?」
執事の言葉に、ガイアスはうなずく。
彼が、一瞬消える。
そして、ミカエル達もまた消えた。
ーーどこへ行った!?
「地上へ返してきたよ。ここにいたら……危ないからね」
ガイアスはまた、同じ位置に戻っていた。
感心したように、執事がうなずく。
「転移を戦闘に応用した、【縮地】。様になってきましたね」
「そりゃどうも。……さて、と。やろうか、セイバー」
スッ……とガイアスは両腕を伸ばす。
「このバカたちに、兄さんに変わって……罰を与えるぞ」
「
その瞬間、執事は光り輝き、1対の双剣と変化する。
紅玉の剣と、蒼玉の剣。
ーー何をボケッとしている! 天の矛でこやつごと地上を貫け!
その瞬間、レーザーが無数に降り注ぐ。
それはこの星に存在する、生きとし生けるものを貫かんとする。
ガイアスは、蒼い剣を振り上げる。
その瞬間、レーザーは……凍り付いたのだ。
ーーそんなバカな!? 超高密度のレーザーを、氷結させるだと!?
次に、赤い剣を振り下ろす。
それは莫大な熱波となりて、凍り付いたレーザーを蒸発させて見せた。
ーーお、恐るべき威力の業火!? なんだ!? あんな神器みたことないぞ!?
「神器じゃない。これは無双剣。最愛の人が、ボクのためだけに作ってくれた……最高の相棒だ!」
ーー天使よ! 殺せ! あの人間を殺せぇええええ!
神々の命令で、天界中の天使たちが集まってくる。
神器を手に、ガイアスへと殺到する。
光の矢が、剣が、斧が、殺しに掛かってくる。
だがガイアスは避けない。
神器が触れそうになった瞬間……蒸発したのだ。
ゴォオオオオオオオオオオオオ!
ガイアスの右手に持つ剣から発する、紅蓮の炎がすべてを焼き切ったのだ。
『わが紅玉の剣は、万物を溶かす魔性の焔。天使なんぞの武器など、飴細工のように溶かして見せましょう』
ーー魔法だ! 魔法で殺すのだ!
天使達が、それぞれ極大魔法を用いて、ガイアスに攻撃する。
炎が、雷が、嵐が、ガイアスに襲いかかる。
かきぃいいいいいいい…………ん!
その瞬間、すべての魔法が、空中で凍り付いたのだ。
彼の左手に持つ、蒼い剣からは冷気が発せられている。
『わが蒼玉の剣は、万物を凍らせる絶対零度の冷気を発生させる。魔法をもって我がマスターを傷つけることは不可能』
ーーそんなバカな!? 物理・魔法攻撃、すべてが無効化されるだと!?
ーーなんだ!? いったいこやつらは、何者なんだ!?
「ボクはガイアス。ユリウス=フォン=カーライルの、弟だ! ……兄さんを、みんなを、返して貰う!」
ーーくっ! 調子に乗るなよ!
ーー然り! 所詮は人間! 我ら神々には遠く及ばず!
ーー然り! 人間は、決して神々に触れることができないのだっ!
集いし神々が、ガイアスの周りを取り囲む。
『老害どもの言うとおりです。人間では神々に触れることすらできない。……このままでは、ね』
ガイアスは両手の剣を、体の前でクロスさせる。
「ボクは約束したんだ。……もう二度と、大切なひとの命を、理不尽に奪わせないと」
目を閉じて、精神を集中させる。
【これ】は、とても集中力を要するから。
「たとえ相手が神であろうと関係ない。ボクは、大切な人たちの居るこの地上を荒らす相手を許さない」
ーー調子に乗るなよ人間風情が!
ーー殺せ! 殺せぇええええ!
神々が、
このままでは一方的ななぶり殺しだ。
そう、人間【では】、決して神に触れられないのだから。
「ボクはみんなを守る。そのために力をつけたんだ。いくよ……セイバー!」
無双の剣に宿る、剣の神が力を貸す。
人の身で、神に到達する唯一の方法。
すなわち……。
「【霊装】展開!」
その瞬間、超新星のごとく、莫大な量の光があたりを包み込む。
やがて光は、小さな体に収まる。
そこにいたのは……霊装をまとった、ガイアスだった。
ーーバカな!? 霊装だと!?
ーーそれは勇者神ユージーンしかたどり着けなかった、究極にして終局の極意!?
ーーなぜ!? ただの人間が!? それにたどり着けるのだ!?
神々は恐れた。
霊装の力を、わかっているのだ。
かつてユリウスが、天界を半壊して見せた力なのだから。
『わかってないようですね、老害ども』
「ほんとだよ、ボクがただの人間だと思ったら大間違いだ。ボクは、ユリウス=フォン=カーライルの弟だよ?」
たじろぐ神々。
ーーだ、だがそれがどうした!?
ーー貴様なんぞ所詮はユリウスの劣化コピーに過ぎぬ!
ーーその霊装も、よく見ればまだ未完成ではないか!
そう、本来の霊装は、霊的存在と完全に一体化するはず。
今のガイアスの霊装は、まだ完成に至っていない。
2割程度、といったところか。
ーーそんな未熟な力で何ができる!?
「みんなを救える。ただし……今のボクひとりじゃ、こいつら全員を相手にはできない。ボクだけじゃ……ね」
ガイアスは双剣を振るう。
虚空剣。
文字通り虚空を切り裂く剣術だ。
空間を裂き、そこから出てきたのは……ユリウスを閉じ込めてある、封印の結晶だ。
宇宙の彼方へ飛ばされたそれを、ガイアスは空間を引き裂いて、呼び出したのだ。
ーー無駄だ! いかに霊装を纏おうと、その結晶を砕くことは絶対不可能!
ーーその封印を解けるものは、この世に存在しない! もしいたらこの世の理に反する!
だがガイアスは、実に愉快そうに笑った。
「バカだね、あんたら兄さんのこと、わかってなさすぎるよ」
ビキッ……!
「不可能と
ビキビキッ! バキバキバキバキッ!
「だよね、兄さん?」
ばきぃいいいいいいいいいいいん!
彼を閉じ込めていた結晶が、粉々に砕け散る。
そこに居たのは……。
転生勇者、ユリウス。
五体満足で、地上へと帰還した。
「サンキュー、ガイアス。信じてたぜ、助けてくれるって」
「言ったろ? 兄さんも守るってさ」
ガイアスが突き出した拳に、兄は自分の拳を付き合わせる。
「霊装、できるようになったんだな」
「まだ未完成だけどね」
「現状でそれだけできりゃあ立派だよ。……さて、と」
ユリウスもまた、霊装を展開する。
……そこにいたのは、2人の勇者だ。
ひとりは、聖なる光の剣を持つ、絶対無双の最強勇者。ユリウス。
ひとりは、対なる無双の剣を持つ、未完成の新米勇者。ガイアス。
ふたりの勇者が、神々に剣を向けて、高らかに言う。
「「覚悟の準備は、できてるんだろうな?」」
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え、テイマーは使えないってパーティから追放したよね?~実は世界唯一の【精霊使い】だと判明した途端に手のひらを返されても遅い。精霊の王女様にめちゃくちゃ溺愛されながら、僕はマイペースに最強を目指すので