十字架

テーマ:

20191125日、嘱託殺人の直前には、このような(林さんの)ツイートがある。

65歳ヘルパー 体ボロボロなのは私のトイレ介助のせいなんだと責める 施設行きになる あそこに入ったら殺されると脅される むかついてもやめろと言えない 代わりがいないから 惨めだ」

 

私は一容疑者の一妻としては、何ら責任は感じないし、夫を擁護する気も一切ない。だけど一ソーシャルワーカーとして、また元衆議院議員としては、林さんの叫びを生涯背負い、贖罪の思いを持ち続けていく。なぜなら私は「代わりがいないから、惨めだ」という孤独と絶望に、林さんを追いやったものの一員だからだ。

 

新宿区役所障害福祉課職員だった時、私はALSを患う篠沢氏の担当ワーカーだった。詳細は守秘義務があるので書けないが、その当時に起きた事件がこちらである。

https://www.news24.jp/articles/2010/02/03/07152864.html

 

私は翌年、慶應の研究員として、同事件の背景についてインタビュー調査を行っている。ALS協会の方にもインタビューを受けていただいた。

「録音でもなんでもしていい。発表も自由よ」

と前置きがあり、篠沢氏妻が新宿区役所障害福祉課係長あてに抗議の電話をするとき、録音しながら横でついていたこと。その音源を一斉にメディアに投げ、大きく報道されるよう誘導したこと。そして新宿区から重度訪問介護サービス(月額200万強)の受給者証をとりつけ、ALS協会の関連事業所でサービスを提供するようにしたこと。重度訪問介護を担うヘルパーは、三日程度の研修を受けただけの学生であること※。

「だってしょうがないでしょ。あれだけマスコミで騒いだら、普通の訪問介護事業所は、(篠沢氏へのサービス提供を)引き受けないわよ。学生さんだって、患者の横について時々介護するだけで、本読んだり卒論書いたりしながら時給もらえるんだから、いいバイトよね」

と締められるところまで、気持ちよくお話しいただいた。なおこれらのインタビュー調査結果を学会報告しようとすると、ブーイングにあい、発表できないという経験もした。学会は、ALS患者の背景にある問題に触れたがらなかったのだ。

※訪問介護事業所の指定基準は、130時間以上の研修を受けた介護職員初任者研修などの修了者でなければならない。しかし重度訪問介護事業所は、三日程度の研修を受けるだけで、従事者となることができる基準となっている。

 

新宿区篠沢氏の事例を皮切りに、

「全国でも1000人程度しかおられないALS患者に重度訪問介護サービスを提供する」

という方法で、資金力をつけたALS協会は、発信力や政治力をつけていった。私は衆議院議員だったときに「難病の患者に対する医療等に関する法律」案の段階からかかわったが、ALS協会のもつ政治力の強さには、ただただ圧倒された。自民党も厚労省も

「全国で1000人ほどしかいない疾患だから、誤差じゃないか」

といい、それ以上は触れようとしなかった。今や参議院議員まで輩出されているほどの勢いだ。

 

衆議院議員をやめ、一開業医の妻となった私は、ALS患者さんをそれとなく避けてきた。ALS協会の政治力が怖かったから。夫から

「遠方のALS患者を、うち(のシェアハウス)で受け入れたいんだけど」

と言われたとき、よく話を聞かずに却下してしまったことを悔いている。今思えばたぶん、遠方というのが京都であり、林さんだったのだろう。

「移動中に急変したらどうするのだ」

といったのだが、本当はALS患者さんの背景にある政治力が怖く、関わりたくなかった。難病患者さんを支援したい気持ちはあったが、えり好みしていた。その後、福島のALS患者さんを引き受ける調整をしたことはある。まだ重度訪問介護サービスが入っていない、つまりALS協会の影響がない患者さんだったことを確認済みだったからだ。私と同様、ALS患者さんというのは、ケアマネも訪問介護事業所も訪問診療医師も、できるだけ避けて通ろうとしてしまいがちだ。みんなその政治力が怖くて。

 

前述を繰り返す。私は紛れもなく、

「代わりがいないから、惨めだ」

という孤独と絶望に、林さんを追いやったものの一員だ。

 

なお私は、ALS協会のやり方が必ずしも悪いとは考えていない。政治力や資金力を持つのは、権利擁護の一つの方法だ。ALSという難病の辛さや深刻さを考えれば、月額200万を超える公費だって、私は高いとは思っていない。問題は、介護の質が悪すぎたことだ。

65歳ヘルパー 体ボロボロなのは私のトイレ介助のせいなんだと責める 施設行きになる あそこに入ったら殺されると脅される むかついてもやめろと言えない 代わりがいないから 惨めだ」

ALS協会のみなさん、林さんの叫びを受け止めてください。私と一緒に反省しましょう。

 

そして厚生労働委員の皆さんも、厚生労働省の皆さんも、私と一緒に反省しましょう。

難病患者さんのもつ政治力におびえ、関わらないようにしたことで、一人の女性が死を請いました。この事実を忘れず、難病患者さんの支援体制の在り方を見直してください。

 

私は林さんに約束します。決して逃げないことを。