県は9日、新型コロナウイルスの感染者数のうち、重症に近い状態である「中等症」の人数の発表を始めた。重症が増え、医療態勢が圧迫されつつある現状に理解を促す狙いで、警戒レベルを最終段階に引き上げたい意図もちらつく。一貫して重症・中等症をベースに感染対策を打つべきだと主張してきた観光業界は「思ったより少ない。レベルを上げる必要はない」と県の狙いと真逆の反応を示す。(社会部・下地由実子、政経部・川野百合子)
県が突然始めた「重症予備群」の発表。理由を会見で問われた糸数公保健衛生統括監は「重症度が進んでいく状況を分かるようにするため。対策本部では、重症が一気に増えることを最も懸念している」と話す。
新型コロナは軽症、中等症、重症の3段階に分かれる。県の定義では、中等症は自力での呼吸を補う酸素吸入が必要な状態を指す。肺炎を起こしている場合も多く、人工呼吸器が必要とされる重症との「線引きは難しい」(糸数統括監)
重症化リスクの高い感染者が増えている今、県は重症の治療態勢や病床の確保を喫緊の課題と捉える。とはいえ、7月以降の感染者だけでも千人近い全体数に対し、重症は9日時点でわずか7人。糸数統括監は「重症の数だけ出しても危機感がピンと来ないかもしれない。中等症の数を発表して警戒を呼び掛ける意味がある」という。
重症にまつわる数値は、県の感染対策のポイントだ。重症手前の中等症の数字の発表には、県が警戒レベル指標を最終段階に引き上げたい意向がにじむ。
県幹部は9日、観光関係団体の幹部を集め、県の警戒レベル引き上げを巡り意見を求めた。業界は第1波の時から、外出や移動の自粛を呼び掛ける県の感染対策には否定的。観光関係者らは、無症状者を含む感染者全体の数を持ち出して経済を制限する対策を打とうとする県に対し、「重症を基に対策をすべきだ」(業界関係者)との不満を漏らし続けてきた。
中等症の人数の発表は、業界の反発を受けた県の対応とみることもできるが、関係者の受け止めは真逆だ。あるホテル関係者は発表された数値に「病床を専有しなければならない感染者数は、重症と中等症を合わせても第1段階にすぎない」と指摘。レベルを上げる必要はないとの認識を示した。