そして、“海辺の映画館”へ
“映画のまち”を歩いていると、やはり実際に映画が観たくてウズウズしてくるものだ。
尾道駅から徒歩30秒、尾道水道を後ろに背負って2008年に開館した「シネマ尾道」は、市内で現在も営業する唯一の映画館で、河本清順支配人こだわりの幅広いラインナップが地元の方から観光客にまで愛されている。
112席を有する「シネマ尾道」で鑑賞するのはもちろん『海辺の映画館-キネマの玉手箱』。『海辺の映画館』を楽しむために記者がお勧めしたい座席は、中央の前寄り。スクリーンにかぶりついて観ることによって、より没入感を味わえるからだ。
さて、準備が整ったら、179分にわたる大林監督の“記憶の玉手箱”を開いてみよう。
「シネマ尾道」を出て、映画の余韻に浸りながら尾道水道に目を向けると、大林映画にしばしば登場する本土と向島を結ぶ渡船、福本渡船の土堂港が目に入り、船着き場に向かった。
橘百合子の通学風景として『さびしんぼう』で特に印象的に登場する渡船だが、現在は橋を使って徒歩で本土へ渡ることが出来るにもかかわらず、映画公開から35年を経たいまでも10分間隔で運行が続けられ、地域の人々に愛されている。
夕陽が沈んでいく瀬戸内海を写真に収め、我々は尾道をあとにした。
…
以上、駆け足で尾道に残る大林映画の“記憶”を辿ってきたが、大林監督が尾道で撮影した作品は実に17本におよび、細かなシークエンスを含めていけば、ロケ地めぐりには際限がない。
事実、取材中にも、意識せずに移動していただけで、『日本殉情伝 おかしなふたり ものくるほしきひとびとの群』(88)や『マヌケ先生』(00)などの諸作に登場した景色に出会うことができた。
市内を実際に歩いてみると、たとえそこが映画に映っていなかった風景だとしても、どこか懐かく感じられ、ふと角を曲がれば地続きに大林映画の世界に踏み込めるようだった。
『海辺の映画館』のオープニング上映と舞台挨拶が決まっていた第4回尾道映画祭が中止となり、監督本人も望んでいた尾道凱旋が叶わないまま、今年4月、大林監督は82歳でこの世を去った。
惜しくも生前、『海辺の映画館』についてインタビューする機会は得られなかったが、尾道での取材を通して、監督が伝えたかった想いの一端に触れられたように思う。
映画を観て、少しでも尾道の街に興味を持たれた方は、ぜひ実際に尾道を訪れてみてほしい。きっとここで、大林映画の“記憶”に出会うことができるはずだ。
取材・文/編集部
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