<戦後75年>米中の「新冷戦」 狭間の国はどうしのぐ

2020年8月10日 07時38分
 「新冷戦」とまで呼ばれる米国と中国の覇権争い。「熱戦」へエスカレートさせないために両国には自制が必要です。一方、日本をはじめ米中の狭間(はざま)にある国々に求められるのはバランス感覚です。
 戦後長らく続いた米国とソ連の冷戦が終結すると、到来したのは米国の一極支配時代。それもつかの間、のし上がった中国が超大国の米国に挑む時代に入りました。「ポスト冷戦後」は再び別の冷戦というのは、うんざりします。
 最近の中国の覇権主義的な振る舞いは容認できませんが、米政権の中国たたきも度が過ぎます。再選のかかるトランプ大統領には「外敵」をつくることが選挙戦略なのでしょう。
 米国には「コロナ後」を見据えた焦りもうかがえます。
 新型コロナウイルスの感染者が世界最多の米国は沈静化のめどが立たず、経済回復の遅れも避けられません。
 対する中国は感染拡大が再燃する可能性はあるものの、はるかに先行しています。「コロナ後」に世界経済再建の主導を握るのは中国になる気配が漂います。そうなると中国の影響力は一層大きくなります。
 ポンペオ米国務長官は中国の共産党体制そのものを標的にして自由主義陣営が結束して中国に対抗するよう訴えます。
 ですが東西の両陣営がブロック化して対峙(たいじ)した冷戦時代とは違い、自由主義国でも中国との相互依存関係は深い。事はそんな単純ではありません。
 ポンペオ氏も「われわれは経験したことのない複雑で新しい試練に直面している。ソ連は自由世界とは隔絶していたが、中国はわれわれの内側に入り込んでいる」と認めています。
 一九七〇年代、ニクソン米政権が中国に接近したのには、ソ連への対抗策という狙いがありました。米中和解は世界の勢力地図を一変させました。
 ただ、ニクソン大統領を歴史的な訪中に送り出したキッシンジャー大統領補佐官は、いずれは中国に対抗するためにソ連と手を握ることが必要になる日が来ると予測していました。
 ところが二〇一四年のロシアによるクリミア併合を直接のきっかけに、米ロ関係は冷えきったまま。その中ロは大規模な合同軍事演習を行うほどつながりを深め、今や準同盟関係とまで言われます。米国には同時に二つの大国と向き合うという難しい展開です。

◆うごめくアジア太平洋

 「パクス・アメリカーナ(米国による平和)」が幕を閉じ、米中対立が先鋭化するにつれ、その狭間にある国々が協力し合う機運が高まっています。
 インドのモディ首相とオーストラリアのモリソン首相は六月、テレビ会議形式で首脳会談を行い、戦略的な協力関係を深めることで合意しました。
 次官級だったのを外務・防衛閣僚協議(2プラス2)に格上げし、日本を加えた三カ国の連携も図ることになりました。
 豪州は新型コロナの発生源を調査すべきだと主張したことが中国の反発を買い、食肉や大麦の中国向け農産物輸出に「制裁措置」を受けました。
 一方のインドもこの首脳会談直後、中国との国境紛争が再燃し、犠牲者を出しました。急接近した印豪。モリソン氏は首脳会談で「ほかのパートナーとの関係強化も大変重要だ」として、日米にインドネシア、ベトナムの名を挙げました。
 米中対立に巻き込まれる危険を小さくしたり、米中への依存度を下げることで被害を減らそうと、各国とも躍起なのです。
 安全保障の分野で豪州はインドネシアとつながりを深めていますし、日本も印、豪、カナダなどと協力関係にあります。
 二国間であれ多国間であれ、協力関係を深めて手持ちの外交カードを増やし、あるべき地域秩序を模索する−。こうした動きはますます活発になるでしょう。

◆負の遺産の清算は遠く

 それにしても「ポスト冷戦後」まで時代が移ったのに、なぜか北東アジアには冷戦時代の遺物が二つも残っています。
 一つは朝鮮半島問題。冷戦の落とし子として南北分断が固定化されたままです。
 もう一つは北方領土問題。日ソ間に争いの種を残そうとした米国に、領土問題と日米安保条約を絡ませたソ連。領土問題は大国の思惑にほんろうされました。
 どちらも冷戦の戦後処理が済んでいないことによる残滓(ざんし)です。しかも、領土問題は第二次大戦の戦後処理という二重の意味を帯びています。
 負の遺産が清算される見通しが立たないのは、残念です。

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