「女漁師」と呼ばないで!男性社会の漁業に私が挑む理由

男性が多い漁師の世界で、女性の漁師として働く大変さとは――。

各業界で女性の活躍が見られる昨今。これまでは“男性の仕事”と考えられてきた職業の中にも女性の進出が増えてきています。

今回お話を聞いたのは、実家の漁業を継ぐため、大学院卒業後に漁師になる道を選んだ、大沼瑞保(24歳)さん。静岡県東部で漁師として働く彼女に、男性が多い漁師の世界へ進んだ理由、漁師として働く上での大変さなどを教えてもらいました。

――漁師になろうと思ったきっかけを教えてください。

実家は海のそばにあり、マアジとマダイの養殖やイワシまき網など、幅広く漁業を営んでいます。小さい頃から、海や魚と触れ合う環境にいて、私にとって海は庭で魚は友達でした。

一般的に子ども用プールって聞くと、ベランダに置くようなビニールプールを想像すると思うんですけど、私の家では活魚用の水槽がプールで(笑)。海水を張って、しかも魚が泳ぐ中で私も泳いでました。そういう環境もあって、魚のことは昔から大好きでした。

女性漁師
大沼瑞保

元々は魚を研究することに興味があって、さかなクンになりたかったんです。大学では魚の行動や生態だけでなく、海の魚をどうやって獲ってお金にするかについても学びました。大学の研究室では、たくさんの漁師さんの元を訪れ、現場で漁船に乗らせていただき、漁を体験しました。

富山県で出会ったある漁師さんに、「親が漁師なんです」って話してて、実際に船の上で網を引いてみたら、「センスあるね。漁師のDNAだ」って言われたんです。それで、私にも漁師のDNAがあるのかなと思いました。

また漁業を実際に体験してみて、魚を獲ることの楽しさや自分で獲った魚の美味しさを知りました。漁師の魅力に気づき、さかなクンになるという夢から、漁師の道へ路線変更したんです。

女性漁師
大沼瑞保
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――「自分が後を継がないと」という思いもありましたか?

漁業ってどこも子どもが継ぐっていう風潮があって。私は三姉妹の長女で、妹たちは絶対やらないから、後を継ぐとなったら私がやるか、誰かと結婚して漁師になってもらうっていうことしかなかったんです。でも結婚した相手に無理を言って漁師になってもらうんだったら、「私がやればいいじゃん」っていう気持ちもありました。

周りからプレッシャーをかけられてた訳ではないんですが、自分でプレッシャーをかけてたかもしれないです。昔は後継ぎのことなんて考えていなかったけど、大学生になって周りが就活し始めたら、やっぱり色々と考えるようになりました。代々続いてるから、父の代でなくなってしまうのは悲しいという気持ちもあって。だから私が漁師になるって決めたときは、父もうれしそうでしたね。

――後継ぎ問題は深刻そうですね。

私の家だけでなく、全国的にも後継ぎがいなくて困っている人が大勢います。問題はたくさんあって、休みが少なかったり、労働がハードだったり。あと漁業のイメージには「きつい、汚い、危険」っていう3Kっていうのがあって。これらを改善しようとする取り組みは、漁業界でもあるんです。

漁業って仕来りを守るっていう風潮があるのですが、いいものは残しつつ不便なところは改善していって、若い人たちが働きやすい環境に変える必要があると思います。私も変えていきたいです。

女性漁師
大沼瑞保

――女性であることで、ぶつかった壁はありますか?

直接言われたことはないけど、なにごとも“女性だから”って思われたり、できる仕事に差があることが嫌で。自分は力もあるし、男性に負けないくらい力だってある。重たいものを持つとか、私にだって出来るって思うんです。だから、どんなときでも絶対に率先して動いています。

でもやっぱり、どうしても重いものは、周りの人が助けてくれたりして支えてもらっています。仕事をし始めたら、身体的な差はどうしてもあるなと感じます。その壁をどのようになくすのかは課題です。

85歳の現役漁師の祖父と一緒に働いていると、身体的な差は女性だけでなく高齢者にもあると感じます。機械を上手く利用して身体への負担が軽くなれば、性別や年齢の壁がなくなって、みんなが笑顔で働ける漁業の環境が作れるのかなと思います。

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女性漁師
85歳の現役漁師の祖父と一緒に
大沼瑞保

――女性の漁師としてスタートするときは、どんな気持ちでしたか?

これまでは、自分は女漁師だと思っていたんですけど、国際女性デーのプロモーションをSNSで見かけて。それを見てからは、男性の職業と思われがちでも、わざわざ“女”って付けなくていいんだって思いました。私は女漁師って言わなくていいんだって、私も“漁師”って名乗っていいんだって気づきました。

でも実際は、結構男社会です。今でも女性は船に乗せないというところもあります。また、小型漁船にはトイレがついていないことが多いです。家の漁船もトイレがついていなかったのですが、私が漁師としてスタートするにあたって、父がトイレをつけてくれました。私が頼んだわけではないのですが、気づいたらトイレがついていてびっくりしたし、父の優しさがうれしくて「頑張らなきゃ」と思いました。

「私は女漁師じゃない」実家の漁業を継ぐため、漁師の道へ
船の前方にある白い箱がトイレ
大沼瑞保

地域の集まりでは、漁師をやっていると言うとびっくりされることもあるけど、みんな応援してくれているので、それはとってもうれしいです。

――今後はどのような漁師になっていきたいですか?

漁業って海の上ということもあって、普通の人にはイメージしにくいと思うんです。だから魚がどうやって獲れるのか、どうやって育てているか、魚の美味しさなんかも伝えられるような漁師になりたい。父は漁師としてはすごいけど、携帯とかネットは使えなくて。今は仕事に慣れることが第一優先ですが、SNSなど若いからこそできることで、今後は海や魚の魅力を発信していきたいです。

あとは、持続可能な漁業にしたい。昔は魚が海にたくさんいて、獲れば獲るだけ儲かったんですが、今は魚の漁獲量が減っていて。だから少ない量の漁獲物を、いかに価値を高くして売るかっていうところに、重きを置くような漁業に変わってきていると思います。家の養殖業では、新鮮な魚を味わってもらいたいので生きたまま出荷しています。魚の扱い方の工夫、処理の仕方などで、価格って変わってくるので、魚を無駄にしない、魚にやさしいような漁業にしていきたいです。

実際やってみたら大変な職業で辛いこともあるけど、心地良い海風と魚に囲まれて楽しくやっています。将来的には力の差などもなく、女性も男性と同じように漁師として働ける環境になったらいいなと思います。

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