イージーピールって、ツンデレ

イージーピールフィルム篇

食品パッケージに使われるDICの共押出多層フィルム、「イージーピールフィルム」は、ツンデレです。いったい、何がツンで、何がデレなのでしょうか?

DIC岡里帆研究室主任 DIC岡 里帆 DIC株式会社 塗工技術部 PM技術1グループ マネージャー 森谷 貴史

今回のお話は、食品パッケージのフィルム。プリンやお豆腐のパッケージで、上の面にフィルムがついているもの。また、お惣菜やサラダなどのパッケージでも、固いプラスチックをはめ込むフタではなく、フィルムになっているものも、ありますよね? スルーーってはがす 、あれです。私が愛してやまないDICの「イージーピールフィルム」について、開発担当の森谷さんとお話しします。

DIC岡さんが、私たちが開発しているフィルムを、推していただいているって聞いて、今日は楽しみにやって来ました。

推していますとも、森谷さん。イージーピールフィルムがすごいのは、まず、あんなに薄いフィルムなのに、一層ではなく多層になっているところ。みなさん、信じられます? あの薄いフィルムが、実は何層もの素材でできているんですよ! ね? 森谷さん!

さすがDIC岡さん、よくご存じ。薄さは30㎛(1ミリの約30分の1)程度ですが、2層や3層になっているんですよ。

でも、なかには、「どうして多層なんて、ややこしいものを、わざわざ作るんだ!? 一層で十分じゃないか!?」なーんて思う人もいるかも。森谷さん、そこにはどんな理由があるんですか?

多層にしているのは、1枚のフィルムに複数の機能を持たせるためです。食品パッケージのフィルムは、しっかりとくっついて中身を密封していますよね。勝手に開いてしまったりしません。でも、いったんはがし始めると、スルーーって、簡単に開きます。これは、“しっかりくっつく”という機能を持つ層と、“気持ちよくはがせる”という機能を持つ層を、多層にしているフィルムだから、できるんです!

わずか30㎛(1ミリの約30分の1)程度のフィルムが、複数の層でできています。多層化することで、さまざまな機能を持たせることができます。

密封しているのに、開けやすい。しっかりくっついているのに、スルーーって気持ちよくはがれる。それは多層だからこそ 、なんですね!ああ、イージーピールフィルムって、ツンデレ。ツンツンしてるかと思えば、デレデレしてる、みたいな。  変更の必要はないかもしれませんが、多層にしているからこそ、高い次元でそれらを両立しているのは事実ですが、多層でなくてもイージーピールは可能なものもあります。

他にも、異なる機能を持つ素材を組み合わせて多層にすることで、新しいフィルムを生み出していますよ。たとえば、“剛性の高い素材”だけでは衝撃に弱いのですが、そこに“柔軟性の高い素材”を組み合わせて多層フィルムにすると、“剛性がそこそこ高くて衝撃に強いフィルム”ができるんです。

そんなに続々とツンデレさんが生まれてきちゃう!? 化学のチカラってすごい!でも、ちょっと待ってください、森谷さん。多層フィルムをつくるって簡単にいいますけど、素材を混ぜ合わせてしまうのではなく、そのままで多層化して、あんなに薄いフィルムにしているのですよね?それって、難しくないのですか?

ええ、以前は難しかったのです。こうしたフィルムを「共押出多層フィルム」と呼ぶのですが、DICはTダイ法による共押出多層フィルムを1970年に国内で初めて製造・販売したメーカーなんです。

共押出多層フィルムの製造方法(Tダイ法)原料となる複数の樹脂を熱い液体にして、Tダイという金型を通して同時に押し出し、ロールに巻き付けながら冷やすと、多層化されたフィルムができあがります。

DICがパイオニアなんですね!一緒に押し出してつくるから「共押出」っていうのかー。なるほど!

DICでは、さまざまな共押出多層フィルムをつくっています。たとえば、スーパーマーケットなどに並んでいる食パンが入っている袋も、共押出多層フィルムの一種なんですよ。そんなフィルムたちの中で、食品パッケージのフタの代わりになるトップシール用が、イージーピールフィルム。ちなみに、イージーは“簡単”、ピールは“はがす”って意味です。

それにしても、しっかりしまっているのに、開けやすい、なんて不思議。イージーピールフィルムは、どうやって生まれたんですか?

1980年頃、ある別の製品を開発している時に、フィルムの層と層をくっつけようとしたところ、はがれやすくて困っていたことがあったそうです。ふつうはそこで失敗作として終わってしまうわけですが、はがれやすいことを利用して、新しいフィルムができないだろうか、と研究をスタートさせたと聞いています。

すごい、イージーピールフィルムは、逆転の発想から生まれたのですね!イージーピールフィルムのおかげで、私は今日も、大好きなプリンのフィルムをスルーーっとはがして、おいしくいただくことができます!

たとえば、お惣菜やサラダなら、固いプラスチックをはめるフタの 商品では、完全には密封できないので、中には普通の空気が入っていますが、イージーピールフィルムなら密封できるので、なかの空気を抜いて食品の鮮度を保つ窒素などのガスを充てんし、劣化を防いで消費期限を延ばすことができるのです。

そういえば、コンビニのサラダ、以前は固いプラスチックのフタ をはめるものが多かったけど、最近はトップシールのものが増えている気がします!そうか、新鮮さをキープできるということは、ただおいしいだけではなくて、消費期限が延びるということ。そうすると、廃棄する食べものが減る。つまり、フードロスを食い止めることになりますよね!  

その通り! イージーピールフィルムが社会のお役に立っているのは、私たちもうれしいですね。でもね、DIC岡さん。イージーピールフィルムの開発は、これで終わりではないんです。食品メーカーさんからは、「今度はこんな食品を中に入れたい」といったお話がきます。そうした要望に合わせて、さらに機能を高めることや、新たな機能を持ったフィルムをつくることにチャレンジしています。たとえば、中の食品をキレイに見せるために、曇りにくいイージーピールフィルムも開発しました。それは、曇りにくい機能を持った層を入れることで実現したんです。

すごい! また新たなツンデレさんの登場ですね! そうした新しいフィルムの開発って、どうやって行うのですか?

まずは私たちが実験室で、あーでもない、こーでもないと試作を繰り返します。これは行けるという試作品ができたら、実際に容器に貼りつけて、強度を測ったり、高温で殺菌処理をしてみたり、低温にして、落としてフィルムが破れないか?など、実用性の確認のテストをします。

森谷さん(仕事風景)

私が大事だと思うのは、はがす時に気持ちよくスルーーってはがれるかどうか。そんなこともテストしたりするんですか?

もちろん、それも大事にしています。どれくらいの力ではがせるのかを測るために装置を使って引張試験をするのですが、それだけでなく、私たちが人の手で実際に何度も試してはがすときの心地よさについても評価しています。

へえー。人間と機械が、それぞれスルーーってやってみて確かめるんですね! 感性とデータの二刀流!

でも、本当に難しいのは、その後なんです。実験室では、ほんの少しだけつくれればよいのですが、工場での量産では、安定して大量に良い製品をつくる必要があります。実際に工場でつくるとなると、思い通りに行かないことも多く出てくるんですよ。新しい原料を製造工程に流したら、まったく想定していなかったような、表面がスジだらけになった使い物にならないフィルムができてしまった、なんてこともあります。

ええっ!? 森谷さんのようなベテランの開発者でも失敗することがあるんですか!?

新しい製品をつくる時には、失敗はつきもの。それを乗り越える方が、やりがいがあるんです。だから、いつも新しいアイデアを考えたり、ヒントを探したりしています。休日に買い物に出かけた時も、何かヒントがないかと、いろいろな製品をつい手に取ってじろじろ見てしまいます。家族には「やめてほしい」って言われますけどね(笑)。

森谷さん(仕事風景)

森谷さんたちのそうした熱意と努力で、イージーピールフィルムは進化を続けているんですね。これからも私は推し続けますよ! 今日はありがとうございました。

DIC岡さん、こちらこそ、ありがとうございました。私たちは、イージーピールフィルムを進化させることが、フードロスを少なくすることや、プラスチックゴミを軽減することにもつながると考えて、日々、開発に取り組んでいます。DICが生み出す新技術や新製品の話を、また聞きに来てくださいね。

あなたにとって、イージーピールフィルムとは?

森谷さん(直筆パネル持ち)「スペックだけでなく 感性も求められる 面倒なヤツ まだまだやることあるな!

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