麦秋月8日
出かける前提案を受けた。マッピングの日、迷宮内の採取物採集の日、魔物探索の日と 日を分けてはどうか、というのだ。 彼らは結構迷宮内の構造を頭で覚えているようで、まだるっこしいのだろう。 特に異議はないが、あまりそれで遅れるようなら元に戻す、と答えた。 あ、そうだ。みんな今日から君付けで呼ぶ事にした。だって一番年上のアルゴスだって 「6」も年下。ああいやだいやだ。 今日は、魔物探索に集中する日。迷宮の魔物の中で、特に強い殺気を発し放浪している ものがいるそうだ。それを狩って見せたい、という。 特に、それは他の雑魚と違って一度狩ると数日は姿を見せなくなると言う。 他のパーティに狩られると待たなくてはならない。特にそれから取れる角や毛皮は 高くでシリカ商店に引き取ってもらえるから、腕に覚えのあるものには狙われて いるらしいのだ。FOE、と冒険者は言い表しているらしい。
一階の先の階段を下りる。まだ明るい。 「この先は毒吹きアゲハが沢山出てくるから注意して欲しいっす」 カンパネラから注意を受けた。気休めにハーブ汁を浸したバンダナで口を覆う。 「なんだそりゃ、周りが見にくくならないか?」 不思議そうな顔でドラグーンが言うが、他のみんなは軽くうなずいてくれた。 ここで出る生き物は、さっきのメイキュウドクアゲハ、森ウサギ。 ウサギかわいくない。故郷の家畜のウサギはかわいいのに目が違う。あと凄く太っている。 迷宮の生き物が太っている、もしくは極端に大きいのは食べ物になる植物達のせいも あるのかもしれない。空気も、なんとなく違う。 そしてフィンドホーン。 「フィンドホーンは、ちょこまか動いて狩りにくいんだよな・・」とはドラグーン。 これの角はちょっと価値がある。お土産の飾り物としても人気だ。 と、あまりにもそれは堂々とこちらに近づいて来た。 「あれが狂える角鹿です、下がって!」 口元に大きな牙が見える。鹿に牙!?慌てて木の幹に背中をつけるが、 ちらりと目が合ってしまった。 「走れ!その角まで曲がって待っていろ!」アルゴスが一喝した。 走って逃げる、その後ろからどがどがっという大きなひずめの音と、武器の音がする。 角に曲がって一旦止まり、様子をうかがうがひずめの音は近づかない。 かわりに怒りのいななきと気合いの声が聞こえる。少し覗くと、鹿がつんざくような 吠え声をあげた。頭がおかしくなりそうだ、何、この声は! ちょっと見るとアルゴスの様子がおかしい。目がうつろだ。 ゆらりと刀をドラグーンに向けている。 思わず走って、荷物入れの中の水袋をアルゴスの顔に投げつけた。 彼がはっとした顔をしたのを確認して、そばに寄ってきたのをまた怒られては かなわないからまたそこの角へダッシュした。息があがってつらい。 精神を乱す声を出す、と記録。と、記録している間に断末魔の声が聞こえた。
アルゴスは、ちょっとプライドを傷つけられたのか口をへの字にして水袋を渡してくれた。 ドラグーンは私を後ろにひっぱって連れて行き、合掌して礼の意を伝えた。 無言なのはアルゴスに遠慮しているかららしい。 「これが、FOEなのね?」 「そうです。この階にはもう一種類、野牛が居ます」 「どうするの?」 皆は顔を見合わせていた。 この後、見るだけなら、とその狂牛と、ついでだといって3Fのカマキリも走って走って 逃げながら見させられた。 3Fのカマキリは今まで幾多の冒険者を屠ってきたらしい。彼らも、倒せない事はないらしいが エネルギーのロスなので走って逃げている事にしているそうだ。 しばらく走って逃げそうだが、いつかはゆっくり解剖したい。 疲れた。今日は、一階探索で解禁されたアリアドネの糸で帰った。 魔物のラフスケッチを補足して、寝よう。彼ら、もう寝ているし。
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