それが、リズムネタ「ラッスンゴレライ」で2014年に大ブレイクした「8.6秒バズーカー」だ。「ラッスンゴレライ」のYouTube再生回数は2200万回を超え、よしもと史上最速でなんばグランド花月単独ライブを開催。そんな人気絶頂だった彼らはなぜ、“テレビに出ちゃいけない芸人”“反日芸人”のレッテルを貼られたのか。
■「8.6秒バズーカー」をめぐるデマの“真実”
彼らに反日芸人の疑惑が持ち上がったのは、原爆の投下と8.6秒バズーカーを関連付ける話題がネットに溢れたこと。・ネタ「ラッスンゴレライ」は爆弾投下の号令“落寸号令雷”を意味する
・ネタのセリフ「ちょっと待って!」は爆撃機“チョットマッテ号”の意味
・揃いのサングラスはマッカーサーを意味する
しかし、この反日疑惑は単なる憶測だけで始まったわけではない。デビュー前、当時大学生だったはまやねんがTwitterに書き込んだ「もう日本オワタ。中国とロシアに一気に攻め込まれる(笑)植民地ぷぎゃあ」というつぶやき。はまやねんは「政治的な知識もないのに適当にカッコつけてつぶやいてしまった」と弁明しているが、この反日疑惑によって、出演番組のスポンサーにはクレームが殺到。出演した番組もお蔵入りし、人気絶頂だった2人は突然テレビの世界から姿を消した。
田中シングルも「すごいスピードだった。『1日20何本も仕事できるんや』って」と振り返りつつ、反日芸人疑惑が広まった時の対応について「会社の人間も僕らもどうしたらいいか分からなかった。事実ではないことなので、放っておいたら収まるでしょうと。否定しても肯定しても、ネットの人は反応してもらったから『もっと言ってやれ』となる」と、静観する立場をとったことを説明した。
8.6秒バズーカーをめぐるデマについて、2人は真実を次のように語る。
・コンビ名の「8.6秒」は8月6日の原爆投下日を意味する
→コンビ名は「秒数と漢字とカタカナを入れたらカッコいいのでは」くらいに考えていた。はまやねんが50mを走ったタイムにしようとなって、8.6秒。『頭文字D』の“ハチロク”みたいに略せるし、カッコええやんというノリで決めた。それが8.5秒でも8.7秒でもコンビ名になっていた。(「バズーカー」は)カタカナで濁点、“バビブベボ”とかが入っている言葉は比較的覚えやすいから、バンド名に使ったらいいというような知識だけあった。「バキューム」というのも最初はあったけど嫌やなと。
→深夜2時のテンションで“ラッスンゴレライ”みたいな。“モッスン”でも何でも良かった。「本当の意味はなんですか?」と聞かれた時に「いや、深夜のテンションで」という話しか言えないので、それも後付けの理由だと言われたポイントだと思う。当時、バンビーノさんも僕らとよく一緒に出ていて、“ダンソン”というネタも「男尊女卑」がどうのこうのと言われていた。その時に、バンビーノさんは「ダンシングソング~」とすぐに説明していて、「お前らもそうしとったら良かったな」とは言われた。
・ネタのセリフ「ちょっと待って!」は爆撃機“チョットマッテ号”の意味
→ファンの人からも「これはありました。すいません」と言われた。当時、(爆撃機に)日本の言葉を付けるのがちょっと流行っていたということらしい。(デマの中に)事実がある分、信憑性が増して「ここはホンマなんかい」という感じで広まった。
・揃いのサングラスはマッカーサーを意味する。その他衣装への難癖
→たまたまNSCの授業の合間に、衣装もなく私服でサングラスだけかけてネタをしていた。(衣装は)揃えようかと服屋さんに入って、半ズボンと長ズボンのピンクのセットアップがあったので買っていたくらい。サングラスも最初は恥ずかしい、目が泳ぐからかけていたくらいなのが、無理やり関連付けられた。
さらには、8.6秒バズーカーに対し「在日だから日本が嫌いなのではないか」との中傷もあるという。田中シングルは「これもよく言われた。僕らは両親とも日本人でパスポートを出したりもしたが、それは反映されない。僕らが『在日ではない』という言い方をすると在日の方々に失礼にあたるし、デリケートな部分なので強く言うところではないと。日本人だという事実を話しても、そこは広まらない」と苦悩を語った。
■8.6秒バズーカーが「静観」してはいけなかった理由
ネット炎上の対策に詳しいMiTERU代表のおおつねまさふみ氏によると、8.6秒バズーカーがネットで拡散するデマを「静観」してはいけなかった理由があるという。また、虚実が混じった状況におけるデマの拡散力について、「ネットの特徴というよりも昔からのこと。僕が子どもの頃は『ノストラダムスの大予言』という本があって、詩のここと、ここと、ここは大地震を表しているといったことはすごくワクワクして面白かった。これはネット上のデマでも全く同じで、原爆の日にこじつけて考えると、『反日芸人だ』というのが予言の解釈のようになって、コンテンツとして面白くなってしまう。それに対抗する、上書きできるような“もっと面白いこと”を言わない限り皆が信じてしまう。信じた方が快感があるから広まってしまう」と説明した。
そうした状況におおつね氏は「ネットのデマでも本当の動画でも証拠が本当に大きい」とし、「新聞の文字を差し替えた落寸号令雷を『証拠だ』と皆が広めたのと同じように、『あれは僕が深夜2時のテンションで作った言葉です。当時のネタメモはこれです』という写真などがあれば、こっちも証拠があるんだなという説得力になる。多少の反論というか、『あれは嘘だから』というのにも面白味が出るはず。証拠もなくただ『僕はああでした。こうでした』と言っていても、『言い逃れ、言い訳をしている』と受け取られ、証拠がないから『信用したいけどちょっと納得できない』という状態で止まってしまう」と補足した。
■弁護士「書かれた人間がデマだと証明するのはかなり大変」
裁判の過程について、深澤氏は「例えば、新聞社に名誉を毀損されたらその新聞社を訴えればいいが、インターネットの場合は誰が書いたのかを突き止めないといけない。そのためには2回裁判をする必要があって、書き込まれたのが掲示板であれば、掲示板の管理者を訴えて、IPアドレスなどの情報をもらう。その情報を使って、通信業者に『この時間、この番号を使っていたのは誰か』ともう1回訴える。その情報が手に入ってようやくスタートライン。さらに3回目で賠償請求をする」と難しさを説明。
では、8.6秒バズーカーはこれからも真実を言い続けていくしかないのか。おおつね氏は「『お前、デマに騙されているじゃないか』というのもある種、バズる理由になる。『8.6秒バズーカーに関するその情報デマだよ』『騙されているよ』という面白さを強めて笑いにしていくしかない」と話した。
(AbemaTV/『AbemaPrime』より)