prednisone

SLEを始めとして慢性期の自己免疫疾患における治療は、少量のステロイド剤で維持される場合も多いと言われている。この場合数年から数十年間にわたり5mg以下の少量のプレドニゾロンを長期間内服することになる。以前5mgのプレドニゾロンを数ヶ月にわたって服用した経験があり、5mg以下の投与がどの程度の副作用をもたらすのか調べたいと考えていた。以下では、少量のステロイド剤の長期間投与による副作用について研究されたいくつかの論文を見て行きたい。

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最近の研究で、ヒトの体内では通常糖質コルチコイド(内因性の生理的分泌されるステロイド)が合成ステロイドであるプレドニゾロン又はプレドニゾンに換算して2.5mg/日程度分泌されることが分かっている。

synthetic steroids

以前は内因性ステロイド(ヒドロコルチゾン)は20mg程度が生理的分泌量だと考えられていたことから、それに相当するプレドニゾン5mgの服用は約1倍グルココルチコイドが増加するとされていたが、現在では内因性ステロイドは10mgという値に修正されていることから、プレドニゾン又はプレドニゾロン5mg投与は約2倍増加させるため、副作用のリスクを十分に考慮しなければいけないという見解に変わってきているようである。以下の論文では、7.5mg以上の3週間以上の投与が副腎皮質機能を有意に抑制すると書かれている。

  • 従来、健康成人における内因性ステロイド(ヒドロコルチゾン:F)の1日分泌量は20mg程度といわれたが、Estebanらは5.7mg/㎡相当(体表面積1.7㎡の成人例で10mg程度)と報告している。いずれが正しいか本稿で言及しないが、近年、生理的な1日分泌量を約10mgと考える傾向にある。
  • プレドニゾン(PSL)はFの4.0倍のグルココルチコイド作用と0.8倍のミネラルコルチコイド作用の力価を有し、RA治療に適するステロイドである。従来、原則として合成ステロイド1錠はF20mgとほぼ同等のグルココルチコイド作用となるように製剤化されてきた。すなわちF20mgに相当する
  • PSL量は20/4.0=5.0mgとなる。Ichikawaは1日F分泌量に相当するPSL量を3.5mg前後と推定していた。ここで、1日F分泌量が10mgとすれば相当するPSL量は10/4.0=2.5mgと計算される。
  • 以上から「通常のPSL1錠=5mg」は内因性1日F分泌量のほぼ1倍から2倍の範囲内のステロイド量といえる。
  • 7.5mg以上の3週間以上の投与が副腎皮質機能を有意に抑制すること、7.5mg未満の内服後に飽和されるGRは40-50%未満であることなど、病理生理学および薬物動態学データから考察すると低用量の上限を7.5mg程度と決めるのが妥当かもしれない
(ステロイドの話題-関節リウマチ治療を中心として-)

また、ステロイド剤の長期服用による副作用には易感染、骨粗しょう症、肥満などが良く知られているが、脂質代謝の異常などを介して動脈硬化が起こることも最近分かってきている。以下の論文には糖質コルチコイドによって調節される遺伝子が少なくとも20数種類あることが示されている。

gene expression

(ステロイド薬を用いるときに気をつけるべき脂質代謝異常)

また以下は、キョーリン製薬のHPで見ることのできるPDFで聖マリアンナ医科大学の教授によるステロイド投与による副作用についてのインタビューが掲載されている。心筋梗塞の頻度と累積ステロイド投与量が関連があり、プレドニゾロン5㎎を約10年間投与した際に頚動脈プラークが形成される可能性があるとしている動脈硬化は一般的には不可逆性のものと考えられているため、脂質代謝異常への対策は行うべきなのかもしれない。その他の感染症や骨粗しょう症についても言及されている。以下は要約を行った文章である。

■感染症
  • 全身性エリテマトーデスにおいては、ステロイド投与量と感染症の頻度は比例している。
  • プレドニゾロンを1日に20㎎以上投与すると、1カ月間に4.4%の患者さんが重篤な感染症に罹患する。
  • 40㎎以上では1カ月間に14%、60㎎以上では(実際はこの量で大量投与することは少ないが)、1カ月間20%で重篤な感染症に罹患する。
  • ステロイド少量投与では、関節リウマチ患者全体で入院を要する肺炎の頻度は1カ月間に0.13%であるのに対し、プレドニゾロン5㎎以下の投与を受けていた期間では1.4倍に有意に増加している(Wolfeらの成績による)。
  • 5~10㎎の投与では2.1倍に増加していた。
  • 免疫抑制薬(メトトレキサートあるいは生物学的製剤)の投与期間よりもステロイド少量投与期間のほうが感染リスクが高かった。

■骨粗しょう症
  • ステロイド服用者の骨折率は非服用者の1.9倍と言われている。
  • 骨折部位としては、主に脊椎骨、大腿骨頸部、肋骨などに起こる。
  • 骨折は、累積投与量より毎日の投与量が関係すると言われており、プレドニゾロンで1日2.5㎎でも骨折のリスクが1.5倍に増えるという報告もある。
  • ステロイド投与によって椎体の骨密度は3カ月で急速に減少し、6カ月以後は緩やかに低下して以後その率が続く。
  • プレドニゾロン5㎎以上を3カ月以上使用する予定のあるときは、ステロイド骨粗鬆症の薬物療法を行う。
  • ビスホスホネートの投与によって、新規の椎体骨折は最初の1年間では約50%、2年間では約90%抑制されると報告されている。

■動脈硬化
  • ステロイドは少量投与でも脂質代謝を介して、あるいは直接的に動脈硬化を促進している可能性が考えられている。
  • すなわち、ステロイド投与が頸動脈プラークの形成と関係し、さらに心筋梗塞の頻度と累積ステロイド投与量が関連することが報告されている。
  • このときの累積プレドニゾロン投与量は20gで、プレドニゾロン5㎎を約10年間投与した場合の投与量といえる
  • そのため、少量たとえプレドニゾロン1錠であっても、長期にわたると副作用につながるという点は十分注意しなくてはいけない。

(ステロイド薬の長期使用における注意点と副作用)

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関節リウマチを対象にした有害事象の調査

論文検索したところ、プレドニゾン5mg以下/日の少量投与でどの程度の副作用が出るのかを調査したものがあった。308人の関節リウマチの患者を対象にした調査で、1980年から2004年までの25年間にわたって定量的観察を行ったものである。有害事象の評価は、RAPID3という患者側の自己報告に基づいた指標で行われている。プレドニゾンの投与量は、年代を追うごとにメトトレキサートの登場によって減少傾向になっていくが、ほとんどの患者は低用量のプレドニゾンとメトトレキサートの両方で無期限に治療し、80%が両方の投薬を5年以上継続したとされている。

結果として、主要な有害事象は、皮膚の菲薄化および挫傷であり、新規の高血圧、糖尿病、白内障が10%未満の患者で見られたとされている。

The adverse effect of 5mg GC

ただ、ここでは自己申告による評価であるため、動脈硬化についてはその兆候があったのかは不明である。

(The safety of low-dose glucocorticoids in rheumatic diseases)

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さらにPubmedで調べてみたところ、同テーマについての文献レビューを行った論文(2005年発表)があった。1995-2004年の間に発表された4つのRAへの低用量ステロイド治療(5-10mg)に関する調査を行った論文をまとめたもので、各調査の被験者は34-84人、調査期間は4調査とも2年間となっている。

four reviewed RA trials

以下、論文を要約したが長文となってしまった。結論としては次のように纏められる。

  • 低用量(5mg以下)のプレドニゾロン、プレドニゾンの2年間の使用は主に骨粗しょう症、血糖値、白内障の副作用の発生率を増加させる可能性があるため注意する必要がある。
  • 緑内障に関しては用量が示されていないが、眼圧を上げるリスクがあり、また緑内障は不可逆性の視力低下障害が起こる疾患であるため(失明のリスクがある)、定期健診は行わなければならない。
  • また、動脈硬化に関しては10mg以上/日のプレドニゾロン使用で高コレステロール血症のリスクが増加、7.5mg/日以下では心筋梗塞、心不全、脳血管疾患を含むすべての心血管疾患のリスクを増加させなかったとあるため、2年間の5mg/日使用では過剰に心配する必要はないのかもしれないが、定期検査は必須で、今後の調査結果に関しても調べておく必要があると思われる。
  • 疾患そのものが臓器障害を引き起こす可能性や、親族にそれらの既往歴があり遺伝が疑われる場合など、ステロイド剤使用によって副作用の発症が促進される可能性があるため、注意が必要である。

■骨粗鬆症
英国の研究データベースを用いた近年の後ろ向きコホート研究では、プレドニゾロンの投与量が2.5mg/日未満では臨床的椎骨骨折率が55%増加し、7.5mgの投与量を超えた場合には400%を上回ることが示された。炎症性疾患の活動は、少なくとも関節リウマチ(RA)において、骨粗鬆症の独立した危険因子であることが示されている。疾患活性は、RANKリガンド(破骨細胞分化因子)を介して直接および間接的に破骨細胞の分化を刺激する骨壊死因子αなどの炎症性サイトカインの減少した身体活動およびレベルの上昇をもたらし、骨損失をもたらす。
したがって恐らく、グルココルチコイドによって炎症活動性が低下したRAは、炎症時よりも骨減少が少ない可能性がある。プレドニゾロンの累積投与量がある程度骨量減少に関連しているか否かに関しては見解は一致していない

■骨壊死
日本における大腿骨頭の骨壊死に関する研究では、全例の35%がグルココルチコイド治療に関連していた。しかし、全身性エリテマトーデス(SLE)などの疾患では、時に骨壊死のリスクの増加と関連しているため、基礎疾患によるものか治療薬によるものかを知ることは困難である。1件の研究では、グルココルチコイド治療を受けている患者の2.4%において骨壊死が報告されているが、低用量投与のデータは不十分である。

■ミオパチー
データが不十分であるが、グルココルチコイド投与量がプレドニゾロン7.5mg/日未満の場合、筋障害が非常にまれであると考えられる。RAにおける低用量グルココルチコイドに関する4つの試験では、ミオパシーの症例は見られなかった。

■グルコース不耐性および糖尿病
グルココルチコイド関連の高血糖は用量依存的である。 しかしながら、低用量のグルココルチコイドもこの効果を有する。 1件の症例対照試験では、1日に0.25-2.5のプレドニゾン治療中に抗高血糖薬の開始リスクが増加することが示唆された。 家族歴、肥満、以前の妊娠糖尿病のような真性糖尿病の発症の危険因子を有する被験者は、プレドニゾン治療中に新たな高血糖症を発症する危険性が高い。 

■体重増加
4つのRA前向き試験からの毒性データにおいては、低用量のプレドニゾンが平均体重の増加と関連しており、4-8%の患者で2年以上の使用によって生じうることを示している。 

■性ホルモン分泌の抑制
この影響は男性において優勢である。 しかし、リウマチ性疾患におけるグルココルチコイド治療は、生殖能力に臨床的に悪影響を引き起こさず、低用量グルココルチコイドに曝露された患者においてもリビドーの減少は、共通の愁訴として報告されていないことが示唆される。

■高コレステロール血症、アテローム性動脈硬化症、心臓血管疾患
高コレステロール血症は10mg/日より高いプレドニゾン投与でのみ有意な変化が見られた。また、より長期のステロイド使用は、SLE患者の冠動脈疾患と有意に関連している。 RA患者の研究では、疾患経過の早い段階でのグルココルチコイド治療が冠動脈疾患のリスクを増加させることが示唆された。一方、低用量のグルココルチコイド治療は、高用量と異なり、RAにおける心臓血管疾患の発生率を有意に増加させるという証拠は欠けている。

近年、68781人のグルココルチコイド治療患者(うち1115人のRA患者)と82202人の非グルココルチコイド治療者に関するデータベースの研究が発表された。心筋梗塞、心不全、および脳血管疾患を含むすべての心血管疾患の発生率は、7.5mg/日以下のプレドニゾロンを長期間使用する患者では増加しなかった。しかし、7.5mg/日以上の使用では増加していた。低用量のグルココルチコイドを受けているRA患者では、この疾患自体がより大きな危険因子であると思われる。

■水と電解質のバランス(浮腫、腎臓と心臓の機能)
合成グルココルチコイド(プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、デキサメタゾン)は、ミネラルコルチコイドの影響がほとんどなく、血漿量を変化させることなく糸球体濾過率を高め、胆汁鬱滞およびナトリウム利尿を誘発する。 少数の試験で心不全患者への中等度から高用量の慢性グルココルチコイド投与が評価されており、これらの試験から心機能に重大な有害作用は認められなかった。 RAにおける低用量グルココルチコイド処置に関する4つ試験では、グルココルチコイドに起因する心不全は生じなかった。

■高血圧
高血圧の誘発は、外因性グルココルチコイドに曝露された患者の約20%に見られるが、1年以上20mg/日のプレドニゾンで治療を受けたRA患者または喘息患者195例における後ろ向きコホート研究では、用量や投与期間と血圧上昇との間に相関は見られなかった。RA患者への低用量プレドニゾン治療の4つの試験における毒性データでは、いずれの試験においても血圧に有意な影響を及ぼさなかった。 この結果は、グルココルチコイド誘発性高血圧は用量に関連し、中程度または低用量の治療では起こりにくいことを示唆している。

■その他の心臓への悪影響
不整脈および突然死の発生はまれであり、主に高用量ステロイドパルス治療を受ける患者に限定されている。 RAにおける低用量グルココルチコイド処置に関する4つの試験において、これらの事象は報告されなかった。

■クッシング症候群
クッシング症候群は、プレドニゾン5mgに暴露された患者の5%以上において、1年以内に見られるという報告がある

■皮膚の異化
皮膚萎縮は、ケラチノサイトおよび線維芽細胞に対するグルココルチコイドの効果から主に生じる。その他血管構造の形成の低下も起こりうる。これらは、プレドニゾン5mg/日に暴露された患者の5%以上に発生する可能性があることが報告されている。また、低用量では創傷治癒障害はまれであり、また多毛症や脱毛などの髪の影響に関するデータは見当たらない。

■白内障
白内障の発生率と全身長期低用量グルココルチコイド治療の関係について調査された報告はほとんどない。ただ6-5年に渡りプレドニゾン5-15mg/日(平均3-6mg/日)投与したRA群では、15%が白内障を呈していたという報告がある。白内障の形成は不可逆的であると考えられるが、用量を減らすか、または治療を中断することによって、進行を止める可能性があるという証拠は見当たらない。

■緑内障
一般集団では、グルココルチコイドに曝露された患者の18-36%が眼圧上昇を示した。リウマチ患者6/32人(19%)は、プレドニゾン当量が7.5mg/日で1年以上治療された患者の1/38人(3%)に認められた。しかし、グルココルチコイド使用によるこの有害作用の発生率は、遺伝的根拠を示唆している。既存の緑内障を有する患者は特に敏感である。糖尿病、高近視、および開放隅角緑内障患者の親族は、グルココルチコイド誘発性緑内障に対してより脆弱であると報告されている。外因性グルココルチコイドによる眼内圧の上昇は、治療が中止された場合には一般的に可逆的であるが、数週間かかることもある。

■消化性潰瘍
Piperらは、胃十二指腸潰瘍または出血のために入院した1415人の患者と、メディケイドから無作為に選択された7063人のコントロールを含むネスト化対照研究を行った。グルココルチコイド治療患者の消化性潰瘍疾患の相対リスクは2.0倍であった。しかし、この増加リスクは、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)との併用療法にほぼ完全に起因していた。リスクは、薬剤の非使用者と比較しグルココルチコイドおよびNSAIDの併用患者の方が12倍以上高いことが示された。 

■感染症
RAにおける低用量グルココルチコイド治療の4件の試験のうち、2年間のプレドニゾン10mg/日までは、感染の発生率の増加と関連していなかった。

■ステロイド性精神病
プレドニゾン治療患者718例のステロイド精神病の発生率は、40mg/日では1.3%、41-80mg/日では4-5%、高用量では18%以上であった。 グルココルチコイドによって誘発される精神病は、低用量投与ではまれである。

■軽度の気分障害
グルココルチコイド治療は、抑うつまたは易怒性、過敏性、不安、不眠症、記憶・認知障害などの様々な低悪性障害に関連している。ほとんどの研究は、一般的な長期投与量をはるかに上回るプレドニゾン80-160mg/日の用量に関連している。データは少ないが、1日20-25mgのプレドニゾン相当量は、重大な障害をほとんどまたは全く伴わない。 

(Safety of low dose glucocorticoid treatment in rheumatoid arthritis: published evidence and prospective trial data)