米中報復戦 「日本は甘すぎる」FBI報告で飛び出した日本の病根
米国のトランプ政権は7月22日、テキサス州ヒューストンの中国総領事館を7月24日までに閉鎖するよう中国政府に命じたことを明らかにした。米国務省報道官は「米国の知的財産権と米国民の個人情報を守るため」の措置とする声明を出した。中国総領事館ではただちに、重要書類の焼却が行われたとみられ、現地消防当局が出動する騒ぎにもなった。
このニュースは日本政府に少なくない衝撃を与えた。米国は最近、香港や新疆ウイグル自治区での人権侵害に対する制裁、中国通信大手・華為技術(ファーウェイ)の市場からの締め出し、中国が影響力を強める南シナ海での軍事演習の実施など、立て続けに中国に対抗するカードを切っている。日本政府関係者の1人は「カードを切るのが速すぎる。ついていくのが大変だ」と語る。別の関係者は「中国総領事館の問題がある人物だけをPNG(ペルソナ・ノン・グラータ)にして追放すれば良かったのではないか」とも語った。
だが、こうしたざわめきも、米国政府が日本を含む友好国に対して行った機密ブリーフィングによってピタリと収まったという。
日米関係筋によれば、ブリーフィングの主な内容は、米連邦捜査局(FBI)がこの数年間、ヒューストンの中国総領事館に対して行った捜査結果に関する説明だった。中国総領事館は、テキサス州の大学や企業、医療機関が関与していた新型コロナウイルスのワクチン・治療薬の研究データを盗もうとしていたという。中国総領事館は以前から、こうした産業スパイの機能を果たしており、捜査資料には新型コロナ事案以外にも複数の事件が記述されていた。
主な手口は、在米中国人研究者だけでなく、米国人にも接触しての買収だった。中間にダミーを入れて、中国による勧誘だとわからないようにしたケースもあった。サイバー攻撃によるデータ収集を試みたこともあったという。
同筋によれば、PNGで処理できないほど、こうした動きは組織的に行われていた。総領事館員が、空港内にある制限区域に自由に出入りできるパスを使用したケースもあったという。税関検査などを避けるため、総領事館員や中国の関係者に使わせていたようだ。
同筋は「ヒューストンの中国総領事館は以前から評判が悪かった。10年ほど前には、交通違反を犯した総領事館の車両が現地警察のパトカーに追いかけられ、そのまま総領事館に逃げ込んだこともあった。総領事館側は捜査を拒否したが、ますます怪しいという話が広がった」と語る。米国側は従来、中国による報復措置や米中関係が悪化することへの懸念から、総領事館閉鎖という強硬手段を取らずにいたが、新型コロナウイルスへのスパイ事件が、今回の決断に至るうえで大きな影響を与えたという。
米側は、中国が報復として四川省成都の米総領事館閉鎖を命じることも予測していた。中国も新型コロナへのスパイ事件が契機になったと理解するとみていたからだ。新型コロナを「武漢ウイルス」と呼び、「中国犯人説」を唱える米国は、その根拠となる情報を、武漢の米総領事館に収集させていた。本来なら、中国はそこの閉鎖を狙うはずだった。だが、武漢の米総領事館は新型コロナの感染拡大を受けて1月に臨時閉鎖を命じるなど、すでに機能が大幅に低下していた。このため、米側は、中国が武漢総領事館の代わりに、チベット情報の収集にあたっている成都の米総領事館の閉鎖を命じてくるだろうと予測していたという。
米国は中国に、北京の大使館のほか、上海や広州、香港、瀋陽にも総領事館を置いている。中国も米国のサンフランシスコやロサンゼルス、ニューヨークなどに総領事館を持っている。双方は、経済の混乱や外交危機にまで至る事態を避けるため、大使館や、上海・香港・ニューヨークといった経済中心地にある総領事館の閉鎖は避けるだろう。ただ、米国は中国が米本土で組織的にスパイ活動を行っていると分析しており、今後も中国総領事館の閉鎖を命じる可能性はある。
米国によるブリーフィングを受けた日本側は、「米国による総領事館閉鎖という措置はやむを得ないものだった」と納得したという。そして別の日米関係筋はこう言った。「呑気に納得している場合ではない。事件は、ヒューストンだけで起きているのではない。特に日本人は情報の管理が甘すぎる。ファイブアイズ(英、米、豪、カナダ、ニュージーランドの英語圏5カ国)とは比べものにならない」
日本の情報管理を巡っては従来から、「スパイ防止法がない」「軍事法廷がない」などという指摘が飛び交ってきた。
ただ、ファイブアイズの政府関係者によれば、日本の官僚は機密を守るというモラルは低くないものの、もっと根源的な問題があるという。ファイブアイズが情報の重要性を「国家の安全保障を脅かすかどうか」という点で判断するのに対し、日本の官僚は「他省庁と情報を共有したくない」「首相官邸や与党政治家に怒られたくない」という判断で情報を守ろうとするからだ。
日本の場合、関係省庁が集まった内閣合同情報会議にトップシークレットの情報を提供しなかったり、官邸や与党幹部が喜ぶ場合には積極的に情報をリークしたりする。最近もある大使人事を巡って情報が流れたが、政府関係者によれば、首相官邸と外務省が率先してリークしていたという。
この図式を日中関係に当てはめて考えれば、首相官邸が定めた対中国戦略を称賛する結果になる情報は、リークされやすいということになる。だが、ご承知の通り、安倍官邸の対中戦略は対話に触れたり、対決に流れたり、迷走している。となれば、ファイブアイズが判断する「国家の安全保障を脅かすかどうか」などという基準はどこかに吹き飛んでしまうだろう。
2014年に設置された内閣人事局の弊害はこんなところにも顔を出しているのだ。
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韓国美容トレンドは「ツヤ肌メイク」 過度な美意識、沼にハマると危険?
新大久保に限らず街のショッピングセンターに行くと、韓国の化粧品や美容製品を目にすることはもう珍しくない。
日本のデパートや総合化粧品店に韓国の輸入品が一部置かれているだけでなく、エチュードハウスやイニスフリーを筆頭に、都内に店舗を構えているブランドもあるほどだ。グルメだけでなく美容の分野でも、韓国は日本で圧倒的存在感があると言えるのではないだろうか。
今年の春、韓ドラブームが「梨泰院クラス」や「愛の不時着」により再び日本に訪れたが、ドラマだけでなく、実年齢と比例しないような出演者たちの美貌もネット上で注目された。愛の不時着のメインキャストであるソン・イェジンとヒョン・ビンは、ともに37歳だ。ツイッターでは、出演者たちの実年齢を知って驚く声がしばしば見られた。
韓国は「美容大国」とも称され、その美容法や化粧品はアジアを中心に女性たちを魅了してきた。また、美容クリニックや整形外科が充実しているため、わざわざ海外から施術を受けるために韓国に訪れる人も珍しくない。美容の最先端を追う韓国、有名女優が実際に行なっているスキンケアや現在の若者たちのトレンドを通して、韓国の美容事情を紐解いてみた。
日本でも注目高まるソン・イェジンの美
韓国では以前よりソン・イェジンの美容法と20代の頃と変わらぬ容姿が注目されていた。2012年に韓国のテレビ局SBSで放送された番組で、当時31歳だった彼女は「ホット&クールスチーム洗顔法」を紹介。名前の通り、お湯と冷水を使う美容法だ。はじめにタオルをお湯につけ絞った後、首から顔にかけてタオルをあて、1分ほど額や頬骨、顎の周りを優しくマッサージをする。その次に、輪切りにしたレモンを10分ほど水につけておいた冷水で、顔を洗う。これを週2回ほどすることで、顔全体が明るくなると話していた。
ソン・イェジンはソウル芸術大学卒業後、無名ながら2001年に『おいしいプロポーズ』のヒロインに大抜擢されたが、当時を「殺人的スケジュールだった」と振り返るほど、忙しくてスキンケアを十分にできていなかったと打ち明けた。2003年に公開された「夏の香り」の撮影が終わり1年経った頃に、本格的にスキンケアを始めたそうだ。
また7時間しっかり睡眠をとることで有名だ。韓国メディアによると、10年間ピラティスも続けていた。彼女がどれほど健康に重点を置いていたのかが伝わってくる。2018年に受けた「Newsen」のインタビューでは「職業上、人前に出ることがほとんどなので、良いコンディションを維持することを心がけています。もちろんシワが気になることもあります。でもそれは当然のことですよね」と年齢を重ねることにも、プロフェッショナルで前向きな姿勢を示している。
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韓国の若者がハマっているのは「ナチュラル」?
日本から多くの若者がソウルに旅行する理由の大部分はショッピングではないだろうか。色とりどりで、用途が様々な化粧品が集まった韓国は、女性たちからすると実に魅力的だろう。真っ赤な口紅が流行したり、手軽に綺麗な肌を演出できるクッションファンデーションが流行したり、韓国はアジアのトレンドを牽引する勢いを年々見せている。
日本でも数年前から韓国人メイクを参考に白くて、つるっと、崩れ知らずの「陶器肌」が人気だ。エチュードハウスやイニスフリー、スタイルナンダなど、日本人から愛される韓国コスメの特徴は、独特なデザインとメイクだ。実際に韓国の20代の女性に、現在のトレンドを聞いてみた。
「ナチュラルなメイクが主流だと思う。昔のように派手な色のリップを塗る人は減ったかもしれない。ブラウンやピーチなど、控えめでより肌に馴染む色が好まれているように思う。少し前までは『水光メイク』といって、光が直接反射するようなみずみずしい肌を演出することが流行っていたけど、今は『ツヤ肌メイク』が注目されている。食器のようにつるっとした印象で、水光より少し落ち着いている。口元も肌も落ち着いて、エキゾチックな印象を与えるの。
あとは過去と比べて、最近はみんな『個性』を追求するようになったと思う。トレンドはツヤ肌とはいえ、未だに個性や好みに合わせて水光メイクをする人もいるしね。私が好きなユーチューバーはチョ・ヒョジン。128万人もサブスクライブしているわ。彼女もベースはナチュラルに抑えながら、奇抜なポイントメイクで個性の表現の仕方を発信している」
全体的にナチュラルで、それぞれが持っている個性を生かせるメイクが流行しているそうだ。筆者自身は、日本でも注目されている「スタイルナンダ」が示すメイクの中に、韓国の旬なメイクが取り入れられているように思える。艶やかで自然体な肌と、肌になじむオーガニックな色の口元が特徴的である。
一概にはトレンドを一つに絞れない様子を見ると、韓国の美容でも多様性が広がっているように思える。
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STYLENANDA JAPAN(@stylenanda_japan)がシェアした投稿 - 2020年 7月月26日午後5時05分PDT
外国人モデルが韓国で見た「異常な美意識」
筆者には、ソウルで外国人モデルとして活躍するオランダ出身の友人がいる。彼女は渡韓して3年以上経つ。2年ほど前から韓国でモデルを始めたが、仕事をする度に韓国の美容事情に驚かされると話した。国際美容整形学会(ISAPS)の報告によると、人口1000人あたりの件数を比較すると、韓国は13.5件で世界1位である。時々「行き過ぎた美容」に懸念を抱くそうだ。
「韓国人たちの美意識の高さにはいつも感心している。ほとんどの10代の女の子たちが積極的に皮膚科に通っている。オランダでは、よっぽどのことがない限り行かない。ケアを入念にするのは良いのだけど、韓国に限らず、美容の沼にハマると本当に危ないと思う。とあるブランドのイベントにモデルとして出席した時、現場にいた韓国人のモデルに驚いたの。彼女が話す時、口が思うように動いていなかったから。
その場にいた外国人のモデルたちはみんなびっくりしていた。不自然だとこちらが衝撃を受ける中、彼女のインスタグラムには大勢のフォロワーがいることを後に知った。彼女の外見はいわゆる、『韓国の理想の女の子』だった。小さな顔にプラスティックが刺さったような鼻。過度な美意識がトリガーとなり、今の彼女が存在するのだと思う。私にとっては、彼女から個性を感じられなかったし、何より不自然だった。多様性が求められている中、私がとやかくいうことではないけど、何か大切なものを削ぎ落としてまで美しさを追求してしまっているようだった」
オランダ出身モデルの彼女自身も、韓国でこんな経験をしたという。
「私自身一度、撮影後フォトショップで全く別人に変えられたこともあった。完成した私の写真はV字ラインのシャープすぎる顎に、大きな目に修正されていて、全体的にエイリアンのようで笑ってしまった。仕事だから不満はないけど、韓国の美容はまだまだ偏ったロールモデルが存在するように思えた。過度な美意識は誤った方向に導き、健康を脅かしかねない。美容クリニックや整形外科もほどほどに、と思う」
過去の出来事を振り返るオランダ人の女性は、韓国の今後を心配していた。美しさの多様性が徐々に広がる中、ソーシャルメディアの発達や過度な美意識が、女性たちを誤った方向に導くことを身を以て体感したからだ。彼女自身、モデルとして生きることに疲れを感じることが多いと語った。
「モデルの寿命は5年と言われている。理由は太ったり肌のハリが無くなるからではなく、メンタルヘルスが原因だと聞いた。確かに私の今のストレスの大半はインスタグラムよ。人と比べたり、数センチ単位で外見を批判される仕事は、続けるには相当な忍耐力が必要ね」
底の無い沼のように、美意識は一歩間違えると健康と本来持ち得た美しさも損なうことがあると彼女は教えてくれた。
ナチュラルで自分に合った美容法を
世界中で存在感を高める韓国の美容は、美しさの多様化に伴い、様々な女性のニーズに応えれるようトレンドも発展しているように思える。しかし、その裏にはまだまだ課題が存在しているようだ。整形や筋肉注射、ボトックスなどの施術のように、テクノロジーの発達が、女性の美しさを手助けするばかりか、依存してしまうリスクも高まっている。
今後も女性の美容に関するニーズに応えるためのビジネスが増えるかもしれないが、あくまでどれも健康と個性を損なわずにいられるものであるべきではないだろうか。ソン・イェジンのように、普段から地道に健康に気遣いながら美容法を取り入れることが最善策だと思われる。
美しさの本質を見失わず、身も心もヘルシーで、一人ひとりが独自の好みに合わせておしゃれやメイクを楽しめるトレンドに、今後も進化されることを願いたい。
(前回の記事:美しさに正解なんてない 海外の若者が「ヘルシー」にこだわる理由)
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【7月第5週資金調達まとめ】UXインテリジェンス事業を手掛けるビービット、25億円の資金調達
国内の成長産業及びスタートアップに関する幅広い情報を集約・整理し、検索可能にした情報プラットフォーム「STARTUP DB」では毎週、資金調達のサマリーを発表している。この記事では、7月5週目の”注目のトピック”として選ばれた5件の資金調達について紹介する。
ビービット
調達額:25億円
調達先:経営共創基盤 / SMBCベンチャーキャピタル / THE GUILD / Yosemite / ごうぎんキャピタル / チェンジ / マシュマロ / 大分ベンチャーキャピタル / 山陰合同銀行 / 常陽産業研究所 / 電通グループ
備考:他金融機関からの融資を含む、電通グループと資本業務提携
デジタル行動観察ツール「USERGRAM(ユーザグラム)」や広告効果測定ツール「WebAntenna(ウェブアンテナ)」を運営する企業。
「USERGRAM(ユーザグラム)」はウェブサイトなどで利用者の行動を分析するソフトウエアだ。PC・スマホ・アプリからリアルチャネルにおける行動を計測し、行動の順序や流れ(シーケンス)に着目したデータ活用により、ユーザの"状況"を捉えることができる。2020年7月時点で導入実績は300社以上にのぼる。
「WebAntenna(ウェブアンテナ)」は各種広告の正しい貢献度を簡単に評価できるのが特徴だ。刈り取り以外の広告強化を可能にすることができる。「WebAntenna(ウェブアンテナ)」も大手からベンチャー企業まで、幅広い業種・業界で利用されており2020年7月時点で導入実績は600社以上にのぼる。
2020年7月末には、経営共創基盤などから25億円の資金調達を実施。この調達を通し、「USERGRAM(ユーザグラム)」の開発に資金を充て、2021年を目途に中国と台湾で海外展開に乗り出す予定だ。
DeepX
調達額:16億円
調達先:スパークス・グループ / フジタ / SBIインベストメント / 経営共創基盤
AIを活用した機械自動化や現場作業自動化の支援をおこなう東京大学発のスタートアップ。
同社はこれまで建設や食品加工、農業や物流などの幅広い産業を対象として、AIソリューション開発をおこなってきた。現場の課題解決に向け、課題の分析や開発設計、開発と導入までを一気通貫で担当する。
これまでの開発実績として、最先端のディープラーニングによる画像認識技術や強化学習技術を駆使し、土木作業における油圧ショベルによる掘削作業の自動化や、パスタの食品加工作業における、盛り付け機器のアームをAIで制御することによる作業の自動化などが挙げられる。
2020年7月には、スパークス・グループ、フジタ、SBIインベストメント、経営共創基盤を引受先とする第三者割当増資を実施し、総額16億円の資金調達を実施した。
この調達により、エンジニアや計算資源を中心に投資し、認識技術や制御技術の少数データでの開発可能性や、実空間での頑健性、汎用性などを追及していく方針だ。
インテグリティ・ヘルスケア
調達額:5億円
調達先:アルフレッサ
備考:資本提携
オンライン診療システムの開発・運営を行うスタートアップ。
東京大学病院や三井記念病院で循環器内科に従事後宮内庁で侍医を務め、マッキンゼー経て、その後医療法人社団鉄祐会やTetsuyu Healthcare Holdings Pte, Ltd. を設立した武藤真祐氏が、「健康先進国・日本の新しい医療システムを創造する」というビジョンのもと、2009年に設立。
対面診療を補完するオンライン診療システム「YaDoc」の開発・運営を主に行う。患者さんのモニタリング・オンライン問診・オンライン診察ができるサービスだ。初期費用0円のため、誰でも気軽に利用可能。同サービスは勤労者の外来診療、高齢者の外来診療、在宅医療などのシーンにおいて利用されるそうだ。
2020年7月には、アルフレッサと資本提携を発表。今回の資本提携は、同社が実施した第三者割当増資により、普通株式の一部をアルフレッサが約5億円で取得した。
同社は今後、「YaDoc」を活用し、新たなビジネスモデルの共同検討・共同開発を行う見込みだ。
Luup
調達額:4億5000万円
調達先:ANRI / ENEOSイノベーションパートナーズ / 大林組
電動キックボードのシェアリング事業「LUUP」を展開するスタートアップ。好きな場所から好きなタイミングで電動キックボードに乗ることができる社会を実現することで、電車やタクシーが不足しているエリアの住民の足となることや、インバウンドの客足を駅や港から離れた場所に届けることを実現可能とする世界を目指している。
ユーザーはアプリをダウンロードし街中にあるLUUPスクーターを見つけ、QRコードを読み取ることでライドを始めることができ、アプリ上で見つけた好きな場所に返却が可能。GPS管理により速度制限をかけ、危ない運転者を監視するなど、安全面にも配慮したサービス運営を行う予定だ。
2019年6月24日には経済産業省発表のJ-Startupに選定され、電動キックボードのシェアリングサービスの実用化、安全面の担保、設置場所の検討などを進めてきた。
2020年3月にはANRIをリード投資家として複数のベンチャーキャピタル及び事業会社を引受先とする第三者割当増資により3億5000万を調達。さらに、2020年7月にANRI・ENEOSイノベーションパートナーズ・大林組を引受先とする第三者割当増資を実施し、約4億5000万円の資金調達を実施した。
調達資金を元に、新しい電動マイクロモビリティの開発と、ENEOSグループおよび大林組との将来的な協業に向けて取り組みを進めていく。
BluAge
調達額:3億円
調達先:Angel Bridge / 東大創業者の会応援ファンド / SMBCベンチャーキャピタル
備考:他、個人投資家
スマート内見アプリ「Canary」の運用を行うスタートアップ。
「Canary」は、"無駄なやり取りなく、すぐに内見したい"というニーズに応え、内見したい物件と日時を入れると、エリアに詳しい不動産エージェントをマッチングし、内見から契約を迅速に案内することが可能。無駄なプロセスを排除することで、仲介手数料をこれまでの賃料1カ月分から削減することも実現した。
内見を希望する場合は、LINEによるスムーズなやり取りも可能あるのに加え、契約も好きな場所からテレビ電話で行うことができるのが特徴だ。おとり物件も、AIによって半分以下にまで削減することに成功した。
2018年10月にリリースした「Canary」のプレビュー版では、1万以上のアプリダウンロード、1000件以上の内見依頼を記録している。
2020年7月から同アプリ内において売買版を正式リリースし、ヤフーと売買物件情報における事業提携を締結した。また、同年7月にAngel Bridgeや東大創業者の会応援ファンド、SMBCベンチャーキャピタル、個人投資家を引受先とした約3億円の資金調達も実施。
ユーザーに透明性高い情報と効率的なプロセスを提供するとともに、不動産エージェントの生産性向上によるよりよい部屋探しのユーザー体験を追求する予定だ。
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フェイスブックがNYで大規模オフィス契約、不動産業界に朗報
フェイスブックは8月3日、ニューヨークの約6万800平方メートルのオフィススペースの賃貸契約を、不動産企業ボルネードと結んだとアナウンスした。フェイスブックは、マンハッタンの歴史的建造物として知られる、ジェームス・ファーレービルの一角をオフィスとして使用することになる。
この契約は、パンデミック後の顧客離れを危惧する不動産業界にとっては嬉しい報せと言えそうだ。ニューヨーク市は今から約1カ月前に、コロナ後の経済再開のフェーズ2入りを宣言したが、オフィス勤務を再開させた人々は全体の10分の1足らずで、不動産業界の前途には暗雲が立ち込めている。
フェイスブックとグーグルは、従業員らに2021年までリモートワークを許可し、ツイッターは無期限でそれを認めている。しかし、今回のフェイスブックの決定は、大手のテック企業が今後も、ニューヨークに拠点を持ち続けることを示している。
フェイスブックはここ1年で、20万平方メートルに及ぶオフィス物件の賃貸契約をニューヨークで締結しており、その全てはペンシルベニア駅とハドソン川の間に位置している。マンハッタンのウエストサイドはシリコンバレー企業のハブとなり、アップルやアマゾン、グーグルらが拠点を構え、”シリコン・アレー”と呼ばれている。
マンハッタンの中間エリアに100万平方メートル近い物件を保有するボルネードは、自社の20億ドル以上の資金と、政府からの30億ドル以上の支援で、ペンシルベニア駅付近のエリアの再開発を進めてきた。
ボルネードの株価は過去52週間で44%近く下落していたが、今回の契約のニュースを受けて、時間外取引で7%以上も上昇した。
1912年に竣工されたジェームス・ファーレー郵便局の建物は、米国の建築界に多大な影響を与えた名門建築事務所、マッキム・ミード&ホワイトの設計で知られている。この建物をリノベーションしたファーレービルには、フェイスブックの新オフィスに加え、約1万200平方メートルのモールが新設され、フルサービスのレストランも入居することになる。
ボルネードによると、リノベーションは2020年末に完了する予定という。「フェイスブックのコミットメントにより、ニューヨークが今後、米国の第2のテクノロジーのハブとして発展することが確実になった」と同社CEOのSteven Rothは声明で述べた。
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米大統領選、揺らぐ信頼 有権者の7割超が不正懸念
11月の米大統領選で不正が行われることへの懸念が与党・共和党と野党・民主党のいずれの支持者の間でも広がっていることが、ロイター通信と調査会社イプソスの最新世論調査で明らかになった。4年前と比べてもかなり高い割合となっている。
ロイターが報じた7月31日公表の調査結果によると、「選挙結果に影響を与えることをめざす政治アクター」による組織的な不正投票が行われないか不安に感じている有権者は、全体のじつに74%にのぼった。
支持政党別では、民主党支持者の70%、共和党支持者の80%が懸念を抱いていると回答していた。支持する政党を問わず、大統領選の公正さに疑念がもたれているようだ。
不信感はとくに左派の間で高まっているとみられる。ABCニュースとワシントン・ポストが2016年の大統領選直前に実施した調査では、共和党候補のドナルド・トランプ支持者の70%が不正投票は広く行われていると考えていたのに対し、民主党のヒラリー・クリントン支持者の間ではその割合は11%にとどまっていた。
ロイターとイプソスの調査では、ライバル側の支持者が投票に行かないよう誘導する「ボーター・サプレッション」を懸念している人も全体の73%にのぼった。共和党支持者では60%、民主党支持者では80%に達している。
両党の間で大きな違いがみられたのは、新型コロナウイルス対策で増える見通しとなっている郵便投票に対する見方だ。郵便投票が不正につながることを懸念すると回答した人は、民主党支持者では全体のわずか30%だったのに対し、共和党支持者では80%にのぼった。
また、投票資格のない人が投票することを懸念する人の割合も、共和党支持者のほうが民主党支持者よりも2倍高くなっている。
郵便投票については、不正投票を招くとしてトランプ大統領がたびたび攻撃しているが、それを裏づける実証的な根拠はほとんどない。トランプは7月30日にもツイッターで、郵便投票は「史上最も不正確で不正まみれの選挙」につながりかねないとして大統領選を延期する案をほのめかしたが、共和党の幹部を含む議員たちからただちに一蹴されている。
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英HSBCの利益が65%減少、最大1兆4000億円の貸し倒れリスク
英国に本拠を置く金融大手「HSBCホールディングス」は8月3日、2020年上半期の税引前利益が前年同期比65%のマイナスになったと発表した。金利収入の低下に苦しむ同社は、新型コロナウイルスのパンデミックがもたらす融資の焦げ付きリスクを警戒し、2020年の不良債権引当金が最大130億ドル(約1兆3800億円)になると予測した。
ロンドン本拠のHSBCの今年上半期の税引前利益は43億ドルで、前年同期から3分の2近いマイナスとなった。同社は今年の不良債権引当金を、以前は最大110億ドルと見込んでいたが、130億ドルに引き上げた。
HSBCのCEOのNoel Quinnは声明で、既に発表した組織再編のプランの実行を早めていくと宣言した。同社は2月に3万5000人の雇用削減を発表したが、4月にスタッフを経済危機から守るために、その計画を一時停止していた。
「市場環境が変化する中で、当社のビジネスの持続性を高めるために、追加の施策の検討を進める」とQuinnは宣言した。
航空業界やレジャー産業の大手がパンデミックにより甚大なダメージを受ける中で、HSBCや米国の大手銀行は貸し倒れリスクを警戒し、数十億ドル規模の不良債権引当金を準備している。HSBCは今期の人員削減を見送ったものの、今後はその試みを再始動し2020年までに45億ドルのコスト削減を行う計画だ。
ロンドン市場と香港市場に上場するHSBCの株価は、今年に入り40%下落している。
HSBCは売上の多くを中国と香港であげているが、米中間の対立の板ばさみにも襲われ、中国当局の厳しい目を向けられている。中国の政府系メディアは以前からHSBCがファーウェイを罠にかけたと主張しているが、同社は先週、そのような指摘は事実無根だと否定した。
中国からの圧力を受けて、HSBCは中国政府が発動した香港国家安全維持法を支持すると宣言していた。そんな中、同社CEOのQuinnは「米中間の緊張の高まりは、当社の事業に厳しい環境をもたらしているが、我々は困難に立ち向かい、長期的に見て顧客や投資家に利益をもたらす決断を行っていく」と述べた。
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氷点下5度で熟成 全国の日本酒を自宅で味わうサブスクサービスが開始
日本酒専門酒販店のさくら酒店が、全国各地の日本酒を「マイナス5度」で熟成させ届ける新サービスを加えた、「日本酒おまかせ便 酒標(さけしるべ)」を8月10日から開始する。
全国の日本酒を「マイナス5度」という、お酒の未知なる味わいを引き出す氷点下の温度で熟成させ、毎月定額で自宅へ届けるという新サービス。
サービス開始の前に取り組んだMakuakeでのクラウドファンディングでは、公開初日の開始から6時間ほどで目標金額に達し、最終達成率は675%(675万1390円)になった。
日本酒おまかせ便「酒標」マイナス5℃熟成コース(イメージ)
このサービスは一般流通では味わえない日本酒の新たな味を自宅で楽しめる新しい取り組みとして、主に以下の特徴がある。
1. 全国各地の銘酒をマイナス5度で熟成させ、飲み頃になったものを月に1本配送。毎月お酒(地域)が変わるため、自宅にいながら帰省や旅行をする気分も味わえる。
2. 「マイナス5度」は日本酒の劣化の主な原因である、お酒内の酵母や酵素の活動を最小限に抑える温度と言われている。お酒が凍り始める一歩手前の環境下に置くことで、お酒本来の味わいを損ねることなく、綺麗に熟成させることができる。
これまでの日本酒の管理の常識は「冷蔵」か「常温」しかなく、味わいが劣化した商品も多く流通していた。「マイナス5度」では、本来の味わいをベースに、フレッシュさと熟成感を兼ね備えた新感覚の味わいを楽しむことができるようになる。
3. 流通システムの簡略化によってベストな状態のお酒を手頃な価格(定額制)で提供できるようになった。
味わいのバランスを保つ「マイナス5度」
温度が高いと化学反応の速度が速まり、温度が低いと遅くなることを「アレニウスの法則」と言う。
お酒の中には味わいや香りを形成する様々な成分があるが、温度が高いとこれらの成分が変化するスピード、つまり味わいが崩れるスピードは速くなる。特にお酒の中に含まれる酵母や酵素は、温度が高いほど活発に活動し、味わいの成分を著しく変化させてしまう。
これらの活動を最小限に抑え、かつ味わいのバランスを最も良く保つには、お酒が凍る一歩手前の、できるだけ低い温度で保管することが必要になる。その温度こそが「マイナス5度」だ。
日本酒はアルコール度数が高いので、マイナス5度でもぎりぎり凍らない。
配送する日本酒の一例 *画像はイメージ
射美(杉原酒造=岐阜県揖斐郡)
白麹を使った「射美 WHITE」のマイナス5度熟成
「日本一小さな酒蔵」という番組がきっかけで、日本酒ファン垂涎の的になった幻の酒。
今やほとんど市場に出回らない「射美」を醸す5代目蔵元の杉原慶樹氏は、青年海外協力隊を経て、日本の文化である日本酒を守りたいと廃業寸前の蔵を立て直した。農業試験場の職員と共同開発したオリジナル酒米で独創的な酒を醸す。
作(清水清三郎商店=三重県鈴鹿市)
「作 雅乃智 中取り 純米大吟醸」のマイナス5℃熟成
G7伊勢志摩サミットでの乾杯酒にも選ばれた、今最も評価の高い銘柄のひとつ。
日本最大規模の利き酒審査会・SAKE COMPETITIONでの歴代日本一を始め、全米日本酒歓評会グランプリ、フランスKURA MASTERプラチナ賞など、そうそうたる受賞歴を誇る。
さくら酒店
大学時代の同級生2人で立ち上げた日本酒専門店。在学時、一緒にアルバイトをしていた日本酒バーで手造りの日本酒の魅力に惹かれ、お互いの海外留学をきっかけに「日本の文化である日本酒を世界に広めよう」と意気投合。その後、東京の「はせがわ酒店」、大阪の「山中酒の店」でそれぞれ修業を積み、2013年に起業した。
留学時代に現地のレストランで飲んだ日本酒が、本来の味とはかけ離れて美味しくなかったという経験から、輸出と品質管理に一番にこだわる。各国の日本酒に精通した販売者たちとタッグを組み、酒蔵から海外の消費者の元に届くまで徹底した冷蔵流通を実現。現在は13の国と地域へ輸出している。
国内においてもいまだ常温流通がある中、マイナス5度の氷温倉庫を自社で作り、毎日ベストコンディションの日本酒を全国のこだわりの飲食店・日本酒ファンの元に届けている。
将来的に、世界中の名だたるレストランでワインと同じように日本酒が本来の味わいで提供されること、その価値観の「逆輸入」により低迷する国内の日本酒消費を底上げすることを目指し、自宅でも本物の日本酒が楽しめる環境づくりをしている。
実績
・ミシュラン掲載店をはじめ国内500軒超の飲食店への日本酒提供
・13の国と地域への日本酒の輸出
・フランス大使館およびルーマニア大使館でのイベント出展
・「岐阜の地酒で乾杯」(3000人規模、岐阜最大の日本酒イベント)主催
・全国商工会連合会によるドイツ、イタリア、フランスの国際展示会への國酒出展事業を支援
・NHK文化センター、毎日文化センター、阪急百貨店、グローバルビジネスカレッジでの日本酒講座講師
・オンライン酒蔵見学ができる「オンライン飲み会with蔵元」を開催中
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米機関が「マネーの虎」形式でコロナ検査企業を選抜、7社に賞金
米国国立衛生研究所(NIH)は7月31日、新型コロナウイルスの検査技術を開発する7社と契約を結び、総額2億4870万ドル(約264億円)の賞金を授与することを決定した。米国では新規感染者の増加が続き、検査体制の拡充が求められている。
連邦政府はこれらの企業の技術によって、9月までに一日あたり数十万件の検査が追加で実施可能になることを望んでいる。
今回の資金は2社の上場企業(QuidelとFluidigm)に加え、5社の非上場企業(Mesa Biotech、Talis Biomedical、Ginkgo Bioworks、Helix OpCo、Mammoth Biosciences)に与えられる。
これらの企業のうちGinkgo Bioworksはマサチューセッツ州ボストンに本拠を置いているが、それ以外の6社は全てカリフォルニア洲を本拠としている。
NIHのディレクターのフランシス・コリンズ博士は7月31日、「検査体制を迅速に拡充する上で、今回の賞金は重要な意味を持つ」と述べた。
米国での新型コロナウイルスの感染者数は累計440万人以上に達し、15万人以上が死亡している。検査の需要が供給キャパシティを大幅に上回る中で、NIHは携帯型の検査デバイスからラボで使用する大型の検査機器まで、様々なテクノロジーの精査を進めている。
今回の7社を選抜するにあたり、NIHは「RADx(Rapid Acceleration of Diagnostics)」と呼ばれるイニシアチブを立ち上げ、日本のテレビ番組の「マネーの虎」にインスパイアされた米国のリアリティ番組「シャークタンク」と似た選考会で、650社を超える申し込み企業を選抜した。このイニシアチブの立ち上げには、連邦政府の景気刺激策の一部である15億ドルの資金が投じられた。
7社中の3社はPOCT (臨床現場即時検査)を開発する企業で、4社は検査施設での検査技術を開発している。このうち、サウスサンフランシスコ本拠のMammoth Biosciencesは、従来のPCR検査よりも短時間で可能なCRISPR-Cas12aに基づくDETECTRシステムにより検査容量を数倍まで引き上げることを目指している。
Mammoth Biosciencesの共同創業者のTrevor MartinとJanice Chen、Lucas Harringtonらは2019年のフォーブスの30アンダー30に選出されていた。
一方、ボストン本拠のGinkgo Bioworksはオートメーション技術を用い、1度に数万件のテストを実施し、24時間から48時間で結果を通知する次世代のシーケンス技術の開発を目指している。同社はフォーブスの2019年の次世代スタートアップ(Next Billion Dollar Startup)に選出され、企業価値は40億ドルを突破している。
サンマテオ本拠のHelix OpCoもGinkgoと類似した、自動化とシーケンス技術を活用した検査ソリューションの開発を進めている。この2社の技術は、学校や医療機関で実施される、大人数を対象とした検査の迅速化につながると期待されている。
NIHは今後数週間以内に、第2次の受賞企業を発表する予定で、引き続き20社の技術の精査を進めている。「イノベーションの分野では全ての企業がサバイブできる訳ではない」とコリンズ博士は述べている。「我々は既に7社を選出したが、残念ながら選ばれなかった企業も数多く存在する」
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首都に近く、教育水準も高い 知られざる米国フェアファックス郡の魅力
米国東部のバージニア州北部に位置するフェアファックス(Fairfax)郡は、米国のテクノロジー産業の中心地であり、各産業においてイノベーションハブとしての地位を確立している。
世界中から優秀な人材が集まり、現在の人口は約120万人と近くのワシントンD.C.よりも多く、郡の1世帯あたりの平均年収も11万8000ドル(約1250万円)と、全米トップ3に入る。
「Fortune 500」に入る11の企業が拠点を置き、日本からもキヤノン、富士通、日立など20社以上の企業が進出、400社以上のグローバル企業の米国拠点ともなっている。
これほど多くの企業を惹きつける理由を探るべく、FCEDA(Fairfax County Economic Development Authority)のDirector CommunicationsのAlan Fogg氏を取材。その話をもとに、フェアファックス郡の利点をまとめてみた。
1. 優れた人材プール
全米の大学卒業率が平均25%なのに対し、フェアファックス郡では60%以上で、卒業生の4人に1人はテクノロジー分野に従事。サイバーセキュリティ、クラウド、データ分析、AI、ソフトウェア開発とエンジニアリング、定量分析などの分野に人材を輩出している。
郡内には、世界市場向けにサービスを提供する約8900社のテクノロジー企業もあり、世界中から絶えず若い才能が流入している。そのため人口の3分の1は移民で、コミュニティは多様であり、シリコンバレーと比較しても、バージニア州北部のテクノロジー部門で働く女性は2倍、アフリカ系アメリカ人は5倍となっている。
2. 地理的な近接性
東部の大西洋岸沿いの中央に位置していることから、ボストンにもアトランタにもアクセスが良い。ワシントン・ダレス国際空港やロナルド・レーガン・ワシントン・ナショナル空港が利用でき、高速道路や地下鉄も充実するなど、国内外のアクセスに優れている。
何より首都ワシントンD.C.に近いことから、連邦政府との契約も多く、昨年は270億ドル以上(約2.8兆円)がフェアファックス郡の企業に支払われている。
3. 法人所得税率の低さ
フェアファックス郡のあるバージニア州は1972年以来、法人所得税率を引き上げておらず、税務財団によって全国で10番目に低い法人税の州にランクされている。また、適格投資、グリーン雇用創出、研究開発、テレワーク費用、労働者の定着などを含む、法人所得税の控除などもある。
4. 魅力的なオフィス環境
フェアファックス郡には、米国で2番目に広大な郊外オフィス市場(D.C.のメトロエリアで最大)がある。また、郡の企業の95%が50人以下の従業員数のため、それに適応した手頃な価格の不動産が豊富だ。
5. スタートアップにとっての利点も
郡内のスタートアップ企業は、ここ1年間で3億8300万ドル(約400億円)のベンチャーキャピタル投資を達成。多数のテクノロジー組織、ワシントンD.C.地域にある108の連邦研究所、資金調達、管理、製品開発に関するアドバイスを行うアクセラレーターなどの恩恵も受けている。
現在フェアファックス郡の企業でCTOを務める友人は、郡の特徴として、巨大テック企業や研究機関の多さ、政府の近さ、イノベーティブなスタートアップ支援の活発さを挙げ、「シリコンバレーがプライベートセクターフォーカスなのに対し、フェアファックス郡はプライベートとパブリックセクター(政府中心)で成り立っている」と話す。
また、郡内で起業し、中堅企業向けの戦略的コンサルティングを手がける友人は、最新の機材も充実する公立・私立の学校について触れ、「教育環境の良さを気に入っている」と言う。
FCEDAによる手厚い支援
かつては農業中心の田舎町だったフェアファックス郡が発展した背景としては、Fairfax County Economic Development Authority(FCEDA)の貢献は見逃せない。では、実際にどのような支援が行われているのか。FCEDAのBusiness Investment – Asia PacificのAndrew Yu氏に聞いてみた。
そもそもFCEDAは、郡での企業の設立、拡大、または移転を促進することを目的とし、必要な支援を行っている組織だ。郡最大のビジネス地区タイソンズに本社を置き、ロサンゼルス、インドのバンガロールとムンバイ、ベルリン、ロンドン、ソウル、テルアビブにもオフィスを構えている。ソウルオフィスは2004年に設立されており、サムスンや韓国イノベーションセンターなど60以上の韓国企業が郡のコミュニティの一部となっている。
具体的な支援内容は以下の通り。
・オフィス開設支援
・事業開発サービスで、小規模、マイノリティ、ベテラン、女性所有の企業を支援
・資金調達希望企業とベンチャーキャピタルとのマッチング支援
・郡及び州の政府機関とのマッチング支援
・ポテンシャルパートナーやクライアントおよびコミュニティ組織の紹介
・フェアファックス郡およびバージニア州の規制機関との連絡役としてサポート
・スタートアップの立ち上げやコワーキングスペース、アクセラレーターのナビゲート
・郡内でビジネスを始めたい個人のための無料のワークショップ
・ビジネスカウンセリングサービスの提供
Tysons Corner Circa (写真:1953年) ワシントンDCのはずれにあった農業しかない田舎町だった
FCEDA CEOのリーダーシップ
FCEDAの社長兼CEOは、かつてD.C.に隣接するバージニア州アーリントン郡の経済開発局局長を務めていた経験を持つVictor Hoskins氏。彼のリードにより仕事の創出が促進され、州の連邦からの収入は32億ドルから48億ドルに急増した。
2019年に現職に就任してからは、 グーグル、フェイスブック、アマゾン AWSおよびグローバル法律事務所King & Spaldingの誘致を成功させた。さらに、マイクロソフトは1500人の従業員を擁するソフトウェアR&Dセンターの設立を発表。これは、2020年の北バージニアにおける最大の取引である。
多忙ななかオンラインインタビューに笑顔で答えてくださったVictor Hoskins氏
Hoskins氏は、フェアファックス郡の魅力を次のように語る。
「州政府がバジェットの53%を教育に充てているため、ここは全米一科学とテクノロジーに強い。Thomas Jefferson High School for Science and Technologyをはじめ、小学校から大学に至るまで優秀な学校が揃っている。これは40年以上も前からなので、優秀な人材が多く輩出されてきた。シリコンバレーのIT企業がここにオフィスを構えたいと思うのは自然なことだ。子どもに良い教育を受けさせたいと願う豊かな家族が移住してくるケースも多く、犯罪率も少ない」
新型コロナウイルスに対するFCEDAの取り組みについては、連邦政府・地方自治体のローンや助成金プログラムの提供、北バージニア経済開発同盟と提携して行う中小企業向けのパンデミックを乗り越えるためのウェビナーシリーズ、求職者と北バージニア企業をつなぐ「バーチャルキャリアフェア」などの革新的なサポートを提供しているという。
「フェアファックスを、全米No.1のテクノロジーイノベーションセンターにしたい」と言うHoskins氏は最後に、「テクノロジーが社会課題を解決できると信じている」と自身の想いを熱く語ってくれた。
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コロナで巨額損失、中国ワンダが米ホテル事業を300億円で売却
中国の不動産分野のコングロマリット「ワンダグループ(大連万達集団)」を率いる王健林は、負債の削減のため海外資産の売却を進めている。ワンダグループ傘下の「ワンダ・ホテル・ディベロップメント(万達酒店発展)」は米国シカゴで建設中のホテル、ビスタタワーの株式の90%を2億7000万ドル(約300億円)で、米国の不動産企業「マゼランパーセル」に売却すると7月30日に発表した。
ビスタタワーは2020年末に完成予定の101階建てのホテルで、マゼランパーセルは以前から10%の株式を保有していた。ワンダ側がこの売却で得るリターンは、約1200万ドルになる見通しという。ワンダは2014年にこのプロジェクトに出資していた。
「当社は今回の売却によって、債務を縮小する」とワンダは香港市場宛ての書類で述べた。ワンダグループの創業者の王の保有資産は143億ドルと試算されている。1990年代に中国で発生した不動産ブームの追い風に乗った彼は、過去2回以上、中国トップの富豪の座に上り詰め、ワンダをエンタメ業界のトップブランドに成長させた。
その後、アリババ創業者のジャック・マーが2017年に、王を抜いて中国一の富豪になっていた。
ワンダは米国や欧州で複数の企業を買収したが、2017年4月に中国政府の監視対象に入って以降、それらの海外資産の売却を進めている。同社は2017年に76のホテルと13のテーマパーク施設を、同業の融創中国控股(Sunac China)に93億ドルで売却し、スペインのサッカーチーム、アトレティコ・マドリードの株式や、米国の映画シアターチェーンのAMCの持ち株の一部も手放していた。
ワンダは今年3月に、トライアスロン運営会社のワールド・トライアスロン・コーポレーション(WTC)を7億3000万ドルで売却していた。同社は2012年から2016年にかけて、海外進出に意欲を燃やしたが、その夢は途中で頓挫した形だ。
「かつて野心的な海外事業の買収を進めた中国企業の多くは、課題に直面した」と中国の調査企業Savills Researchのアナリスト、James Macdonaldは語る。「不動産開発企業の多くは、巨額の負債の清算に向けて売却を進めている」
ワンダグループは現在も米国の映画製作会社Legendary Entertainmentの株式を保有しており、中国最大の映画チェーンを運営している。しかし、新型コロナウイルスのパンデミックにより映画部門は巨大なダメージを受けている。「ワンダは負債の清算に向けて、不採算部門の売却を進めている」とMacdonaldは話した。