意識調査を覗くとき   作:はんでぃかむ

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正装

「協力してくれるというならば、私がこのナザリック大墳墓を支配したあかつきには、パンドラズアクター殿にはそれなりの地位についてもらってもいいと考えている」

 

「それは魅力的なお話でございますが、その場合アインズ様はここからいなくなってしまうのでしょうか?」

 

 話している内容を考えれば、だいぶ大きな声で隠そうともしない二人。

 

「むむ、それは困る。ナザリックを支配しつつもアインズ様にはここにおられる。そういう状況でなければ……」

「宝物殿に誘い込みそこでギルドの指輪をすべて奪ってしまうというのはどうでしょう?」

「おお、そうすればアインズ様は、宝物殿から容易にはでられない! つまりはこのナザリックから出ることができない!」

「その通りでございます! ナザリックを支配したら、アインズ様には宝物殿で宝の一部となって永遠に私とともに過ごしていただくのです!」

「む、それでは貴殿に与える地位の意味もなくなってしまうではないか」

「よいのですエクレア殿、エクレア殿がナザリックを支配するための捨て石と成れるならばそれもまた誉れ! そう思っていただければと」

「すばらしい! すばらしい案だ! してどのようにアインズ様から指輪を奪うのですか?」

「それはですね……」

 

「何を話しているんだ二人共」

 

 馬鹿げた話にも相槌を続け、とんでも計画に発展させるところは一体誰に似たのだろう。

 ただナザリックの支配を語るだけのペンギンの設定が、彩色されていくように具体的な明度を増してゆく。そのままにしておいたらどうなるのか気になるところではあるが、自分の作ったものの悪ふざけに足元を掬われる、それもただの設定で語られた支配が実現への一歩を踏み出すことに成る、というのを許容することはできない。

 

「これはアインズ様。どうすればアインズ様とともに永遠を過ごせるかという話をしておりました」

 

 意識調査シートを書くために座っていた椅子から立ち上がると、右手を左胸にあて礼をする。敬礼は禁止されてしまったがための代わりのポーズだ。

 

「え?」

 

 話の食い違いを感じるエクレアが、椅子から飛び降りた状態でパンドラズアクターの方を見上げている。

 

 自分が設定を作ったNPCの頭頂に手刀を下ろす。

 それを見ていたエクレアもパンドラズアクターからこちらに向けるとぴょこぴょこと跳びはねたので、同じようにチョップをしてやる。

 

「間諜対策が随分とお粗末な中での作戦立案は褒められたものではないな」

「申し訳ございません、次の機会があれば完璧に隠し通してみせます」

 

 もう一度、頭を叩く。

 

「まあ良い。まだ待機時間はのこっているだろう、どうせだから二人に相談でもしようかと思ってな」

「相談でございますか? ご命令くださればいかよう」

「そっちに座れ」

 

 言葉の途中でとりあえず席につくように命令する。自分では椅子に座れないエクレアを、埴輪顔のNPCがひょいと抱き上げて席につかせるのを確認してから、相談の内容を話し始める。

 

「先日、女性NPCの何人かに服を配ったところ好評だったのだが、お前たちは今の自分の服装や飾りに満足しているのか?」

「当然でございます!」

 

 首のチョーカを示しながらエクレアは凛とした、したつもりであろう姿を取る。

 

「この身を飾るすべてのもの、姿形までもアインズ様より与えられたもの何一つ不満はございません!」

 

 予想された通りの返答である。

 パンドラズアクターは椅子に座りながらも帽子のつばを指先でつまみ、つまんだ帽子と腕の間から覗き込むようにこちらに視線を向けてくる。

 隙があれば決めポーズを取るパンドラズアクターにたじろぎながらも先を続ける。

 

「実のところ、不満なのは私だ。その服や飾りがお前たちを縛っているのではと。各々の個性を見るためにはどうしたら良いのかと考えているのだ」

「ほほう! つまり私がこのナザリックを支配すれば良いのです! そうなればしもべたちは皆今の服を脱ぎ捨て、私の発案する理想の格好へと姿を変えるでしょう!」

 

 このペンギン、本人を前にしても与えられた設定を貫くのか、とその大胆さ、意志の強さに少し関心してしまったが、おかげで一つ案が浮かぶ。

 

「お前たちの言う至高の者が作ったものでなければ、例えば、自分たちで作ったものならば好きに手を加えることができるのではないか?」

「畏れながら、ナザリックの者達はすべて創造主より与えられた姿を、自らの作ったものに変えようなどと思うことはないかと」

 

 自分がこのナザリックを大切に思うのと同じくらい、NPCそれぞれが、与えられたものを大切に思っていることは知っている。

 

「ふむ……では、なにかそういう機会があればいいのか?」

「アインズ様がそうお命じになれば容易いことかと」

「自然にというのは難しいだろうか」

「率直に申し上げるのならば、その必要性が思い浮かばないというところでしょうか」

 

 何かしらの下地を作り、後は勝手に改造させる。全員が同じ服を着ていても、中に着ているものに差がでたり、ワンポイントでも加えてくれれば今よりかは遥かに個性も見えてくると思うのだが……。

 

「あれだけ私の服を熱心に、楽しそうに選んでくれるのだから、自分の服を考えるのも喜びそうなものなのにな」

「アインズ様の装いを考えるのはとても名誉なことであり、そのお姿を想像するだけでも至福の時でございます」

 

 NPCには個性がある。と言うのは間違いがないはずだ。設定だけで生きているわけでもない、創造主の意思を引き継いでるだけでもない。幾つかの要素が交わり、確実に個人を為している。どうせならその個性を発揮させる場なり物なりがほしいところだ。

 

「どうして、お前たちはその服にくくる?」

「与えられたこの服はいわばナザリックにおいての正装! アインズ様を筆頭に至高の方々が作られたこの聖域においてこれ以上の装いはないと考えております!」

「その通りでございます! 神域である9層を清掃するための正装にこれ以上の姿はございません」

 

 ナザリックでの正装か。ペンギンは服を着ていないのだが。

 余計な考えも浮かんだが、これからの方針の一つは決まったようなものだ。

 

「二人共、いろいろと参考になった。今後も忠義に励むように」

 

 そう言い残して、立ち上がり見送る二人を後ろに、ものは試しにと思い浮かんだ案を形にするための方法を考えることにした。

 ナザリック学園なんてのもあったかな。せっかく自分らの国を作ったのだ、こことはまた別な正装があってもいいだろう。

 

 

 自分へ向けられる以外のNPCの個性が見たいという、些細な願いを込めた案もばっさりと断ち切られてしまうのだが、それはまだ後のお話。

 

 

 

 






終わりです!


ギブアップです、導入を書いた時に思った書きたい話は全く浮かばずあれ?っとなったので……。マーレ(茶釜)とユリ(やまいこ)の話とかなら行けるかなーとか思ってたけどなかなか思いつかなかった!

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