「セバスって変身するじゃん?」
「はい、この姿のままでも十分に戦えますが、強者と戦うのであれば変身する必要がございますね」
呼んできたNPCは、アウラとセバス。二人には今、アインズが作った意識調査のための質問が書かれた紙を、空いた部屋で埋めてもらっている。5分もあれば答え終わるような簡単なものであるが、よく考えて書くようにと30分ほどは部屋の中で待機するように言いつけてある。
「それでさー、変身するためのベルトを持ってるってホント?」
「……本当でございますが、どうしてそれを?」
狙い通り、時間を持て余し始めた二人は雑談を始めた。
「あんまり良く覚えてないんだけどさ―、ぶくぶく茶釜様がそんなこと言ってた気がするのよね」
「至高の御方のお話ですか」
セバスは真面目に30分考えるつもりだったようだが、至高の御方の話と聞いて、手に持った万年筆を机に置く。
「そそ、あの会議のときは全然関係ない話だから言わなかったんだけど、たっち・みー様の話をしてた気がする」
「ほう、それは興味深い話でございます、ぜひお聞かせ願いたいものです」
自分の創造主の話となれば強い興味に駆られる。それも自分が知らない話ともなればなおさらだ。
「なんだったかなー正義の変身ヒーロー? その人みたいになりたくてたっち・みー様は弱い頃のぶくぶく茶釜様や至高の方々の何人かを救ったみたいな話だった気がする」
「正義はわかりますが、変身ヒーローとはなんでしょうか?」
世界最強であり、ひいてはナザリックでも敵うもののいなかったほどの者が憧れる存在。そのような存在がいたとすれば、自分もそれを知らないわけにはいかない。少しでも情報を得ようとアウラに質問を投げかける。
「さぁ、でもセバスに変身ベルトってのを渡したのはたっち・みー様は変身できなかったからっていう話」
「それは……」
変身できることが重要なのだろうか。普段と違う姿が必要だったり、正義の変身ヒーローだということがバレるのを防ぐためにだろうか。たしかに人を救うような行動を続ければ目立つようになってしまうかもしれないし。はたまた自分が犯した失敗のように厄介事に巻き込まれないようにするためかもしれない。
「そうだ、ここで変身ベルト使ってみてよ!」
ふむ、創造主より賜ったものを勝手に見せびらかすのもどうかと思ったが、このベルトに関しての話を教えてくれたアウラの前だ、それならば問題無いだろうと目の前の空間に手を伸ばしベルトを取り出し、部屋の動きやすい位置へと移動する。
「ベルトは無くても変身できるのですが、ベルトを装着して変身するのが正義の変身ヒーローだったのでしょう。それならばやぶさかではありません」
「ちょ、ちょっとなんでいきなり脱ぎだすのよ」
「ベルトの上にベルトをするのはどうかと思い、外したのですが」
「あーびっくりした、いきなり脱ぎ出す変態になっちゃったのかと思った」
「まぁ、それは置いておくとして、行きます」
このベルトを使うときのポーズが思い浮かぶ。思い浮かんだ通りに、左手は拳を握ったまま腰へ、右手は手刀を作り左肩の先の方へと伸ばす。そこから右手が大きく頭上に弧を描くと、体が開いたところで左手と入れ替える。
「変身ッ!」
掛け声とともにセバスの装備が一瞬で入れ替わる。頭には2本の触覚のような角、複眼を模したような網目の入った赤く輝く目が2つ顔の3分の1を覆っている仮面のような兜。体は全身タイツにブレストメイルのようなものを貼り付け、腕には手の甲の隠れないアームガードのみ、足にはニーパッドと、三重に巻かれたアンクルリングのようなものが足首に嵌っている。腰からひざ上までに防具のようなものはなく厚手の革のような生地のタイツのままだ。
「おおお、お? 虫?」
「たっち・みー様の種族と関係があるのかもしれません」
姿は変わったが、この装備に特殊な効果が施されている感じはしない。
「でもさー、たっち・みー様は世界で一番強かったのに、その正義の変身ヒーローって人に憧れてたのかな、だって世界で一番強くなったんだからむしろ変身ヒーローのほうがたっち・みー様に憧れるべきよね」
「敬慕の念を寄せることに、強さは必ずしも必要なことではありませんよ、アウラ。その心意気にこそたっち・みー様は惚れ込んでいたのかもしれません」
「ふーん、よくわかんない」
「それもまだ仕方がないのかも知れませんね。それよりもぶくぶく茶釜はなぜたっち・みー様が正義の変身ヒーローに憧れていた話をされていたのでしょう?」
「う、お、覚えてないかな―」
歯切れの悪い返事、創造主の会話を覚えていないなら残念がりそうなものであるが。
「その話、私も興味あるな」
話を終わらせないためだけに、部屋に入ってくるアインズ。盗み聞きしていたのを隠そうともしない。ライダースーツ姿のセバスが恭しく礼をする。
「アインズ様! 聞いてたんですか」
「ああ、それでなぜその話を?」
「うーあー、はい……実は……」
「シャルティア……その格好はなんだ」
「はいアインズ様、アウラの変身だけ見ても面白うありんせんと思いんして、こうしてわらわもペロロンチーノ様よりいただいた魔法少女変身セットを身につけてまいりんした」
ペロロンチーノに聞いたゲームを気まぐれに調べてみた時に見たことがある。学園ものの制服姿だ。
ベージュのブレザーの胸には校章のかわりにギルドマークが、襟元には大きな赤色のリボン、ブレザーのボタンは開かれて中のカッターシャツの上には水色のカーディガンを着込んでいる。足元はローファーに、ヒザ下までのハイソックス。そこまでは問題ない。
ただ、スカートの長さが股下までしかない。プリーツの入った短いスカートはシャルティアが歩くたびに危険な香りを漂わせる。
「そのスカート意味あるの、少し動いたらパンツ丸見えじゃない」
「ぬかりありんせん。この服を着るときにはセットで下にスク水を着ることになっていんす」
そう言って、スカートをたくし上げ、下着じゃないから問題ないと主張する。
「うわぁ……」
「アウラのそれは、ステッキか?」
アインズはシャルティアの方を直視しづらくなりアウラに話を振る。
「セバスの変身ベルトの話を聞いてぶくぶく茶釜様がお作りになられたそうです」
「せっかくだ、ふたりとの変身を見せてもらおうじゃないか」
「やぱり、やめにしませんか……」
アインズが首を横に振ると、アウラは諦めたように、両手で握ったままのステッキを前に突き出す。
シャルティアは腕のリングを天井へと掲げる。
「へ~んしん!」
フリルで飾られた黄色のワンピースに、ワンピースより少し濃い黄色の波の掛かったケープ。頭には黄色系で揃えられた肩幅よりも広いつばの三角帽子。
「可愛らしい格好ではないか、スカートを履いているアウラは初めて見たからな。新鮮さもあって、よく似合っているぞ」
「す、すごく恥ずかしいです」
そう言うと帽子のつばを両手でつかみ顔を隠してしまう。
「シャルティアは……、似合っているがその格好で外に出てはダメだぞ?」
髪はツインテールになり、ロングブーツに、ロンググローブ。真っ黒な競泳水着のような服の背中は大きく開いている、腰にはパレオのようなものが何層か重ねられているがなぜか股のところだけ隠していない。
「アインズ様! 見てくんなましこんなところにジッパーが!」
――ペロロンチーノォ!!
セバスとアウラの間には特に隠された関係はなかったが、ペロロンチーノの置き土産には隠れたままでいて欲しいところであった。
オチがワンパターンなのは見逃してください!