意識調査を覗くとき   作:はんでぃかむ

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導入

 エ・ランテルの受け渡しも一段落つき、久々にゆったりと過ごそうと思い9階層にある替えのシーツや、枕、マットなどが置かれている布団部屋にこっそりと忍びこむため、一人で通路を歩いていく。

 最近思いついたリラックススペースである。大量のマットと掛け布団に全身を挟まれることにより、物体で遮られた真っ暗な視界と布団のやわらかさを全身に受けながらも心地よいくらいの重量感で動かしづらくなる体。アンデットになり眠ることができなくなった今、貴重な睡眠体験ができる場であった。

 

「コキュやんはまだまだ仕事がいっぱいあってうやらましいわ」

「ラルちゃんは、アインズ様のおそばでの大仕事を終えたばかりであるから、アインズ様も休息もかねてナザリック内での仕事を割り振られたのであろう」

「そうね、ナザリックでお仕事をできるのは、いいんだけどねー」

 

 通路を曲がろうとしたところで、聞き覚えのある声と聞き慣れない呼び名がアインズの耳に入り、足を止める。

 

「それならば、アインズ様にラルちゃんと一緒にリザードマンの集落への経過報告を兼ねた視察を進言してみるのもいいかもしれない」

 

 ラルちゃん? コキュやん? そんな呼ばれ方をするものも、呼び方をしているものも知らない。そもそも、通路を曲がった先で話しているであろう声の主に違和感を感じる。普段はこんな流暢に話していなかった気がするが……。

 こっそりと通路を覗き込もうと忍び足で通路の角まで寄る。

 

「ヌ、アインズ様ノ気配」

 

 会話の続きを聞こうと思っていたのに、100レベルの戦士の探知能力の前には無力であった。

 バレてしまっては仕方がない、素直に二人の前にでる。

 

「邪魔をしてしまったようで悪いなコキュートス、それにナーベラルよ」

「邪魔ナドト、ナザリックニオイテアインズ様ヲハバムヨウナ場所ハゴザイマセン」

 

 いつもの口調だ。先程までの流暢さはどこへ行ったのだろう。

 

「それよりも、コキュートスは普通にしゃべることもできたのだな」

「申シ訳ゴザイマセン、コノヨウニアレト創造サレマシタガ、ゴ不快デアルトイウノデアレバ、スグニ」

「よい、よいのだコキュートス、武人建御雷さんが決めたことに不快など感じるわけがないだろう?」

 

 コキュートスの言葉を遮り、そのままでよいと許可を出す。片言の言葉を話す設定で創ったのならば、それを守っているコキュートスを責めるようなことはできない。

 

「ハッ、アリガトウゴザイマス」

「ところで、コキュやんとかラルちゃんと言うのはなんだ?」

「ナンダト申サレマスト?」

「すまない、言葉が足りなかったな。うーん、コキュやんはコキュートスで、ラルちゃんはナーベラルのことでよいのだな?」

「ソノ通リデゴザイマス」

「そのように呼び合うのを初めて聞いたのでな、少々驚いてしまったのだ。前々から二人で話すときはいつもそうなのか?」

 

 もしかしたら、NPCが自我を持つようになったことで、相性の良い者達のなかに男女の仲になっているようなものがいてもおかしくはないかもしれない。

 

「階層守護者であるコキュートス様を、軽々しくあだ名でお呼びしてしまいもうし」

「お前もだ、ナーベラル。別に普段と違う話し方をしていたからといって私が怒っているなどということはない。お前たちにも意思があるのだ、そういう気持ちが生まれていたとしたら私としては嬉しく思う」

「そういう気持ちと申されますと?」

「お前たちは男女の仲というわけではないのか?」

 

 二人して顔を見合わせ、傾ける。

 

「とんでもございません! コキュートス様とは話していて落ち着く、というか気のおけない仲といいますか、決して男女のそれというわけでは」

 

 先ほどまで仲睦まじげに話していた本人を目の前に、必死に否定するのは酷いのではないかなんて思ったりするのだが。

 

「ナーベラルノ言ウトオリ、男女ノ仲デハナク、戦友イエ苦楽ヲトモニシタ趣味ノアウ友トデモ言ウベキモノデゴザイマス」

 

 コキュートスのほうもナーベラルと同じでそういった仲ではという。

 

「趣味の合う?」

 

 武人なコキュートスと冷酷なメイドのナーベラルに共通する趣味を思い浮かべようとするが、イメージは湧いてこない。

 

「極まった一撃で一刀両断!」

 

「究極ノ武器デノ一撃必殺!」

 

 そんな事を言いながら、ナーベラルは縦にコキュートスは横に腕を剣に見立てて踏み込みながらポーズを取る二人。

 

「そ、そうか。それはかっこいいもんな」

 

 はい、と活力溢れる返事に、武人建御雷と弐式炎雷の作った二人だったことを思い出す。

 

 NPCたちのまだ知らない一面を見ることができて嬉しい半面、初めてナーベラルとエ・ランテルに行った時のことを思い出す。

 あれは冷や冷やしたなぁ、人間のことをゴミだと言い切るナーベラルを連れ、人間の街で活動するというのは。

 

 あの時はそうするしかなかったとはいえNPCたちの性格調査をする暇もなかった時のこと。今となってはだいぶ皆の性格もつかめているが、それは一人ひとりであって誰と誰が仲がいいなどはあまりつかめていない気がする。

 

 シャルティアとアウラ、デミウルゴスとセバスくらいわかりやすいものであれば気づけそうでもある。モモンガとしてギルドメンバーと話した記憶ならばいくらでもあるが、他のギルドメンバー同士となると自分の知らないような仲であった可能性もあるかもしれない。

 

 かつての仲間の知られざる関係を覗き込もうとする行為にも思えるが、今後それで不都合がでてしまっては困る。

 

 二人と別れたあと、アインズは無事辿り着いたふわふわ真っ暗のユートピアの中で、次なる計画を進める算段をつけていた。


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