中国船の尖閣領海侵入激増が暗示する「想像したくない近未来」

一度取られたらもう二度と戻らない
近藤 大介 プロフィール

日本が覚悟すべきこと

東アジアにおいては、古来、中国を中心とした文明圏が築かれてきた。ところが、1840年のアヘン戦争で清国がイギリスに敗れて以降、清国が徐々に傾いていく。

一方で、日本は古来、島国ということもあって、鎖国的意識が強かった。それが19世紀半ば以降、明治維新でほぼ無血革命を成功させ、欧米列強に並ぶアジアの新興国として、急速に発展を遂げていった。

こうして19世紀末に、東アジアにおいて、「トゥキディデスの罠」が起こった。その結果が日清戦争であり、東アジアの盟主は、中国から日本に入れ替わった。

続く20世紀は、前半は軍事的に、後半は経済的に、東アジアにおいて「日本の時代」が継続した。

だが21世紀に入って、再び中国が台頭してきた。一方の日本は、バブル経済崩壊以降、「失われた20年」と呼ばれる停滞の時代を迎える。そして少子高齢化が加速したこともあり、急速に国力を低下させていった。

こうした結果、2010年にGDP(経済力)で、ついに日中が逆転した。10年後の2020年は、3倍近くまで差がついている。軍事費でも、ストックホルム国際平和研究所の「2019年世界軍事費比較」によれば、中国は日本の約5.5倍まで来ている。

つまり、日中は確実に逆転しつつあり、そこに新たな「トゥキディデスの罠」が起こっているのである。その最前線が、尖閣諸島というわけだ。

内閣官房HPより

となると、尖閣諸島をこのまま放置しておけば、近未来には当然、中国のものになってしまう。かつての日清戦争では、日本は巨大な台湾島を清国から割譲させたのだ。その脇に位置する小島(尖閣諸島)など、ひとたび合戦が始まれば、ひとたまりもないだろう。

そして、中国がここへ来るまで120年以上も要していることを鑑みれば、一度取られたらもう二度と戻らないと、覚悟しておくべきだろう。

 


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