中国船の尖閣領海侵入激増が暗示する「想像したくない近未来」

一度取られたらもう二度と戻らない
近藤 大介 プロフィール

トゥキディデスの罠

となると現在、中国側が尖閣諸島近海で起こしている行為に対して、日本は悠然と構えていてよいのだろうか? このままでは、「第2次日清戦争」が勃発してしまうのではないだろうか? 

前述のように、習近平主席自身が、「中国人民はいままさに、中華民族の偉大なる復興という中国の夢を実現すべく奮闘中であり、歴史から知恵を汲み取れ」と、意味深な言葉を吐いている。

私は1995年に、北京大学に留学したが、この年の入学生は全員、一連の入学行事の中で、『七七事変』という抗日戦争勝利50周年記念映画を観させられた。私も観たが、彼らは口々に「もう一度、日本と一戦交えたい」と言っていた。そんな彼らは、いまや習近平政権の中枢にいる。

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国際政治学で、「トゥキディデスの罠(わな)」という言葉がある。

紀元前5世紀のギリシャのペロポネソス戦争を記述したアテネの歴史家トゥキディデスは、「アテネの台頭と、それが盟主スパルタに与えた恐怖が、戦争を不可避にした」と結論づけた。そこで、米ハーバード大学のグレアム・アリソン教授は、覇権国と挑戦国の深刻な対立のジレンマを、「トゥキディデスの罠」と名づけた。

実際、過去500年で覇権国と挑戦国の対立は16回起こっており、そのうち12回で戦争になったという(グレアム・アリソン著『米中戦争前夜』ダイヤモンド社、2017年)。

現在、世界で論争になっている「トゥキディデスの罠」は、覇権国のアメリカと挑戦国の中国の間の戦争は、不可避なのかどうかということだ。このコラムでも先月、詳述したように、すでに「米中新冷戦」という言葉も使われ始めている。

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/74415

 

だが、考えてみれば、「トゥキディデスの罠」は、何も世界ナンバー1と世界ナンバー2の間の対立・対決のみに当てはまるものとは限らない。アジアのナンバー1とナンバー2の間の対立・対決にもまた、当てはまるのである。