中国船の尖閣領海侵入激増が暗示する「想像したくない近未来」

一度取られたらもう二度と戻らない
近藤 大介 プロフィール

日清戦争直前と現在の状況は瓜二つ

この博物館(陳列館)の入口には、近代中国の著名な思想家・梁啓超(Liang Qichao 1873年~1929年)の言葉「わが国の千年の大きな夢を喚起せよ。それは甲午(日清)戦争から実行するのだ」が掲げられていた。

梁啓超は、かつて横浜に住んだりもして、思想遍歴の激しい人物だが、毛沢東元主席がこよなく尊敬していた。思うに、毛沢東元主席を「政治の師」と仰ぐ習近平主席は、ここから「中国の夢」という自らの政権のスローガンを拝借したのではなかろうか。

習政権のスローガンは正確には、「中華民族の偉大なる復興という中国の夢の実現」である。つまり、「日清戦争以前の姿」に中国を戻すということだ。

博物館の出口には、「中国人民はいままさに、中華民族の偉大なる復興という中国の夢を実現すべく奮闘中であり、歴史から知恵を汲み取れ」という習近平主席の檄文が貼られていた。

こうして半日かけて劉公島を見学した後、私が一つ、歴史から汲み取ったことがあった。それは、日清戦争直前の状況と、現在の状況とが、瓜二つだということである。しかも、19世紀末の日中と、現在の日中とを、あべこべにすると、である。

具体的に19世紀末の状況は、ごく簡略化すると、以下のように整理できる。

《日本》
・富国強兵、殖産興業を合言葉に、軍事力と経済力を増強し、アジアの新興大国として台頭しつつあった。
・イギリスとの不平等条約を改正しようと躍起になっていた。
・一時的な経済悪化から、伊藤博文内閣は国民の目を外にそらしたかった。

《清国(中国)》
・日本の軍拡と挑発が恐ろしくて、欧米列強に調停や威嚇を依頼していた。
・最高権力者の西太后を中心とした北京の朝廷も、国民も、平和ボケしていた。
・丁汝昌提督ら軍幹部がいくら危機を訴えても、朝廷は専守防衛を命じるのみだった。

この比較から、何か気づかないだろうか。そう、日本と中国をひっくり返すと、現在の状況にピタリ当てはまるのだ。現状を整理してみると、以下のようになる。

《中国》
・習近平政権は強軍強国を合言葉に、軍事力と経済力を増強し、アジアの新興大国として台頭している。
・アメリカとの「新冷戦」(貿易戦争・技術戦争など)を打開しようと躍起になっている。
・冬の新型コロナウイルスと夏の記録的豪雨による経済悪化で、国民の目を外にそらしたい。

《日本》
・中国の軍拡と挑発が恐ろしくて、アメリカに防衛を頼っている。
・末期の安倍晋三長期政権も、国民も、平和ボケしている。
・海上保安庁や防衛省・自衛隊が危機を訴えても、安倍政権は専守防衛を命じるのみである。

 

この通り、日中の立場を入れ替えると、まさにピタリ一致するのである。