中国船の尖閣領海侵入激増が暗示する「想像したくない近未来」

一度取られたらもう二度と戻らない
近藤 大介 プロフィール

戦後75周年の抗日キャンペーン

中国国内でも新たな動きがある。それは7月20日、中国中央広播電視総台(CCTV)の朝のニュース番組『朝聞天下』で、「浴血抗戦 歴史豊碑」(血を浴びた抗日戦争、歴史となった豊富な碑)と題したシリーズの特集番組を、この日から放映し始めると報じたことだ。

CCTVのショートカットの美人キャスター、天亮(Tian Liang)が、厳めしい顔つきで、次のように述べた。

「今年は中国人民が、抗日戦争及び世界反ファシズム戦争に勝利して75周年です。いまから89年前の『9・18』の砲火から、83年前の盧溝橋の硝煙まで、戦争は中華民族に、生死存亡の空前の苦難をもたらし、数千万人の同胞が苦難に巻き込まれ犠牲になったのです。

しかしながら、苦難は必ずしもわれわれが攻撃されて倒れることではありません。無数の先烈の勇士が不屈の抗争を引き継ぎ、われわれの血肉でわれわれの新たな万里の長城を築きました。これらはすでに、わが民族の永久不滅の精神の記憶と激励になっています。

中国人民の苦しくも卓越した抗日戦争もまた、世界の反ファシズム戦争の不可分の一部であると公認されており、重要な東方の戦場だったのです」

彼女の説明中、「われわれの血肉でわれわれの新たな万里の長城を築く」というフレーズは、中国人なら誰もが知っている中国国歌『義勇軍行進曲』の一節だ。つまり、中国人がオリンピックなどで優勝した時に流れる中国国歌は、「抗日映画」の一つ『風雲児女』(1935年)の主題歌なのである。

山東省出身の天亮は、個人的にはCCTVで一番好感が持てるキャスターだが、「抗日プロパガンダ」の片棒を担がされているのだ。

中国共産党政権にとって、「抗日戦争」とは、狭義では1937年7月7日の盧溝橋事件から1945年9月3日に勝利するまでの「八年戦争」で、広義では1931年9月18日の柳条湖事件から1945年9月3日までの「十五年戦争」を指す。

この番組の第1回放送を見ると、どうやら「7月7日から9月18日までを『抗日シーズン』とする」という着想のようだ。7月31日には、このシリーズの2回目「台児庄大戦」が放映された。

 

このような抗日キャンペーンは、習近平政権が発足した2013年から活発化したが、ここ数年は鳴りを潜めていた。それが2020年になって、戦後75周年とはいえ、再び頭を擡(もた)げてきたのである。