コロナ禍中の登場 どう伝えれば… 新型新幹線N700S 軌道修正くり返したCM誕生の背景
JR東海が13年ぶりに送り出した新型新幹線「N700S」。そのテレビCMに好評の声が集まっていますが、コロナ禍中でのデビューになり、日々変化する状況のなか、内容や表現をどうするか、軌道修正がくり返されたそうです。
最初、社会はコロナではなくオリンピックだった
JR東海13年ぶりとなる新幹線のフルモデルチェンジ車両「N700S」が、2020年7月1日(水)にデビューしました。
それを伝えるテレビCMは、YouTubeでの再生回数が7月末の時点で1000万回以上。JR東海によると、視聴者から「新幹線に乗りたくなった」「興奮した」といった声のほか、このCMソングに曲(「Don't Stop Me Now」)が使われているイギリスのロックバンド「Queen」のファンからも、「曲の高揚感と疾走感がマッチしている」といった声が届いているそうです。8月1日(土)からは、第2弾のテレビCMも放映され始めています。
しかし、コロナ禍の最中におけるデビューになってしまったN700S。積極的に新幹線への乗車を宣伝することが難しいなか、13年ぶりという新型車両のデビューを、鉄道会社としてどう伝えればいいのか――。刻一刻と新型コロナウイルスで社会の状況が変わっていく日々、内容が社会情勢とかけ離れるおそれもあるところで、どうCMが制作されたのか、担当したJR東海 東京広報室の安田吉孝さんと辻原みなみさんに話を聞きました。
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N700SテレビCMのワンシーン(画像:JR東海)。
―CMはいつから制作が始まったのでしょうか?
安田「本格的には2020年1月からです。世間はコロナではなくオリンピックで、現在とはまったく違う状況でした」
―CMの内容が、新型コロナウイルスの影響を受け始めたのはいつからでしょうか?
安田「3月頃から、いろいろ変わりました。状況が1週間どころか1日2日で変わっていくなか、世の中に最も合うものを出したいという思いで進めてきました。誤ったメッセージを伝えてはいけませんので、途中でだいぶ軌道修正しました」
辻原「元々、ご旅行や出張などで利用されるお客さまに寄り添った形でCMをつくろうと考えていたのですが、状況が変わるなか、どうしたら状況に合った形でお客さまと東海道新幹線の関係を描けるか、『う~ん……』と考え、形を変えていきました」
新型コロナでN700SのCM どのくらい変わったのか?
―CMの内容は、コロナ以前と大きく変わったのでしょうか?
辻原「いきなりグルッと変えたことはありません。荒削りのCM構想を時流に合わせ固める形で制作しており、元々の構想は変わっていないためです。CMでは『誰かに会いたいと思ったとき、どこかに行きたいと思ったとき、東海道新幹線は皆様の思いを乗せて走ります』というメッセージを伝えたいと考えていまして、コロナではそのメッセージは同じのまま、伝え方が変わった具合です」
安田「CMは、お客さまに新型車両N700Sの良さをお伝えしつつ、お客さまがワクワクして明日にでもN700Sに、新しくなった東海道新幹線に乗りに行きたい、と思っていただけるような形を考えていましたが、『明日にでも』という状況ではなくなってきました。そこで、CMでN700Sを知っていただきつつ、将来に思いをはせていただければと考え、第1弾も第2弾も軌道修正しています」
N700SテレビCMのワンシーン(画像:JR東海)。
―N700Sがデビューした7月1日公開のCM第1弾において、登場する人々は新幹線に乗らず、「ステイホーム」ですが、その人々が「誰かに会いたい」「どこかに行きたい」と思って、それができるようになったとき、その思いを実現するために、東海道新幹線はいまも走り続ける、という形になっていますね。
辻原「そうしたシーンを想定していなかった、というのが、当初の案に近いかもしれません」
―N700Sデビューと同時に公開された第1弾のCMは、いつ完成したのでしょうか?
安田「6月です。撮影はそれ以前に行っています。撮影では、いろいろなパターンに合わせられるよう、いろいろなシーンを撮っておきました。ちなみに映像は、CM上の演出はありますが、舞い散るレンゲの花びら以外はCGではなく、すべて実際に撮影したものです」
前向きに「Don't Stop Japan」 第1弾と第2弾の連続したストーリー
―CMは第1弾が「その先の、笑顔へ。」篇で、そうした将来に向けて走っていることが表されていますが、第2弾の「Don't Stop Japan」篇には、どのような意味があるでしょうか?
安田「お客さまが乗りたいと思うその日、その来たる日に向けて、その思いや希望を止めることのないよう、将来に向けてN700Sは、東海道新幹線は歩み続けます、といった思いがあります。また『応援』といったらおこがましいですが、『がんばろう!日本』のように、少しでも皆様に前向きな気持ちになってもらえたら、というのもあります」
辻原「CMソングの『Don't Stop Me Now』に合わせているところもあります」
N700SテレビCM第2弾のワンシーン(画像:JR東海)。
―テレビCMの第1弾と第2弾のつながりについて教えてください。
安田「第1弾で温泉のパンフレットを見ていた女性が、第2弾では実際に温泉へ行くなど、第1弾では移動がまだ難しい状況を、第2弾は行けるようになった状況を描きました。第1弾と第2弾を合わせて、登場人物たちの物語が完結する形です」
辻原「第2弾をご覧になったあと、第1弾をご覧になると、伏線がよく分かるかもしれません」
CMの音は全て本物のN700S
―コロナ禍のなか、JR東海は広告宣伝について、どのようにお考えでしょうか?
安田「正直なところ、世の中がどうなるのか分からない、見えづらいというのがあるのですが、このN700SのCMに関しましては、これをご覧になった方がN700Sや東海道新幹線ってカッコイイ、JR東海がカッコイイCMをつくったなと、少しでも明るい気持ちになっていただけたらいいなと思います」
JR東海 東京広報室の安田吉孝さん(左)と辻原みなみさん(2020年7月31日、恵 知仁撮影)。
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コロナ禍で状況が日々変わるなか、変更や調整を重ねてできあがったN700SのテレビCM。もし緊急事態宣言が再び全国的に発せられるなどしていたら、またその形は変わっていたのかもしれません。お蔵入りの可能性も、ゼロではなかったでしょう。
ちなみにこのN700SのCMでは、ライトをつける場面でのスイッチの音や、走行音が入っていますが、すべて実際のN700Sで収録した音を使っているそうです(その音に演出はしているそうですが)。