英ケンブリッジ大学社会学のAaron Reeves氏らは、米疾病対策センター(CDC)の1999~2010年における米国の自殺死亡データを分析。自殺者の増加は2007年までは緩やかだったが、リーマン・ショックが起こった2008年以降、3年間で自殺率は4倍に急増していたことを、11月5日発行の英医学誌「Lancet」(電子版)に発表した。11月7日にバラク・オバマ大統領の再選が決まったが、次期も重要政策の一つが景気対策であることは堅い。Reeves氏らは、長引く不況で国民のメンタルヘルスが置き去りにされている現状を指摘している。
オバマ大統領再選で変わる? 長引く不況で自殺者4倍 米国
schedule 2012年11月09日 公開
年間1,580人増に相当
米国のノーベル賞経済学者Paul Krugman氏は今夏、『End This Depression Now!』(邦題『さっさと不況を終わらせろ』)という痛快なタイトルの著書を出版した。同書では、超大型の財政出動の必要性などが打ち出されているが、長期の景気低迷がもたらす自殺率の増加という深刻な問題にメスを入れたのが、今回のReeves氏らの報告だ。メンタルヘルスの観点からも、長引く不況に終止符を打つことが求められている。
欧州とは異なり、米国では近年の不況を原因とするメンタルヘルスのデータ解析はほとんど行われていなかった。そこで同氏らは、CDCの1999~2010年における自殺死亡のデータを分析。2007年までの自殺死亡率の上昇は10万人当たり年間0.12人だったが、世界金融危機の引き金ともなったリーマン・ショックが起きた2008~10年では、 同0.51人と急増していることが分かった。この急激な増加は、年間1,580人増えたことに相当するという。
さらに、労働統計局のデータに基づいて失業率と自殺率との関連を評価したところ、失業率が1%上昇すると自殺率は0.99%増加すると試算された。失業率は2007年の5.8%から2010年は9.6%に増加しており、この間の自殺者は1,330人増となった。
Reeves氏らは、不況が長期化する中、国民のメンタルヘルスの回復を促進する何らかの政策が必要なのは明らかと訴えている。
(編集部)
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