モモンガ冒険譚!!   作:ブンブーン

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第5話 モモンガ、出発

ーーーーーー

拠点完成から丸1週間が経過した。

モモンガはこの1週間、実に有意義な日々(ある1日を除く)を過ごした。

 

先ず2日目は『遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)』を使い、拠点を中心とした広範囲の情報収集を行った。

 

この『遠隔視の鏡』は指定したポイントを映し出したり、鏡の前で手を動かすなどして操作すれば確認したい場所へ映像をスライドさせる事も出来る。しかし、低位の情報系魔法で簡単に隠蔽され易く、更には反撃も受け易いためかなり微妙アイテムとされている。ユグドラシルで使えるとしたら外エリアのマップ探索程度で、通用するのも序盤のみ。しかもこのアイテム、入手出来るのが中盤以降というクソっぷり。

 

だがこの世界では無類の有能性を発揮していた。対情報対策を施している所など殆どなく、基本自由に覗き見る事が出来たのだ。

 

 

(でも、油断は禁物だ。対探知系魔法の攻性防壁を何重にも重ねた上に更にまた別の対情報系対策の防壁も張る必要はある。)

 

 

最初に確認したのはモモンガがいるこの広大な大森林。正確な面積までは不明だが目測で約5000万平方弱はあると思われるこの森林に、グと同じかそれ以上の強さを持つ個体がいないか探していた。

 

映像を通しながら映り込むモンスターのレベルを調べていくとー

 

 

「お?アレは…。」

 

 

鏡を操作する手が止まった。

そこに映し出されていたのは1体の蛇霊人(ナーガ )だった。胸から下が大きな蛇で、上が痩せ細った人間の老人に酷似している。装備と言った物は着けておらず、薄汚れた布切れ1枚のみ着ている様子だった。

 

 

「レベルは……30か。」

 

 

普通にグの方が強い。

 

確かに他と比べると抜きん出た強さを持っているが戦闘能力においてはあまり期待出来そうにない。

 

ふと窓を見てみると、外で宝物庫の警護をしているウォートロール・ゾンビのグと目があった。何故かドヤ顔を決めているのであとでシバく事にする。

 

 

(お前もそこまで大差は……あ、今は違うか。)

 

 

あの時は拠点作成中だった為やらなかったが、今のグはモモンガが渡した『蛮族王の装備』一式を身に纏っている。この蛮族王シリーズは遺物級(レガシー)アイテムで純戦士系のみが装備可能。

 

紅蓮の立髪が生えた魔獣の頭蓋の兜、鋭角な牙や骨を合わせた骨鎧、鞣した魔獣の毛皮の腰巻き、肋骨の様な骨に覆われた脛甲。武器は『アッティラの戦斧』という同じ遺物級を使っている。両手用バトルアックスで斧頭部には人骨の頭蓋が飾られている。

 

これらの装備の効果は『筋力・耐久力を10%向上 知力を20%減少』だが、一式全てを装備する事で真の能力を発揮する。その効果は『レベルを最大20UP 筋力・耐久力を50%向上。行動制限及び魔法防御を0にする』。

 

かなり優遇された能力に見えるがそうでもない。

 

レベル20UPは満50レベルまでであって50より上がる事は無い。グのレベルは35で、単純計算だと55レベルになるのだが制限に基づき50となっている。更に行動制限だが特殊技術や防御、アイテムを使うと言った行動が出来なくなる。直接物理攻撃のみである。

 

クラン時代の武人健御雷が最初に手に入れた一式装備である。武人健御雷とは半魔巨人(ネフィリム)の姿を取った純戦士系プレイヤーで、たっち・みーに次ぐ高い攻撃力を誇る。

 

 

(健御雷さんに負けないくらい、ここまで似合うヤツは中々いないよなぁ。うん、やっぱりあの装備をグが使うべきだな。)

 

 

グの容姿も合わさり蛮族に相応しい姿となっている。何となくだが彼自身もかなり気に入っているようだ。

 

実は健御雷も蛮族王装備はかなりのお気に入りだった。「だって見た目スゲェ強そうじゃん!?」と言ってた彼だったが、装備の効果を知った時のショックは大きかった。

 

 

「ん?このナーガ……やっぱり、グみたいに部下を従えているのか。」

 

 

モモンガは再び遠隔視の鏡へ顔を向けると、先ほどのナーガがゴブリンやオーガ、ウルフ達に何やら指示を出している様子が映し出されていた。ゴブリン達は彼の指示を黙って聞いている。

 

 

「グは確か東の地の支配者と言っていたな。となると、このナーガは森の西側に居たから……西の地の支配者か。」

 

 

そうなるとモモンガのレアコレクターの血が疼くと言うもの(骸骨だから血はないが)。大した装備は見受けられないが、知能は高そうだ。彼を上手く引き込んで支配下に置くのも悪くはないと思った。

 

 

(待てよ…東の支配者に西の支配者と来ると……南は誰なんだろう。)

 

 

そう考えたモモンガは直ぐに森の南側へ鏡の映像をスライドさせた。

 

因みに北は寒冷の山脈地帯で森は存在しなかった。

 

 

「ん〜〜……特にこれといった存在はいない、か。」

 

 

森の南側を隈なく見てみたが先の2体の様な飛び抜けた実力を持つ個体は見つからなかった。

 

 

(いや、洞窟みたいな所に隠れている可能性もある。この鏡は建物の中まではあまり良く確認出来ない。)

 

 

強者が居る可能性も考慮しながらモモンガは鏡をスライドさせていく。すると、遂にモモンガが求めていたものが映り込んだ。

 

 

「ん?…おぉ!!村だ!村があったぞ!!」

 

 

強制鎮静化が起きる程の興奮。

遂にモモンガは文明圏らしき村を見つける事が出来た。更にこの村に住む種族は人間のみである事も確認出来た。

 

 

「待て待て、落ち着け。先ずはよく観察し情報を集めるんだ。情報を制する者は全てを制するってぷにっと萌さんも言ってたじゃないか。」

 

 

気持ちを切り替えたモモンガは鏡に映る村の様子を観察しながら、慎重にレベルなどの確認を始めた。

 

 

「……は?」

 

 

モモンガは唖然とした。村人のレベルは1〜2程度しかない雑魚中の雑魚だったのだ。これはユグドラシルの戦い方を学ぶ為のチュートリアルエリアに出てくるモンスターよりも低い。

 

 

「い、いや待て。グやさっきのナーガみたいに突出した実力者が居るかもしれん。」

 

 

しかし、何度眺めてもレベル1〜2しか居ない。装備もお粗末を通り越してゴミのレベル。身に付けている物もただの布の服で、使っている農具も魔法効果などないただの農具だった。

 

何時間か観察して分かった事は、あの村にいる人間全てが農夫か狩人。自警団の役割を担っている者は1人もいない。そして、レベルは2以下で装備も装備と言えないゴミばかり。

 

モモンガの警戒心は大幅に減少する。

 

 

「本当にただの農村…のようだな。いや、まだ分からん。この村だけが弱いのかもしれない。」

 

 

モモンガはこの村の少し外れにある森に《転移門(ゲート)》ポイントを設置した後、他にも村は無いかの確認を始めた。

 

その結果、それなりの数の村を発見。中には町レベルに発展した所もあったが、最初に見つけた村と大差は無かった。

 

 

 

(村があって…町もある。恐らくだが、最初に見つけた村や他の町村は同じ国に属している可能性が高い。そして、この森林も例外では無く。)

 

 

そうなると少し不味い。モモンガの考えが正しければモモンガは国の許可なく森を開拓しそこを居住地としている為、違法開拓・不法滞在者と言う扱いになるからだ。

 

 

(うぅ〜、立派な社会人を目指そうって決めたのにもう犯罪者じゃないか。)

 

 

だがこればかりはどうしようもない。勝手に住もうとした事は確かに悪い事だったのかも知れないが、コッチはそんな事気にする余裕など無かった。

 

事情を話せば多少は理解して貰えるかもと言う淡い期待を込めながら情報収集を再開する。

 

村の方は大まかに見て周ったが特に目移りする様なものは一切無し。次に町の方まで映像をスライドさせる。ただの木造建築だけだった村と比べれば建物の造りや人の数でまぁまぁの発展具合が見て取れた。生憎とレベルは今まで見た村とほぼ同じだったが、その中で何人か気になる集団を見つけた。

 

 

(アレは…まさかチームか?)

 

 

その集団は村人や町人とは違い、鎧や武器を装備していた。統一性の無いバラバラの装備は、明らかに其々が持つ職業が違う事を表している。1人は軽戦士、1人は魔法詠唱者、1人は野伏(レンジャー)、1人は森祭司(ドルイド)の4人パーティーだ。

 

 

「レベルにして10前後…ふむ。」

 

 

レベルも一般人と比べて高い。流石にグには到底敵わないが、少なくともオーガ位なら協力して倒せる程の強さはある。

 

 

「ユグドラシルプレイヤーでは無いな。レベルが余りにも低過ぎるし、装備もお粗末だ。俺からすれば4人とも布の服を纏っている事と大差無く感じるな。」

 

 

もう興味は無いとモモンガは映像をスライドさせようとした。だが、その手は止まってしまった。モモンガはその4人のパーティーが仲睦まじく町を歩いている姿に目を奪われていた。

 

 

(羨ましい…)

 

 

素直にそう思った。モモンガの中で嫉妬が湧き上がるが、こういう時に限って精神の沈静化は発動しない。苛立ちながらさっさと映像をスライドさせる。「嫌なものを見た」と苛々しながらの操作は少々乱暴だった。

 

 

(別にあの4人が悪い訳じゃないんだけど…)

 

 

勝手に覗き見て、勝手に苛立ちを覚えるなどタチが悪いにも程がある。これに関しては完全にモモンガに非があるのだ。そんな大人気ない自分に反省しつつ、モモンガは町の中を見て周る。

 

そこでモモンガの苛立ちを払拭させる光景があった。

 

 

「お?露天市場か。」

 

 

そこにはいくつもの商店が通りの道端でテントを張って商売をしていた。規模は小さいがかなり賑わっている。

 

 

「こう言うの結構好き何だよなぁ。」

 

 

モモンガは自他共に認める生粋のアイテムコレクターだ。収集する事が大好きだが、店の商品を見てまわるのも大好きだ。店側からすればありがた迷惑な冷やかしなのだが、モモンガはあまり気にしない。

 

早速、露天商品をざっくばらんに見ていく。予想していた事だがどれもモモンガの御眼鏡に敵う商品は存在せず、マジックアイテムすら置いてなかった。そして、書いてある文字も読めない。数字なのか文字なのかすら不明だ。これには最初焦ったが、宝物庫にあった伝説級アイテム『大賢者の片眼鏡(モノクル)』で難無く読めた。

 

売ってある物はどれも見た目通りの名前で、その価格も銅貨〜銀貨で数枚から十数枚程度だった。高いのか安いのかは分からないが品物を買った市民の出した銅貨と銀貨は少し曲がっていたりと歪な形をしており層も薄い。ハッキリ言ってユグドラシル金貨の方か遥かに洗練されていると断言できる。

 

モモンガは懐からユグドラシル金貨を1枚取り出した。

 

 

「やっぱり素人目で見ても、ユグドラシル金貨の方が厚いし洗練されてる。あぁ、そうか。そうなると…」

 

 

モモンガはある事に気付いた。

 

現地通貨に刻まれている紋様とユグドラシル金貨の紋様が全然違う。更に言えば層もユグドラシル金貨の方が厚く、恐らくだが純度も質量も圧倒的だ。

 

こうなると無闇にユグドラシル金貨を使うわけにはいかなくなる。現地で扱ってる貨幣よりも圧倒的に品質が良く、しかも見た事もない物が市場に出てくるとなると大きな混乱を招く事になる。最悪の場合、市場価格の崩壊や金貨の出所を探る事もあるだろう。

 

これはかなり危険だ。

ユグドラシル金貨は使えず、益々現地通貨が必要になってくる。

 

残念な気もするがこれは大きな収穫でもある。

 

 

(ガラクタばっかりだったけど、この辺りの価格相場や品質水準を確認する事は出来た。)

 

 

魔法も込められていない代物で尚且つ粗末な品質でも人々はそれを求めて買い物をし、品を見比べ、そして悩む。都心に行けばもう少しまともな物も売っているのだろうが、この町でこの程度となると都心で売ってる物もたかが知れている。無論、断定は出来ない。もしかすれば世界級(ワールド)に匹敵するアイテムもあるかも知れないが、今のところの評価はこの程度だ。

 

その後も幾つかの町や都市も見つけたが、目移りする様なモノは見受けられなかった。ただ、あの4人チームの様に一般市民よりも高い実力を持つバラバラな装備のチームは結構見つかった。主に都市に居ることが多く、そういった場所に連中の拠点もしくは組織があるのかもしれない。

 

 

「この世界にもギルドみたいなのがあるのだろうか?」

 

 

モモンガはもっと他の都市部などを観察したい気持ちに駆られるが、あまり膨大すぎる情報を得ても処理しきれない可能性があるので、一先ず人間の文明圏については一度此処で区切りをつける事にした。

 

 

「しかしあの4人チームの魔法詠唱者、随分中性的な顔立ちだったなぁ。多分、男なんだろうけど、彼とは仲良くなれそうな気がするな。」

 

 

モモンガは先の4人チームの一人である魔法詠唱者を思い浮かべていた。彼の容姿からして何となくだが親近感が湧いてくる。人間デビューを果たしてもし彼らと出会う事があれば、友人になれるかなと考えてしまう。

 

今回の情報整理にモモンガは2日を要した。

 

 

ーーーーーー

4日目は森林の南側をもう少し見ることにした。勿論、グや西のナーガに並ぶ支配者を確認するという目的も込めてだが、やはりその存在を確認する事は無かった。

 

その最中に村を見つけたのだが、この村は他の村と比べるとそこそこ森の内側に存在している。随分と辺鄙な所にあるんだなと考えながら、軽く村を見て周る。案の定大した物は無かったので、さっさと別の場所へ映像をスライドさせようとした時、畑仕事をしているであろう姉妹が視界に入った。何となくその姉妹へ映像を拡大する。

 

姉と思われる女性は髪は胸元あたりまで伸ばした三つ編みの栗毛色で肌は農作業で健康的に日焼けしている。妹らしき女の子は薄赤毛で簡単に結われた髪型をしており、齢10前後ぐらいなのかだいぶ幼さと無邪気さが見える。薄汚れた衣服から見て決して裕福ではないだろう。それでも、仲良く幸せそうにしている姉妹を見ると心がホッコリと和む様な気がした。

 

 

(幸せそうだなぁ……そりゃあ苦労も多いんだろうけど。)

 

 

モモンガは骨が剥き出しとなっている自分の胸を撫でた。このオーバーロードの身体になってからというもの、どうも人間を見ても同族を見ているという気になれない。寧ろ、大した興味も抱かなかった。

 

 

「これ絶対カルマ値極悪の影響出てるよなぁ。」

 

 

多分、今の自分なら人を殺したとしても感情も抱かないだろう。ちっちゃな羽虫を潰すか道端に落ちてる小石を蹴飛ばす程度の認識だ。今見ていたあの姉妹から感じたこの感情も、小動物を愛でる程度にしかー

 

 

「いや…。」

 

 

モモンガは首を振る。

それは違う。

この感情はそんな陳腐なものではない。

そう信じたい。 

 

 

「気をしっかり持つ必要があるな……よし!負けるなよ、俺!」

 

 

今度は山の麓付近まで近づくと、山から流れてる綺麗な川を見つけた。興味本位で下流に沿ってどこに行き着くのか追ってみると大きな湖を見つけた。

 

湖に沿って進んで行くと集落を見つけた。

それは蜥蜴人(リザードマン)の集落だった。

 

リザードマンは人間のように手足があり、ワニの様な硬い鱗に長く伸びた尻尾を持つ二足歩行する種族。その身体能力は人間よりも高く筋肉で覆われた強靭な肉体を持っている。

 

 

「へぇ〜、ユグドラシルにいたリザードマンとは少し違うなぁ。少なくとも集落を作るような連中じゃないし。」

 

 

モモンガがリザードマンの集落を見ていると、他の建物から少し離れた場所にある家を見つけた。ただの物置小屋かと思っていた建物から1匹のリザードマンが出てきた。その個体は他のリザードマンとあまり大差ない(というか分からない)が、胸部に何やら不可思議な紋様を刻んでいる。この紋様は他のリザードマンには無い特徴だ。

 

 

「これは…刺青?いや、焼印だな。」

 

 

何故このリザードマンは同族達とは別の場所に居を構えているのかは不明だが、あの胸にある焼印が関係しているのだろう。

 

 

(多分何か罪を犯したんじゃないかな?……ってかこのリザードマン、何となくだけど他のリザードマンよりも目がキリッとしてると言うか…イケメンなのかな?)

 

 

などと考えながらそのリザードマンを観察していると一風変わったモノが彼の腰に備えつけられていた。

 

 

「なんだアレは?」

 

 

レアコレクターとしての性が刺激される。

 

それは剣に近い形状をしており刃が三叉に裂けているのが特徴的だ。最も注目すべきは刀身も柄も全てが氷で出来ている。まるで一つの氷から型取りして作り出したかの様に。

 

 

(見たまんまなら氷系統の効果があると考えるのが妥当だろうな。)

 

 

「うーん、欲しい」と手をワキワキしながら、このもどかしい感情をどうしようかと考えていると、例のリザードマンが湖のとある一角にて何やら水面を覗いていた。

 

 

「魚取り?」

 

 

そのリザードマンは急に湖の中へと走り出した。未だ彼らの表情を読み解ける自信はないが、人間で言えば「血相を変えて」と言った所だろうか。魚取りだとしても水音を立てすぎている為、魚が逃げる事は素人でも分かる。ましてや彼はリザードマン。魚取りの基本を知らないとはとても思えなかった。

 

もう少し観察していると彼は水の中へ手を突っ込むと何かを掴み取っていた。

 

それは魚だった。

 

 

「え、取れたし。」

 

 

だがよく見てみると魚は全く動いていない。と言うより死んでる。最初は死んだ魚がいたから取りやすいと思って捕まえに行ったのだと思ったが、そのリザードマンはショックからか肩を落とし、捕まえた死んだ魚を湖に投げ捨てた。

 

 

「何で捨てるんだ?食う為じゃないのか?」

 

 

プレゼンに失敗した時の俺に似ているリザードマンに何故か同情の気持ちが芽生える。彼の尻尾は元気無く垂れ下がり、そのまま岸へと戻って行った。

 

 

ーーーーーー

5日目以降は『遠隔視の鏡』は使わず、人化の指輪での生活を始めた。勿論、これからの生活に向けての身体に慣れさせる意味もあるのだが、一番の目的はレベルアップである。

 

今のモモンガは人化の影響でレベルが85まで低下している。85も低くは無いが、カンストプレイヤーからすれば大した強さを持たない。レベル差が10以上もあればどんな装備を身に付けていても、今のモモンガではレベル95以上には敵わない。

 

 

「よし、こんなもんか。」

 

 

モモンガの装備は一般的な(でも上級)全身鎧を纏い、片手剣を持っている。

 

人間種でレベルが15ダウンならその分新たな職業レベルを得られる可能性があると考えたモモンガは、剣を試しに振った。剣はモモンガの手から離れる事なく扱う事が出来た。しかし、オーバーロードに戻るとレベルなどは元通りになる為、人化で得たスキルは使えなくなると考えられる。

 

モモンガは迷いなく残り15レベル分を戦士職に振る事を決めた。問題はどうやってレベルアップを行うかだ。普通に考えれば敵と戦って勝利すれば自然のレベルは上がっていくのだが、この世界でもそれが通じるのかどうか…そもそもレベルアップが出来るのかすら不明なのだ。

 

 

「飽くまで扱えるだけでレベルアップは出来ない…って事になったらちょっと不味いな。」

 

 

そうなると人化の状態で上級プレイヤーと戦う事は出来ない。それよりもこの世界にいるかもしれない強者にも劣る可能性だってある。

 

 

(考えるだけなら幾らでも可能性はある…先ずは行動に移すべきだ。)

 

 

実践しなければ意味ない。

あまり余計な考えを持たないようにしたモモンガは『中位アンデッド創造』を発動させた。

 

 

死の戦士(デス・ウォリアー)、デスナイト。俺の剣の稽古に付き合え。」

 

 

召喚された2体のアンデッド。

 

デス・ウォリアーは大盾を持つデスナイトとは違い、2本の剣を備えた攻撃特化のアンデッドだ。2体は片膝を地面に付いた状態でモモンガの命令に恭しく頭を下げる。

 

 

「よし!行くぞ!」

 

 

モモンガはたっち・みーの姿を思い浮かべながら見よう見真似で構を取ると、2体も立ち上がり臨戦態勢に入った。

 

 

 

ーーーーー

6日目

 

デスウォリアーとデスナイトとの稽古は丸一日に及んだ。疲労無効と飲食・睡眠不要のアイテムを装備しているからこそ丸一日休み無く稽古が出来る。このアイテムは人化時の必須アイテムと言えるだろう。

 

稽古の結果だが……レベルアップは成功した。

 

それでもたった1レベル分しか上がらなかったが、単純な戦闘でもレベルアップが出来ることが分かっただけでもこれは大きな収穫だ。

 

 

「嬉しい結果だが、丸一日で1レベル……効率が悪いな。」

 

 

役目を終えた2体はそのまま拠点の警備員にした。あまり呼ぶ事のないデスウォリアーが小さくガッツポーズを取っていたのは多分気のせいだろう。

 

モモンガは《上位アンデッド創造》で相手の職技スキルを看破する力を持つ真眼の屍(トゥルーアイ・コープス)を召喚した。

 

邪悪の塊とも言える大きな眼玉に枯れ枝の様な翼が生えた姿をした真眼の屍はモモンガの命令に従い、モモンガの職業スキルを看破した。

 

 

「ふむ…『騎士lv.1』か。」

 

 

狙い通り戦士系の職業だった。騎士の職業レベルは最大10レベル。仮に10レベルまで上がるとしてもその更に上の5レベル分はどうなるのか。

 

 

「純粋に考えれば『上級騎士』だが、俺は他にも魔力系や死霊系を始めとする魔法職やアンデッドの種族レベルも有している。それを考えると『不死者の騎士(アンデス・ナイト)』か?『魔法騎士(マジック・ナイト)』もあるな……いや、特定条件を満たさなければ成れない『混沌の騎士(カオス・ナイト)』?」

 

 

考えるだけでワクワクしてくる。

どちらにせよ『騎士』より強力な職業だ。残り5レベルと中途半端になるがそれでも構わないと思った。

 

 

(飽くまでロールプレイの延長みたいなものだし……本気でヤバい時は対策するけど。)

 

 

何を隠そうモモンガは戦士職に少し憧れを抱いていた。その影響は元論、たっち・みーであってデスナイトお前じゃない。

 

 

「本来ならもう少し稽古を続けたい所だが…。」

 

 

モモンガは最初の1日目を思い浮かべた。ハッキリ言って黒歴史と化した1日である。

 

 

「あんな思いは二度とゴメンだ。いやマジで。」

 

 

デスナイト達は「何かあったの?」と純粋な疑問の目線を向けてくるがモモンガは「何でもないの」と視線を逸らした。その先にいたグが如何にも「俺は分かってますよ」と言いたげな顔を向けてくるので後で殴っておく事にする。

 

 

(はぁ……まさか絶倫効果まであるなんて聞いてな…いや、知る由もないか。)

 

 

実はあの日、自身のムスコを鎮めるのに丸一日掛かったとあるが、実は鎮まり切れてなかったのだ。寧ろ、出せば出すほどムラムラもギンギンが増して行く一方で「これもう戻らないのでは?」とかなり焦ったほどに。

 

藁にもすがる思いで宝物庫へと移動し、この衝動(発情と性欲)を抑えるマジックアイテムが無いか探し始めたのだ。しかし、あの時の整理でそんな効果のあるアイテムなど確認していない。そもそもユグドラシルに『性的興奮を抑える』様なアイテムなどある筈がない。あのクソ運営もそういった18禁行為にはかなり厳しかった。

 

もはや諦めかけたその時である。

 

奇跡的にその効果もある(・・・・・・・)アイテムを見つけたのだ。

 

 

「『淫夢魔(サキュバス)の呪印』が役に立つ時がくるとはな。」

 

 

モモンガの小指に木目の様な紋様が彫られたシンプルな指輪が嵌められていた。

 

この指輪は『淫夢魔の呪印』と言い、ランクは聖遺物級(レリック)と見かけによらず高い。

 

このアイテムの効果は『全種族魅力(チャームスピーシーズ)の効果半減』とあまり大した効果を持たない。しかし、まさかこれを重宝する日が来るとは今日まで夢にも思っていなかった。

 

 

「まさかこの世界ではアイテムのテキスト設定も反映されるとは。」

 

 

モモンガとて効果だけを見れば着けないとは思わない。装備している理由はそのテキストにあった。

 

 

ーー『この指輪は獲物の証である 淫夢魔は捕食対象を選ぶ際はこの指輪を獲物となる者に嵌めさせて己以外の者に対する情欲を抑える 押さえ込まれた情欲の解放は淫夢魔にとって甘美なものとなる それを呪いと受け止めるか祝福と受け止めるかはその者次第である』ーー

 

 

モモンガはこの『情欲を抑える』に注目した。祈る気持ちで装備した瞬間、さっきまでギンギンにあった性的興奮が徐々に抑制されるのが分かった。

 

その瞬間にモモンガはこの人化時専用精神抑制を必須アイテムとする事に決めた。

 

 

「テキストも適用となると…改めてアイテムを見直す必要もあるかもしれないな。」

 

 

モモンガは明後日の冒険に向けての準備を早速開始した。まるで未知のダンジョンを仲間達と攻略に向かう前日の様な気持ちに、眠気も疲れも忘れて意気揚々と準備に明け暮れた。

 

ただ維持する指輪(リング・オブ・サステナンス)を始めとする肉体的バッドステータス無効アイテムを装備しているのを忘れていただけなのだが。

 

更にモモンガは一つだけ勘違いをしていた。

 

『淫夢魔の呪印』は決して情欲の無効化では無い(・・・・・・・)

 

 

 

 

ーーーーーー

そして、7日目……旅立ちの時(いつでも帰還可能)。多数のアンデッド達のお見送りのもとモモンガは身嗜みを整える。

 

 

「さて……どうだ、おかしくは無いか?」

 

 

モモンガの服装は漆黒の全身鎧を纏い、真紅のマントを靡かせる騎士然とした姿をしていた。背中には2本のグレートソードを備えており、顔は細いスリットのある面頬付き兜で顔を伺う事は出来ない。

 

あのアイテム整理の時に見つけたモモンガ製全身鎧である。たっち・みーに憧れて作ったこの全身鎧は、本人が纏う白銀の全身鎧に遠く及ばない。せいぜい遺物級ぐらいだろうが、グ程度なら何の問題も無く防ぎ切る事が出来る仕様だ。

 

他にも多数のアイテムを装備。その中には人化の指輪と淫夢魔の呪印もある。

 

 

「マントとか…変じゃないか?」

 

 

モモンガの問いかけにアンデッド達は揃って首を横に振る。おかしい所など無い、寧ろベストオブベストである。グは親指を上げて「いいね」を表しているが少しムカつくので後でまた引っ叩く事にする。

 

 

「んじゃあ…行ってきます!」

 

 

拠点を背にモモンガは歩み始めた。後ろからアンデッド達が手を振ってくれていて何度も振り返っては手を振り返した。何故だろう?もうホームシックになってるのか心が寂しい感じがする。

 

 

(いやいや、歩き始めて1分でホームシックでどんだけだよ!?それに拠点にはいつでも帰って来れるし問題無いだろう。それに拠点防衛と管理はあの3体(・・・・)に任せておけば安全だ。なにせカンストプレイヤーでも『容易に倒せない』実レベル以上の力を持つ3体だからな!)

 

 

モモンガは何も心配する事はないと自信満々で拠点を囲う丸太柵の前へと辿り着いた。丸太の柵をポンポンと叩き、その頑強さを再確認する。そして、柵に沿って歩き始めた。その歩みに合わせてアンデッド達も手を振る方向を変える。

 

モモンガは拠点内をグルリと一周し、最初の柵部分の前へと戻るとアンデッド達の方へ向かって行く。

 

やがてアンデッド達の前で立ち止まった。

アンデッド達は何事かと思い一斉に首を傾げる。

 

そして、モモンガは静かに口を開いた。

 

 

「出入り口作ろう…」

 

 

 

ーーーーーーー

大森林の南側。

時は夕刻…大森林の中を1人の娘が走っていた。

 

 

「はぁ…!はぁ…!はぁ…!」

 

 

栗毛色で三つ編みをした娘…カルネ村のエモット夫妻の長女、エンリ・エモット。彼女の後を追いかけてくるのは数体のオーガとゴブリンだった。

 

 

「食いモノ…食いモノ!」

 

「ニンゲン…いタ!」

 

「ハラへった!ハラへった!」

 

 

 

彼女は村のすぐ隣にある森の中へ入り、一番近い都市で売る為の薬草を取っていた。普段は『森の賢王』なる大森林の南側を支配する存在によって、カルネ村はモンスターに襲われる事など一度も無かった。エンリが薬草を探していた場所も普段はモンスターなど殆ど現れない比較的安全な場所…の筈だったのだが。

 

 

(だ、誰か…!誰か…!助けて…!!)

 

 

既に身体中が擦り傷だらけで体力も限界だった。

 

逃げては隠れて、見つかっては逃げてをずっと繰り返している。出会した時に無我夢中で逃げ出した為、方向が全く分からなくなってしまった。今逃げている方向が南なのか北なのか…今自分がどの辺にいるのかすら分からない。いや、方向など気にする余裕もない。今はただ逃げ続けるしかなかった。

 

エンリは咄嗟に近くの木の根元にぽっかりと空いていた穴の中へ身を隠した。

 

近づいて来るモンスターの足跡。

エンリは荒れた呼吸を整えようと口と鼻を両手で必死に押さえる。

 

モンスターの荒い呼吸がすぐ近くから聞こえて来る。恐怖で身体の震えが止まらない。

 

 

(お願い!見つからないで!どっかに行って!)

 

 

エンリはあまりの恐怖で涙を流し、必死に息を殺しながらモンスターがこのまま通り過ぎる事を祈り続けた。

 

 

「ニンゲン…どこ?」

 

「匂いスる。近くにイル。」

 

「ハラへった!ハラへった!」

 

 

残念な事に奴らは嗅覚も鋭い。

近くに獲物がいる事に気付いたモンスター達は唸り声を上げながらエンリが隠れている近辺を探し始める。

 

 

(神様お願い!お願いします!神さま…!!)

 

 

しかし、エンリの必死のお祈りが報われる事は無く、1体のオーガが上から覗き込むようにエンリを見つけてしまった。

 

 

「居ダ!!こ、ココに居ダ!!」

 

 

オーガの手が伸びてエンリを掴もうとする。

 

 

「ひぃぃぃ!!!!!」

 

 

エンリは声にならない悲鳴を上げながら、迫り来るオーガの手を洞穴から飛び出るようにして何とか避けた。だが、オーガの手から逃れる事は出来たが、無茶な動きと逃げ続けた疲労から足首を捻挫してしまった。

 

 

「あ、足が…!」

 

 

激痛で立つ事が出来ない。エンリは地面を這うように必死に逃げようとするも、彼女の周りには既にモンスター達がヨダレを垂らして囲っていた。

 

 

「ウマそう…!ウマソウ!」

 

「メシだ!めし!」

 

「ハラへった!ハラへった!」

 

 

エンリは恐怖による震えと脱力感から、その場から動く事すら出来なくなる。

 

 

「い、いや…助けて…見逃して…お願い…!」

 

 

命乞いをしたところでそれを聞き入れる様な輩ではない。分かっていてもエンリは生き延びたかった。しかし、現実は非情である。

 

オーガの右手に握る棍棒がエンリの頭上目掛けて振り下ろした。

 

 

「いやァッ!!!」

 

 

エンリは身を守るように身体を丸めた。

 

しかし、棍棒が彼女の身体を砕く事は無かった。

 

 

「え?」

 

 

恐る恐る目を開ける。

 

そこには漆黒の全身鎧を纏い、真紅のマントを靡かせた存在がいた。両手に其々大剣を持ち、片方の大剣で目の前にいたオーガを袈裟懸けに両断し、続け様に他のオーガやゴブリン達を瞬く間に斬り伏せた。

 

辺りはモンスター達の血で黒く染まる。

 

とても信じられない光景だった

 

 

「もういないな。」

 

 

漆黒の騎士はそう言うと2本の大剣をまるで小枝の様に軽々と背中に仕舞い込む。すると、騎士は彼女の元へ歩み寄って来た。

 

突然の出来事に先ほどから思考が停止している彼女は、彼が自分の目の前に来るまで呆けた顔をしていた。そして、彼が目線を合わせるよう地面に方膝をつけて身を屈めで漸く思考が戻って来る。

 

 

「あ、え、えっと!?そのぉ…!」

 

 

アワアワと焦る彼女に漆黒の騎士は優しく語り掛けて来た。その時に彼は兜を外しその素顔を露わにする。

 

 

「大丈夫ですか?お怪我はありませんか?」

 

 

その顔もまた…優しさに満ちていた。

 

 

「は、ハイ…大丈夫…れす。ありがとう…ござい…ました。」

 

 

エンリは彼の優しい微笑みと声を聞いて緊張の糸が切れて安心したのか、そのまま倒れ込んでしまった。倒れ込む瞬間、漆黒の騎士が優しく抱き止めるのを感じた。その瞬間、彼女の胸中で何かが弾けた様な…今までに無かった衝撃を覚えた。

 

その胸の高鳴りを感じながら彼女は意識を失った。

 

そんな彼女を騎士は不思議そうに見ていた。

 

 

「何で顔が赤いんだ?まさか熱でもあるのか?」

 




覇王炎莉登場。
テキスト設定とかはダークソウルを意識してました。

鈴木悟って人生の全てをゲームに注いでたから現実の遊びを知らない分、知ったときの反動って凄いんだろうなぁって思いました。

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