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僕らは競合プレゼンだと負けてしまう

残間
私、長年ある広告大賞の審査員をやってるんですが、
ここのところは毎年、審査員の間で
「今年の広告は不毛だ」という話になるんですね。
 
(笑)
 
残間
インターネットの存在感がどんどん増す中で、
岡さんは広告界の推移を、どうご覧になっています。
 
最近の広告がつまんないというのは、
今年の風邪はひどいぞというのと同じでね、
10年前も20年前も毎年言われてたんですよ。
でも振り返ってみると、80年代のは面白いなとか、
90年代の真ん中ごろまでは広告は良かったなとかは、
今思ってるだけで、
当時はみんなつまんないって言ってたんです。
「今の広告はつまらない」という感受性が
まっとうなんだろうなあとは思いますし、
自分も思わずそう感じたりするけれど、
僕はそのことはあんまり気にしてません。
だから僕らが今つまんないと感じてる広告も、
5年後10年後には、意外にあれは骨のある
キャンペーンだったなと思えるのかもしれないし、
そこはちょっとわかんないですね。

広告という産業自体で言うと、
他の産業ほどの変化はないんです。
もちろんインターネットという
ものすごいものが生まれて、
そこにおける広告はこれまでの媒体のような
高額なコミッション(手数料)は取れないから、
代理店はまったく商売にならない分野になってしまった。
インターネットの連中というのは、
電通・博報堂への畏怖の念などないから、
「直接やればいいんでしょ」という風になってきている。

確かにそこのところは変わったんですけど、
じゃあインターネットだけで
成功するキャンペーンというのは存在するかというと、
今のところないんですね。
結局、力が落ちたとはいえ、
一次情報に触れるのはテレビしかないんです。
インターネットの多くは二次情報。
だから人心を動かすのには、
テレビが最も適したメディアであることは
変わってないんです。
 
 
雑誌がかなり衰退しているところはあるし、
新聞もみんなとってないよと言うんだけど、
なくなることはどっちもないと思います。
僕自身は、オールド・メディアは
意外と倒れなかったんだな、という風に思ってます。
 
残間
衰退の一途をたどってるように、
みんな思っているようですけど‥‥。
 
結局、3.11の時もオリンピックも、
去年の総選挙もそうですけど、
みんなテレビ見てますよね。
あれをインターネットで
情報収集しようと思う人は少ないわけで、
テレビは大丈夫だと思うんですけど、
むしろテレビの側が一次情報の提供者だという自覚が、
どれくらいあるのかなというところですね。
くだらないバラエティみたいのばっかりやってるでしょ。
テレビは、もうそういう役目じゃないんですよ。
生のことが知りたいから、
僕らはテレビをつけてるんです。
 
残間
今、起きていることをね。
 
そう。そこはテレビしかないんです。
そこをテレビ側がしっかりわかってくれたら、
もう一回テレビは復活できると思います。
 
残間
インターネットといえば、
テレビCMにインターネットを持ち込んだのも、
タグボートは早かったですよね。
「この続きはネットで」とやって、
リンク先のアクセス数がたいへんな数になって
話題になりました。
あの手法って、タグボートが最初でした。
 
クレジット会社の『ライフカード』のものですね。
 
残間
テレビとインターネットを上手くつないだというか。
 
クライアントに理解があったんです。
これからの時代は、
テレビコマーシャルと同じだけの予算を
サイトにもかける必要があるという、
僕らの提案を受け入れてくれたんですね。
だけど大抵の場合は、
テレビコマーシャルは普通に作ってくれ、
でもサイトはその10分の1でやってくれって
言われるんです。
それで10分の1だと、どうしてもクオリティは落ちます。
するとテレビコマーシャルを見て
面白いと思ってサイトに行くと、
「面白くないじゃないか」となるわけです。
 
残間
わざわざ行った分だけ、余計に腹が立ちます。
 
(笑)そう、腹が立つ。
だからメディアがどう変わろうとも、
そこで何が面白いのかを見極めたり発見する力があれば、
コンテンツを考えるビジネスは
そんなには景気に左右されないんじゃないですかね。
実際、タグボートの売り上げはこの13年、
ほとんど変わってません。
 
残間
毎年、最高益を更新中かと思ってました。
 
そんなことはないです。ほぼ変わりません。
 
残間
それはやっぱりクオリティを保つため?
 
4人でやれる限界というのがひとつと、
増やすことにあまり意味がないですよね。
管理もできないし。
タグボートで、一年間に約50本の
テレビコマーシャルを作ってるんですけど、
たぶん、それが僕が見られる限界なんだと思います。
 
残間
岡さんはもう電通時代も含めると、
30年ぐらい広告を作っているんですが、
自分の作風を客観的にどう見ていますか? 
岡さんの作品の根幹にあるのはなんでしょう。
 
“反ディズニーランド”ということですね。
僕らのチームに共通するのは、
ディズニーランドが気持ち悪いという
感受性なんだと思うんです。
世の中的には、多数決をとれば、
間違ってるのかもしれませんが、
やっぱりどうにも気持ち悪いんですよ。
 
残間
象徴的な意味でのディズニーランドですね。
それはどのあたりが‥‥‥。
 
あの‥‥、何というのかな、徹底的な笑顔と、
健全さと清潔と、隙のないマニュアル。
健全という名の病気みたいなもの。

広告というのは、企業がさらに儲けようと思って、
野心を込めて作るものでしょ? 
これが健全なわけないじゃないですか。もともとの話。
それなのに、どうして明るくて
笑顔満載の広告がいいだなんて、
みんな言うんだろうって思います。
そもそも、そこが僕にはよくわからない。
 
残間
こぎれいなだけでつまらないと。
 
汚らしいものや猥雑なものを
広告に入れたいというか、入れるべきだと思ってるし、
そうしないと面白くならない。
 
残間
確かに琴線に触れるって、
そういうところですよね。
 
そうです。でも今の日本では僕は少数派で、
ディズニーランド的な広告の方が通りがいいですね。
競合プレゼンテーションで、
僕らはほとんど負けるんですけど、
それはディズニーランドっぽくないからです。
 
残間
なるほどねえ。
 
競合じゃない時は、僕らのテイストを
ある程度わかって頼んでくるから通るんですけど、
一般的な競合プレゼンだとほとんど負けます。
 
残間
まだディズニーランド的なものって強いんですかね。
 
強いですよ。
テレビをつけてみてください。
コマーシャルの9割方は、不必要な笑顔と明るさと、
健全な商品ですよということを主張してます。
残間さんはそういうものにあまり興味がないから、
見ても覚えてもいないんでしょうけど。
 
残間
目に留まっていないだけだと。
 
そういう人も結構いると思いますよ。
意識レベルにないというだけであって、
世の中はそう。
 
残間
でもディズニーランド的なものが
世に蔓延しているからこそ、
タグボートが目立てるとも言えますね。
 
確かにみんながみんな
“反ディズニーランド”だったら、
埋没しちゃうかもしれません(笑)。
 
(つづく)