今回の「ウイグル人権法」では、海外で永住権や市民権を得たウイグルの人々までも、中国当局者による脅迫やいやがらせを受けていると指摘されている。
そうした事例は、2000人から3000人のウイグルの人たちが暮らすと言われる日本も無関係ではない。1人の男性が、NHKの取材に応じた。
ハリマト・ローズさん
新彊ウイグル自治区出身のハリマト・ローズさん(46)。15年前、大学院留学のために来日した。日本で建設関連の仕事をした後、3年前から千葉県でウイグル料理店を営んでいる。
おととし、平穏な暮らしが一変した。妻の親族3人が、次々と当局の収容施設に入れられたという情報が入ったのだ。故郷の家族からも連絡をしないよう求められ、現地の状況は分からなくなってしまった。ローズさんの周りにも、故郷の家族や親族が収容施設に入れられたり、連絡がとれなくなったりした人が多くいるという。
仕事のかたわら、ローズさんは在日ウイグルの人たちで作る団体の幹部も務めている。去年からは名前や顔も出し、中国の人権状況の改善を訴えている。
先月(5月)、故郷の兄からビデオ電話がかかってきた。兄は、見覚えの無い場所に座っていて、中国政府を批判するデモ活動に参加したかどうかを繰り返し尋ねてきた。不審に思ったローズさんは、兄に内緒で、別の携帯電話を使ってやりとりを撮影していた。
携帯電話の画面越しの兄
ローズ:「今、どこにいますか。周りを見せてください」
兄:「私は大丈夫だ。心配ない」
ローズ:「隣に誰かいるの?」
兄:「いや、誰もいない。(携帯電話のカメラで周囲を見せる)ほら、心配しないで」
しかし、会話を終えようとしたその時、画面に見ず知らずの男が突然現れ、話しかけてきた。
男
「中国は永遠に君の祖国だ。私はあなたと友達になり、いろいろな話をしたい」
男は、政府組織の所属とだけ名乗り、在日ウイグルの団体の活動情報を求めた後、「再び連絡する」と伝えて電話を切った。
左:ハリマト・ローズさん 右:携帯電話の画面越しの兄
2度目のビデオ電話は、4週間後だった。ローズさんから事前に連絡を受けたNHKの取材班が、その様子を撮影した。
兄:「国家安全局の人がお前と話したいと言っている」
ローズ:「本当に国家安全局の人ですか」
兄との短いやりとりの後、情報機関である国家安全局の所属だとして、前回と同じ男が画面に現れた。ローズさんが証拠を示すよう求めると、「一般の人に見せてはいけないものだ」と前置きをして、黒っぽいものを一瞬だけ示した。撮影した映像からは、「国安」という文字が読み取れた。
携帯電話の画面に示された「国安」の文字
男は、強い口調で協力を迫ってきた。さらに、ローズさんが協力すれば、見返りに日本国籍の取得に手を貸すと持ちかけてきた。
政府組織の所属と名乗る男とのやりとりの一部は、こちらの動画でご覧になれます。
ローズさんは、「考えさせてほしい」とだけ答え、この日の会話を終えた。深いため息をついた後、絞り出すような声で言った。
ハリマト・ローズさん
「兄にもいろいろと圧力をかけているかもしれない。すごく辛い気持ちで、どう言えばよいか分からない。当局に協力したらスパイみたいになってしまう。なぜウイグル人はこんな目にあうのだろう」