山田祥平のRe:config.sys

Type-CがさらにややこC

 なかなか業界全体の足並みがそろわないスマートデバイスの充電事情。また新しい技術が出てきた。消費者としては与えられた環境を受け入れるしかないわけだが、どうにもモヤモヤが晴れない。

最速充電テクノロジとしてのQualcomm Quick Charge 5登場

 Qualcommが、Androidデバイス向けの最速の商用充電テクノロジとするQualcomm Quick Charge 5を発表した。わずか5分でスマートフォンのバッテリの半分近くを充電できるように設計されているという。

 すでに身の回りの多くのデバイスが、Micro USBを撤廃し、Type-Cコネクタを装備するようになった。AmazonのFire HDタブレットのような廉価な端末もジャックはType-Cだ。Amazon系では、今なおKindle端末がMicro USBだが、これがType-Cに置き換わるのも時間の問題だろう。

 デバイスの充電には、デバイスそのものとACアダプタ、そしてその2つを結ぶケーブルが必要だ。各種デバイスが装備するジャックがType-Cに統一され、ACアダプタ側も時間はかかっているが、ちょっとずつType-Cに統一されつつある。

 だから、デバイスとACアダプタを結ぶケーブルも、両端がType-Cプラグである一般的なType-Cケーブルがあればいい。Androidスマートフォンのユーザーのなかには、もうType-Cでないデバイスというだけで購入選択肢から外す人もいるようだ。

 ただ、デバイスとACアダプタをType-Cケーブルで接続しても、そのケーブルを通じてどのような方法で電力を供給するかは別の話だ。

 たとえばAmazonのFire HDに同梱されているACアダプタはType-Aのジャックを装備したもので、片側がType-Aプラグ、片側がType-Cプラグのケーブルを使って充電するようになっている。Type-CケーブルとACアダプタを自分で調達し、Type-Cだけの世界に完結することはできるが、いわゆる急速充電はできない。

 なぜなら、Fire HDは、現時点での事実上の業界標準充電プロトコルとも言えるType-C Power Delivery(PD)に対応していないからだ。

 PDでの充電には、デバイスとACアダプタの双方が対応している必要がある。ケーブルについても対応が必要だが、Type-Cプラグを両端に持つケーブルを電力供給に使う用途では、3A、すなわち60Wまでという制限はあっても、PD非対応ということはないと考えていい。仮にPD対応のACアダプタを使ったとしても、Fire HDがPDに対応していないために急速充電にはならない。

 物理的にはちゃんとつながっているが、論理的にはそうではないということだ。Type-Cジャックを持つデバイスでもPDには対応していないものはたくさんある。でも、充電ができないわけではない。つなげば通常速度での充電は可能だ。

 Qualcomm Quick Charge 5(QC5)は、前世代のQC4がそうであったようにPD互換でありながらQCのルールにしたがって稼働する。そのため、ほかの方式との共存を拒むPDの規約に準拠していない。

 ただ、何も考えずに、デバイスとACアダプタをケーブルでつなげば、最適の方法で充電されるというのは消費者にとっては優しい。デバイスごとに異なる電圧を供給する製品同梱の独自ACアダプタを選択して、機器ごとに異なる径のバレルコネクタで接続する必要もない。バレルというのは樽の意味で、一般的なDCジャックの形状が樽状に見えることからそう呼ばれている。

電力を熱にするのはもったいないしバッテリにも優しくない

 デバイスとACアダプタを接続して充電するとき、キーとなるのはデバイス側のインテリジェンスだ。つまり賢いデバイスは、ACアダプタに依頼して受け取った電力を、どのように使うかをきめ細かくコントロールする。

 大きな電力をもらうことができたとしても、その電力をうまくバッテリに格納することができなければ、エネルギーの多くは熱になって外に放出される。充電時にさわれなくなるくらいに熱くなるデバイスは、このあたりのコントロールがうまくできていないということだ。必然的に電力の多くが熱になって消えてしまい、効率のいい充電はできていないはずだ。

 QC5の実力をフルに発揮させるためには、デバイス側での対応が必要になる。2Sバッテリと20Vの電力供給をサポートするとのことなので、結果として100Wを少し超える程度になる計算だ。

 ただ、Type-Cケーブルは100Wを超えるものは規格上ありえないので、それを下回る電力に抑制されることになるだろう。まだ現物が手元にないのでなんとも言えないが、そこまで規格を無視するとは考えにくい。

 そして急速充電のために、この大電力をうまく制御し、電圧、電流、温度に基づく12の保護機能の搭載によって安全を担保、Dual/Triple Charge技術、アダプティブ入力電圧、INOV4(Intelligent Negotiation for Optimum Voltage 4)、Qualcomm Battery Saver、Qualcomm Smart Identification of Adapter Capabilities技術などなど、あらゆるテクノロジで充電効率、安全性、電池のライフサイクルの向上を実現するという。

 つまるところ、今回のQC5は、充電の規格ではあるもの、実際には充電されるデバイス、つまり、スマートフォンなどのデバイス側に実装される技術であることが想像できる。

 PDであれなんであれ、要求して得られた100W程度の潤沢な電力を、いかに賢く運用してバッテリに与えるかのスマートさがスマートフォンなどのデバイスにゆだねられるということだ。これまでもそうだったが、今回はとくにその意味合いが大きい。最大変換効率は98%に達するというから、得られた電力をほとんど熱にせずに、バッテリに格納できるということなのだろう。

 ステイホームの浸透で、自宅にいる時間が長くなり、スマートフォンはもっぱらいつも充電中ということが増えたという方は少なくないのではなかろうか。いざ出かけるときにバッテリが半分というのでは心許ない。だからいつも満充電にしておきたい。

 だが、バッテリが半分程度になったスマートフォンを10分ほど充電すれば満タンになるなら、その扱い方も変わってくるのではないか。熱くならない充電はバッテリにもやさしく、ライフサイクルも長くなるはずだ。バッテリの膨張によるデバイス破損も過去の出来事になることを祈りたい。

 QualcommはQC5実装デバイスの登場を2020年3Qとし、Snapdragon 865、865 Plus、および将来のプレミアムおよびハイティアSnapdragonモバイルプラットフォームでサポートされるとしている。とにかく実稼働している様子を早く見てみたいものだ。

ケーブル1本の幸せがiPhoneユーザーにも

 そして残るはiPhoneだ。現状では、iPhoneのためだけに、片側Type-C、片側Lightningのケーブルを調達しなければならないし、iPhone以外のデバイスにこのケーブルは使えない。Apple製のデバイスでもMacBookだってLightningジャックは装備していない。一般的なiPhoneユーザーは、すっかりあきらめて、それが当たり前だと思っている。さて今年(2020年)の秋はどう動くのだろうか。

 先日、サンバレージャパンが、RAVPowerブランドで10,000mAのモバイルバッテリ「RP-PB206」を発売した。容量クラスほぼ最小で重量は175gとコンパクトだ。そして18WのPDに対応する。この製品は、通常のType-CとLightning、2つのジャックを装備する。そしてそのどちらを使っても、バッテリへの充電ができるのだ(RAVPower、Lightningでの本体充電も可能なUSB PDモバイルバッテリ参照)。

 一般的なモバイルバッテリはLightning端子が装備されていなかったため、iPhoneユーザーはバッテリの充電のために両端Type-Cのケーブルを、iPhoneの充電のためにLightningケーブルをと、2種類のケーブルを使い分ける必要があった。

 でも、このバッテリではLightningケーブルが1本あればいい。これでiPhone周辺がまた1つシンプルになる。Androidユーザーは前からそのシンプルさを堪能していたのだが、その気持ちをiPhoneユーザーにも知ってほしい。

 当面は、こうした製品を使っていくというのも消費者の選択肢の1つだろう。ややこしい時代は、まだ続く。