(イラスト・逸見恒沙子)

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コロナウイルスを理由に、国籍を問わず多くの人が職場を追われています。国は雇用調整助成金などを使って、雇用を維持するように要望しています。それにも関わらず、「もう仕事がない」と切り捨てられている人たちからの相談はなくなりません。「派遣先がないから、くび」と言われたアパレル店で働くモンゴル出身の女性のケースを元に、難解な法律や制度について、日本語にまだ慣れていない外国人にもわかりやすい「やさしい日本語」で、考えました。

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「もう仕事がないです」

こんにちは。POSSEの岩橋誠です。今回は、「派遣切り」にされた外国人の相談です。たくさんの外国人が、「派遣社員」として働いています。コロナウイルスの影響で、派遣できる仕事がなくなり、くびになった人は多いです。そのときは、どうすればいいでしょうか。一緒に考えていきましょう。

【相談】モンゴル出身、女性、ノミンさん(20歳代)
「私はモンゴルの高校を卒業しました。ファッションが好きでした。服のデザインの勉強をしたいと思いました。そのときは、お姉さんが日本の大学にいたので、日本に行きたいと思いました。そして、東京にある服のデザインをする専門学校に入りました。

専門学校を卒業してから、ファッションの仕事をしたいと思いました。そこで、昨年(2019年)、日本でアパレル店の店員になりました。派遣会社に登録して、派遣社員としてアパレル店で働きました。

たくさん働いて、お店の中でもたくさんの服を売ることができました。外国人のお客さんが来たときには、外国語で服について話しました。

でも、コロナウイルスのせいで、今年の3月から、お店に来るお客さんが減りました。私はいつもは1か月に20日くらい働いていました。でも3月は、私は14日しか働くことができませんでした。派遣会社の人は、『いまの店で仕事がなくなっても、別のお店で働くことができるようにします』と私に言いました。

そして、4月にお店が閉まりました。私の仕事はなくなりました。でも、派遣会社の人は私に、『別のお店で働くことはできません。あなたを派遣できる店はありません』と言いました。まだ私の契約は、残っています。でも、くびになりました。

私は新しいビザをとったばかりです。ビザはどうなりますか。家族はみんなモンゴルにいます。家賃を払うことも難しいです。貯金はあまりありません。どうすればいいですか。」

「派遣できないから、くび」はだめです

派遣社員は、派遣会社と働く約束(雇用契約)をします。派遣会社が仕事(派遣先)を見つけます。派遣社員は、派遣先で働きます。外国人の中には、派遣社員の人も多いです。ノミンさんと同じように、会社から「派遣先がなくなりました」「派遣できる仕事がありません」と言われて、くびになった人もたくさんいます。

でも、「派遣先がないからくび」は、だめです。ノミンさんは、派遣会社と働く約束(契約)をしています。 会社が働く人をくびにするときは、きちんとした理由が必要です。これは法律で決まっています。「派遣先がない」だけでは、理由にはなりません。

「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上 相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」(労働契約法第 16 条)

派遣で働くときは、働く契約の期間が決まっていることが多いです。期間がまだ終わっていないのに、「派遣先がない」という理由だけでは、「くび」にできません。仕事(派遣先)がなくなっても、派遣会社に、期間が終わるまでの給料をもらうことができます。 労働者派遣法でも、もし、あなたが1年より長く派遣会社で働くことになる時などは、派遣会社は新しい仕事(派遣先)を見つけるように努めることが決まっています。もし、派遣先がないときでも、派遣会社は給料を払うように努める、と決まっています。

新しい仕事が見つかるまで、仕事を休むので、休業手当をもらうこともできます。休みのときは、少なくても、休業手当として給料の60%を、派遣会社はノミンさんに払わないといけません。法律で決まっています。

「会社側の都合により労働者を休業させた場合、休業させた所定労働日について、平均賃金の6割以上の手当(休業手当)を支払わなければなりません。」(労働基準法26条)

そして、ノミンさんは、「60%は少ないです。100%払ってください」と会社に言うこともできます。

国が会社にお金を出します

国は、コロナで仕事がない会社にお金を出します(雇用調整助成金)。いま国は派遣会社に「派遣社員をくびにしないでください。助成金を使って、休みにしてください」と言っています。

会社はそのお金を使って、働く人を休みにできます。休みにした人に休業手当を払うことができます。だから、いま、くびになるのは、ますますおかしいです。 契約の期間が終わった人や、仕事がある時だけ働く契約をする「登録型派遣」の人も、あきらめないでください。相談をしてください。

「くびはおかしい」と会社に言いましょう

「くびになって困っている」ときは、すぐに誰かに相談してください。 POSSEでも24時間メールで相談できます。お金はかかりません。 POSSEは、ノミンさんに労働組合(ユニオン)に入ることを勧めました。

ユニオンは、働く人たちが集まって、働く環境を良くするための団体です。例えば、給料を上げることを、会社に求めることができます。ノミンさんのように、「くびはおかしい。働きたいです」と会社に言うこともできます。

ノミンさんはユニオンと一緒に、会社に行きました。会社と話し合い(団体交渉といいます)ました。最初、会社は「仕事がありません。ノミンさんは働くことができません」といいました。でも、ユニオンが「クビは違法です。会社のおかしいところを多くの人に知らせます(団体行動といいます)」と言いました。会社はノミンさんをまた、会社で働くことができるようしました。会社は休んでいたときの給料も100%払うことを約束しました。

ノミンさんは、これまでと同じビザで、いまもこの会社で働いています。

日本人・外国人で蔓延する派遣切り

コロナウイルスを理由に、国籍を問わず多くの人が職場を追われています。厚生労働省によれば、7月17日時点で約3.6万人が解雇もしくは雇い止めされたことがわかっていますが、これはあくまで国が把握できた件数であり、実際にはこれを遥かに上回る人が仕事を失ったと考えられます。

POSSE外国人労働サポートセンターにも、多くの外国人から「もう仕事がないと言われた」という相談が寄せられています。彼らのほとんどは、緊急事態宣言が出された直後の4月半ばに、解雇や雇い止めされています。

いま国は企業に対して、解雇や雇い止めではなく労働者を一時的に休業させるよう呼びかけています。そのために、国は「雇用調整助成金」という制度を拡充しました。この制度は、企業が休業させている労働者に対して支払う賃金を国が補助金として支給するというものですが、中小企業の場合は企業が労働者に支払う金額の100%が国から支給されることになっています。つまり、企業は経済的な負担なく、労働者を休業させることができるのです。いま、労働者を解雇や雇い止めにする必要性も、合理性もありません。これは派遣労働者の場合でも同様です。

厚生労働省は5月26日、派遣会社の業界団体である「人材派遣協会」に対して雇用調整助成金などを使って雇用を維持することを要望しています。実際、「派遣先がないからくび」ができてしまうと、最初から直接雇用すればよかっただけであり、派遣会社そのものの存在意義がなくなってしまいます。

ただ、手続きが煩雑などという理由で、企業は雇用調整助成金を使わずに労働者を解雇や雇い止めにしています。特に、外国人の場合は、日本人よりも先に雇用を失う傾向があります。しかし、ここまで説明したように、契約期間が残っている状況で中途解約は違法の可能性が高く、労働組合などで争えば、職場復帰できることがあります。

POSSEに相談にきた外国人は、労働組合「総合サポートユニオン」に加入して会社に復職を求めた結果、ノミンさんも含めてほぼ全員が復職することができました。とはいえ、外国人が日本で会社に対して権利を主張することは想像以上に大変です。不当な目に遭った外国人が「おかしい」と言うことを支援していく取り組みが今後、ますます必要になると思います。

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社会が混乱したときに、日本で働く誰もが困らないための知識を、NPO法人「POSSE」の岩橋誠さんと、やさしい日本語で発信することにしました。毎週金曜日に配信します。

POSSEの「外国人労働サポートセンター」は英語・日本語で、相談に対応しています。( supportcenter@npoposse.jp)