「これが、るし★ふぁー様の作ったゴーレムでありんすか?」
「ちょっとあんた、ゴーレムのスカート覗き込もうとしてるわけぇ? 頭おかしいんじゃないの」
「こんな大股開きで座っているんだから、見えちゃうんじゃないか心配になっただけでありんす」
「はいはい、マーレのスカートめくれそうになってる時もチラ見しちゃうくらい、スカートとパンツが大好きな変態さんだもんね―シャルティアは」
「だれが変態よ! マーレのパンツになんて興味ありんせん! ちょーっとばかしこのゴーレムの造形が気になったからつい」
スカートがひらめくのに目を奪われてしまうことは否定しない。
「ついー、でパンツ覗くんだ」
「むきぃーー」
6層にある2匹のドラゴンの寝床、竜の祠。
「遅れまして申し訳ございません」
「エンちゃんがゴーレム探しから、おやつ探しに夢中になっちゃうから大変だったっすよー」
「新鮮なぁおやつがたぁくさんあるのでぇ、わたしはこの階層が大好きですぅ」
外からのものをこの階層にかなりの数移住させて来たせいだろうか。今では6階層にも無数の虫が生息している。
「……別におやつはなかった」
「そろそろおやつが食べたいっすね―」
闘技場にいたメンバーではあとコキュートスがくるのを待っている。ここからは一番遠い位置で捜索していたはずだ。
「シズ、このゴーレムは停止状態ではないようなのだが、動き出す条件はわかるか?」
ゴーレム探しを始めてから、3体目になってようやく発動させずに像を発見することができたのだが、闘技場のゴーレムと同じくすでに起動状態になっており指揮権の移譲が不可能であった。
「ワタシガ最後カ」
シズから答えを聞く前にコキュートスが竜の祠に到着した。
――天誅
――我が名はアスタロト! 私のドラゴンを狙う愚か者たちよ、今こそ裁きをくだそう! ……ねぇこれなにに
音声の編集にミスがあるようだ。
ちゃんと女性形のゴーレムらしい声があたりに響き渡る。見た目と反してだいぶ幼い声に聞こえるが。
「ぶくぶく茶釜様!」
アウラとマーレは同時にその声に反応した。そう、今までのゴーレム時のようなるし★ふぁーの声でなく、ぶくぶく茶釜さんの、それも普段の声でなく仕事でつかうような可愛らしさを全面にだした高めの声である。
ちなみに、ゴーレムが乗っているドラゴンはるし★ふぁーのものでも、ぶくぶく茶釜のものでもない。
見つけたゴーレムはドラゴンの背に、テディベアのように大きく開脚して乗っており。二本の腕で1枚の鱗を手綱のように掴んでいた。
巨大なドラゴンに生えている鱗とはいえ、普通の人間サイズでは1枚の鱗を二本の腕で掴むのはかなり不格好になってしまうはずである。
このゴーレム、全長30cmほどで腰にはレイピアがぶら下がっている、恐怖公と同じくらいのサイズだろう。現実離れしたスタイルで、胸は大きく、腰のくびれと小さなお尻。顔の造形もどの角度から観察しても、非常に整っており、目元は大きく、口は小さい。ミニスカートと、胸元だけを隠すような鎧がかたどられたそれは、見ているのが気恥ずかしくなってくるような美少女である。
ペロロンチーノに聞いたことがある、美少女フィギュアというものだろう。
しかし、悪魔図鑑には、その外見と一致するようなものは載っていなかったので、どの悪魔であるかは自己紹介を受けるまで図鑑の解説からの予想でしかなかった。
悪魔図鑑の29番目、巨大なドラゴンに乗り怠惰を司る悪魔アスタロト。
何のアクションも起こしてこないゴーレムに疑問を感じていると。
「停止した」
シズの終了を告げる言葉。
「は? まだ何もしていないぞ」
「手に持ったレイピアで、ドラゴンの背中10回叩くと停止する」
怠惰の悪魔の所業であった。
まだ何故ゴーレムが動き出したのかもわからないうちに終了してしまう。
「アインズ様! ぶくぶく茶釜さまの声がしました! もう一度聞きたいです」
「ぼ、僕もご迷惑でなければもう一度だけ……」
双子が願うので指揮権を移す前に、同じ設定でセットし直す。
その後5回ほど聞かせたところで、また聞けるからと2体のゴーレムを連れて。一旦10層へと戻ることにした。
守護者は一旦持ち場に戻し、10層へはプレアデスだけ向かわせ、7層や6層にあったために汚れてしまっている像の清掃を指示する。自身は、9層の浴場においたままのゴーレムの像を取りに行く。メイドたちは誰か一人は着いて行くべきだと申し出たが、すぐに戻るのでしっかりと像のを磨いておくようにいいつけ、どうにか一人で9層へと向かう。
「外はやっと朝になったくらいか……」
結局、ちゃんと休むまもなく3体の悪魔の像を見つけ出してしまった。このまま残る一体も見つかればよいのだが。この時間だとそろそろ冒険者組合にも顔を出さなければいけないだろうか。
9層へ転移して階段を下っていき、ギルドメンバーたちに割り振られた部屋が並ぶ道と十字に交差しているあたりへ差し掛かると、羽のしおれた白いドレスをきた悪魔が同じく十字路へと出てきた。
「アルベドではないか、こんな時間にどうしてここにいるのだ」
しおれていた羽は一気に生気を取り戻し膨らんでいく。
「あいんずさまぁあああ! どうして私を連れて行って下さらなかったのですか!」
叫びながら駆け寄ってくると、体を押し付けてくる。
「一体何のことだ、大浴場での事後処理の後は各自解散だと言ったであろう」
「インクリメントに聞きました! アインズ様は、あの後シズとゴーレム探しでナザリック内を回っていると!」
アインズの自室の清掃をすると言っていたメイドからどうやって聞いたのだと、いいたいところではあったが、ずいずいと詰め寄ってくるアルベドに気圧され、答えるしかなくなっていた。
「あ、ああ、あのゴーレムの像が実はるし★ふぁーさんが作った悪魔の像の1体でな」
「そうです! あの浴場で突如として襲ってくるようなゴーレムを探すなどと危険でございます! もし探すのであれば御身を守る盾となれるものが必要だと思うのです! それにユリやエントマは7階層で褒めてもらったと! 私に至らぬところがあるならぜひお教えくださいませ、すぐにでも直してアインズ様のお役に立ってみせますから」
すがるように寄り添ってくるアルベドの頭をなでてなだめさせる。
アルベドは仲間はずれにされたかと思うと結構気にし続けるタイプなのだろうか。GMコールを知らなかったこともずっと引きずっていたようだし。
浴場でのことがあるから、なるべくこの件に関してはそっとしておこうと思ったなどとは言いづらくなってしまった。
しばらく撫でていると少し落ち着いたのだろう。擦り寄る力が弱まってきたところで言葉を投げかける。
「アルベドよ。そうではないのだ。そうお前は浴場でしばらくタオル一枚のままでライオンの像のターゲットを引き受けてもらったから他のものよりも休息が必要だとおもって呼ばなかっただけなのだ」
「アインズ様、私なら問題はございません。あの時はたしかにリングオブサステナンスも外しており疲労が溜まる状態では有りましたが、私はタンク職、体力だけはほかの誰にも負けない自信がございます、今後はお気になさらずいつでもどんなときでもどこへでもお連れください!」
「そ、そうだったな、だからこそ、私を守ってくれる最大の盾だからこそ常に万全でいて欲しいのだ、アルベドよ」
まぁ、と頬に手をやるアルベドを見て、ほっと胸をなでおろす。