悪魔の像の並ぶ広間の中央から、玉座の間への扉を見て左側の一柱が1番目の悪魔バール、右側の最初の一柱が2番目の悪魔アガレス、3番目の悪魔ウァサゴはバールの隣、4番目の悪魔はアガレスの隣に。簡単にいえば広間中央から見て左側に奇数番の悪魔が、右側に偶数番の悪魔が順に並んでいた。
「大浴場にあるライオンの像はシズの予想通り悪魔の像の1体であったな」
72柱の悪魔の像を照らしあわせた結果、ライオンの像の名はマルバス、悪魔図鑑には疫病を癒す力のある悪魔だという。大浴場に疫病を癒やす悪魔とは、るし★ふぁーはイタズラのためだけでなく一応意味を持たせてあの場にライオンの像を配置したのだろうか。もともとロールプレイに偏った構成になっているメンバーの珍しくはないアインズウールゴウンだ、ギルド拠点自体も外面的な意味でも設定的な意味でも相当に凝った作りをしている。1層から最奥の玉座までなにかしらのコンセプトを経て今の形へと落ち着いたわけだから、それにふさわしいだけの意味をもたせていたとしてもおかしくはないだろう。あの場にあったのもるし★ふぁーの意思と言うのならば、広間に並べるのではなくそのままにしておくほうが良いのだろうか。
「それに、残りの4体も判明した。シズ、深夜ではあるがゴーレム探しに付き合ってもらうぞ」
「かしこまりました」
シズは
「エクレアとインクリメントはすまないがゴーレムの強さを考えると連れていくわけにはいかない、2人とも9層に戻り各自の仕事にもどれ」
アインズはシズに抱かれたエクレアを持ち上げ、本を置くために無理な姿勢を続けて凝り固まってしまったかもしれない肩と首のあたりをすこしだけ揉んでやる。おぉと驚きと悦びの混ざったような声を上げ硬直してしまったエクレアをインクリメントに渡す。
「インクリメント、9層に戻るついでにエクレアを執事助手のところまで連れて行ってくれ」
「はい、かしこまりました。それと本日は私がアインズ様当番であるため、通常のルーティンから外れております。アインズ様の自室の清掃をおこなってもよろしいでしょうか?」
かまわない、と伝えるとインクリメントは深く礼をして9層への転移門へと歩いて行った。
悪魔の像を探すことになったのはいいのだが、一体どこから探していくべきなのか。わかっているのは、悪魔の像は侵入者を迎撃するための配置にはなってない可能性が高いこと、見つかりやすい場所にはない、もしくは擬態しているであろうということ、なにかしらの行動を引き金に発動してしまうこと。女性用の浴場に像が置かれていたことからわかるのはそのくらいだろうか。
「もともと悪魔の像の置き場のある10層にわざわざ像を仕込むことはしないだろう。9層は一般メイドや戦闘能力のないものたちが多いので探すとしたら一時的に避難させてから探したい。8層は……、いや、8層は後回しだな。シズ、7層から探して順に浅い層へと向かうとしよう」
メッセージで転移門を管理しているNPCに10層と7層を繋いでもらう。荘厳な10層から一変する景色。火山より流れる溶岩が赤々とあたりを照らし、空は一面火山灰の雲により重く苦しい雰囲気を漂わせる。ユグドラシルのフィールドであれば熱波のエリアエフェクトにより火属性のダメージを受けたであろうが、ナザリック内では7層でも負のエリアエフェクトがかかっている、それも今は費用節約のためにカットしているが。
「デミウルゴスは、すでにナザリックより出立してしまったようだ」
やはり、忙しかったのだろう。ナザリックで最も働いている7階層の主は、アインズが思いつきで立てた慰安計画のためだけに合間を縫ってわざわざ来てくれていたようだ。悪いことをしてしまったか、と内心で少し反省し次があればエクレアやセバス……パンドラズアクターも含めちゃんとゆっくりできる時間を取れるようにしようと決意した。溶岩の川に沿ってデミウルゴスの配下がいるであろう古代の神殿かたどった場所へと向かう。
「ようこそおいでくださいました、アインズ様」
出立してしまったデミウルゴスの代わりにアインズを出迎えたのは、デミウルゴスの配下として与えられた悪魔である魔将達だ。片膝を地面につけ臣下の礼をとっている。
立って良い、と魔将たちに指示を出すと即座に立ち上がる。
「ここへ来たのは、るし★ふぁーさんの作ったゴーレムがないかを探すためだ。あるかどうかも不明ではあるが姿形を伝えるので7階層のすみのすみまで、そう普段は絶対に立ち入らないような場所も含め見まわってほしい」
了解の意を示した魔将たちに、悪魔図鑑の幾つかのページを示し姿形を伝える。魔将はそれぞれにしもべを召喚し八方へ散っていった。
アインズは神殿を中心に、シズと10層を出る前に呼んでおいたプレアデスのエントマと同じくプレアデスの副リーダーであるユリとともにあたりを捜索していた。
「ユリたちは9層の大浴場をつかったことはあるのか?」
「恐れながら、アインズ様より受けた休暇の命の際にシズ、エントマ、ルプスレギナとともに利用させていただきました。アインズ様と行動をともにしているナーベラルと王都へ情報収集に行っているソリュシャンは残念ながらまだ一緒には行っておりません」
プレアデスのメンバーは、よく集まって御茶会を開いているらしい。ナーベラルもエ・ランテルの冒険者組合で遠出するような依頼を受けた際などはナザリックに戻して休暇を取らせたりはしているのだが、どうしても冒険者としての都合を優先してしまうため計画的な休暇を取れないでいる。
「そうか……ナーベラルやソリュシャンには今の任務がおわったらしばらく自由な時間も必要だな」
「いえ、時折ナザリックに帰ってくるので、その時には9階層でお茶をしていますので問題ございません」
「そぉです。なーちゃんもそーちゃんもお茶会でいっぱいお話をしているので問題無いですぅ」
「それならばよいのだが。あそこを使ったということはライオンの像のことも知っているのか?」
今回の騒動の発端となった大浴場のゴーレムだが、場合によってはあのまま発見されずに終わったということもあったはずだ。
「入口に一番近いお風呂の脇にあった像のことでしょうか?」
「そうだ。実はあの像はるし★ふぁーさんが仕掛けたゴーレムでな、風呂に飛び込んで入ったりすると暴れだすようにしてあったのだが。ユリたちが使った時に問題がなかったというのであれば、お前たちはちゃんとマナーを守って風呂を楽しんでくれたようで安心したぞ」
「はい、ルプスレギナあたりはすこし警戒する必要がありましたが、とても良いお風呂でした。このゴーレム探しもその件と関係が?」
「ああ、そのゴーレムがどうやら10層の悪魔の像の1体らしいのだ、おかげでしゅご……、いや、調べてみるとかなり硬度の高い材質だったのでわかったのだが。るし★ふぁーさんの悪魔の像がもし作り終えていたのなら念の為に、場所や発動条件は確認しておかなければいろいろと危ないだろう」
まずい、最初にお風呂に飛び込んだのは守護者でしたーなんてことがばれたらナザリックの運営に支障が出るのではないか? お風呂でのマナーも守れない人のいうことなんて聞きたくないなんてことになったりしたら……もうシズにはバレて、いや、、飛び込んだのがアルベドだということは知らないはずだ。アウラやシャルティアであればまだ子供のすることだからと納得できる! 飛び込んだのが守護者統括でありナザリックの下僕の頂点であるアルベドだということがバレなければ問題はないはずだ。
「でもぉ、この辺には像みたいなものは、砕けた柱くらいしか見当たらないですぅ」
「像は神殿の入口にあるものくらいだったな」
「あれ普通の石材だった」
ゴーレムか普通の石像かを見分けるだけならば上位のアイテム鑑定の魔法を使えばすぐに判別できる。またシズのようなオートマトン、悪魔、ドラゴンが持つような識別眼系のスキルならば見るだけでもわかるだろう。
「魔将たちからの連絡もないということはそれらしきものは未だ見当たらずということか、7層にはないのかもしれないな」
「あそこにぃ溶岩で半身浴してる像がありますよぉ」
溶岩の中か。溶岩に浸かっている像は神殿の入口に立っていたものと同じに見えることからゴーレムの可能性は低いが、念のために像に近づきアイテム鑑定の魔法をかける。結果はやはり普通の石像であったが。
「7層のすみからすみまでとなるとこの溶岩の川底も調べるべきなのだろうか」
「ですが、溶岩自体のダメージはアイテムでどうにかなるかもしれませんが、水ではなく泥のようなものなので視界が通らないのではないでしょうか」
いくらアンデットとはいえ、夜目は効いても泥の向こうが透けて見えるなんてことはない。これは潜って手探りで探すしかないのだろうか。
だいぶ火山に近づいたところにあるにしては、少し幅の広がった川のほとり、溶岩ではあるが、しばらく溶岩の流れを見つめていると水面、溶岩面が波打ち始めた。
「紅蓮か」
溶岩が押し上がったかと思うと、ぐんぐんと高さを増していく。真っ赤な溶岩から浮き出た溶岩と変わらぬ色の巨大なスライムが顔を出し、挨拶をするようにプルプルと震えている。最近スライムとの意思の疎通に自信をつけてきたアインズは、紅蓮が出迎えの挨拶に来たのだと一瞬で悟る。
「紅蓮よ出迎えご苦労、この辺はお前の守護領域だったか」
豊満な体を揺らし、その通りだという意思を伝えてくる。
「紅蓮よ溶岩の中で探してほしいものがあるのだが、悪魔の形の像でな」
アインズは紅蓮に見えるように図鑑の図を指し示していく。しばらくすると紅蓮うねりだしアインズたちの前に1体の像を体内から出した。
「ふむ、神殿の入口にあるものとおなじだな。やはりスライムでも溶岩の中では手探りになってしまうか」
溶岩から顔を出していたスライムは落ち込むようにしぼんでいく。
「いや、お前を責めているわけではないのだ。しかし、溶岩の底にもちゃんとものをおいていたのだな」
かつてこの層を作ったメンバーの姿が思い浮かぶ。そこまで凝り性なイメージはなかったが、案外手を付け始めたら凝ってしまうタイプだったのだろうか。水ではなく溶岩の底という人目につく可能性が高くない場所にも手を加えていたとは。そこでふとアインズはその実は凝り性だったメンバーとの会話を思い出す。
――溶岩の中でこそ映える場所ですが、澄み渡った空とキレイな水の流れとともにあっても美しくできたとはおもいますよ。美しい物を汚して更に美しくなったとなれば、愉悦の美ですね。ぜひ機会があれば澄み渡った7層も見て下さいね、モモンガさん。
性格がいいほうではなかったとは思う、むしろいい性格といったほうが正しいのかもしれない。
「超位魔法を使うか」
8階層で使った時はそのすべての範囲に効果が及んだ、それならば7層でも同じことだろう。シズたちに超位魔法を使うことを伝えしばらく待っていてもらう。
超位魔法 ザ・クリエイション/天地改変
一日5000字でかけば10日で終わるとか思ってました。5000字って多いんですね。