守護者たちとの温泉慰安計画はるし★ふぁーさんの置き土産、浴場でのマナー違反を取り締まるライオンの像の乱入により、慌ただしい中でのお開きとなった。
「それにしても、装備を外した状態とはいえ女性守護者達の攻撃でなんのダメージも受けないようなゴーレムとは……」
「アインズさま」
「どうしたのだシズ」
CZ2128・δ、ライオンの像を止めるためにマーレに呼びに行かせた戦闘メイドプレアデスの一人だ。
「はい、あのゴーレムの素材のことなのですが」
「ん、心あたりでもあるのか?」
「玉座の間の扉の前に並んでいる像の素材と同じかと思われます」
なに、とういうことは一時期アインズ・ウール・ゴウンで独占していた鉱山から取れる超々希少金属だ、それでは装備を外した守護者たちでは傷もつけられないはずである。そしてそれはギルド武器の素材に必要な分の他は、幾人かの仲間たちや、玉座の間への侵入を防ぐ迎撃用の72柱の像を創るためにるし★ふぁーに渡していたはずだ。
そこでふとアインズに疑問が浮かぶ。
72柱の像は完成していなかったのではないのか? さすがにるし★ふぁーであっても、もうこれ以上手に入らないかもしれない素材を、目的のものも作り終えずにイタズラのためのものに使うだろうか? アインズは足をとめ、ナザリック地下大墳墓のギミックに関しての知識ならば右に出るものはいないであろう、
「ふむ、それではあのライオンは例の悪魔の像の一体なのか?」
「申し訳ございません、わかりかねます」
ギミックについて知っていても、その姿形までは把握していないのだろう。
「よい、私もるし★ふぁーさんが作っていた像のモチーフについて特に知っているわけではない。それに像がもし完成しているのならば確認は必要だろう。私はこれから図書館へ向かう」
かしこまりましたとシズは、礼をした後アインズの後ろにつく。
コキュートスの配下が配置された9階層の廊下を抜け、豪奢な景色からすこし薄暗く感じる場所へついた。重厚さを感じる色合いの木目の入った両開きの巨大な扉、玉座の間の扉ほどではないが、図書館へ向かう途中に合流した今日のアインズ様当番であるインクリメントが扉に手をかけ押し開く。
ギイイと穴の軋む音が聞こえてきそうな見た目ではあるがそのようなことはなくスムーズに扉は開いていく。
「インクリメントよ、司書を一人連れて来てくれ」
図書館に置かれている本は無作為に差し込まれているわけではなく、むしろアインズ独りで図書館に忍び込んでも目的の本をすぐに見つけることができるくらいには整然としたところである。それでも司書を呼びに行かせるのは今は大墳墓の主として自ら本を探すというのは部下のいる手前はばかられることである、というNPCを思ってのことだ。
インクリメントはすぐに戻ってきた。
「これはアインズ様、本日はなにをお探しでしょう」
どのような御用でなどと迂闊なことは聞かずに、迅速に主の期待に答えようという気概が見える、スケルトンメイジの司書長だ。
「おお司書長、調度よいタイミングだったな。司書長であれば図書館にあるすべての本から探すことができよう。なに先ほど浴場でライオンの形をしたゴーレムを発見してな、どうもるし★ふぁーさんの作った悪魔の像の一体かもしれぬのだ、レメゲトンだったかなそれについて書かれている本を探しに来たのだ」
「これはこれはアインズ様、もったいないお言葉でございます。この大図書館の管理を任されたものとして当然のことでございます。つきましてはレメゲトンの悪魔について書かれた本で御座いますな」
ふむ、と数秒思案したあと、こちらにございますとアインズ達を先導し歩き始めた。図書館には灰色や、茶色、赤茶色、濃紺などの落ち着いた色の背が10段はあるであろう本棚にきっちりと並べられていた。パッションピンクやら金色に輝いたやけに主張の激しいものもあった気がするが、今は気にしなくてもいいだろう。
目的地についたのか司書長は足を止め、本棚からゴエティア-悪魔図鑑と題された1冊の本を抜き出した。
「こちらがレメゲトンの悪魔についての書になります。悪魔についての説明と姿形などの図が記してございます」
「ご苦労、レメゲトンというのは悪魔の名前ではなかったのだな」
もしくは悪魔がいる世界の名前なのかと思っていたが違うらしい。
「はい、レメゲトンという本の一部にゴエティアという悪魔について書かれたものがあるようで、るし★ふぁー様が作っておられた72柱の悪魔の像ならばこのゴエティアのもので間違いないでしょう」
ゴエティアに書いてある悪魔は72柱でございますので、と司書長は言う。
「なるほど、それにしても姿まで書いてあるのならライオンの悪魔を探しだすのもすぐだろう。この本をしばらく借りていくぞ司書長」
「役に立てたのであれば光栄でございます」
図書館から出て玉座の間へと歩きで向かう。ギルドの指輪を使えば一瞬なのだが、今はシズとインクリメントを連れているので歩きだ。10層へ向かう途中でイワトビペンギンの姿の副執事長であるエクレアが挨拶に来ていたが、挨拶が終わった段階でまだ何やら言おうとしているペンギンをシズは抱き上げたかと思えば、アインズに玉座の間へ向かいましょうと会話を切り上げさせてしまった。エクレアは小脇に抱えられたまま目出し帽を被った、穴は開いていないが、男性執事に仕事を続けるようにと指示?を喚きながらもともに10層への転移門をぬけた。
「さて、ここでどの悪魔の像がないのかを確認していけば、ライオンの像が悪魔であるかどうかもわかるだろう」
アインズは像の置かれている広間の中心に立ちぐるりとあたりを見渡す。像の載っていない台座は全部で5つ、奇妙な姿の像の並ぶ広間の天井には4色のクリスタルが光る。
「アインズさま、本を開きながらだとこの広間を動きにくいかもしれません、この本置きペンギンをお使いください」
シズが小脇に抱えていたものを持ち直し、エクレアの脇の下に手を入れフリッパーをパタパタしている。
「おい、小娘!私は副執事長であって、神域であるこのナザリック地下大墳墓の9層を余すところ無くきれいにするという崇高な使命を与えられているのだ、本置きなどではない!」
「エクレア、アインズ様のために本を開きたくない?」
「うぐ」
副執事長であり、神々の領域とも思える9層の掃除が主な任務であるところのペンギンは、直接的に至高のお方の役に立てる機会など今までなかった。普段は同じNPCの前でもナザリックの支配という野望を語ることをはばからない不躾で不敬なペンギンとして設定されてはいるが、生まれてから初めて直接的にお役に立てるのではないかと期待にしてしまうのはNPCとしての性だろうか。
「アインズ様! このエクレア掃除だけでなく、本置きとしても超一流なところをご覧に入れてみせましょう! ぜひ思う存分本をお置きになってください」
若干意味不明なことを言っているのに気づいているのかいないのか、副執事長だったペンギンは羽を広げ、垂らしていた足は地面に立っているかのように曲がっている。本が置きやすいようにかくちばしが邪魔にならないよう上を向きハムスケの服従のポーズのようにも見える。正直手で持ったままでも問題はないと思っているアインズだったが、エクレア自身がすでにやる気満々になってしまっているのでは今更断りづらかった。
「あ、ああ。では置かせてもらおう」
どうぞ、と間髪入れずに返事をするエクレアの対応に困惑しながらも、アインズは本の適当なページを開き鳥の足にのせる。エクレアは本が閉じないよう、羽の先だけを少し曲げ両端を押さえページが変わらないよう嘴をおろしていた。
「大丈夫か、エクレア?」
「もんふぁいあいまふぇん」
首で本を挟んでいるせいか、足元を見るような体勢のエクレアはだいぶしゃべりづらそうだ。
「そ、そうかそれならばよい。確認していくのだが、これは順番どうりに並んでいたりするのだろうか」
アインズはエクレアに置かれた本に手を伸ばし最初の悪魔が描いてあるページを開く。
「大いなる王『バール』、人とカエルと猫の頭から蜘蛛の足がはえた姿か……」
ユグドラシルの異形種よりも異形としか言いようがない姿だが、ユグドラシルのモンスターとしても見たことはない。3つの頭というだけならケルベロスなど有名なのもいるが、阿修羅の頭から蜘蛛の足を生やしたようなものは流石にいなかっただろう。ともあれここまで個性な姿であればすぐに見つかることだろう。
案の定、玉座の間の扉のすぐとなり、反時計回りに1つ目の像がそれだった。るし★ふぁーの創る像はどれも今にも動き出しそうなくらい精巧で生物的な雰囲気を醸し出すものではあったが、まさかこの奇天烈な姿でも再現されているとは思っていなかった。人の首がにゅるりと前へでて見下すような目線を感じる。絵だと後ろ姿は分からなかったがそこも蜘蛛の体のような薄く毛の生えた球体が表現されていた。
「バールはあると。インクリメント、次の頁をめくってくれ」
目の前で像を観察していたアインズはシズやエクレアとともに少し後方で待機していたメイドに指示を出すと、ページを捲る音が聞こえる。台座にいない5体を探し終えてからが本番だが、もしライオンの像が悪魔の1体であった場合は他の悪魔の像も完成していた可能性が出てくる。そうなるとライオン以外の像、残る4体も探しだすべきだろうか。探すとしても万が一浴場の時のように襲いかかってきた場合、守護者レベルのものでないと太刀打ち出来ない可能性が高い。最悪探すのを手伝わせたばかりにNPCを死亡させてしまうなんてことになりかねない。しもべを使ってもいいがあのゴーレムとやりあえるレベルとなるとそれなりに費用がかさむし、連絡するまもなく殺されてしまうレベルでは死亡したしもべの位置で発見はできるだろうが、それもそれで金の無駄遣いだろう。探さないにしても、あるかもしれないという可能性が生まれた以上誰かが何かの拍子にひっかかってしまいかねない。るし★ふぁーがしかけたであろうゴーレムは、侵入者では無くどう見ても身内用であるのだから。
この世界に転移して、この場にその姿がないにもかかわらず頭を悩ませてくるるし★ふぁーに文句の一つでも言ってやりたいところである。