TSから始まるヒロインアカデミア   作:破戒僧

47 / 114
間に合わなかったです。無念……

ようやく新コスチュームお目見えです。
さて、どんな感じに仕上がったでしょう……皆さんの予想は当たっているでしょうか?


第47話 TS少女とパトロール

 職場体験、二日目の朝。

 今日も今日とて、私は……ベストジーニスト曰く『ピッチリ』気を引き締めて業務に励むことになるのだが、その職場での朝礼が終わった時のこと。

 

「ああ、それとダイナージャ、改良したコスチュームが届いている。本日の基礎トレからそれを着て行うとしよう、この後更衣室で着替えて来たまえ」

 

「はい……はい!?」

 

 早くね!? 修理に出したの昨日の午前中……ってか昼前くらいだよね!? まだ20時間くらいしかたってないよ!?

 

「業者も気合を入れたんだろう。私の所は元々得意先だったのに加え……依頼されてきたのは、今何かと話題になっている君のコスチュームだからな。時間を短縮するために中途半端な仕事をするような業者ではないのは保証するから、安心するといい」

 

「はあ……わかりました」

 

 そういうことなら……まあ、びっくりはさせられたけど、性能がきちんと注文通りにまとまってるなら問題ない。早速着させてもらおう。

 ……慣れる時間も必要だからなあ……皆さんと調子に乗って、大分弄ったから。

 

 

 

 で、それに着替えて基礎トレ用の訓練室に来ると、皆さん『おぉ~!』と感心するような声と、拍手で持って迎えてくれた。

 

「いいじゃんいいじゃん! すごく似合ってるよ!」

 

「うーん、凛々しい……これが男装の麗人ってやつか。女だけど惚れそう」

 

「かわいいしキレイだしかっこいい! カッコ綺麗!」

 

「ああ、よく似合っているな……デニムならさらに似合うと思うのだが、残念だ」

 

 なんか、ここまでくると……すっごい褒められて照れる。

 皆さんどうも……あ、最後のはベストジーニストさんですねわかります。

 

 そんな、ちょっとこっちが恐縮してしまうような褒め言葉の嵐の中には、こんな言葉も。

 

「うんうん……やっぱこっちの方が似合うね。女軍人! もしくは女騎士?」

 

「昨日のは『オラァ!』って感じだったけど、今日はコレ『凛ッ!』って感じだね!」

 

 私のヒーローコスチューム、当初の改造学ランからかなり手直し……というか、ほとんど別物といっていいものに変更されている。もちろん、学校にも申請は提出・報告済みだ。

 何から何まで、ベストジーニスト事務所の事務の人がやってくれた。感謝しかない。

 

 で、その新しいデザインだが……今の人が言っていた通り、『軍服』である。

 

 黒地に金色の縁取りをアクセントにした上着。学ランの生地を追加加工することで形にしたらしいそれは、より重厚で、しかしよりスタイリッシュな仕上がりになっていた。見た目にも力強さを残しつつ、しかしながら『乱暴者』な感じは微塵もない。

 丈は前に比べればかなり短く、足の付け根くらいまでしかないが、動きやすさという面ではプラスだ。

 

 すらりと伸びる同色のズボンは……こちらは学ランの時とさほど大きな違いはない。戦闘時には格闘主体になる関係上、今回もスカートは避けた。

 

 胸元からは相変わらず白いコルセットインナーが覗くが、デザインはワイシャツにより近づいている上、首元にはネクタイが見えている。これがより清潔感というか、整った感じを演出する。

 無論こちらも性能はそのままかより向上しているので、防御力も高いし、胸が揺れるのを防いでくれるので動きやすい。

 

 学帽は軍の制帽に変わったが、見た目的にあんまり変わりはない。機能(無線やディスプレイバイザーなどを内臓)もそのままだ。腰回りにはポーチバッグも相変わらずある。

 

 これらに加えて、追加装備として、トレンチコート型の装備が用意されている。

 

 そのまま着れば防具兼防寒具になるし、肩の部分のアタッチメントを使うことで、マントみたいな形で、羽織るように装着することもできる。

 丈も長いので、以前の長ランのように、翻して初動を見えなくするために使うもよし、防弾・防塵・耐熱の性能を生かして、敵陣に切り込むための盾として使うもよし、使い道は多い。

 

 総合して、今までは不良っぽくて『オラオラァ!』な感じだった私の服装は、凛としてスマートで、清潔感溢れる感じにまとまっていた。無論、動きやすさその他の性能はそのままか、むしろ改善されている。

 これなら、力強さや頼もしさを与えることはあっても、威嚇するようなことはないだろう。

 温容、とはまた違うかもしれないが、もともと私は背が高く、体型も細身だが女性にしてはがっしりしてる方なので、かわいい系の服はあまり似合わないんだよな。なので、可愛さより清潔感を重視した形だ。

 

 たった一日でここまで劇的に変えられるとは……やはり本職、ないしこういった分野に一家言ある人達のセンスは違うな……。私じゃあ絶対に出てこなかった発想だものな。

 

 着心地も微妙に違うから最初は違和感あったけど、あっという間に今まで通り動けるようになったし、ベストジーニストが指導してくれる、より無駄がなく上手く体を使った格闘術にも合う。

 

 ただ一点特筆するなら、追加装備として発注し、これも見事に作ってもらったトレンチコート……これはあまり、ベストジーニストには好評じゃなかった。デザインじゃなく、用途が。

 

「防具・防寒具として使用するのは構わないだろう。だが、先に君が熱弁していた、攻撃の初動を読ませないためにあえて大きく翻して使う、という使い方は……あまり賛成しかねる。その点だけ見れば利点足りうるが、衣装の一部がひらひらと大きく動くのは、弱点にもなりやすい」

 

「弱点、ですか……」

 

「例えば、近接格闘に慣れている者であれば、その部分をつかんで引っ張って体勢を崩してくることもあるだろう。せまい屋内での戦闘ではあちこち引っかかってしまうだろうし……熱や冷気を使ってくる相手であれば、炎が燃え移ったり凍り付いてしまったりすることもある」

 

 なるほど、もっともだ。

 まあ、この衣装は耐熱とかもあるから、燃える心配はそこまで……いや、温度とか相手によるよな。あまり強力な熱とかにさらされたら、耐熱繊維でも耐えられないってことはあり得るから。

 

「君は折角向上心豊かなのだから、そういった面は今後、技術でカバーすることも学べばいい。限度はあるが、意外と小手先の技で何とかなるものも多いぞ」

 

 そう言って、正面から構えていたベストジーニストは、相対している私に向けて……突然、何の予備動作もなしに拳を放ってくる。

 驚きつつもそれを受け止めようと、とっさに私は手を前に出して……しかし、その拳は当たることなく寸止めされていた。最初から当てるつもりはなかったようだが、それよりも今のは……

 

「『無拍子』と呼ばれる技法だ。格闘術において、体の各部の動作から次の手を予測するのは基本的な技能だが、それを狂わせるのに役立つ。他にもフェイントなど、物理的に視界を遮らなくても、こんな風に技術で相手のテンポを崩すことができれば、様々に応用が利く。まあ、私は接近戦はそこまで得意ではないので、こんな風にまさしく『小手先だけ』の拳になってしまうがね」

 

 ベストジーニストはしれっとそんなことを言うが……その『小手先』だけでも使えるヒーローがどれだけいることか。この人、本当に多芸だな……それでいて、自分の『個性』を鍛え上げ、誰にも負けない得意分野ってものをきちんと確立している。

 

「いわゆる喧嘩殺法とはいえ、君は最低限の接近戦技能は十分持っている。ならば、無理に武術的な動きを覚え直すよりも、現状のそれから無駄な動きや力みをできるだけそぎ落とし、その上でできることを増やすのがいいだろう。そもそも君が最終的に目指すヒーロースタイルにおいて、前線において君に要求されるのは、直接的な戦闘よりも、いわゆる『衛生兵』のような役割だからね」

 

「単純に敵を倒す能力よりも、より上手く戦場を渡り歩いて、味方を援護したり、要救助者を回収するための技能を重要視して覚えたほうがいい、ということでしょうか?」

 

「理解が早くてよろしい。無論、だからと言って戦闘技能そのものを疎かにしていいわけではないし、そういった能力が伸びることでできることが増える場合もあるから、無理のない程度に貪欲に力は欲していくべきだろう。そのあたりのつり合いの取り方なども、簡単にだが教えようと思う」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 

 

 午前中は基礎トレと、新コスチュームの慣らしで半分ほど使い、もう半分は座学の時間だった。

 

 そして午後は、職場体験らしくプロの現場に出ることになった。

 といっても、パトロールに同行する程度だが。まあ、そりゃそんなにあちこちで犯罪なんて起こったり、ましてや『敵』なんて出るもんでもないしな。

 

 町を歩いていると、流石はNo.4ヒーローの人気ということなのか、あちらこちらでキャーキャー声が上がって、女子高生とかが遠巻きに見ていたり、手を振ってたりする。ベストジーニストも、適度に手を振り返したりしてそれに応えていた。

 

 時にはサインを欲しがったり、話しかけてくる子もいたりするので、そういうのも適度に相手をしていた。邪険にはせず、かといって仕事に支障もきたさない範囲で。

 

 全体的には、遠巻きに見てる子の方が多い気がしたな。やっぱあまりに有名で人気な人だと、近寄って話すよりも『見てるだけで満足です』みたいな考え方になるんだろうか? 緑谷とかなら、恐縮しつつも我慢できなくて思いっきり話しかけそうだけども。

 

 こうしたパトロールや、それに伴うファンサービスなんかは、犯罪の抑制に加えて、ヒーローの存在を市民に示すことで、その心を安心させる。座学の時にベストジーニストが言ってたことが、実際にこうして起こっているんだなって、目で見て理解できた。

 

 で、それに加えて今日は私が一緒にいるということで、二度見するように驚いてこっちを見てくる人も多かった。自分で言うのもアレだけど、何だかんだで私も有名人だしな、今んとこ。

 

 まあ、自意識過剰かもしれないけど、一応覚悟はしてた。休み明けの電車がああだったから……サイン欲しがったり、写真撮りたがったりする人がいるかもしれないってのは。

 ……自意識過剰であってほしかったけど。

 

「写真一緒に取ってもらってもいいですか!?」

「ずるい私も! いいですか!」

「え!? あ、はい、じゃあその、順番で……」

 

「ファンです! サインください!」

「わー、ヒーロー名もうあるんですね!」

「『ダイナージャ』っていうんだ! あの、僕にもサイン……」

「あ、はい、こっちも順番でお願いしますね?」

 

「コスチュームすごいですね! 軍服みたい、かっこいい!」

「男装の麗人ってやつ? 凛々しい! カッコ奇麗!」

「私女だけど……惚れそう」

「あはは……ありがとうございます」

 

「どうしてベストジーニストと一緒に? サイドキックになったんですか!?」

「ずっとこの町にいるんですか!?」

「いえ、職場体験です。1週間くらい……」

 

 まだプロデビューどころか仮免すら持ってない有精卵にここまで喜んでもらえるとは。嬉しいような気恥ずかしいような。

 まあ、応援してくれるのは嬉しいことなので、きちんと対応してさばいて……

 

「こっち向いて決めポーズ取ってください!」

「背高けー……何センチあるんですか!?」

「何食べたらそんなに大きくなれますか!」

「決め台詞お願いします!」

「どんなヒーローになるんですか?」

「劇団に興味とかありますか?」

「18禁ヒーローになるって本当ですかッ!?」

「踏んでください!」

「冷たい目で罵ってもらっていいですか!」

「今日はサービスシーンあるんですか……ハァハァ……」

 

(ン゛~~聖徳太子ィ……!)

 

 さばききれん。助けて。

 

 てか決めポーズって何? 決め台詞って何? そんなもん持った覚えないんだが……

 もしかして……『くっころ』じゃない……よな?

 

 あと最後の方ヤバいのが混じってませんかね。3人ほど。

 

 最終的に、ベストジーニストが助け舟出してくれて『まだ仕事があるからこのへんで』って穏やかにファンの子達を遠ざけて、帰らせてくれた。

 

 ちなみに、最後の方の変態は眼力で黙らせていた。さすがである。

 黙らなかったら通報も視野に入れていたそうだ。

 

「初日から大変な人気だな、将来有望なことだ。1人1人邪険にしないのも高評価だぞ」

 

「その代わりに割とがっつり時間もとられましたけど。ああいうファンとかマスコミのさばき方なんかも授業で教われればいいんですが……」

 

「それならもっと後の方のカリキュラムにあったはずだな。本来ならそのくらいのタイミングでも困らないんだが……体育祭上位入賞者はこういうことになることも多い」

 

 授業で教わる前にマスコミやファン対応をすることになるわけね……思わぬ落とし穴だ。

 

「トップヒーローを目指すなら避けては通れない道だ。得難い経験として糧にするくらいに考えておくといい。さ、まだまだ回るところはある、パトロールを続けるぞ」

 

「はい、わかりました」

 

 

 

 結局この日のパトロールは何事もなく終わった。

 

 ただ、パトロールは終わったのでさあ帰ろうか、って時になって……予想外の出来事があった。

 

 ベストジーニストが、事務所の皆にお土産を買って帰るからちょっと寄り道する、と言うので、近場にある大きなデパートに入ることになった。

 マメでいい上司だな、なんて思いつつ、入り口の自動ドアをくぐった時のこと。

 

「べ、べべべべべべベストジーニストォォオ!?」

 

 あ、超聞き覚えのある声。

 

 丁度死角になってたので、ちょっと横にずれて見て見ると……そこには、予想通りの人物が。

 新しくなったコスチュームに身を包んだ緑谷が、まさしくヒーローを目の前にしたちっちゃな子供のように目を輝かせて立っていた。驚きと緊張のあまり硬直しているようだが。

 

「あん? 何でぇ、こんな大物が居たってんなら、やんちゃする連中が少ねえのも道理だな」

 

 そしてこっちは聞き覚えのない声だ。

 緑谷の隣にいた、ヒーローコスチュームと思しき服に身を包んだ、かなり小柄なおじいさんが、ベストジーニストを見てそうつぶやき、ため息をついていた。

 

 その姿に見覚えはないが……ここで緑谷と一緒にいるってことは、この人が、緑谷の職場体験先のヒーロー『グラントリノ』か? かなりお年を召した方のようだ。コスチュームを着てるってことは、一応現役なんだろうが。

 

「す、すごい、こんな場所で会えるなんて……さ、サイン貰っていいですか!?」

 

「おや、君は雄英体育祭の……ふむ、もちろん構わないとも。ただ、あまり大声で騒ぐと他のお客さんの迷惑になるかもしれないから、そこは注意するようにね」

 

「は、はい、すいません……」

 

 注意されてしまったことにちょっと落ち込みつつも、差し出されたサインを宝物のように(彼にとっては宝物で間違いないだろうが)抱き抱える緑谷は、その直後、はっとしたように、

 

「あれ、栄陽院さんも! そっか、職場体験先が……ってどうしたのそのコスチューム!? 前に見た時と全然違うけど……」

 

「ああ、うん。ちょっといじってさ。前より性能上がってるし、使いやすくもなってるよ」

 

「そ、そうなんだ……すごく似合ってるよ。かっこいいのとキレイなのがどっちもあって……うん」

 

「そう? ありがと。てか、緑谷は何でここに? 確か、山梨の方に行ったんじゃなかったっけ?」

 

「あ、うん。ちょっと遠出することになって」

 

 その後もう少し話したけど、どっちも用事の途中だったってことや、ベストジーニストに加え、体育祭1位と3位がひとところにいることもあって野次馬が集まってきそうだったので、さっさとその場は解散した。

 

 その直前に聞いた話だと、あと何日かこの周辺に出張している予定らしい。

 

 都市部の方が犯罪が多くて、そういうの相手の経験を積めるからだそうだ。

 それであのおじいさん、ため息ついてたのか。ベストジーニストのパトロールのおかげで、このへんでいざこざさっぱり起こってなかったから、期待外れだったんだろうな。

 

 そしてそのベストジーニストも、あのおじいさん……『グラントリノ』のことは知らなかった。

 ただし彼曰く、『たたずまいや身のこなしからして只者ではない』とのこと。何者なんだろう、ホントに……?

 

 

 

 




Q.あれ、もう緑谷東京にいるの? 3日目の夕方に新幹線で移動してたんじゃ?

A.思ったより育ってたので、グラントリノが予定を前倒ししました。


感想欄で『軍服』を言い当てていた人がいてびびる。お見事です……
ナースとか巫女もちょっと心惹かれましたが、今回はスマートさに走りました。そのへんはまたの機会に……かな?

▲ページの一番上に飛ぶ
Twitterで読了報告する
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。